ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

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鬼狩り北郷さん⑰

 ギャアアアアアという悲鳴が幾度も幾度も超屋敷もとい蝶屋敷に響いたお昼時。

 ある者は戸をブチ破り、ある者は天井に突き刺さり、またある者は壁にめり込み(再々)、ある者は床を転がり滑って動かなくなった。

 得物は木刀、もしくは竹刀と定めた……のに、全員が木刀を持ってディエエエエと襲い掛かる。

 なので出来るだけ強大な敵に見えるようにと氣を解放、相手の行動に合わせた攻防を繰り広げ、一撃で吹き飛ばすことを念頭に置いて戦った。

 あ、ちなみにきちんと休憩は挟んだ。挟みつつ、縁壱のことを話したり、兄上が鬼になったらしいことを話したり、珠代って人のことを話したり。

 

「ふ、ふはっ……ふはははは! 北郷殿が実力者なのは聞いていたし知っていたつもりだが、こうも手も足も出んとは! よもやよもやだ!」

「あれから強くなったつもりだったのに……まるで歯が立たない……!」

「もっと集中しろ炭治郎! 刀兄だって人間なんだ、絶対に隙はある!」

「は、はい! ええっと無一郎さん!」

「俺は有一郎だ!」

「あぁあああすいませんすいません!」

 

 双子を覚えきれない炭治郎がわたわたしておった。

 ていうか。

 

「───あ、そっか、いずれ無惨と戦うなら、もっと複雑な戦い方の方がいいんだよな。ていうか……炭治郎、浅草で無惨を見たって聞いたけど、どんな感じだった?」

「はぁっ……は、は……? え、ええと……強烈な匂いでした!」

「臭かったのか! なるほど!」

「い、いえ煉獄さん!? そうではなくてっ……いえ臭かったのは確かだったんですけど……」

「ああいやすまん、炭治郎、そういうのじゃなくて、えーと……戦い方? 戦法? って言えばいいか?」

「戦法…………あ、いえ、すいません。純粋に戦ったわけでは……。あいつは妻子を持っていて、ただの通行人に傷を付けて、鬼にして……その騒ぎに乗じて逃げたんです」

「───」

 

 傷をつけて、鬼に。

 それはつまり。

 

「傷をつけた時、血を送り込んだような様子は?」

「え? いえ……早すぎて、ただ傷をつけたように、しか───、……!?」

 

 炭治郎も気が付いた。

 それはつまりだ。

 

「そんなっ……! じゃあ、鬼舞辻無惨は、ただ人を傷つけただけで、鬼にする……!?」

「そう考えた方がよさそう……だよなぁ」

 

 なんとも嫌な相手が親玉に居るもんだ。

 となると、戦いかたも工夫した方がいいかもしれない。

 

「……よし。じゃあみんな、次から一撃も喰らわないように立ち回ってくれ」

「「「「「「「「無茶言わないでくれ!!」」」」」」」」

「ダメです聞きません。無茶でも苦茶でもやらなきゃ鬼にされるんだから。戦いの最中に味方がグオオオって唸って襲い掛かってきたらどうするんだ」

「……鬼化を防ぐ毒、なども戦いの前に飲んでおいた方がいいのかもしれないわね」

「胡蝶妹、任せた」

「簡単に言ってくれますけど北郷さん? 作れているなら私、こんなに苦労していませんからね?」

「御遣いの氣のことでの協力もするから。なんとか研究を進めよう」

 

 御遣いの氣なら太陽と同じ効力が出る。薬に、毒に混ぜられるなら、侵入してきた鬼の血を殺せる効力が出せるかもしれない。

 

「……いいんですかっ!?」

 

 おおう、すごい食いつき。そりゃそうか、今までのらりくらりと逃げて来たんだし。

 

「さすがに傷つけられただけで鬼にされるかもしれないってわかったのに、手伝わないわけにはいかないだろ……」

「じゃあどうして今まで協力してくれなかったんですか」

「鬼殺隊士じゃないのにあんまり頻繁に出入りする理由を作られても困る」

「くっ……確かに正論……!」

「じゃ、そのための第一歩として、ちゃんと氣の鍛錬と集中の鍛錬、続けていこうか」

「は───」

 

 その日、胡蝶しのぶの表情が死んだ。

 再びギャアアアアアという叫びが蝶屋敷は機能回復訓練道場に響く中、様々な柱が吹き飛び、転がり、壁画と化した(再々々)。

 

「だからおかしいだろこいつ! 動きがもう人間じゃねぇ! ド派手に人間やめてやがるだろ!」

「尊敬してる人が強ェと心強ェエ……! オジキ、もう一度だ! どうせ無惨の野郎もまともな戦い方なんざしやがらねぇに決まってる……! だったらどんな攻撃だろうが避けて切り刻んでブチノメしてやら゛ァァァ!!」

「ていうかあの!? 錆兎さんが天井に突き刺さったまま降りてこないんですが!?」

「竈門少年! 前を向け! 目を開け! 敵は待ってはくれないぞ!」

「そうですけど! そうですけどぉおおっ!!」

「ていうか、刀兄まだまだ余裕そうだよね……」

「刀兄、全力でやってくれなきゃ鍛錬にならないんだから、手抜きは無しだよ?」

「手抜きってお前…………や、こっちだってペース配分ってもんが…………はぁ。じゃあ、錬氣解放、術式展開、龍血脈解放、痣の解放に……、んっ……縁壱の氣を───」

「……おいおい、どんだけ地味に余力残していやがったんだよ……!」

「ヒィイ!? ああああの! 柱の皆様!? ぜっ……全力を! 全力をー!!」

「あん? 小僧、なんか知って───」

「構わん竈門少年! なにが来ても全力で立ち向かうだけだ!」

「ちちち違うんです! 他のもなかなか見せてくれませんけど、あれだけは! 縁壱さんの氣の解放だけは───!!」

 

 遠い過去、知り合った鬼の女性が教えてくれた。

 バラバラになって縁壱から逃げようとした無惨は、千八百以上もの肉片となって逃げた体を“その場で”千五百以上破壊されたと。

 変わった耳飾りを付け、痣を持った侍は、そうして無惨を撃退したのだと。

 

  言葉も交わさず、最初からそうしていれば、或いはそれで決着がついたのかもしれない。

 

 死ねばよかったのにとその場に居ない無惨に向けて言い放ち、女性───珠代さんは怒りを露わにした。

 ……俺に、始まりの呼吸───日の呼吸の完全再現は難しい。出来るには出来る。自分の氣を他人の氣と同調させて癒すことが出来るように、呼吸の模倣も出来るには出来るんだ。現に雷の呼吸だって……いや、これは確実に、縁壱との“俺に合った呼吸探し”の地獄鍛錬の結果なわけだけど。

 ともかく、合わない呼吸だからこそ、様々な能力で身体機能自体を改変。通常の人間が鍛えた氣脈程度では補えない部分を龍の血で強化された氣道を使ってブースト。必要なものだけを開き、余計なものは閉じていく。そうして、普通では出せない限界をブッチぎり、“日ノ神様”の領域へと到る。呼吸も、氣も、身体能力も、“可能な限りの全て”。開け開け開け開け、閉ざせ閉ざせ閉ざせ閉ざせ。必要なものだけを解放し開放し、余分な全てを削ぎ落とし閉ざし尽くせ。

 龍の血と氣で(すべ)を行使する……いわゆるそのー……血氣術? なんて。愉快な思考を最後に閉ざし、さあいざ。

 

「───始まりの呼吸、鬼滅の型。一千五百連斬(ちごものつらね)───!!」

 

 肌の上を走る痣が、縁壱と同じものになった瞬間、体は“どう動けばいいのか”を完成させた。

 抵抗もなく動く体が木刀を腰から抜き放ち、動く動作全ての小さな衝撃さえ吸収、次の行動への加速装置に変換され、百を振るう瞬間には二百の氣の刃が飛び、次に振るう百はさらに速く、四百の氣の刃が乱れ飛び、自身は“その場”を動くことなく……氣とともに、連ねること千五百。

 

「………」

 

 最後に、深呼吸とともに木刀を腰に納める。

 集中のために閉ざしていた目を開ければ、そこには…………ウワア。

 

「ウワア……」

 

 思ったことを口にしてみれば、足元からメシャアという音。

 まず、木刀が届く範囲がボコメシャに砕けていた。次に氣が届く範囲なわけだけど。

 

「だ……大丈夫?」

「なわけあるかド派手馬鹿野郎がぁああっ!!」

 

 例の如く壁画になっていた宇随天元さんが怒った。そりゃそうだ。

 

「う……悪い。やっぱり俺の模範なんかじゃダメだよな……! 出来るだけ縁壱に近づけられるよう頑張ってみたんだけど、こんなんじゃダメダメすぎるよな……!」

「そうじゃねぇよ!? そんな意味で怒ってんじゃ───上があんのか冗談だろ!? 日の呼吸の使い手何モンだよ! それ追放とか始まりの呼吸の連中は派手派手に馬鹿なのか!? 手伝わせろよ馬鹿なのか!? もしその頃から上弦居たなら鬼の祖は逃げていようがそいつら全滅出来ただろーが!!」

(ごもっとも───!!)

 

 激しく同意した。彼らはきっと馬鹿だったのよ。

 珠代さんを逃がしたことに関しては、鬼は死すべし慈悲はないを地で行く鬼殺隊だ、怒るのはしょうがない。兄上が鬼化したのも、無惨がええっと千八百? 以上の肉片になって逃げたのも、兄上はその場に居なければどうにもならないし、無惨逃亡は初見で肉片全部どうにか出来るもんならしてみやがれって感想しか抱けない。

 縁壱で千五百だったんだよ? 俺達でいったい何片斬れる? 文句言う前に誰かが同行していれば、全部解決出来た話じゃないか。なのに“どうせ縁壱は強いから”って一人で任せていたんだろう。

 あいつが、静かなあいつが、人一倍人恋しい性格なのは知ってる。

 鬼狩りに身を置いたとしても、うたさんが居たから頑張れたっていうのもきっとある。

 誰にでも呼吸を教える縁壱は、そうして繋がりを持ちたかったんじゃないだろうか。

 ……考えれば考えるほど、悔しく思える。

 あの頃、俺も鬼狩りに参加していたら……縁壱の最後に立ち会えたんだろうか。

 

「あのー……北郷さん? 遠い目をしているところ悪いんですけどー……」

「え? あ、胡蝶妹? ……ど、どした? コメカミがバルバル躍動してるけど」

「どした? じゃありません!! こんな型があってこんな範囲で壊れるような行動なら、事前に庭ですることくらいできたでしょう!! どうするんですか道場こんなにしちゃって!!」

「大丈夫! こう見えても俺は! 修繕の達人!!」

「開墾の達人じゃなかったんですか!?」

「生きてると達人要素なんて増えていくもんだよ? ただし上には上が居すぎて、自分のセンスというか才能を疑う日々だけど」

 

 努力で埋めてもあっさり追い越すバケモノ達が、世の中にはたくさんいらっしゃいます。けれどもその努力の分だけ北郷頑張ったんだから、時折脳内でキャンディーの掴み取り大会とかやってオンディーと戯れるのです。

 

「これからも機能回復訓練とかあるかもしれないのに……」

「あ、大丈夫。負傷した隊士は俺が癒すよ。なんならもういっそ氣を教えるのもいいし。こうなれば隊士全員に氣を教えて、鬼を皆殺しにする方向で行こうか。───裏切ったら地の果てまで追い詰めて“日照り潰す”」

「ひでりつぶす!?」

 

 氣を教えたいつかの隊士は鬼になって裏切った。そのことを耀哉に話して一度は拒否した俺だけど、そうだよな。教えた方が生存率が少しでも上がるなら。

 縁壱が追放されたって話を聞いて、どこかで鬼狩りの連中に嫌悪感を抱いていたのかもしれない。

 けど、そんな俺の感情は今を懸命に生きて、家族の弔いのために戦う鬼殺隊のみんなには関係ないんだ。今、生きれる力を欲して、立ち向かう手段を磨いている彼ら、彼女には…………そうだよな、縁壱。

 なので裏切ったら日照り潰す。天地の氣にて、疑似太陽で日照り潰す。

 

「よし、じゃあまずはみんなの、近しい隊士から呼び出してくれ。錆兎なら義勇と真菰、炭治郎なら禰豆子と善逸と伊之助って感じに。実弥、玄弥はどうしてる?」

「今はァ……悲鳴嶼さんのところで継子やってる筈です」

「じゃあ呼ぼう。あ、みんなは氣脈が安定するまでは任務は無しって方向で耀哉に伝えておくから」

「むう! それは柱として───」

「杏寿郎」

「!!」

「待機」

「!!」

 

 にこりと微笑み、待機通告。

 柱としてじゃあございません、人として休みなさい。

 そして休んだ分だけ人を守りなさい。鬼を狩りなさい。

 その間のことは、俺が受け持つから。

 

「そもそも今任務来てないんだろ? なら、来る限界まで休むことと鍛えることに全力を注ぐこと」

「……むうっ!」

 

 渋々っぽいけど納得した模様。

 

「へぇええ……刀兄って鬼殺隊の柱相手でも発言力あるんだ……」

「うむ! 鬼殺隊士ならば世話になっていない者など居ないだろう! 家族を救われた、藤屋敷で助けられた、なんなら蘇生してもらった者とて居るほどだ! 感謝してもしきれん!」

「加えてお館様とも親交があり、よろしく頼むとも言われている……南無」

「もっと早くに協力してくれれば、と思うこともないわけではありませんけどね」

「しのぶ? 失礼なこと言わないの」

「はぁ……お姉さん助けてもらっただけじゃ足りないの? 贅沢だなぁ。それやって刀兄になんの得があるのさ。氣を教えてくれることだってそう。勝手だよね、蟲柱の人」

「───」

「無一郎くんやめて!? 正論だけどやめて!?」

「姉さんはどっちの味方なの!?」

「もうっ……しのぶ? どっちの味方とか、そういう物の考え方、お姉ちゃんはよくないと思うの」

「誤魔化しだよね、それ」

「むむむむむ無一郎くん!? そういうことは思っても言っちゃだめっ!!」

 

 やあ、にぎやかだ。その割に皆様ぼろぼろだけど。

 ……うん、待機中だった女性たちにまで氣の刃が飛んだらしい。反省。

 

「うぐっ……い、いったいなにが……」

「天井に頭から突き刺さった後、剣圧で飛ばされて壁に突き刺さったんだ。お前はなにをやっているんだ、そんな実力で柱を名乗っているのか? 情けない、情けないな、情けないだろう。自分でそうとは思わないのか鱗滝」

「ぐううっ……! 訳の分からない内に、気づいた途端にねちねちと……! しかし正論……! 男として情けないっ……!」

「南無阿弥陀仏……無抵抗にやられるだけとは、情けない限り……。聞くに、縁壱殿はさらに強く、無惨が逃げるという選択肢以外を取れなかったほどだとか」

「ッチィ……鍛える必要があるぜ……! こんなザマじゃア柱であっても役に立たねェ……! ご大層に名前だけの、寄りかかれば倒れる柱なんざ無くても一緒だ……!」

「うむ! 頑張るしかないな不死川! 俺も頑張ろう!」

「はい! 頑張りましょう煉獄さん! 不死川さん!」

「…………なんでてめェら俺の傍で腕組んでやがンだ」

「長男!!」

「長男!!」

「あ゙ァ!?」

 

 柱の中で長男が広がっていく。

 どうしよう、止めた方がいいのかなぁ。

 

「さあいざ共に高め合わん! 我ら兄の力があれば、次男では挫けてしまう困難とて越えていけるだろう!」

「知るかよォ! ふざけてェだけなら他所でやりやがれ!」

「大丈夫です! 長男は何処に居ようと長男です!」

「意味がわかるように言いやがれってんだよ竈門の坊主!」

「大丈夫だ不死川! 北郷殿も長男だ!」

「───……マジか」

「はい! 本人から聞きました! しっかりと!」

「……まァ、確かにな。兄としての力……兄だからこそ持てる力ってのは、俺にだって当然あるぜェ……?」

「ですよね! 不死川さんの下は弟ですか!? 妹ですか!?」

「……弟だ。それがどうしたって───」

「弟ですかぁ! わー! 格好いいんだろうなぁ! 周りにはツンケンしてるのに、お兄さんにだけはちょっと甘えるみたいな仕草をしたりとか!」

「───…………へっ。まァよ。玄弥っつってなァ……こいつがまたまァやんちゃな野郎でなァ……。鬼殺隊に入るのは俺だけでいいっつってんのに、俺の手伝いがしたいからって聞きやがらなかった。まァ、合格したっつーことはオジキが認めるくらい鍛えた証拠だからなァ……疑っちゃいねェが」

「うむ! 俺の弟は千寿郎という! 気が弱いがとても頑張り屋な、自慢の弟だ!」

「あァ!? 俺の弟だって自慢だゴラァ!!」

「なにを隠そう俺の妹も自慢です! そして他にも弟妹が居ます!」

「……長男してるじゃねェか……! まァ俺だってそうだがよ」

「そうなのか! 俺は千寿郎だけだな!」

 

 ……長男ウィルスが感染した。誰かあそこを止めてくれ。

 まあ、話しながらやるっていったし……いいのかなぁ、これでも。いいか、辛いだけより全然いい。

 




◻️大正コソコソ噂話
 縁壱さんは千五百以上を切ったのであって、千五百回斬ったんじゃないことに、彼は気づいていないよ。
 話を聞いた彼は、どちらの意味かを実際は考えはしたけれど、“まあ縁壱だし難しいと思う方も出来るだろう”で納得したそうだよ。
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