ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

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鬼狩り北郷さん③

 この時代の稲作を助け、病などを癒して歩く日々が続いた。

 鬼を見つけてはブチノメし、困っている人を見つけては助け、食に困る人を見つけては施し、旅を続ける。

 

「日々の鍛錬に感謝」

 

 忍者、人にして人に非ずとはよく言ったもので、主に明命や思春、それから言わずもがなの皆様らと鍛錬を続け、氣の拡張を飽きるほど続けたお陰か、一日中走ったって疲れないのは本当に素晴らしい。

 肺活量も申し分無し。体も仕上がったままで若返ったお陰か、これで歳が若かったら……とか思ってた理想に限りなく近い位置へと辿り着けたと言える。

 やっぱり人間、自分が思い描く理想っていうのはあるもので、現在の自分にはよくやった北郷ほんと頑張った北郷おめでとう北郷ありがとう北郷と、自分の中の北郷達が北郷同士を褒め称え合うという、キャンディーの掴み取り大会にオンディーが混ざるような心温まる世界が構築されていた。

 でもやっぱり一歩。あと一歩が足りない。振るう体にも腕にも足にも氣にも、あとひとつ、なにかしらのブーストがあればと思わずにはいられない。それさえあればブレードスナップ……通称“小手先”は完成すると思うのに。

 

「自分でなにかを完成させる。誰かに伝えたい、遺したいってものを残すのって……なるほど、じいちゃんの気持ちが今ならすごい解る」

 

 かめはめ波とかじゃあなく、自分が生涯を懸けて、命と存在を賭して作り上げた天と地の果てのなにか。

 それを自分だけのもので終わらせるのは……もったいないとかじゃなくて、悲しいって思える。

 でも、自分の子供は誰もが女性で、元々がお強くあらせられる。

 弱い誰かが強く在りたく願い、けれど勝つためではなく守るためにこれを得たいと思ってくれるなら、なんて。

 

「前提条件として御遣いの氣ってのがまず無茶だよな……うん無茶だ」

 

 それに、まずは現代に戻る方法を考えないと……や、まあ、鬼退治なんだろうけどね?

 にしたってどれだけ倒せばいいのかもわからない。それに、各地を旅してわかったことだけど、鬼はやっぱり元は人間だ。なんらかの原因で鬼になって、人を喰らう。

 人間の時の記憶を持つ者も居れば、まったく覚えていない者も居た。わかることといえば、人を喰らわずにはいられないということ。嘘をついてでも無様を晒してでも相手を騙し、隙を見ては喰らおうとするところ。

 鬼にとって、人はごちそうなのだろう。それも、我慢が利かないほどの。腹が減れば食う。力が欲しくなれば食う。暇だからとりあえず食う。そんな理由で喰らう存在も居た。

 鬼になったとはいえ、元人だったものを簡単に殺せる自分にも驚いた時期はあった。心も痛んだ。けど、鬼のずる賢さを知れば知るほど、心は次第に凍てついてゆく。

 それでも悼む心を無くしたことはなかった。

 次に産まれてくる時は、どうか鬼の居ない世界でありますようにと願う。

 そうして鬼を斃して、人を癒して、田畑を興しては旅を続け、そんな日々の先で……ひとつの民家を見つける。

 おや、こんな外れに小さな家が、なんて暢気していると、そこから鬼の気配を感じた。次いで───女性の悲鳴。

 

「っ!」

 

 すぐに足に氣を込め地面を蹴り弾き、開けっ放しの戸から中へと突っ込むと、視界ではなく気配で状況を判断。

 血を流し倒れている女性の前に立つ鬼を殴り飛ばし、壁に激突させると、なによりもまず女性の状態を確認して即座に賦相成(ファイナル)五斗米道(ゴッドヴェイドォ)ォオオオーーーッ!!

 

「元気にィイイなぁあれぇええええっ!!」

 

 傷が深い。血を流して倒れてるんだ、一分一秒どころかコンマも無駄にしないためにも、確認より先に相手の生命力の活性化を優先。

 けほっ、と息を吹き返しても油断せずに破損している部分を氣で縫合、流れた血までは戻せないが……よし! これなら全然助けられる!

 

「キッ……貴様」

「うるさい黙ってろ!!」

「ヒッ!?」

 

 縫合、縫合、縫合……! 生命力の活性化、氣による血流の安定化に……あ、ああ、ちくしょう……! 妊婦さんじゃないかこの人……!

 小さな家で、きっとつつましくも幸せに暮らしていたに違いない。これから産まれる命に、顔を綻ばせたりしていたのだろう。

 旦那さんは産婆か医者でも呼びに行ったのか? それともこいつが……!!

 

「く、くそっ! 人間が鬼を怯ませるなんざ! 鬼が人間に怯えるなんざあっていいわけがねぇ!!」

 

 鬼がギパァと牙を剥いて襲い掛かってくる。

 それを、振り向きざまの渾身の右にて迎え撃ち、顔面を殴り抜け、家の外まで戸ごと吹き飛ばした。

 

「げぇえあぁああっ!? いでぇっ! あづいっ!? 顔がっ! おでの頬がぁああっ!!」

 

 吹き飛ばして、あとは放置。それよりもこの人だ。幸い、と言っていいだろう。裂傷はお腹にまで届いていない。

 きっと必死になって庇ったんだろう、盾にしたであろう腕がズタズタだった。

 

「っ……集中……!!」

 

 回復の氣を全力で当てていく。氣での縫合を続けながら、内側からしっかりと。傷跡なんてものが残らないように。

 

「よ、よくぼ……! よぐもおでのがおをぉお……!! でめぇ、ごろ───あろ?」

 

 後方で声が聞こえた……けど、その声がヒンッという音と一緒に困惑に変わった。

 なにが、と振り向いてみると、鬼の首が飛んでいた。飛んで、ぼとりと落ちて、次の瞬間にはボッと粉微塵になった。

 

「え───」

 

 そして、そんな鬼には目もくれず、駆け込んでくるのは……耳に花札のようなものを下げた、クワを持った……少年? 青年? だった。

 

……。

 

 男性は縁壱(よりいち)といった。継国(つぎくに)縁壱。

 この女性……うた、というらしい人の夫だそうだ。

 

「………」

「………」

 

 言葉の多い人ではなかった。

 けれど、その無言の中にたくさんの言葉を持っていた。

 落ち着いた風情でも、表情があまり動かなくても、人付き合いが多かったお陰か、感じ取れる様々はあった。

 なによりもまず血に濡れた妻を見て、髪を逆立てるほど怒った姿に俺が悲鳴を上げたほどで、もう全力の全力、死力を振り絞らなきゃ涅槃寂静の内に死んでました。

 その死力の果てに、目が覚めたうたさんが止めてくれたお陰でなんとか生きてます。この人レジェンドです、たぶん世界がお生みあそばれた、超常の存在を討滅するためのキラーヒューマンかなにかです。

 この人一人居れば、世の鬼、何人束になってかかっても一瞬で終わりそう。

 

「───」

「───」

 

 縁壱少年……くん、……さん? は、うたさんを助けてくれたことを感謝してくれた。そして攻撃してしまったことをめっちゃ謝ってきた。やばいくらいに。あのやめてください!? 確かに防げなかったら一発で死んでましたけど! ていうかあなたほんと何者!? 鬼に対して警戒度MAX状態じゃなければ反応出来なかったし、今感じる気配のまま攻撃されてたら絶対死んでた自信あるよ俺!

 ああでも、うん。危機に殺気を迸らせるほどに大事なんですね、うたさんのこと。そう言うと、すぅ、と頬を染めて、否定するでもなく……深く、深く、頷いて認めた。薄く浮かぶ笑みに嘘なんてこれっぽっちも混ざってなくて、それが彼にとっての大切なものなんだってことがよく伝わってきた。

 

「あ、それでですけど。お子さんの方は───」

「……、あ」

「あ」

 

 縁壱少年……いやもう縁壱でいいか。TATSUJIN相手にくんとか少年とか言う気になれない。……縁壱が頬を染めて笑む中、うたさんがテレテレと真っ赤になり、そんな中でポイと質問を飛ばした。

 すると、急にハウーと苦しみ出すうたさんと、ハワワワワワとおろおろし出す縁壱───ってこの人もしかして剣以外のことってかなりポンコツ!?

 

「縁壱! 俺が痛みと疲労を和らげておくから、産婆か医者を!」

「……!」

 

 その日、縁壱は光になった。

 我が目を疑うほどの速度で建物を飛び出たかと思うと、しばらくしてギャアアアアと悲鳴を上げる産婆を担いで戻ってきたのだ。

 それからは生命の神秘と夫婦のお時間なので、俺がそこに立つ理由はなかった。

 ただ、夜が明けるまでは俺がこの家を意地でも守る。そう決めて、建物の前で正座して番を続けた。

 血の匂いを嗅いだからだろうか、何体か鬼が来たけど───

 

「うたの下へ、その匂いを運ぶことは許さない」

 

 音も無く、つい……と出てきた縁壱が瞬殺しました。

 すごいですよね、彼、刀持ってないんですよ? (くわ)です。鍬でずんばらりんです。まるで舞うかのように、さっきの鬼もずんばらりん。

 でもさ、ほら、太陽に当てたわけでもなく、氣を使ってるわけでもないからやっぱり少しずつ復活しようとするんです。微塵状態からだよ? 鬼ってすごい。

 なので氣光波で消滅させるのが主な俺の仕事だったりした。粉になった鬼をさ、こう……ビワーって。地味。

 そんな俺の行動に、少し目を輝かせる縁壱。……だったけど、すぐにその姿はうたさんの下へと戻った。

 

  やがて、子が産声を上げる。

 

 産婆に説明され、産湯を用意していた縁壱は、託された小さな命をおそるおそる産湯につけ、丁寧に洗って。

 あの手が鍬で鬼を微塵にした、だなんて考えられないくらいにやさしい加減で。

 ふと見た縁壱の顔が、とてもとてもやさしくて、嬉しそうで、幸せそうで。

 きっときっと、いい父になる。俺はそんなことを思いながら───「血ィイイッ! 濃厚な、新鮮な血ィイイイッ!!」───目を血走らせながら山から駆けてきた鬼をドイルバンカーでワンパンしていた。

 

 *ドイルバンカー

 バキにて、ドイルさんが電気椅子から解放された際に使っていた突進とともに鋭い突きを出すアレ。

 彼は接触の直前にスプリングを解放して超威力を出していたが、北郷さんは氣の加速を以て威力を増しております。

 鬼の顔面がゴシャーと空を飛び、空中で塵となって消えました。

 あとたぶん、縁壱の子供、稀血っぽいです。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 縁壱の子が産まれてからしばらく。

 稀血ってことの予想が心配なのと、うたさんの容態も心配だったので、しばらく付近で寝泊まりをさせてもらっていたんだけど、ある日に鬼狩りを名乗る人たちと出会った。

 なんでもここ最近、ここらに鬼の出現が集中しているのだとか。その注意と、鬼を知りながら犠牲者が一人も居ないことに驚いていたその人は、煉獄尖寿郎といった。

 油断ならないから何度か様子を見に来ると言っていたけれど、まあ元気な人だ。

 心配しなくても、鬼といっても恐ろしいほどの脅威は今のところないと思われる。

 何故って、まあその、ほぼを縁壱が滅ぼしているからでして。いや、俺も斃すことあるよ? でも妻子を守らんとする縁壱の強いこと強いこと。

 

 この人ほんとすげぇ。氣に興味を持ったみたいで教えてみたらあっさり使えるようになった。代わりに教えてもらったそのー……こ、呼吸法? は俺、まだ全然使えないのに。

 日の呼吸、っていうらしい。なんか鬼を見た途端に完成したとか。え? なにそれすごい。

 北郷が使えないのは、恐らく日の呼吸には向いていないからだろう、なんてあっさり言われた。氣の対価だったのに、向いてないとかすごい傷つく!

 なので、こっちは呼吸とか痣のこととか刀が赫になる仕組みとかを訊くとともに、縁壱は氣の練習として、俺は刀術の向上や呼吸と、それに伴う自然の動きなどを教えてもらうことにした。

 教えてもらってなんだけど、この人やっぱりすげぇ。彼の実力? 人外じゃあ片付けられないレベルさ、AhHAHAHA! って笑えるくらい。

 

 けれども縁壱は俺をじいっと見つめると、透き通る世界やら呼吸法の常中、さらには氣を用いた身体能力の底上げと、動かし方等を教えてくれた。

 縁壱はいわゆる華雄型……常時解放型の氣の使い手らしく、そのくせ有り余る氣で蓄積型の行動も出来るという、なんというか本当の意味でぶっ壊れた能力の持ち主だった。

 なのでそこは応用と使い様。「氣に関してはお前の方が詳しい筈だ」と言う彼からしっかりと見聞きして、あれほど鍛錬してきた筈の氣や体捌きの精度をハチャメチャに上げることになった。主に呼吸法のお陰なんだけど。

 

「こう、こう……こう」

「そうだ。無意識に相手の行動に集中し、それに無意識に対応できるようになれば、北郷も同じ場所へと到達する。辿り着く場所というものは、誰が目指したとてどう目指したとて同じものだ」

「そんなものかな」

「ああ」

 

 面白いもので、縁壱に教わりながら氣の行使と呼吸を混ぜて、縁壱に手合わせをしてもらっていると、今までこれ以上は無理だとかこれは出来ないとか思っていたものが、面白いほどに出来るようになっていく。

 きっと辿り着けない、夢物語だと思っていた空想が現実になってくると、それはもう夢中で鍛錬を続けた。

 全てを呼吸と氣と相手の動きに集中させて、ようやく縁壱の動きになんとか追いつけるという程度。

 ならばその全ての精度をさらに鍛えるだけだと、再びがむしゃらに鍛錬。

 縁壱に付き合ってくれと言ってみれば、穏やかに笑って受け入れてくれる。

 ただし子供の面倒を見る時は勘弁してほしいと冗談交じりに言ってくる。そんな反応がこれががまた嬉しくて、二人して笑った。笑い声に出てきたうたさんも笑った。

 

「~っ……つあっ……! よ、よし……! 少しずつ集中領域の継続時間が増えてきてる……! にしても、ほんと凄いな縁壱は……!」

「一刀。私などそう大そうなものではない」

「それだけはない」

「……いや、私は」

「俺が本気出すくらいで勝てるならまだわかる。あのね、こちとら死に物狂いで氣を習得してそれを高めて、その後本当に死闘繰り広げてなんとか勝って、その後も心技体ともに鍛えてきてもこのザマなの。縁壱、キミは大層なもんだ」

「それは一刀、お前が本気を出せていないだけだ。痣も呼吸も十分、透き通る世界も見えたとしても、自分の体を使いきれていない。もっと自分を見て動くといい」

「あ……そっか、透き通る世界に入れたなら、自分の動きの一つ一つも見えるんだよな」

「一刀。お前は呼吸と氣、そして鍛えた体が扱えるという点では私よりも先へ行っている筈なのだ。それを劣っていると思えてしまうのは、動かし方の問題だろう。加減はいらない。体が望む通り、こう動きたいと願う思考の通りに動かしてやればいい」

「簡単に言ってくれるねもう! それって脳のリミッター外せってことでしょ!? え……出来るの!? それそんな簡単に出来るもんなの!?」

「出来る。出来ぬと決めつければ道を潰すだけだ。それは遠回りにしかならない」

「遠回りって?」

「……どんな道も、極めたのならば行きつく先は同じだ。理想を描いたならば、そのための動きだけをすればいい。それ以外を削ぎ落していくのだ。だからこその“全集中”という名だろう」

「どっちにしろ簡単に言ってくれるなもう……」

 

 けど、理屈はわかった。ようするに無駄が多すぎるってことだ。

 だったらその域まで行く努力をするだけだ。幸い、氣ってものと透き通る世界のお陰で自分ってものを肉眼と心の眼で見ることが出来る。

 繊維の一本一本から氣脈のひとつひとつまで、自在に動かして無駄なんてものはすべて削ぎ落すつもりで───!!

 

……。

 

 ───いや無理ッッ!! 無理だろこれっ! 無理! 無理ィイイイッ!!

 と心が絶叫していようが無視する。順応していく。埋没していく。

 意識するな。無意識の領域まで行け。どう動きたい? どう振るいたい? そのための理想を瞬時に描き、体が“それのみ”のために動く“集中”を可能にする努力を───!!

 ~……肺が苦しい、ばくばくと弾みすぎて、心臓も爆発しそうだ。

 けど、その先に無駄を殺した自分があるのなら───!

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