タイトル? タイトルはー……【鬼狩り北郷さん】
書いてる時は丁度巣作り華琳ちゃんの発売がどうのって時だった気がします。
鬼狩り北郷さん①
───長い長い時間が過ぎた。
剣道を知って、強い自分を知って、思い上がった自分を知って、本当の強者を知って、挫折を知って自分への落胆を知って。
友人と馬鹿な話で笑い合って、一人放課後の教室に残って、気づけば知らない世界に居て。
米の一粒で人を殺せる世界を知って、信頼を置くことが出来る大切な人を知って、大切な場所を知って、別れを知って、涙を知って。
虚しい勝利を知って、嬉しくない勝利を知って、それでも噛み締めなきゃいけない勝利を知って。
どれほど歩いて、どれほど後悔して、どれほどやり直せたらと考えただろう。
過去に戻っておきながら、なにも出来ない自分に歯噛みして、それでも誰かが俺のお陰だと言ってくれたなら、他所から得た知識だろうと活かさなきゃいけなくて。
頑張って、頑張って、頑張って……力が足りなくて、決定的な部分を忘れていた所為で誰かが死んでも、嗚咽を飲み込んで進まなきゃいけない世界を知った。
そんな果てに笑顔があって、手を繋げる世界があって、肩を叩いて笑える未来があって。
それなのに……死んでいった人たちが笑える到達点だけが無くて。
悲しくて───悲しくて。
それでも、いつかは悲しみ方を忘れさせる時間ってやつを時には恨みながら、俺達はここまで来て。
みんながみんな、燥いで、騒いでいるこの日本の空の下、桃をひとつ供えては、笑った。
「……まったく」
漏らす苦笑は誰に向けたものなのか。
過去の誰かを想っても、もう泣けもしない薄情な自分になのか、いつまでもこうして桃を供えている自分になのか。
「───」
今日は妹の息子の───剣丞が剣道の試合で優勝したので、その祝いを道場でしていた。
当然と言うべきなのか、みんながみんな“よくやった!”なテンションでベシベシバシビシと背中やら肩やらを叩くもんだから、祝いが始まって早々剣丞が涙目で俺を見てきたりした。すまん、俺には助けられん。
俺達全員の弟子みたいなもんだもんなぁ、そりゃ嬉しいよ。でもすまん、助けられん。
「………」
妹が彼氏を連れてきた時、父さんはもちろん、母さんもじいちゃんも驚愕。母さんはまあ……“まあ! まあまあまあ!”って感じで喜んでいたんだが、父さんとじいちゃんはなぁ。まあそれ以上に祭さんと桔梗が胸の下で腕を組んで、彼氏くんをジロロロジロジロジィ~ロジロって感じで見まくってたっけ。
で、言うわけだ。“妹君が欲しいなら儂を倒してみせい!”とか。無茶言うな。全力で止めに入ったなぁ……彼氏くんも事情を知らんのか“挑ませていただきます! 俺、本気ですから!”とか言い出すし。
そうしてから始まった彼氏クンとの俺達の関係は……まあその。少ししてから“一刀さん! ありがとうございました! あの時黄蓋さんを止めてくれなかったら、俺絶対に泣いて後悔してました!”とか言われたことから、随分と砕けた関係になったっけ。
で、料理振る舞ったり、体の鍛え方を教えてくださいって言われたり、言った30分後に泣いて後悔しそうになる彼氏クンを見てしまったり。
「……いろいろあったな」
そんな彼が少しずつ認められていって、なにかある度になんでか俺が尊敬の眼差しで見られるようになって、結婚する前から兄貴と呼ばせてくださいとか言われたりして……。
「断ったんだったな、そういえば」
俺の中で兄貴はアニキさんだけだった。俺がそう呼ばれるのは、嫌だったのだ。
だから義兄さんで妥協して、やがて彼氏クンは妹と結婚して、家を出ていって───子供が出来たってきいて、道場がぶっ壊れないか不安なくらいに絶叫して喜んで、皆様経験者だからして、あれはあーだこれはこーだといろいろ助言を投げるのだけれど、妹は紫苑と思春の言葉しか受け取らなかったわけで。
本当に本当に、懐かしい。あの時、どこか誇らしげな思春の顔は、今でも思い出せる。
「……そういえば」
じいちゃんが言ってたっけ。面倒になったら、さっさと誰かに譲ってしまえと。
黒檀木刀を手放す気はないけど、ずうっと気になっていたアレくらいは、もう譲ってしまってもいいかもしれない。
「蔵に刀があるんだよな」
夜の空の下、のんびりと蔵へ向けて歩いていく。
今日は月が綺麗だ。雲ひとつない空に、満月がドカンと浮かんでいる。
そんな空を眺めながら、やがて着いた蔵の錠前をゴチャンと開けて、中へ。
「………」
傍にある燭台の蝋燭にマッチを擦って火を点けて、中を見渡していく。中の方の燭台にも火を移せば、わりと明るく見えるもんだ。
で、噂の刀っていうのは……───
「あ……」
……それは、蔵の奥の奥、様々なものが置かれている中の、けれどそこだけ隙間を空けて、台以外には何とも接触しないようにとばかりに置かれていた。
見るだけでわかる。相当に古い筈なのに、今でもきっと錆ひとつないそれが納められていると……どうしてか、感じた。
「……? 血の、匂い?」
不思議と、血の匂いのようなものを感じた気がした。
それはすぐに消えてしまったけど、今……、……?
「………」
首を傾げながら、なにかに惹かれるように刀を手に取る。なにかに、もなにも、刀っていうのは男のロマンである。真剣とくれば余計であり、過去の刀とくればさらに余計に。そう、つまりは一度抜いてみたかったのだ。
なので、つい黒檀木刀を持つ時の癖で氣を充実させながら抜いてしまった。
それはやはり錆ひとつなく、一度たりとて詰まることもなく、ヒィン……と抜けた。
のっぺりとした刀身。けれど異様な存在感を放つそれは、ちゃき、と縦に掲げて見上げるだけで、吸い込まれるような何かを感じさせる。
見上げる視線をゆっくりと鍔あたりまで落とせば、そこには“悪鬼滅殺”の文字。
悪鬼? 滅殺? 随分とまあ物騒な……なんて思っていると、そんな鍔寄りの刀身部分がぞわぞわと色を変えていくのを見た。「ふぉぇっ!?」なんておかしな声を上げて驚く俺をよそに、刀はまるで鍔から切っ先までを沸騰した液体が上へと駆け上るように色を変えていく。その様を黙って見つめる。
手を放す、なんて選択肢はなかった。相変わらず選択肢5の朕が頭のおかしいことを並べたけど、なかったといったらなかった。
「───……」
やがて、刀身の全てが美しい金色に染まる。
「スゲ……」なんて、久しぶりに口調が崩れたことにハッとすると───たははと笑って刀を鞘に納めようとして、ふわりと風が吹いたことに気づいた。
髪が揺れる。草の香りがする。え、なんて声を上げて刀身から目を離せば、そこは───見知らぬ森の中だった。
ぱちん。音がして、刀が鞘に納まる。これまたハッとして見下ろすと、刀がなんでか黒檀木刀に変異していた。
「───」
なにこれ!? いや……いやいやいや……なにこれ!?
落ち着け、いつだってこういう場合はまず落ち着いてきただろう? そう、落ち着くのです北郷一刀。大丈夫、わかってる。北郷わかってるよ? これどうせ………………なにこれ!?
そもそもここ何処!? 森!? 林!? 山!? さっきまで俺、蔵に居ましたよね!? もしかしてまた!? またなのか!? また三国時代に飛ばされたとかそーいうの!?
「だっ……誰か! 誰かぁあああっ! 誰か居ないのかー!? 華琳! 華煉! 桃香ー!? 蓮華ー! 雪蓮ー! …………ビックス! ウェッジ! ジェシー!!」
いよいよもって嫌な予感が募ってくると、冗談でも言って現状から逃げ出したい気分に駆られた。ので、うおおおおマリーンとばかりに赤の他人の名前を呼んでみるも、もちろん返事無し。
「………」
……うん。なんかもう……うん。
いいよもう、北郷こんなの慣れっこだから。伊達に北郷、割れた銅鏡の欠片の数だけ似たような経験してないよ。平気だったら平気だよ? 北郷強い子だもん。
「とりあえずここを出るか……」
林? 森? 山? 現在地も知らないままに、とりあえず動くことにした。
傾斜は特にない。なら、森かなんかなのかな? と思いつつ、ただ山の一部なだけなのかもしれないことも考えつつ、ただただ歩いた。
……。
山だったそこを降りた頃には陽も昇り、その先に見つけた村にてようやく一息を吐けた。
そこには少人数ながらものんびりと暮らす人たちが居て、自分のことを話すと笑って迎えてくれた。
「今時迷い人なんて珍しいねぇ」
「道場を開いていたんだって? その歳で立派だねぇ」
で。言われた言葉にハテ、と首を傾げつつ、顔を洗いたいのですがと申し出ると、井戸へと案内された。
この時点でアレ? とか思ってた。むしろ村の人の服装で、“あ、これやべぇ”とか思ってたりもしてたけど、信じたくなかったっていうのが第一だったと思う。
で、水道も無ければ蛇口もない井戸にて顔をバッシャアと洗おうと、汲み上げた桶の水を覗いてみれば……明らかに十代の、言ってしまえば大陸に飛ばされた頃の自分だと一発でわかるような俺が水面に映っておりました。
「……まただよ」
しかも大陸じゃないし。何処だよここー! もー! 何処っ……もー! 誰だよもう外史が作られることなんかないからーとか言ったのー! もー!!
……あい、僕でした。
「今何年だ……? たぶんここ、日本あたりでいい……んだよな? 御遣いの氣があると言語判定とか謎になるからなぁあもう……! 全国の誰とでも流暢に話せる北郷さんとか有名になった時は死にたくなった……! えぇっと、えらく自然が多くて、風景も見渡す限りの山・川・草ァァーッ、って感じだけど……さ、さすがに弥生時代とか勘弁だぞ……!?(*注:三国志で知られる時代は日本側だと弥生時代っぽいとかどーとかなんかそんなのを聞いた気がする程度の知識)」
嫌な予感がゴワゴワと自分の中で精製される中、けれども努めて冷静に状況の整理を……判断材料が少ない!
いやいやまずはとにかく衣食住! 得体のしれない存在が急に現れてうろうろとか不気味でしかないし!
なので…………なので───……
「……医者でもやるか」
幸い、日本と大陸とを行き来している中で、華佗から五斗米道は習った。
“もはや一子相伝とか言っている場合じゃない、というか人が増えすぎだろう! 俺だけでは捌ききれない!”とのことで、より氣に詳しく、操れる人のみだけど、教えてもらった。
俺は鍼を持つ代わりに相手に触れて、同調させた氣で相手の内部を見て、悪い部分を尖らせた氣の鍼で突く、といった五斗米道を使う。
これがあればまあ、薬に頼らなくても大体は治せるだろう。
というわけで早速村の数人に、泊まらせてもらう対価として健康になってもらった。
「なるほど、道場には専属の医師を雇っている場所もあると聞く。お前さんは優秀なんだなぁ」
「し、信じられん! 腰の痛みがまったくなくなったぞい!?」
「あんれまあ……! 曲げられなくなってた指がこんなに簡単に……! ありがとうねぇ、ありがとうねぇ……!」
狭い村だと、一人一人が家族みたいだ。一人に感謝されると他の人にも感謝されるみたいに、感謝が連鎖してくすぐったい。
けど、もともとは守るために身に着けた力だ。その感謝が嬉しくてたまらない。
「なにか他にしてほしいことはありますか? これでも腕っぷしには自信がありますが」
「ん……なんでもええんか?」
「なんでもすぎるのは困りますけど、力仕事とかだったら全然任せてもらって構いません。畑の開墾とかでもお手の物ですよ?」
「はっはっは! まだまだ若ぇのに言いおる言いおる! よっしゃ、そんじゃあちと畑のことを頼みてぇ! さっき治してもらったからわかると思うけどな、腰やっちまってた所為で畑仕事がてんで進んでなくてな! まだまだ手探りのことばっかりだが、お前さん、よかったら手伝ってくんな! 本当に力仕事に自信があるなら、だがな、だっはっはっは!」
おかしそうに笑う人は、熊のような顔つきのオジサマだった。
色が違えばどこぞの征服王のような顔つきだ。さすがにあそこまでマッスルではないものの。
そんな彼に言葉を返すなら、もちろん任せとけってところだろう。
「大丈夫! 何を隠そう、俺は開墾の達人だぁあああっ!!」
あの時代にて耕した畑の数など数え切れぬほど。任せてください、俺の鍬は確実です。必ずあなたの畑を耕し切ってみせますゆえ。
と、まあ。そうして、俺の謎時代の生活は始まったのだった。
……ところで弥生時代って稲作始まったばかりとかそんな感じだったっけ? 焼き畑農業とか、まだ広まってなかったりするんだろうか。……頑張ろう、割とマジで。