鍛錬は続く。もちろんその間に確認することも、頭に入れておくべきことも語ったりして。
「はい5分間休憩」
「「はいっ!」」
「休憩中に軽い問答をしようか。そだな……うん、鬼の首を斬るのにまず重要なのは、殺気を出しすぎないこと。鬼は人より感覚が鋭いから、殺気がこもると何処を狙われてるかがわかってしまうんだ。だから、殺気は殺す。炭治郎はこれがやりやすいと思う」
「え……そ、そうでしょうか! 首を斬るのに殺気を出さない、なんて……」
「炭治郎。……お前は、神楽を舞えばいい。殺すつもりじゃない。救うつもりで舞いなさい。斬った相手が、次こそ幸せになれますように。お前が継いだものは、そういうものだって体に叩き込みなさい」
「………………はいっ!!」
「禰豆子はそろそろ血鬼術と氣と呼吸を合わせてみようか」
「は、はいっ」
「たぶんもっと鬼である時間が増えれば、氣で鬼の氣を増幅させなくても血鬼術が使えるようになると思う。でもぶっつけ本番が出来るほど、鬼狩りは楽じゃないから。だから、出来ることはやっておこう」
「はいっ」
「じゃあ、鬼の氣を引き出すぞ。気をしっかり持ってな」
「~……はい……!」
禰豆子は鬼の氣、つまり鬼舞辻の氣を増幅させると、“爆血”という鬼の血を爆破させる能力が使えるようになった。
ただ、自在じゃないから氣も余計に使うし疲れやすい。
血を爆発させるなら当然血を流さなきゃいけないし、けれど今では人なんて食いたいとも思わない。人間の意思が完全に勝っているからだ。稀血を前にしたってそっぽ向けるレベルだ。
ただし鬼の氣を増幅させると、やっぱりどうしても鬼寄りになるのでほんのちょっぴり狂暴性が増す。……増すだけで、やっぱり人を食べたいなんて思わないわけで。
……ただしめっちゃご飯食べる。人の8倍くらいは食べるんじゃないかな。
たくさん食べるキミが好きレベルを結構超えておりません? ってくらい。怪我したらもっと食う。そして、血を増やす。カロリーがそのまま血になってるの? ってくらい。
めっちゃ食べる禰豆子を見た炭治郎が、口をあんぐりと開けて呆然としていたのは今でも思い出せる。すぐに材料費はいつか必ず働いて支払いますからと言ったが聞かな「いいえ払いますから!!」いやちょ「払いますから!!」頭硬い! ほんと頭硬い!!
「───……」
「よーしそのまま、そのまま……その状態を維持して……髪の色も目も変異した状態を当然のように維持する。維持が難しいなら、今の状態を氣で包んで安定化させちまえ。まあもっとも、それって氣を散らすと一気にバランス崩れるんだけど、そこは経験だ」
「すぅううう……はぁああ……はいっ」
「日の呼吸ってのはそもそも、全ての呼吸に派生する前の元のものだ。それはつまり、全ての呼吸に繋がる。“全て”を分解したのが派生した呼吸だ。どうすればいいのか、なんてのはな、全部の呼吸を試してみて、その全ての中にある“通じるもの”を見つけて、それを無意識に集中して出来るようになればいい。即ち“全”集中」
「うわあああ……! た、大変だ……!」
「とりあえず大体が安定したら、俺が縁壱の氣から受け取った“縁壱の身体能力の在り方”を体験してもらおうと思ってるから、それまでは努力努力だ」
「あのっ、それは今すぐ体験したら───」
「死ぬ」
「死!?」
「合計百年以上を鍛錬に費やした俺でもあっさり気絶したり激痛に襲われたりしたのに、まだまだ仕上がってないお前がやったら本気で危険だ。悪いことは言わないから、今は鍛えておきなさい。いやほんと……意地悪とかじゃなくて本当に親切心として。ほんと、ね? やめときなさい。ほんと」
「は、はいぃ……!」
「よし、じゃあもう30分安定継続時間追加」
「!? は、はいっ!」
「で、禰豆子は───真菰ー、そっちどうだー?」
「うん。いい感じだよ、北郷さん。……禰豆子、とっても安定してきてる。錆兎と義勇の時とは大違い。はい、壱の型」
「っ、水面斬りっ!」
「だめ。爆血を使うのは、刀が相手に当たった時だけ。爆発させ続けてたら禰豆子、すぐ疲れちゃうよ?」
「はぁっ……はいっ」
「使いすぎるとお腹空くよね。……炭治郎にもっとお金使わせたいの?」
「!? が、がんばりますっ、がんばりますからっ!」
「いいんだ! いいんだ禰豆子! もう辛抱なんかするな! しなくていいんだ! 兄ちゃんもっと頑張るから! お金いっぱい稼いで、腹いっぱい食べさせてやるし、着物だって───!」
「集中!」
「ごめんなさい!!」
「禰豆子も。集中」
「ご、ごめんなさい! でもお兄ちゃん、ありがとう!」
「ね、禰豆子……」
「集中!」
「は、はいっ! うおおおおお! 長男んんんっ!!」
ヒノカミ神楽を……日の呼吸と型を続け、定着させ、氣の行使を安定させてくると、炭治郎の髪の色と目が少しずつ変化してきた。
赫灼の子とはよく言ったものだけど、光り輝いて明るい子、か。どこまでもまっすぐな子だ。死なせたくないよな、ほんと。
じゃあどうするか? ……鍛錬でしょう。
「よし、大分安定して継続出来てるな。もう汗も掻いてない。あとは───」
「あとは……い、いよいよ最終選別、っていうやつですか!?」
「いや。実戦訓練とか受け身の取り方・上級編とか素手になった時の対処法とか」
「まだそんなに!?」
「実戦訓練も無しに鬼と戦わせるわけないでしょーが。応用は大事だぞ? 体を痛めてる時の呼吸の仕方とかも大事だし……うん、軽い拳法くらいは覚えておこう。体捌きだけでも刀術の時に役立つから」
「はいっ!」
「あ、ヒノカミ様状態は続けるように」
「へわっ!? はっ、はははいっ!」
ヒノカミ神楽・常中は少しずつ成っていた。
それと同時に、炭治郎からは無駄な動きが削げていく。
感覚が鋭くなっていくのか、嗅覚もより強くなって、安定して透き通る世界に踏み込むことも成功させた。
「すごい……こんな、人の動きがこうまで……」
「よし、じゃあ俺が全力で動くから、それを目で追ってくれ。“速いもの”を見ることに慣れよう。それを目に馴染ませる。ルーティーンとかルーチンっていうんだけどな、反復させることで、“それをすれば体が勝手にその状態になる”っていうのに慣れさせるんだ。この場合、ヒノカミ様になったら素早いモノは追っていけるって、体に覚えさせる」
「や、休む暇がない!」
「長男!」
「ぁあああああ長男んんっ!! おおぉ俺は長男だ! 長男だぁああっ!!」
どんな困難も長男パワーで乗り切り、ヤバイ時でも長男だから乗り越えられた……次男だったら耐えられなかった……! と顎をグイと拭う彼。もしかして相当余裕なんじゃないかと思う時がしょっちゅうございます。
「次は鬼ごっこだ。狭霧山全体を逃げ場にして、俺から逃げてくれ。五分以内に十回捕まらなかったら合格。一度捕まえたら、逃げる間は十秒間動かないから」
「え……あの。大丈夫ですか? 俺、結構この山での動き、匂いで把握してますけど」
「逃げきれたら、氣をたっぷり込めて美味しく成長させたタラの芽料理をご馳走しよう」
「頑張ります!!」
待ち時間十秒ずつを合わせて二分かからず終わりました。
「じゃ、次は鬼交代。炭治郎が俺を捕まえてくれ。手段は問わないから」
「はっ、はっ……は、はいっ……!!」
「こらー、呼吸が乱れてるぞー。はい、最初からやり直し。集中集中」
「は、はいぃっ!」
五分逃げ切りました。
「距離がっ……距離が全然縮まらない……!!」
「もっと集中。足の筋一本一本もだけど、氣脈への意識もしっかり忘れないように。全部を効率よく一つの動作のために動かせるようになれば、炭治郎なら俺なんかあっさり越えられるって」
「頑張ります!!」
「いいか、炭治郎。呼吸は自然なものだろ? 出来て当然って───」
「思い込むんですか!?」
「思っちゃだめだ」
「えぇええええだめなんですか!?」
「無意識に、当たり前に出来なきゃダメ。考えてからやってるなら、それは無意識とは違うだろ?」
「む、難しいです」
「そんなことないよ。考え方を置き換えるんだ。長男ならお前もしっかり見てきただろう? お前はなんで歩けてる? 子供の頃に立つ努力をして、それが当たり前に、自然になってるからだ。考えるな。出来ることを当然になってる自分になればいい」
「あ……は、はいっ!」
「じゃあ終了の前に、もう一度縁壱の型の動画鑑賞をしよう。禰豆子と真菰はまだしばらくかかるみたいだし、こっちはこっちだ」
「はい!」
そうして少しずつ、けれど確実に体を強化させていく。
けれど炭治郎はまだまだ体が成長している途中だ。ここで遊ばせておくのはもったいない。
「ということで、これからは柔軟と筋力増加を重点的にやっていこう。あ、ヒノカミ状態はそのままで」
「はい」
「熱が上がるとヒノカミ状態は維持しやすいっていうのはわかったな。温まってないと本領を発揮できないエンジンみたいな感じか」
「えんじん、ですか?」
「猿みたいな人のことじゃないからな、炭治郎」
「えっ……は、はい!」
「は、はいっ……!」
「禰豆子……キミもか……」
「~……」
「まあ話はそこそこに、まずはそこにある丸太を持ち上げることから始めようか」
「!?」
「!?」
「その次はそこの岩を、そこからあそこまで押す」
「!?」
「!?」
「最後は殺気を感知する鍛錬。最初は座禅組んで瞑想から」
「ホッ」
「ほっ」
「瞑想中に殺気付きで木刀振るうからちゃんと避けてね?」
「!?」
「!?」
「一通り出来たら丸太の数を一個増やして最初からね」
「!?」
「!?」
「力が付いてきたら、刀を渾身の力で握りながら何時間も動く鍛錬に移るから」
「───」
「………」
鍛錬内容を告げると、竈門兄妹はフラリと眩暈を起こしてぶっ倒れました。
そんな二人に癒しの氣と同調させた氣を送って、氣の流れが悪い氣脈部分を少しだけ広げておく。
一気に穿つとかつての俺みたいに苦しむことになるだろうから、ゆっくりじっくり。
「ぐはーーー! ぐはーーーっ!」
「はっ……はっ……お、おに……はっ、はぁっ……!」
「ハローマッソー! 筋肉を存分に使ったあとは30分以内にプロテインだ! といってもそんなの気軽に抽出出来れば苦労しないしね。今日からしばらく鶏肉料理と大豆製品をメインに行くから、しっかり食べること」
「うぷっ……しょ、食欲が……!」
「あ、あの、北郷さん、食欲が……」
「え? 要らないか? 食べて、ゆっくり休む時間が欲しくないならすぐに鍛錬に戻るけど……」
「「いただきます!!」」
筋肉にはたんぱく質。よくホエイが重要だって言われてるけど、ソイも重要だったりします。
筋肉をしっかり育てたい方は、動物性たんぱく質はもちろん、植物性もしっかり摂りましょう。
「よし、今までよく鍛錬に耐えてきた。お前らの頑張りを本当に嬉しく思う」
「「はいっ!」」
「それじゃあ最終試練として───」
「い、いよいよ最終選別に……!?」
「どんなことをするものなんだろうね、お兄ちゃん……!」
「……俺と戦ってもらう」
「「!?」」
「一本取れとか一発当てろとかじゃなくて、とにかく“全力で戦うこと”を体に覚えこませる鍛錬だ。これをやっておかないと、鬼と戦う時もいざって瞬間に頭が働かない。言ってはなんなんだけど、お前達には教えた物事が多すぎた。行動の引き出しが多すぎるんだ。だから、どういった状況で何をすればいいのか。これを覚えてもらう」
「は、はい! 頑張ります!」
「がんばります!」
「じゃあ、この石が地面に落ちたら開始だ。いいか、落ちたらだぞ」
「「はい!」」
石を地面にブン投げて戦闘を開始しました。
二人ともギャアアアアと叫ぶほどの“予想外”に襲われ、その日は何も出来ずに気絶。
「判断が遅い! 石が上に投げられたり、その場からただ落とされたりするだけだなんて固定して考えるな!」
「ででででも全力で投げるなんて予想外もいいところです!」
「うん、だから落ちたら開始って分かりやすく二度伝えた」
「あっ……な、なるほど!」
「あと休憩とか一言も言ってないから、今この時も始まってるということを忘れないように」
「ぇ!? あっ! ハブボ!?」
「おにはぷきゅっ!?」
これより始まるは心構えの鍛錬。
敵を前にしてどう動けばいいのか、どう考えればいいのか、考える時間をいつでも与えられると思うな、などなどの鍛錬が続く。
「判断が遅い!」
容赦無く突き、
「判断が遅い!」
転がし、
「判断が遅い!!」
倒し、
「判断が遅いっ!!」
払い、
「判断が遅いッ!!」
投げ、
「判断が遅い!!」
吹き飛ばし。
けれども日が経つにつれ少しずつ適応してくると、
「判断が遅い!!」
ギアを上げてボコしました。
北郷程度で躓いているようでは、鬼に勝つなどとてもとても……とてもとてもとてもとても……。
「……! 見えた! 隙の糸!」
「わざとらしい隙に引っかからない!!」
「えぇええええええええっ!? あぶごぉっ!?」
「お兄ちゃはぴゅうっ!?」
「禰豆子も……炭治郎がやられるたびに止まらないの。次はゲンコツじゃ済まないからな?」
「~~~~っ……は、はいぃいい……っ……!!」
強くおなり……俺が出来るのは、旅立ちまでの補助輪程度の鍛錬をつけてやれる程度だ。
外に出ればきっと俺なんかより強い敵などたくさん居る。
ならばこそ、多少厳しいくらいの鍛錬をしてでも生きてもらわねば。
死んでしまったらそこまでなのだからっ……!!
そうだな、縁壱……俺達なぞそう大層なものではない……。ならばこそ、産声をあげた者達こそがこの時代の先を切り開いていくと信じて……!
「し、死ぬっ……しぬ、しぬうぅうう……!!」
「は、は……はぁあ……!! お、おに、お兄ちゃん……! 鬼って……鬼ってこんなに頑張っても勝てないくらい……! つ、強いのかな……!」
「わからない……! けど、鬼になりかけだった禰豆子でさえ、兄ちゃん押し返せなかったんだ……! 人を食って、力をつけた鬼は……きっと……もっと……!」
「……! 私……頑張る……! もっともっと、頑張らなきゃ……!」
「禰豆子……ああ、兄ちゃんも頑張るぞ。一緒に強くなって、全部全部終わったら、大手を振って母ちゃんのところに帰るんだ……!」
「うんっ!」
「よし、じゃあ休憩終わ───」
「「うぁああああああああああっ!!」」
「判断が速い!?」
そんなことをして、実に狭霧山育手生活も二年が経とうとする頃。
そろそろかなぁと、縁壱の氣の波長を引き出して、炭治郎に染み込ま「ギャアーーーッ!!」「お兄ちゃああああん!?」気絶した。
あー……うん。うん……あー……。やっぱそうなるよなー。大層なものではないとか、嘘だよなー……。
「というわけで、今日から最終選別まで、縁壱の氣の波長を滲ませる鍛錬を行なっていく」
「あ、あの……あの、北郷さん……! さっきの、ちょっと流されただけで体の中がめちゃくちゃになったっていうか……!」
「うん。一発で痣が出たり、握ってた刀が赫くなるほどだったな」
「以前“死ぬ”とか言われてましたけど、あそこまでとは思いませんでした……! でも、北郷さんが今がその時と思ってくれたのなら、俺も頑張ります!」
「気絶したら回復するから、俺の氣が枯渇するまで頑張ろうか」
「はいっ!」
「ちなみに俺も縁壱の氣と同調して、それを何百年も続けたお陰で氣の総量とか頭がおかしいくらいになってるから、数時間でなんとかなるとか甘い考えは捨てような、炭治郎」
「エ?」
「蘇生とか縫合とかそっち方面じゃなければもうほんと続けられるから。頑張ろうな、炭治郎」
「ア……あ、ア゙ァアアアーーーッ!!」
……その日から、狭霧山ではたびたび男の子の悲鳴が聞こえてきたという。
それは断末魔にも似ていて、けれどしばらく経つとまた聞こえるため、そんな鳴き声の新種の生物かとも疑われたそうだ。
そうした日々が何日も続き、やがて最終選別の日が近くなってくると、身体能力底上げ鍛錬も終了。
その頃には妹のために戦う最強生物・