ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

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鬼狩り北郷さん⑥

 雷鳴めいた音がゴロゴロと鳴る。

 それを見んがために動かした視線の先には、氣と呼吸を器用に使い分ける、金髪の少年が居た。

 

「善逸ー、調子はどうだー?」

「へ? あっ……とーちゃん!?」

 

 我妻少年は俺を見てぱぁっと笑顔を咲かせ、ドンチュゥウウンと雷の呼吸の霹靂歩法まで使って距離を縮めると、俺の腰にがばしーと抱き着いてきた。

 

「何処行ってたんだよねぇ何処行ってたんだよぉおおっ!! なんか気づいたらすぐ居なくなるし居なくなったらじいちゃん厳しくなるしぃいーーーっ!! とーちゃんが居れば甘くなるからずっと居てって言ったじゃないのぉおおっ! もぅやぁあだぁあああああっ!!」

「あー……じごろー、苦労してそーだね……」

「迷惑をかけるな、北郷の……」

 

 飛びついてきた善逸の後方に、小柄で義足の老人ひとり。元鳴柱の桑島慈悟郎。

 一応、彼が鬼殺隊に入る前からの知人だ。

 善逸は孤児になっていたところを俺が引き取って育てた子だ。足腰の……特に歩法の才があって、雷様に愛されている。聴覚に優れ、音で相手が嘘をついているかどうかさえわかるっていうんだから凄い。

 才能もあって元気で人想い。かなりいい子なんだけど……臆病すぎるのがなぁ……。

 

「ん、あれ? 獪岳は?」

「兄貴ならもう最終選別を終えて鬼殺隊に入ったよ……? “後に続けよ、善逸”なんて軽く言ってくれたけど無ぅ理ぃ! ほんと無理だから俺死んじゃうからぁああっ!!」

「ぜーんーいーつ。大丈夫だから。無理なんかじゃないっていっつも言ってるだろー?」

「でも俺、壱の型しか出来ないし、じいちゃんはボカスカ殴るし……」

「じごろー……」

「ぬおぅっ!? い、いやぁっ、最初の頃は覚えようという気がないからだと思ってだなぁそのぅ……!」

「はぁ……善逸、藤屋敷に居た頃から言ってるけどな、お前はちゃんと出来てるよ。弱気になっても守りたいって思ったもののために頑張れる。信じたいもののために身を削れる」

「……とーちゃんが本気でそう言ってくれてるのはわかってるよ。とーちゃん、女性に迫られた時にしか、むしろ逃げる時にしか滅多に嘘とか言わないし」

「善逸。お前は女性を無条件で信じてるけど、女性っていうのは恐ろしい存在だからね? 藤屋敷に居る家族たちが限定的にやさしいだけだから」

「とーちゃんそれは違う! いくら俺を拾って大事に育ててくれたとーちゃんでも、女の子のことを悪く言うなんてひどいよ!」

「おン前バカふざけんなそんなのはほんとに怖い思いしてないから言えんだよおまっ……お前! お前ぇえええっ!!」

「じゃあどんな怖い思いしてきたのさ! いっつも濁してるんだから今日こそは教えてくれよ!」

「初対面で呼び方がわからなかったから、そう呼ばれてる名前を呼んだら殺されそうになった」

「いきなり重っ!?」

「三人の女性に引っ立てられて、利用価値があるからって仲間にされて、役に立とうと仕事をしたら他人の仕事を奪うなと怒られた」

「え……え? 役に立とうとしたのに!? ていうか仕事の仕方とか教えてくれなかったの!? ねぇ!」

「なかった」

「ひどい!?」

「ある日にはただ男だってだけで初対面の女に罵倒されて、顔を合わせるたびに蔑称つけられた」

「で、でもそういう出会いってほら、あれでしょ? 月日の経過で仲良くなっていく、とか……」

「………」

「なにか言ってよぉおおおおおおっ!!」

「いきなり難題をふっかけられて、少しでも意にそぐわなければ首に鎌をつきつけられて、ことあるごとに謎の理論をぶつけられてはなんだとぅ!? とか言われて大剣持った女性に追い掛け回されて、部下の騒ぎの尻ぬぐいはさせられるし気まぐれで無茶を言われては“出来ないの?”って煽られるし出来たら出来たで“そ、じゃあ次はあれをお願い”って難題が強化されるし少しずつ武術をものにしていけば刃物を持った女性に“戦え”っていきなり言われて襲われるしボコボコにされるし空は飛ばされるし俺は俺は俺はぁああああっ!!」

「いぃいいやぁああああああっ!? “なんだ嘘じゃないか”って笑い飛ばしたい話なのにこれっぽっちも嘘がないぃいいいいっ!!」

「……だからな、善逸。……女性に夢を見るのはやめなさい。ほんと……ほんと、やめなさい。やめて」

「こっちが泣きたくなるようなやさしい顔で言うのやめて!? やめっ……ほんとやめて!? 涙こぼれてるから! 堪えて!? ねぇ堪えて!? 憧れてる人の女性関係の涙なんて見たくないからやめてよぉおおっ!!」

 

 思い出しただけでも結構キツい。

 もし過去に戻ってやり直せたら、もうちょい役立つ自分で挑みたい。今の自分みたいに。

 と、そんな話はほっぽっといてだ。

 

「善逸ならきっといい娘が見つかるよ。騒ぎすぎず、情けない姿を見せすぎなければ」

「あれ? なんか今物凄くあっさり俺本人が否定された気がするんですけど」

「手っ取り早く女性に好かれたいなら、その女性の好きな人になるしかないじゃないか。そうしたくないなら、素直な自分で挑み続けなきゃだろ?」

「でも俺を好きになってくれる人なんて……。型だって壱しか使えない、半端なヤツだし……」

「大丈夫だよ、善逸。壱の型しか使えないってのは、逆に真っ直ぐなヤツって意味でもある。将棋でいったら飛車だ。飛車は強いぞ? 飛車のような人を好きな女の子だって居るかもしれない」

「いや居ないよ居るわけないでしょなに言ってんの飛車だよ?」

「お、言ったな? じゃあ居たら善逸に知らせず、俺が───」

「嘘やだやめて!? 居るかもだから居るかもだからぁああっ!! ……ていうかとーちゃんって好きな相手とか居ないの? ずーっとその黒い格好で医者の旅してるけど」

「や、俺既婚者だぞ? 奥さんもちゃんと居る」

「「嘘ぉおおおおおっ!?」」

「じごろー、なんでお前まで驚いてるんだよ」

「い、いや、なんでもなにも、そんなそぶりも相手も見たことがないなら仕方ないだろう!」

 

 久しぶりに訪れた桑島のところで、なんだか大変驚かれた。

 結婚してたらおかしい? や、そりゃあ俺、この世界だと女性から距離取りまくりだったけど。

 

「まあ、とにかく。善逸が壱の型しか出来ないことには何かの意味がある。だったらそれを極み抜けばいいだけだ。化勁で霹靂一閃の足の負担を逃がすのは出来るようになったか?」

「え、う、うん。なんとか」

「ほら、ちゃんと進めてるじゃないか。最初教えた時、無理無理言ってたけどさ。お前は出来るよ、善逸。俺はちゃんと、お前の未来を信じてる。期待してる。だから、お前も自分を信じてやれ」

「じゃあとーちゃんが、“好きな男性は飛車みたいな人です”って女の子を見つけられたら頑張る」

「おっ、言ったな? じゃあ約束だな」

「えっ……乗り気なの? 居ないって! だって飛車だよ!? なに飛車って! 好きな男性は飛車ですって自分で言っててもわからないんだけど!?」

「んー……そうだな。じゃ、いくつか挙げてみて、これだって思うのを目指してみるとか。───ひとつ。嘘をつかない真っ直ぐな人、自分を真っ直ぐ信じてくれる人。ひとつ。辛くてもまっすぐ前を向いて突っ走れる人、真っ直ぐにしか進めない人。ひとつ。ただの猪突猛進な人。……どれだといいと思う?」

「ふたつ目! よぅし俺頑張るぞぉ~ぅっ!? そうだよね! 飛車が好きでもいいじゃない女の子だもん!」

「はぁ……単純な奴め。北郷の、あまり善逸をからかってくれるな」

「え? いや、居るって絶対。世の中に何人人間が居ると思ってるんだ。そういう人だって絶対居るよ」

「からかったのではなかったのか!?」

「ちゃんと言ったろ、俺は善逸を信じてる。期待してる。誰が呆れたって見捨てるもんか。お前だってそーだろ、じごろー」

「……まあ、そうだな」

「えっ……じ、じいちゃん?」

「ほれ、そうと決まれば鍛錬だ稽古だ練習だ。飛車になりたいならば最強になってみせい」

「いや何言ってんのじいちゃん俺が最強になれるわけないじゃん俺ただの飛車だから。他人に押されなきゃ真っ直ぐにも進めない、動かされなきゃ歩にも負ける飛車だから」

「北郷の!? 悪化しとるんだが!?」

「あ~……善逸~?」

「だっ……だってぇええええっ!! それとこれとは別っていうかぁああああっ!! 辛いのも苦しいのも頑張れるよ! 期待してもらってるってわかるもの! 嬉しいんだよ俺だって! でも無理なんだよ! 結果が出せないんだ! 俺だって期待に応えたいよ! どうしてこうなんだっていっつも苦しいんだよ! でも無理なんだ! 出来ないんだよぉおおっ!」

「……よしっ、じゃあ一つ一つ成功させていくか。ほら善逸、こっちおいで」

「うぅ……とーちゃんはなんでこんな俺を見捨てないの? じいちゃんだってそうだ、俺は俺が一番嫌いだよ」

 

 「めんどくさいしどんくさいし、兄貴に“続けよ”、とか言われてるのも正直信じられないんだ」、なんて言っている善逸の頭を、氣のこもった手でやさしく撫でてやる。

 

「才能があるからとか、きっと強くなるからとか、そういう将来性を見て子供を引き取ったりなんかしない。生きてほしいんだ。輝いてほしいんだ。笑顔でいてほしい。幸せになってほしい。それだけなんだよ。善逸が鬼から人を守りたいって言って立ち上がってくれた時は嬉しかった。でも同時に怖かった。いろんな子が藤屋敷から出て鬼狩りになった。帰らなかった子も居る。帰っても、治せない傷を負った奴も居る」

「うん……」

「俺はお前が幸せならそれでいい。一歩一歩、自分に出来ることをこなして、笑顔で幸せ噛み締めていられるなら、鬼を殺す道を選ばなくても全然いいんだ。今からやっぱりやめるって言ったって俺は受け入れるよ。だから、道はお前が決めなさい」

「そうだ、善逸。お前には才能がある。だが、だからといって必ず鬼を殺さねばならんわけではない。お前が信じる、お前が信じたい道を行きなさい。儂らはその手伝いをしよう」

「とーちゃん……じいちゃん……」

「あ、嫁探し以外で」

「うむ。嫁探し以外で」

「ひどい!? せっかくいい話っぽくなってたのに!」

 

 茶化しはする。笑いもする。けれど、善逸はきちんと自分で選んだ。

 才能があるって言ってくれるなら信じると。期待してくれているのなら頑張ると。

 そんな彼はやがて、雷の呼吸と氣の同時行使を自在に操れるようになり、霹靂一閃・神速を連発出来るようになり……うん。なんか……うん。

 

「才能どうとか以前に……これ、他の呼吸の使い手、心折れない……?」

「ぬお、ぉおおぅ……! 善逸が、よもやここまで成長してくれるとは……! 根気よく教え導いてきた甲斐があった……!」

「いや……いや、じごろー? 善逸、神速連発しながらじーちゃーんって手ぇ振ってるぞ? もう無意識で雷速移動できるようになってるんじゃ……」

「そ、それはその、お主の教えあってのものだろう? 儂には氣の扱い方なんぞわからんかったし」

「………」

「………」

「善逸、女性みたら雷速抱き着き魔とかにならないかな」

「やめい! それを心配しとったんだから!」

 

 才能はあった。むしろありすぎた。【雷の呼吸・霹靂一閃】極振りの才能。そこに負担や衝撃を散らしつつ連発出来る化勁が混ざっただけでこれです。

 しかも霹靂一閃でかかる負担や衝撃を化勁で移動、散らすのではなく攻撃に転化した場合、居合いの威力がハチャメチャに上がる。

 なにあれ。鬼の首どころか巨岩が綺麗に切れちゃったんですけど。

 ハワァアアア……断面図が美しすぎ……! 刃こぼれひとつしてないし!

 あ、やばいこれやばい、慈悟郎と二人して雷獣完成させちゃった。

 だってあれ、神速使えば使うほど化勁で破壊力に転化できるんですよ? 本人は負担ゼロで。

 しかも刀を氣でコーティングしての破壊力転化だから、刃こぼれもしないし威力も上がるわけで。

 

「とーちゃん、じいちゃーん! 俺、頑張るよー! 今なら鬼の首も斬れる気がするんだー! 立派な飛車になって、助けた子が実は飛車好きの女だった……! なんて状況で恋に落ちるんだー!!」

「………」

「………」

 

 強くなった。でも、善逸は善逸だった。

 そのことに心の底から安堵、と同時に慈悟郎と一緒に大笑いした。

 我らが子供は、あれだからいいのだと。

 

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