鬼というのは何処にでも現れる。
「あたっ! ……うわー、草で指切っ」
「稀血ぃいいいいいいいいっ!!」
「た、って来るの速っ!?」
「血を! 血をよこせぇええ! 俺はどんな手を使ってでも強くならねばならんのだぁああっ!!」
「どんな手でも……そうか。お前が欲する稀血を出す傷はとっくに塞いだ。そしてお前は小柄すぎて、力が無いタイプの鬼と見た。血鬼術もまだだな?」
「ぐぅっ……! そ、それがなんだ! 俺はお前を喰らって、最強の鬼に───!」
「無理だ。今のお前じゃ腕自慢の一般男性にだって負ける。鬼にしちゃあ力が弱すぎる」
「黙れ黙れ黙れぇえっ! 血が、血が少なすぎるだけだ! 子供をさらって少しずつ力をつけるしかない俺が! ようやく出会えた稀血である貴様を諦めるとでも思うか! 一滴でもいい! その次はすするように飲み干すように! 貴様の血で力をつけてやる!」
「一滴……そうか。そうだな……。一滴だろうと力を得られるならなんだって、って覚悟をお前の目に見たよ。その意思を、人である内に持てていればな……」
「お前の血は濃そうだ……! 匂いでわかる……! なにを願われてなにを喰らってそんな血になったのかは知らんが、それを飲めば俺も……!」
「おいやめろ。血っていうか別の方向のアレを増強させるために食事を管理されてただけだから」
「……? ま、まあいい! 簡単なことだ! お前に少しでも傷をつけて、一滴でも飲めれば……その濃さだ、あっという間に俺は強い鬼に───! お、おいなにをしている!」
「今……この馬糞にたっぷりとお望みの稀血を垂らしました。一滴どころじゃないぞ? さ、おあがり?」
「ヤロォオオオブッコロシテヤァアアアアアル!!」
「どんな手でもって言ったじゃないか!!」
馬の様子を見てくれと頼まれて、獣医でもないのに診ているところに現れたり。
「よっ、ほっ……んん~っ、はぁっ! いやー、今日もよく働いた~っ♪」
「すまないねぇ北郷さん……あたしとしたことが腰をやっちまって……」
「いいっていいって州代さん。重いモノを動かすのは男の仕事だよ」
「ありがとう。そういえば北郷さん? 今森の方でよくないことが起こってるって聞くけど、どうなんだい? なんでも人食いの化け物が出るとか」
「ああ。なんでも人の姿をして人に近寄って、油断したところを喰らうらしいよ?」
「そりゃあ怖いねぇ……っと、誰だいこんな時間に。んんっ……っと……!」
「腰痛めてるんだから無理しないで。俺が出るから」
「んんっくぅう~……! わ、わるいねぇ、ほんとうに……!」
「いいって。はいはい、どちらさ───」
「芳醇なる稀血の香り……! 我のモノぞ……!」
「───」
ノックされたから出てみればなんか普通に居たり。
「うわー……! 急な雨とか、ほんと勘弁だ……! こんなにいい天気なのに……! どこぞの嫁入り狐がぬ~べ~に殴られてなきゃいいけど……! っと、お堂発見! ちょっと雨宿りを───」
「!?」
「!?」
「稀血ィイイイイイイイッ!!」
「言っちゃなんだけど鬼とかも雨宿りするんだな!? って待って待ってちょっと予想外にも程があるからおぉおわぁああああっ!?」
お堂に雨宿りに行ったら、なんか軒下で雨宿りしてた鬼と遭遇したり。
「ヒィイイイイイイッ!!」
「天地の呼吸、呼氣ノ型。“術式展開・陽陰操氣”」
「ヒ───」
「“陽光消陰”!」
「ヒィイイイイイイイッ!!」
なんだか小さい鬼がおかしな速度で悲鳴を上げながら逃げてたり。
あ、首が異様に硬かったから氣の最大出力を刀に込めての極光斬で行きました。鬼は死ぬ。
氣での疑似太陽で圧し潰す技なので、首が硬いとか関係ありませぬ。
御遣いの氣は攻守の氣、陰と陽の氣として例えて、それを操る能力として
外史が一つに統一されてからは、なんだが気恥ずかしくて言えなかったけど。
なので、俺の氣は素流の武術の構えとして名づけるなら術式展開の陽陰操氣って名前になる。
……けど、今の鬼の中にはあんなに硬いやつも居るのか。
こりゃあ噂の十二鬼月とやらはどんな感じなのか。
「ヒョッヒョッ、無駄です無駄無駄、私は壺から壺へと移動できるのです。わかりますか、この無数に存在する壺の数ほど、私には───」
「天地の呼吸、呼氣ノ型。“術式展開・小手先”」
「おや、あなた鬼殺の服を着ていないのに、刀もないのに呼吸とやらが───」
「“ブレードスナッパー”」
「ヒョッ……」
ヒンッ……と、金色に輝く黒檀木刀が閃くと、数ある壺が一気に割れる。
芸術があぁあああっ!? と叫ぶ壺から出ている鬼は、直後に頭から陽光消陰で頭から消し炭になりました。
ようするに氣の中に蓄積しておいた雷速移動の衝撃を、居合いと同時の剣閃乱舞で一気に放ち、壺を破壊。本体が驚いている内に氣で作った太陽を喰らわせて斬り潰した。てっとり速い。
小手先による、足りなかったあと一歩はとっくに
呆れるくらいの加速と、それに耐える体作り、負荷を力に変え続ける氣の総量と、敵の隙を逃さぬ眼。
覚悟を以てそれらを一呼吸で済ませ、壺の鬼を氣の陽光で斬殺した。
「……と、そんなわけで。休む暇がないっていうかさぁ」
「弱音なんて吐いてんじゃねーぞ親父! 俺が追い抜くまで無敗でいやがれ! そんで俺が勝ったら俺がヌシだ!」
「いつから俺ヌシになったんだよ伊之助ぇ……」
「そんなもん山の主が親父に気を許してた頃からに決まってるだろーが! ヌシが死んだんだから次は親父だ! そんで親父を倒して俺がヌシだ! アハハハハ! ワーハハハハハ!!」
「そかそか。で、常中は継続出来てるか?」
「余裕だっつーの! 親父に出来ることは大体出来るし!」
「氣は使えないけどなー」
「はあ゙ーーーっ!? 出来るっつーの当然に! 舐めるんじゃねーよ!」
「でも引き出そうとすると擽ったいとか言って耐えられないじゃないか」
「引き出されなくても俺様なら余裕で出せるっつーの!」
「まあお前の場合守るっていうよりブチノメすって感じだから、教えたくないんだけど」
「………」
「あ、あーわかったわかった、教えるから急にそんなしょんぼりするなよ……。お前は甘えたがりなのか強がりなのかかまってちゃんなのか、いまいちわからないよな。……ほら、おいで、伊之助」
「……べつに構ってほしいとかじゃねーし」
「俺が構いたいんだ。ほら、おいで」
「………」
「ん、伊之助は良い子だ」
「ホワ……」
森で猪に拾われていた赤子、嘴平伊之助は変わった子供だ。
猪の縄張りに異形の鬼が居たから退治したら、猪に感謝されて関係が始まった子供。
いつからか親父、なんて呼ばれるようになって、どこで言葉を……とか思ってたら、なんか山の傍にある村まで餌をもらいに行っていたらしい。
そうして育った伊之助は、まあ……頭を使うのは苦手なものの、野生の勘にとても優れていた。
……さて。これで久しぶりに会いたい相手とは会えたかな? 時透兄弟はいつの間にか鬼殺隊に入ったって聞いたし、あとは───
-_-/竈門炭治郎
とにもかくにも急いでいた。
「ヒノカミ神楽! 円舞!」
「ギャアーーーッ!!」
「よし次! えぇっと松衛門! 次は!?」
『カァッ!? ツッ……次ハ西! 西ヘ進メーッ! カァアーッ!』
「よし急ごう禰豆子!」
「うん!」
走って走って、鬼を見つけては一撃で斃し、次へ次へと駆けてゆく。
「相手の動きをしっかり見据えて……はぁあああっ!! ───禰豆子!」
「うんっ! 全集中、水の呼吸・壱ノ型! 水面斬り!」
相手が素早ければ相手の素早い攻撃を連撃で叩き落して、隙を作れば禰豆子に任せて。
「あっ! 禰豆子ちゃぁあああんっ!! 久しぶり! 俺だよキミの我妻善逸だよぉおおっ!!」
「えぇっと俺は竈門炭治郎! 君は我妻善逸って人だね北郷さんから聞いてるよろしく!」
「えよっ、よろよよろしく? え、北郷さん? とーちゃんのこと? え?」
「で、こっちは禰豆子! 俺の妹だ! いいか善逸! 二ヶ月以内に鬼を五十体斃さないと禰豆子が殺されるかもしれないんだ! 協力してほしい!」
「ふざっけんなゴラァッ! なんで禰豆子ちゃんが殺されなきゃならないんじゃあ! いいよやってやるよ! 鬼!? 五十だろうと百だろうとかかってこいやオラァ!!」
途中でどこかで見た金髪な善逸と出会って、協力関係はあっさり受け入れられて。
「雷の呼吸、壱ノ型───霹靂一閃」
「う、わっ……速っ……!?」
「禰豆子ちゃん今っ!」
「はいっ! 水面斬り!」
「……よぉっしこの調子で禰豆子ちゃんに五十でも百でも斃させよう! ようは鬼の禰豆子ちゃんが俺達と一緒に鬼殺隊出来るのかって話なんだろそうなんだろ!? だったら俺らが五十倒すよりも禰豆子ちゃんが先だ! 次行くぞ炭治郎!」
「わかった! 俺達は鬼を見つけたら逃げられないようにすればいいんだな!?」
「そのとーり!! あ、ね、禰豆子ちゃん! 俺飛車みたいに真っ直ぐにしか走れない男だけど、キミの手助けになれるよう頑張るからっ! 飛車みたいな行動しか出来ないけどっ!」
「あ、は、は……はい……」
「うおっしゃ頑張るぞおぉおっ!! チュン太郎! 次どこ!?」
『チュンチュン! チュン!』
「北だって言ってる。あとだめだぞ善逸、この子、自分の名前は“うこぎ”だって言ってる。ちゃんとした名前で呼んであげないと」
「わかるの!? え……わかるの!?」
「ちなみに俺の鴉は天王寺松衛門だ! よろしく!」
「なにそれ!? ねぇなにそれ! なんか俺より強そうな名前なんですけど!? ねねね禰豆子ちゃん!? 禰豆子ちゃんの鴉は!?」
「震地怒轟天丸です」
「ふるちどごうてんまる!? ふるっ……ふるちどごうてんまる!?」
走って走って、立ち止まっては食事をして、また走って。
「イィイイイイヤァアアアアアッ!? 蜘蛛が蜘蛛がこんなにいっぱいぃいいいっ!? ───ハッ!?」
「………」
「い、いや。今のは真っ先に叫べば後の人が恥ずかしくないかな~って、そういう意図があってね? 禰豆子ちゃん……!」
「善逸、嘘はいけないよ」
「ごめんよ炭治郎! 俺だって普通の蜘蛛とかだったらまだ大丈夫だよ! でも人面はないでしょ! 人面はないでしょぉ!? やぁだあああっ! もやぁあだぁあああっ!!」
「………」
「ぃゃっ……いやっ、は、はは、どぅぁだだ大丈夫、怖いけど絶対に禰豆子ちゃんは守るから。怖いけど」
どうか安らかに。どうか生まれ変わったら。どうか、どうか。倒すたびに悼む心を無くさず、がむしゃらになって走って。
「あ、あれ? ねぇ炭治郎。さっきの鬼って目になんか文字がなかった?」
「え? いや……急ぐあまり気づかなかった」
「そっか……見間違いかな。と、とにかく急がなくちゃだ! 炭治郎、そっち何体までいった!?」
「俺は二十七! 善逸は!?」
「三十! 禰豆子ちゃんは次で念願の五十体!」
「よおぉおおっし! 次行こう次!」
「あとちょっとだよ~!? んん禰豆子ちゃぁあああ~んっ!!」
「……こ、こんなのでいいのかな……」
『カ、カァー! 次ハ……!』
一ヶ月経つ頃には三十を超えた。それだけの人を救えたのだろうか、なんて疑問を抱いたけれど、間に合わずに死んでしまった人はおらず、怪我をした人は近くの藤の家に連れて行くとすぐに手当てをしてもらえたから。
けれども順調だからってこれからも、なんて約束事はなかったから、俺達は急いだ。急いで、襲われている人を助け、鬼になってしまった人を
やがて、聞いていた柱合会議、というのに鴉を通じて呼ばれることになると、北郷さんのような恰好をした人に目隠しと、鼻に詰め物をされた上で運ばれた。
どうして鼻が利く、なんてことを知っていたのかを訊くと、北郷さんから聞いているからとあっさりと言われてしまった。
いろんな人が知っているんだなぁ、北郷さんのこと。