そして毎度のこと誤字だらけですみませぬ……!
ゴオ、という呼吸が為されると、彼女の体から一気に汗が噴き出た。
「~っ……かっは! けほっ! アッ……アァアアア……!!」
竈門家の子ということで、禰豆子にも日の呼吸は出来るだろうか、と試した結果だ。
結果は……恐ろしいほどに適合しない。鬼舞辻の血や氣が邪魔しているってこともあるのだろうけど、それにしても拒絶反応がひどすぎる。
呼吸困難が始まったのか、涙までこぼして喉を押さえ始めた。慌てて抱き締め、本来の呼吸と禰豆子の波長の氣を流し込んでやると、ゼッ、ゼッ……と呼吸を安定させる。
「ごごごごめんな、ごめんなぁ禰豆子……! 苦しかったよなぁ、ごめんなぁ……!!」
「……、……」
かなり苦しかっただろうに、胸に抱いた禰豆子はもぞりと動くと、俺の背中をぽむぽむと叩いてくれる。
……そして善逸がやかましい。「あー! どさくさに紛れてなに禰豆子ちゃんのこと抱き締めてんだとーちゃん! それ俺の役! 俺の役ゥウウーーーぅうッ!?」とか音の外れた高音で喚いている。
……さて。
鬼滅の型で道場がズタボロになったその日、柱に休憩してもらっている現在は、柱に近しい者達が集められている。
あ、ちなみに炭治郎も参加してる。根性である。っていっても、三つまでしか点穴してないからかもだけど。
炭治郎と禰豆子は狭霧山で氣の拡張だけはやってあったからなぁ。点穴はまだだったけど。
「は、はー、はー…………はい、もう、大丈夫です、北郷さん……」
「ほ、ほんとか? ほんとに大丈夫か?」
「はい。……ふふっ、北郷さんは竈門家に対して過保護すぎますよ?」
「んぐっ……」
そりゃあ、仕方ない。竈門家には幸せになってもらいたい。
炭十郎のことだって、無理矢理にでも氣を教えていれば、もっと長生きできたかもって考えたらキリがない。
自然に身を委ねたいってあいつが言わなければ、絶対に……俺はあいつに氣を教えていたのに。
「なさけねーぞ親父! 山のヌシがそんな狼狽えるんじゃねぇ!」
「なに言ってんだよ伊之助、親父ってとーちゃんのこと? とーちゃんは俺のとーちゃんだぞ?」
「あぁ!? 親父は俺の親父だっつーの! んで山のヌシだ!」
「北郷さんはいろんな意味でお父さんだからね。私も鱗滝さんに拾われなければ、北郷さんのことお父さんって呼んでたのかなぁ」
「…………(北郷さんは暇さえあれば人を救い、迷う人を拾ってはやさしくしてくれる。)すごい漢だ」
え? 師範? ちょっと義勇? 俺師範なの!? 背中見せながらガッツポーズしたほうがいい?
「オジキが稽古つけてくれるっていうから来たけど…………こんなたくさん居るとか聞いてない……」
「お、玄弥も来たか。元気そうでよかった」
「あっ……は、はいっ! オジキも元気そうでっ!」
照れたような笑みを向けられた。純粋に慕われてるんだなってわかる。
……うん、まあ、俺もこの世界では唯一同じ波長の氣だってんで、随分可愛がった覚えもございますし。
しかも流派が素流ですよ? 可愛がらないわけがないでしょう。
「……ん、呼吸も安定した。禰豆子はやっぱり水の呼吸が合ってそうだ」
「はい」
「で……炭治郎」
「は、はいぃっ!」
「日の呼吸にはもう慣れたか?」
「はいっ、一日中はまだ無理ですけど、神楽を舞い続けることにも慣れました!」
「───……一日中が、出来ない?」
「───エ?」
あれ? と疑問に思ったことを口にした途端、ピシリと笑顔の炭治郎が固まった。
「痣があるにも関わらず、常中もしている上、氣も使えるのに、出来ない…………え? た、炭治郎? それ……ほんと? ででで出来ない、のか? 一日中……!?」
「え……え? これ、なにか、もしや危険な状況ですか!? おおお俺はどうしたら!?」
「……炭治郎、よぅくお聞き。お前の父、炭十郎は、呼吸だけでそれを可能にしてたんだ。一日中神楽を舞っても平気だった。生まれつきの痣者だったって理由もあるだろう。けど……」
「け、けど……!?」
「狭霧山で、無駄を削いで透き通る世界にも入ったお前が、それが出来ないのは……」
「ででで出来ないのは……!?」
「…………日の呼吸よりも合う呼吸があるか、全集中が体に合ってない可能性が……!」
「ええええええええええええええええっ!?」
「えぇええええええっ!? じょじょじょ冗談だろとーちゃん! だって炭治郎、鬼とかすごい勢いで斬ってたんだよ!? 十二鬼月だっけ!? なんか目に数字が入ってたやつも、ヒュキンって簡単に! 合ってないのにそれって! 合ってないのにそれって無理でしょ有り得ないでしょどうなってんのねぇどうなってんのぉおおっ!?」
いや、でもだって、そうじゃないと説明が……。
俺の時も、縁壱が教えてくれなきゃわからないくらいのレベルでの、ほんのちょっぴり微妙に呼吸が合ってない、ってのがあった。
天地の呼吸になるまでどれだけ苦労したかもわからないくらい。
「炭治郎。赫灼の話は知ってるか?」
「赫灼……あっ、鋼鐵塚さんが言ってた……」
「火を使う家に産まれたら縁起がいい、ってのはもちろんだけどな、赫灼の子っていうのは“陽”に愛されてるんだ。だから、たとえば───…………」
「? あの、北郷さん? たとえば……?」
「……いや、うん。……え? でも………………よ、よしみんな、まずは玄弥に氣の在り方について教えてもらっておいてくれ」
「!? えっ……お、オジキ!? 俺っ、人に教えるとかそんなっ……!」
「大丈夫だ。カナヲ~? おいでおいでー」
「!」
呼びかけると、屋敷の外、庭に集合している俺達を、建物の陰からじーーーーっと見つめていたカナヲがドヒュウと突っ込んできて、ドボォと俺の脇腹にタックr「おごぉっはぁ!?」……抱き着いてきた。
「ごほっ……! おぼっほ……! おぉお……大きくなったな……! カナヲ……!」
「……!」
「………」
「……! ……!」
……喋ろう!? あれっ……あれちょっ……カナエ!? しのぶー!? なんか悪化してない!? この子ったら余計に喋らなくなってない!?
「か、カナヲ? どうした? 話そう? 喋ろう? な?」
「………」
すちゃり、となんかコインが用意された。表、裏とか書いてある。
カナヲはそれをピンッと弾くと、落ちて来たそれを手の甲で受け止め、パンッと反対の手で落ちないように押さえつけた。
「……カナヲ?」
「………」
おそる……と手をどかすと、そこには……裏の文字。
「……………………………………………………!!」
で、無表情のままに、どずぅううううううん……と重苦しい空気を纏うカナヲ。
えっ、えぇっ!? えちょなにっ!? なにこれ!? カナエ!? ちょっとカナエ!? お前なにさせたの!? ねぇ!?
「よくわからないけどカナヲ? カナヲは好きなことをしていいんだぞ? お前はどうしたい? こうして抱き着いてきたみたいに、好きにしていいんだ」
「………」
「………」
「………」
沈黙ーーーっ! 誰か! 誰かある! 空気読める人誰かァァァァ!!
……おらなんだ。人、いっぱい居るのに、こんな時に寄り添える人、おらなんだ。
炭治郎には今から用事があるし、禰豆子は呼吸は安定してるけどやっぱりちょっと辛そう。
玄弥はこれからの氣の説明を考えて相当難しい顔をしてブツブツ言ってる。
真菰は伊之助の猪フェイスが気になっていて、義勇は………………義勇だし。
え? 善逸? 禰豆子に寄り添うので忙しいみたいですハイ。
アッルェエエーーーッ!? 竈門家以外のコミュ力がなんだか相当ヤバいのですが!?
「………」
仕方ないので脇に手を通して、高いたかーいと持ち上げて、振り回して抱き締めて、降ろしたあとにぽむぽむと頭を撫でて、玄弥と一緒に氣の説明をお願い、と伝えておいた。
「……まかせて……!」
ツヤツヤの、どこか得意顔を孕んだような表情で胸を張られた。
「うん、任せたよ、カナヲ」
「……!! う、うん……おとうさん……!」
「───」
…………ん? ん、んー……うん、まあ、うん、いいか!
とーちゃんとか親父とか刀兄とか、もう今さらだし!
ていうかカナヲから見て、俺は父だったのか。おおいい子いい子。
存分に撫でてから、炭治郎を伴って歩き出す。
そこまで離れるわけじゃない。ただ、壊れた道場の中までを歩いて、そこで……軽い提案、というか……試してもらいことを試してもらう。それだけだ。
……。
それだけ……だったんだけど。
結果として、俺が壊れかけの壁に激突した。
「ごっは……!!」
油断はなかった。ただ、想像が現実に敗けた。
間違い無い。炭治郎に合う呼吸は、“これだった”。
こりゃあ……まいった、冗談だろう、なんて言いたい気分だ。
けれどまさにだ。
「……っ……はぁっ! はっ……はぁっ! はぁっ……!! ……あ───ほ、北郷さん!」
「っぢぢぢ……! あ、ああ、大丈夫、大丈夫だから……!」
「あ…………」
背中をしこたま打ち付けた俺を、炭治郎は心配そうに見ている。
髪の色がごうごうと染まったままで、呼吸を荒くしたまま。
はたして、その呼吸は荒れているのか、安定しているのか。
「でもあの……北郷さん、この呼吸は……」
「たぶん、出せる型はたった一つ。それがそのまま終ノ型になるだろう呼吸だ。赫灼の子は陽に、日に祝福されてる。お前に合う呼吸がそれってのは……なんというかそれでいいのかって気分だけど。ただ、それは切り札にしておけ。出来れば……トドメ以外じゃ鬼には使わない方がいい。鬼を通じて無惨に見せない方がいい」
「あの。この呼吸の名前は……? いったいなんの呼吸で……」
「……はは。なんの冗談なんだろうな……ほんと」
「北郷さん?」
……神様ってのが本当に居るのなら、どうして縁壱をあんな風に産ませたのだろう。
どうして、縁壱たった一人にあそこまでを押し付けてしまったのだろう。
あいつはさ、ただ家族が、兄が好きだっただけなんだよ。
家族から疎まれていた自分に、唯一優しくしてくれたそいつのことが。
兄上が自分をどう思ってたかなんて関係ない。たとえ心の底では気持ち悪がられたりしたんだとしても、それでよかったんだ。
……なんでなんだろうなぁ。なんでなんだろう、俺にはわからないよ、縁壱。
お前は二番目がよかった。兄が一番なら、弟は二番。誰になりたいとかなんてなかった。あいつは兄にとっての二番目で、それだけでよかったし、自分が得意じゃないことが出来る人が居ることが嬉しくて、人の誕生を愛していた。
自分が雲を見上げる。そんななんでもない瞬間にも、自分を何かしらで越える誰かが産声を上げる。そんなことを思い浮かべるだけで、わくわくできるやつだった。
なんで……神様ってやつは、そんなヤツに強さを押し付けるようなことをしてしまったんだろう。
きっと兄は嫉妬した。捨てられた継国の妻は泣いていた。子供は父を求めて泣いていた。
そいつが鬼になったと聞いた時、俺は眩暈がしたよ。自慢の兄が鬼になったんだ。お前が、お前が泣いてやしないかって気が気じゃなかった。
お前は幸せに逝けただろうか。兄のように家族を捨てなかったか? 幸せに歩いていた話を聞いて嬉しかったけど、心配だったんだ。
「………」
馬鹿だよなぁ、兄上は。
きっと弟に嫉妬したであろう彼。きっと、痣を発現させて、25までしか生きられない事実に絶望した彼。
鬼になったのはそんな事情もあったんだろう。
でもさぁ……馬鹿だよ。強さを求めて家族を捨てて、鬼狩りになって……人であることをやめて。
縁壱に聞いたよ。一番強い侍になりたかったんだよな。
でも……それって侍なのか? お前の目指したかった侍は、なにも守らない、ただ強いだけの侍か?
あいつは違ったよ。強さに興味なんてなかった。あいつは、子供が喜ぶような遊びを教えてやるだけで、本当に楽しそうに笑うんだ。
嫉妬? ばかだろ。あいつは強く産まれたくなんかなかった。あいつはただ、本当に、あんたと凧揚げなんて小さな遊びでもいい、それが出来てりゃ幸せだったんだ。
お前がたとえ縁壱になれたとしても、そこに強さへの渇望なんてない。お前は縁壱になったとして、凧を上げてりゃ笑えるか? 違うだろう。
あいつは弟でいたかったんだ。自慢の兄の、弟でいたかった。強さなんか欲しくなかった。妬まれたくなんかなかったんだよ。
ああ、なんだろう。涙が止まらない。あいつの氣の波長を体に満たしたからだろうか。あいつの形に痣を発現させたからだろうか。あいつから受け取った様々が、悲しい悲しいって泣いている。
あいつが普通の子に産まれたとして、お前は手を差し伸べたのだろうか。
痣もなく、普通の子として産まれたなら、お前は手を差し伸べたか?
何者にもなれない、いずれ出ていかなければならないそいつを、哀れとは思っても……積極的に触れ合おうとしただろうか。
「……炭治郎」
「はい」
「その呼吸に名前はないよ。きっと、明確につけちゃいけない。だからね、炭治郎」
「……はい」
「その呼吸をする時だけ、強くなれ。それを使う時だけ、頂の先に居る自分を想像しろ」
「…………あの! 頂の先? とは何処でしょうか!」
「強さのてっぺん。その先に縁壱が居る」
「強さの……」
神は人の中に縁壱を作った。鬼すら滅ぼす最強の人。
鬼はとある医者から作られたのだと珠代さんは言った。
どう知ったのかは知らない。教えられたのか、鬼の血が知っていたのかも知らない。
けど、そんな事実にただただ虚しさを抱く。
無惨は、ああ鬼の始祖と呼ばれるくらいの存在なのだろう。それだけ人を食ったのだろう。
でも、きっと“違う”んだと思う。
正解はきっと───…………そっか。
「炭治郎」
「は、はいっ」
「禰豆子はきっと、近い内に太陽を克服する」
「え……あの、それは以前にも」
「赫灼の子は太陽に祝福されている。でも、それは日であって炎じゃない。神楽は、火の仕事に捧げる舞いと伝えられても、元は日を伝えるものだ」
「……はい」
「……どうしてなんだろうなぁ。なんでなんだろうなぁ。あの日、狙われたことに意味があるのなら。日の呼吸以外にも理由があったなら、それは───」
「北郷さん……?」
ひゅう、と呼吸をして、姿勢を正す。
炭治郎の頭を撫でて、そして……もう一度だ、と言って、構えさせた。
……そう。禰豆子は太陽を克服するだろう。
人を食わなくても鬼の力に順応し、下手をすれば無惨の力さえ逆に取り込んでしまうだろう。
人の神は、人の間に縁壱を落とした。
鬼の神は? 鬼の神は……人の間に、
「しゅううう……いきますっ!」
「ああ」
グオオッ───と、炭治郎が荒く呼吸をする。
途端、彼の中に渦巻く何かが目を覚まし、炭治郎の頬に、額に、喉に、見える場所全てに、ミシリと血管が浮き出る。
伝えてあることは一つ。
教えた呼吸で体の力を解放したら、全力で相手を打倒することに意識を集中させること。
そうすれば相手が強ければ強いほど、体が、呼吸が、氣が、どうすればいいかを教えてくれる。型を、名を教えてくれる。
「───参る」
その型を前に、俺も縁壱ならそうするであろう型を構え、全力を───
「───! ●●の呼吸、終ノ型───! “
出した途端、炭治郎の中で型が、名が完成した。
「………」
ああ。そうだなぁ。
俺が人を癒している間にも、竈門の家が神楽を伝えている間にも。
炭を焼いている間にも、人の死に誰かが泣いている間にも。どこかで己を越える何者かが産声をあげている。
病弱だった者が鬼になったような半端者じゃない。
その者が鬼になれば、人など食わずに人を助ける、人にも鬼にも優しい青い鬼が産まれただろう……そんな幸せな光景を幻視した。
その彼岸花が青い理由をなんとなく想像して、笑った。笑って……その木刀での一撃を、身に受けた。
竈門家は鬼に愛されている。
きっと、青い彼岸花を受け入れたのが竈門家だったなら、太陽なんてすぐに克服して、人をたくさん食わなきゃ上弦なんてものにも届かない半端な者じゃなく、平和と戯れるだけで強くなって、そんな人食い鬼の強さなんかも、再生能力なんかもあっさり超えてしまったんだろう。
けれども人を殺したりなんかしない、人と鬼とを繋ぐ、やさしい青い鬼になれただろうに。
なあ、炭治郎。
その呼吸な、珠代さんや愈史郎、禰豆子がする呼吸のパターンから、共通するものを取ったものなんだ。
お前は無意識に口にしたんだろうけど、鬼の呼吸、っていうんだ。
誰にも言うなよ。そだな、炭の呼吸にしとけ。
特にお前は赫灼の子だ。日に愛されすぎている。黒の日輪刀も、日の呼吸の色じゃない。縁壱のはもっと黒かったんだ。
赫灼は、光輝いて明るい様子って意味がある。お前の心の中の小人が、まさしくそれだった。それだけ、お前は日に愛されてるんだ。
きっと、鬼になってもすぐに太陽を克服してしまえるレベルで。
「───」
気づけば、体に十二の打撃痕が出来ていた。一撃を受けた、どころじゃなかった。
でも……きっと、やろうと思えば対処は出来た。けど、しなかった。
殺気がなかったんだ。寄り添うような安心感が先に走った。
殺す気なんてこれっぽっちもない温かさを感じた。
それは、炭治郎の氣と同調した時に出会った光の小人の温かさに似ていた。
青く広い空と、それを移すように広がる綺麗な水。一面の青い世界に、祝福された“日の小人”たち。
「ああ……」
俺の後ろに着地して、集中を途切れさせた途端に目の前に走ってきた炭治郎の頭を撫でる。
心配そうな表情の彼に微笑みかけて───
「……なるほど。こりゃあ……千五百も斬れるわけだ……」
人の柱に縁壱を。
青きやさしい鬼に、竈門家を。
やさしい青い鬼は、人の身で、その呼吸だけで縁壱の速度の領域に足を踏み入れていた。
あの一瞬で十二。終わりの型ひとつで十二連斬。神楽の全てを叩き込まれた。
手にしていたものが木刀ではなく刀だったら、と思うと……もう、なぁ。
ああ、悔しいなぁ、悔しいなぁ。
どうしてあの時代に、鬼になったのが無惨だったのだろう。
どうして……人を食ってしまうようなやつが、鬼になってしまったのだろう。
きっと、弱さを補おうとしなければ、願いが丈夫な体を作るための栄養を欲するものでなければ、やさしい青鬼として人と歩いていけたのだろうに。
竈門家がもしそんな家なら、山で炭を焼く優しい鬼であったろうに。
家を出た縁壱はうたさんと夫婦になって、鬼から助けるでもなくたまたま出会った竈門家と一緒に笑い合えるような、幸せな“笑った青鬼”が見れたろうに。
「……誰かを悼む、哀しみの匂い……? 北郷さん……泣いて……?」
縁壱。俺達は、鬼を狩るよ。
きっとこんな悲しい物語を終わらせる。
だから……お前が教えてくれたことを、殺すことにしか活かせないことを……どうか許してほしい。
「……炭治郎」
「え、あ、は、はいっ!」
「……呼吸の名前は、炭の呼吸にしよう。炭焼きの家系の呼吸。ほら、刀も黒いし」
「炭の呼吸ですか!? 炭……っははっ、はいっ! なんか、嬉しいです! こんなことになって、炭の仕事ももう伝えていけないんじゃ、なんて心のどこかで考えちゃったりして……。でも、違うんですよね。きっと、未来はまだ築けます! 絶対に、無惨を斃して、必ず日常を取り戻します!」
「ああ。必ず伝えていこう。神楽と、日の呼吸と、耳飾りを。炭を焼きながら、な」
「はい! 約束ですもんね!」
「ああ。約束だから」
嬉しそうに笑う顔に、安心した。
安心したら───ああ、なんて。力が抜けて、ぶっ倒れた。
「え───北郷さん!?」
なぁ、縁壱。もし、俺がなにかを極めたならさ、お前のところに行けるのだろうか。
話したいことがいっぱいあったんだよ。
教えてないことだっていっぱいあった。
お前の子とさ、うたさんを巻き込んで、やってみたい遊びだってもっともっとあったんだ。
どうして……あんな時代に産まれちゃったんだろうなぁ。
どうして、兄上は……ただ兄として、長男としてそこに居てくれなかったんだろうなぁ。
いつかもし、鬼になっても一番強い侍にはなれなかった兄上がそっちに行ったら、教えてやってくれ。
きっと悩んでるそいつに……自分は何故産まれたんだって迷うだろうそいつに、微笑みながら。
兄で居てくれればよかったと。家族でいてくれればよかったと。
哀れむのではない。見下す必要もない。ただ、構ってくれて嬉しかったのだと。弟で居られたことが、無意味に強く産まれ、家族に疎まれた自分の幸せだったのだと。
そのわからずやに言って、ぶつかって、ぶつかりあって、兄弟喧嘩でもしてやってくれ。
俺もいずれ……行けたらそっちに行こうと思うから。
極めることが出来たなら、必ずそこを選ぶから。
地獄でも天国でもない、辿り着く場所の果てへ、必ず行くから。
だから、それまで───
そこまで、笑顔のままに考えて……意識は、ぶつりと切れた。
……こののち、“木刀で打たれて気絶したくせに、顔は笑顔だったとか派手に変態かお前”、と宇随にからかわれることになる。
ほっときなさい。