ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

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鬼狩り北郷さん⑦

 そして、時は流れ───

 

「炭治郎。竈門炭治郎か、いい名前だ」

「はい! 自慢の名です!」

 

 とある雪の降り積もる日、俺は竈門家の子と山を登っていた。

 竈門家の人との付き合いも長い。

 炭十郎が継いだ時にも会いに行ったし、その前も、その前も。

 神楽の舞を忘れてしまった、伝えきれてない、なんて時は、本場の本場、スマホで撮った縁壱の舞を見せた。

 皆様口々に「すごい!」「すごいな!」「すごい!」「なにこれ!」「すごい!」「綺麗!」「すごい!」って言ってた。竈門の血筋は本当に素直です。感想とか特に。

 でも、炭十郎ほど縁壱に迫る人も中々居なかった。

 大熊を一撃だもんなぁ、ほんとすごい。

 ちなみにその映像も撮ってあるので、いつか必要になったら炭治郎にも見せてやろうと思う。

 あ、このスマホは真桜制作であり、氣でチャージと保護が出来るので傷のひとつもついていないし、いつでもバッテリーマックス状態だ。充電器も太陽光も要らない上に、俺の氣でコーティングしてあるから傷もない。素敵。

 

「北郷さんのことは父さんから聞いています。ずっと昔から竈門家を見守ってくださっているんですよね!」

「見守るとかじゃないよ、昔からのファンなんだ」

「ふぁん?」

「竈門の……炭吉ってご先祖のね、彼に神楽を教えた人。縁壱っていうんだけどね、彼の友人なんだよ、俺は」

「……すんっ。嘘じゃないんですね、ってあの、友人!? 失礼ですが今何歳でしょうか!」

「んー……600歳近く? 老けないんだ、今の俺」

「すごい! あのっ、それって父さんが言っていたどれだけ動いても疲れない呼吸と関係があるんですか!?」

「ない」

「ないんですか!」

 

 竈門家の子は元気だ。

 一緒に居ると、思わず笑みがこぼれる。

 幸せがそこにあることを、ただ少し一緒に居るだけでも思い出させてくれる。

 

「炭十郎は俺のこと、なんか言ってたか?」

「古くからの友人なんだ、って。神楽の、無駄の削ぎ方を教わったとか」

「教わった、かー……よく言うなぁもう。自分でどんどん完成させていったくせに」

「北郷さんのことを話す時、父さんはいつも楽しそうでした」

「うん。竈門家の子は……知り合いは多かったけど、友達って呼べる人は少なかった。神楽に妙なものが混ざることを嫌ったんだろうな」

「約束……なんですよね?」

「ああ。幸せを繋ぐ約束だ」

 

 追い詰めておきながら倒せなかった。そんなのは、仕方ない。

 初めて会った存在の、取れる手段を全て知っているわけがない。

 逃げられてしまったからなんだ。じゃあお前らは出会った瞬間に斃せたのか。

 ついぞ縁壱と再会することはなかったけれど、彼のことだ、きっと自分を責めただろう。自分は大したことが出来ない存在だと卑下しただろう。

 それでも妻が、子が傍に立ち、寄った竈門家で日の呼吸を見せ、笑顔をこぼしたというのなら。そこに立ち直れる理由も、笑顔になれる理由も、家族が三人、幸せに歩める理由もあったのだ。

 途切れさせちゃいけない。竈門の祖先、炭吉が伝えていくと決めたのなら、それは幸せの連鎖であるべきだから。

 

「俺は結局、呼吸の仕方を詳しく聞くことはできませんでした。熊の首を斬ったあの動きや、神楽の型を目に焼き付けることはできました。けど───」

「そか。それが出来てれば第一歩だ。あとはな、炭治郎。ヒノカミ様になりきれ。自分じゃなく、ヒノカミ様に……縁壱になればいい。邪念は捨てろ。雑念も捨てろ。最初はなぞるだけでいい。次第に無駄が削げて、動きから無駄が無くなる。意識しなくても体が動いて、ちっとも疲れなくなる」

「あ……父さんも言ってました。そんな呼吸があるって。でも俺はそれを聞いてません。どうすればいいのかも───」

「大丈夫だ。お前はちゃんと目に焼き付けた。なら、なりきれる。父さんの……炭十郎の動きを思い出せ。それをなぞれ。無駄を殺せ。呼吸は、後から勝手についてくる」

「っ……はい!!」

 

 あら素直。思えば炭十郎も───、っ……!?

 

「炭治───急ぐぞ!」

「ぇ、ぁっ……ち、血のにお───」

「早く!」

「っ! はい!!」

 

 竈門家へ続く山道。その途中で、嫌な気配を感じた。

 炭治郎を見てみればすぐに血の匂いに気づいたのか真っ青になっていて、そんな彼を促して先を急いだ。

 っ……炭治郎には悪いけど先に行こう、急げば間に合うかもしれない。

 シィッと息を吐いて雷の呼吸を全身に満たす。それを氣によって増幅させて、血の巡りと氣の巡りを同調、加速させて、人外の速度を弾き出す。

 

「速ぃっ……北郷さ───」

 

 炭治郎の声が一気に届かなくなった。それだけの速度をもって先へと進み、そして───

 

「…………!!」

 

 その惨状に、ぞわりと背筋が凍る。

 鬼だ。しかも残っている気配が尋常じゃないほど濃厚の。

 もしや鬼の祖か、なんて思考より先に雷速で動き、血だまりで倒れ伏している子供二人を抱え、全力で癒しの氣を流す。破損している部位を縫合、死んでいく細胞を活性化させて、させて……させ、ながら。壊れた戸の先を見て、ひくっ、と喉を鳴らした。

 

「~~っ……だっ───!!」

 

 誰がこんなことを!!!!!!

 ……───叫ぶより先に駆けた。

 まだギリギリ温かい、まだ大丈夫、いける、考えるな、全力だ!! 動け!!

 治れ……治れ治れ治れ死ぬな死ぬな死ぬな死んでも生き返れ諦めるなぁああっ!!

 

「血っ……は、思ったより流れてない……! 寒さに救われた! 人数の所為で多く見えるだけだ! いける、まだ大丈夫だっ……! だからっ……!」

 

 だから、焦るな、落ち着いてくれ俺の心臓……!

 治す、絶対に治すから! 血の匂いになんて負けるな! 幸せを壊すことなんてしないでくれ!

 

「けはっ! あ、かふっ……!」

「! だっ……大丈夫か!?」

 

 家の前で子供を庇っていた子が、咳き込んだ。

 いや、気を緩めるな、安心していい状況じゃあ全然ない!!

 集中、集中、集中、しゅう……「あ……ア゙あぁああァ……!!」……、……!?

 

「おい……おいおいおい、冗談、だろ……?」

 

 癒していた女の子が、メキメキと顔の血管を太くしていく。

 この状態のことはよく知っている。鬼になっていく人間を何度も見たからだ。

 

「グオォオオオオオッ!!」

「女の子が出していい声じゃないだろそれは! ~~っ……あああくそぉおおっ!!」

 

 今手ぇ離せないんだよ! 普通だったら全員死んでる! 蘇生だって五斗米道でギリギリってくらいだ! 手ぇ離せば死ぬんだよ! 繋いでる糸がもろすぎて、泣きたくなるくらいの状態なんだ!

 だから───

 

「お前が暴れれば家族が全員死ぬ!! 記憶が少しでも残ってるなら耐えろ! 鬼の飢餓状態なんぞに負けるな!!」

 

 喉に氣を込めて、声帯を震わせた。

 餌の言葉なんて聞く耳持たない鬼だけど、それにだって多少のやり方はある。

 飢餓状態の鬼に効いた試しは残念ながら一切無いし……今回もきっと。

 

「グアァアアアッ!!」

 

 ……ほらみろ、やっぱりダ「禰豆子(ねずこ)!!」……あ、止まった。

 

「どうした! なにがあっ…………、血……? これ……みんな……え……? ほ、北郷さん、これ……」

「グアァアアッ!!」

「え、禰豆、うわぁああっ!?」

「気を抜くな炭治郎! 噛まれるな! 血を見せるな! 耐えろ!」

 

 止まった、けど、それは標的を変えただけだ。氣を纏った俺を、鬼の本能が危険と判断したんだろう。

 だから炭治郎へと向かった。口を大きく開け、襲い掛かった。

 炭治郎は咄嗟に、傍にあった薪割り用の斧を構え、噛まれるのを防いだけど……だめだ、あのままじゃ力で負ける。

 

「ぐっ、ぅうう……! ほ、北郷さんっ……! いったい、なにがっ……!」

「鬼だ! 鬼が出て、お前の家族を襲った!」

「鬼っ……そんなっ……! みんなはっ! 母ちゃんは! 竹雄はっ! 茂はっ……花子はっ! ~……六太は……!」

「今全力で蘇生してる! 絶対に生き返らせてみせるからお前も根性入れろ!! 今手ェ離すと確実に死ぬ!」

「───!!」

「無茶言ってるのはわかってる! けど蘇生するまでだ! そこまで我慢してくれたら、俺がそっちの子をなんとかする!」

「なんとか、って……治るんですか!? それとも、まさか───」

「おーまーえーはー!! 今俺命懸けでお前の家族守ろうとしてるの見えない!? なんでむざむざ一人だけダメだ殺そうなんて話になるんだ!! ていうか集中させてお願い! いいか、人を一人も食ってない鬼なら、半人までなら戻せる!! けど血をすすられでもしたらダメなんだ! だから耐えろ!」

「~っ……でもっ! すごい力でっ……!」

「それでも耐えろ! お前はなんだ! 男だろう! 歯ァ食いしばれ! 限界なんて勝手に決めるな! 守りたいものがあるなら自分の全部を燃やしてでも自分の“そうしたい”を貫き通せ!!」

「……!! くっ……ぬ、ぐぐぐぐ……!!」

「もう一度訊くぞ! お前はなんだ!!」

「長男です!!」

「そうだ長男───エ?」

 

 いや、そうじゃなくて。エ?

 

「そうだ俺は長男だ! 長男だから守らなきゃ! 出来る出来る俺は長男だ! ~~……禰豆子! 絶対に兄ちゃんがなんとかしてやるからな! だからお前も頑張れ! 鬼になんかなるな!! 禰豆子ぉおっ!!」

 

 炭治郎が叫ぶ。けど、鬼の力は時間とともに血に、肉体に馴染み、広がっていく。

 禰豆子、と呼ばれた少女の体がグムグムと大きくなっていくのがその証拠で───!

 いや、今は炭治郎に耐えてもらおう……! こっちはこっちで集中しないと間に合わないかもしれない。間に合ったとして、どこかに障害が残るかもしれない。

 けど、そうだろうと全力で蘇生させる! 使う氣の総量が尋常じゃないけど、そのために増強させてきた氣だ、こうなったら搾りかすになるまでやってやるさ!

 明日やってやらあと心に誓ったのなら! 明日ってのは“今この時”さ! 出来っこないと心が悲鳴を上げている? それは出来ないと勝手に決めつけているからだよ。逆に考えるんだ、希望は常に遠回りの先の過程にあると───!

 勝利を確信した者が既に敗北しているというのなら、勝敗なんぞじゃあなく諦めない心を胸に抱く! たとえここに倒れる家族の全てが既に“亡骸”でしかないのだとしても。既に魂が逝ってしまったのだとしても。もう、冷たさしか感じさせない“空洞”なんだとしても───大丈夫! ジョセフはなんか心臓マッサージと輸血で戻ってきたから!

 頭から暗いイメージを全部追い出せ! 笑い飛ばせるような温かな感情で心を燃やして、ただただ人を救うためだけに───!!

 そう、強く強く願い、氣を一気に流し込んだ時だった。

 

「っ……かはっ」

「けほっ! えっほえほっ!」

「ぁぅ……うぁあああん……!!」

 

 母親が息を吹き返し、子供たちが咳き込み泣き出したのだ。

 

「───!! 炭治郎! みんな息吹き返したぞ!!」

「えっ……あ……ぁあああぁあっ……!!」

 

 告げた途端、こちらを見た炭治郎が喜びの涙をこぼす。

 その瞬間、鬼の少女が動き───こちらを見て、ぼろぼろと涙をこぼした。

 

「───」

 

 なんか……この竈門家、どっかおかしいんじゃなかろうか。

 とりあえず、涙がこぼれればこぼれるほど、大きくなった体がぷしぃーと小さくなっていく、えーと……禰豆子ちゃん? に近づいて、首に手刀を落とす。

 抵抗もなくそれを身に受け、ぽてりと倒れた彼女に炭治郎は驚くが……さて。こっからだよなぁ……。

 鬼殺隊の連中にどう説明したものか。

 そう考えながら、炭治郎に一言忠告してから鬼化後の安定化を開始した。

 というのもこれ、相手の氣と身体に同調してやるあの方法を使うから、言っておかないと誤解しか生まないんだよ。

 同調ってほら……わかるだろ?

 後ろから抱えて、お腹に手を当ててやるアレだ。

 昔、妻が鬼になった夫に治せるかも、と相談して、この体勢を取ったら“おんどりゃテメェ(タマ)ァ取ったらぁあああっ!!”て包丁持って追い掛け回されたし。

 

……。

 

 無事に、と言っていいのか。

 竈門家の蘇生と鬼化の安定化は終了した。

 

「お兄、ちゃん……、わ、たし……」

「いい、いいから禰豆子……! しゃべるな……! よかった……よかった戻って……よかったぁあ……!!」

 

 鬼状態から戻っても、記憶がない、なんてことは結構あった。

 禰豆子ちゃんは運がいい方だ。きっと本当に時間が経ってなかったからだろう。

 

「ぐっっっ~~~…………はぁあぁぁぁぁ~~~っ……!!」

 

 で、俺はといえば、この人数を死の淵から呼び戻し、さらには回復の氣と縫合の氣と、寒さで凍えないようにと熱の氣の精製やらなにやらで、様々なことが終わった頃には久しぶりに氣の枯渇を味わっていた。

 

「あぁあああすいません北郷さん! すいません!! ありがとうございます家族を助けてくれてっ……ありっ……ありがっ……ひっ……ぅ、うぁあああああああ……!!」

 

 うん。泣ける内にたーんとお泣き。俺も泣くから。

 あ゙ーーー……!! 助けられてよかったぁああ……!! これでダメだったら、炭十郎たちに合わせる顔がないよ……!

 葵枝(きえ)さんからももう感謝はもらってるから、そんな号泣するほどとかいいから……いやほんといいから……。

 あーでも……これってまずいよな。鬼の親玉? はたまた中ボス? がここを狙ったの、たぶん偶然じゃない。

 日の呼吸の……もっと言えば縁壱にやられたことのある鬼が、その“流れ”を知って殺しに来た、とかだと相当にマズイ。

 考えてみれば、こんな、って言ったらアレだけど……人里離れた場所の家だぞ? 今まで鬼に目をつけられない方がおかしい。なのに今さらってのは、絶対になにか理由がある。

 むしろ日の呼吸の型を見て生き延びた鬼なんて居ない。それこそ取り逃がしてしまった鬼のボスだけ。ってことは?

 

「……炭治郎~」

「ひっ、ひっ……は、ふぁい……! なんでふか……!」

「家に入って来て、なにか血とか以外に違和感とか、感じたもの。なんでもいいからなにか、わかるか~……?」

「ぐすっ……なにか、ですか……。………………あ」

「炭治郎?」

「匂い……です。家族のものの匂いと、炭の匂いと……それから、禰豆子に混ざったなにか濃い匂い……」

「───」

 

 あらやだ。鬼のボス、追い詰められるかも。

 鬼は、誰もが人間を鬼に変えられるわけじゃない。

 鬼を変えるのは鬼のボスだけ。名前は確か……そう。鬼舞辻無惨。その匂いを、炭治郎は嗅ぎ分けることが出来た。

 それはつまり───なんて思っていたら、誰かが近づいてくる気配。これは───

 

「無事か! 外の血はっ───北郷さん!?」

 

 錆兎と義勇、そして真菰だった。

 ……アー……説明こんがらがりそう……!

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