最終選別へ向かわせる旨を左近次に伝えると、彼は炭治郎と禰豆子に岩を斬ってみろと命j「「斬れました!」」「!?」……斬れました。
ならばと厄徐の面を作り、二人にプレゼントしたのです。必ず生きて帰ってこいと告げた上で。
けれどもまあ時間はもう少しあったので、面をした二人を狭霧山から降ろすと、酸素が多い状態に慣れさせるために、時間を置いてから選別へと向かわせた。肺がびっくりするかもしれないからね。
そうして出て行った二人は、なんか八日後あたりに普通に帰ってきた。
二人は、というか炭治郎は、興奮した様子で「すごい人が居たんです! 雷の呼吸を使って、すごい速さで鬼を斬って! 負けてられないって頑張ったら、なんか急に“俺の代わりに全滅させてぇええっ!”って言って抱き着いてきましたけど」あ、それ善逸だと思いますハイ。
兄弟子と切磋琢磨するようになってからは、多少はビビリは消えた。はず。だったんだけど。
集中が途切れると一気に恐怖に負けてしまう。眠ってる時はヤバいくらいに強いのに。
「あとはうっすらと微笑み続けてる女の子が居て、なんでか周りに蝶々が」
あ、それたぶんカナヲだ。あいつも居たのか。……あれ? でも俺、胡蝶姉妹に最終選別の話、聞いてなかったけど。
……もしかして、無断で出たのかな、カナヲ。
いや……いや、まさかねぇ。
「それと素手で鬼と戦う人も居ました! まるで北郷さんのように金色の氣を纏って!」
玄弥ですね。本当に素手のみで最終選別に出たのか。
刀は貸し出すって話だったのに。
「あとその。鬼が、小首を傾げたくなるほど動きが遅くて。きっとあれですね、藤の花に囲まれていたから弱っていたんですね!」
「お、おう。そうな。……あー……ところで禰豆子はどうだった?」
「それが、藤に囲まれてた所為で気分悪くしちゃいまして。長男として
「あのー……錆兎の時もだけど、一人で全部やっちゃったら他の子の選別にならないからね?」
「はい……あっちでも何人かに文句言われました……。変わった髪の色の男の子には“ありがとぉおおーっ! キミは命の恩人だよぉおおーっ!!”って抱き着かれましたけど」
ああうん、それ間違いなく善逸です。
「直後に禰豆子の手を握って愛を囁き出したので、丁重にお断りさせていただきました」
あ、はい、確実です、知ってますその黄金まつぼっくり。
「でも少しすると禰豆子の手を取ったままぽかーんとして、俺の顔を見て禰豆子の顔を見て、やさしげに笑ったんです。なんだったんだろう、あれ」
……ああ、そっか。いくら匂いを消しても、藤の花に耐性をつけさせても、音までは消せない。誤魔化せない。ということは、善逸は……禰豆子が鬼だって気づいた上で、そうしたってことか。
はー……いい子だよなぁ、ほんと。この時代の子、ほんと真っ直ぐでいい子が多い。
プライドをへし折りまくってやらなきゃヤバイやつとかも居るけどさ。
「ところで北郷さん。その男の子がいきなり禰豆子に“キミの好みの男性ってどんな人!? ねぇどんな人ぉおっ!? 飛車だったら嬉しいなぁっ!”と言ってきたんですけど」
「マジで言ってたのか」
「はい」
ああいや、そういう意味じゃなくて。あいつ本当に言ったのかって意味で。
「まあさすがにこれで禰豆子が実は飛車みたいな人が好き、とかは無いy」
「禰豆子は飛車みたいな人が好きです」
「マジで!?」
「マジです」
「ええ……? あ、それで禰豆子? 禰豆子はどう思った? 善逸のこと」
「ぜん……っ……あの、北郷さんは彼のことを……?」
「あ、うん。ここ以外で面倒を見てた子の一人だよ。守るための氣も教えてある」
「じゃああの拳で戦った男の子や、蝶が近くに飛んでいた子も!?」
「玄弥とカナヲだ。強かっただろ」
「「はいっ!」」
「あ、ちなみに善逸は、炭治郎が鼻がいいように耳がいいんだ。だから相手が鬼かどうかもわかる」
「えっ!? じゃあ禰豆子のことも───」
「まあ、一発で気づいただろうな」
「あ、あの。でもその、物凄い勢いで、何度も何度も告白された、のですが……」
「それだけ好きってことだろ。ど~せ“はい、飛車みたいな男性が好きです”とか言ったら、“居たぁああ! ほんとに居たぁあああっ! とーちゃん俺やったよぉおおオオオオオッ!? 信じてよかったよぉおおおっ! あの俺我妻善逸って言いますあなたのために生まれた善逸です結婚しましょう毎日寿司とうなぎ食べさせてあげるからぁああっ!!”って感じの音の外れた高音で叫んでたんだろ」
「いっ……一言一句その通りですっ……!!」
あの子はこういう時、わかりやすいからなぁ……。
静かに額に手を当てて、とほー……と溜め息。
「まあその、禰豆子。ほんと悪い子じゃないから、頭っから否定しない程度には交流を持ってやってくれ。同期ってことは顔合わせも多いかもしれない」
「はい」
「ね、禰豆子に相手が……!? これは長男として喜ぶべきなのか、長男として壁となるべきなのか……! いや、禰豆子には辛抱させてきたんだから、こういう時くらいは自由に……いやいや謝らないでって禰豆子に言われたじゃないか……!」
「で、炭治郎にはカナヲを紹介してみたいんだけど」
「!?」
「お、お兄ちゃんに相手が……!? これは妹として喜ぶべきなのかな、妹として壁になるべきなのかな……! ううん、お兄ちゃんには苦労ばっかりさせちゃったし、こういう時くらいは自由に……そ、そう、謝らないで、妹の気持ちもわかってよって言ったんだから、頑張らなきゃ……!」
どっちもどっちの良き兄妹でした。
喧嘩しても喧嘩って呼べないレベルのことしか出来ないんだろうなぁ。
「じゃ、隊服と刀が届いたら、いよいよってわけだ。頑張れよー? 炭治郎、禰豆子」
「「はいっ!」」
「それじゃあ、左近次、成長も見届けたから俺はもう行くよ。二人も、どこかで会ったら声でもかけてくれ」
「えっ……てっきり一緒に行動するものかと」
「行動の仕方は鎹鴉が教えてくれるよ。ていうか俺別に鬼殺隊じゃないから任務とかもないし」
「「えぇえええっ!? そうだったんですか!?」」
「うん」
縁壱と一緒の時に、既に断ってあったし。俺はただ孤児を引き取ったり人を助けたりする過程で、出くわした鬼をブチノメしたりしているだけです。
ずっと昔に縁壱に教えてもらった呼吸法を使ってはいるけど、鬼殺隊に入った覚えは一度もなかったりする。
「孤児を引き取って面倒見て、鬼を殺したりしてるからそう思われがちだけど、俺本当にただの旅する医者だから」
「すんっ……うわぁああ嘘言ってない! え、え!? 医者ってこんなに強くないと務まらないんですか!?」
「俺の知ってる医者は、死者だろうが死にたてなら鍼一本で治してたんだ。鍼を持たない俺じゃあ、これくらい強くないと誰も救えないぞ?」
「医者っ……すごい……!!」
「北郷、あまり
「世の医者が誤解されるっていうんだよな。うん、わかるよ左近次。俺もあいつと出会わなきゃ、医者なんてそんなもんだって思ってた筈だもの。あ、そうだ炭治郎、禰豆子」
「はい、なんでしょう」
「北郷さん?」
「鬼を連れている隊士っていうのは、それだけで隊律違反だ~とか言ってくるヤツが居るかもしれない。だから、それを認めさせるためにも鬼を50匹、または十二鬼月を斃しておいで。鬼ってだけで“ブッコロシテヤァアアアル!!”って人が鬼殺隊にはごちゃりと居る。禰豆子がきちんと鬼と戦えるかを証明出来れば、いきなり殺しにかかることは無い筈だ」
「殺しっ……は、はい! 全力で頑張ります!」
「早ければ早いほどいいから、もし善逸に会えたら協力してもらうといい。……禰豆子、どうして自分がって思うことばっかりかもしれない。でも人として生きることを諦めちゃあだめだぞ? 必ず人に戻る方法が見つかるから」
「……っ……はいっ……!」
「というわけで、次の柱合会議までにやっておければ万々歳。今日から数えると───うん。これを二ヶ月以内でやってみようか」
「はいっ! にかげ二ヶ月!?」
「二ヶ月。十二鬼月を倒すより楽だろうし」
「えでぇええででででも鬼が何処に居るのかもわからないのに……!」
「それは鎹鴉が教えてくれるよ。任務をこなすんだ。……二人とも、疲れない歩法は覚えてるな? 一日に一人倒せばいけるいける」
「「………」」
二人とも、しばし停止。けれどやらねばならぬということはよーくわかったようで、ハッとしてからはすぐにハイと頷いてくれた。
「ふた月以内に五十か下弦。炭治郎と禰豆子を柱にでもするつもりか、北郷よ」
「罰せられないでしょ、それなら」
「まあ……そうだな」
「左近次も言い触らしたりしないでね? こっちもいろいろ面倒被るかもだから」
「柱合裁判にでもかけられて、やはり殺す、などということになったらどうする」
「こっちで引き取るよ。戦えるっていうのに殺してる場合かって言って」
「まったく。最初からお前が預かればいいものを」
「しょうがないじゃない、鬼殺隊にしか刀は打たないっていうんだもの、鍛冶の皆様が」
「やれやれ……誰も彼も頑固なことだ。人同士で言い合っている場合ではなかろうに」
「だよなー……本当に嫌になる」
ともあれ、じゃーなーと手を振って歩き出す。荷車には食料やら雑貨やらを積んで。
さって次は何処へ行こうか。藤屋敷に顔出していくか? たまには寄ってくれって時透兄弟に言われてたし、葵枝さんにも炭治郎と禰豆子のことを訊かれてた。
よし、じゃあのんびり歩きながら考えるか。急ぐ旅でもないし。
……。
急ぐ旅じゃないけどもぉおおおっ!!
「なんで行く先々に出てくるんだよお前らはぁあああっ!!」
「あぶろばぁああああっ!?」
地面から女性を飲み込もうとした沼っぽい鬼を拳骨で殴りつけた。
で、目を回しているそいつを沼になっている地面からズルゥリと引きずり出して、ってうわキモイ! なんか三人居るぞこいつ!
「俺を一人仕留めたとて───」
「ナックル!」
「あぽろ!?」
ドヂュルと地面がぬかるみ、嫌な気配がにじみ出たところで、歩法で背後に回ってナックル。
すると離れたところからドヂュルと現れるは三体目。その頭をグワシと掴んで、にこりと微笑む。
「お前らさっき、女の子食おうとしてただろ」
「───!」
訊ねると、鬼はギリギリギリギリと歯ぎしりを始めた。うるさかったので藤の花の粉末を歯ぎしり中の口に突っ込んだ。……悶絶した。
「邪魔をするなぁあああ! その娘の鮮度が落」
「干天の慈雨」
「ちるだろうがぁああ…………───」
スッと氣の刃を通せば、喋りながら彼は逝った。
雷速移動と干天の慈雨は相性がいい。何故って殺気がちっとも出ない高速攻撃だから。
「なっ、なにをし……た……ん───」
「お、俺が! 俺が二人とも消えていく───……」
そして、鬼は滅んだことにも気づかず消えた。さあ医者を続けよう。
「あ、叫ばないでくれてありがとう。俺は旅の医者で北郷といいます」
「え、あ、は、はあ……」
「あの……助けてくださったん…………です……よ、ね……?」
「現実味はないでしょうが、鬼を退治する仕事もやっておりますので。ああ、病気かなんかで困りごとは? 怪我でも構いませんが」
「……あぁっ!? 聞いたことがあるぞ、黒い服を着た黒子の医者! なんでも、どんな病気も怪我もたちどころに治してしまうという噂の!」
「あ……わたしも! 藤の家より来たるやさしいお医者様で、悪い鬼も退治してくださるってお母さまが……!」
「───」
なんか変な噂が流れとる。
否定したいような気もするけど、別に嘘ではないわけで。
まあ……うん。特に怪我とかないなら次行こうかな。
人を食らわんとする鬼、殺すべし。ようするに悪鬼滅殺。慈悲はない。