ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

65 / 79
校務仮面は青春したい②

 ───ババ抜き運命戦(サドンデス)!!

 

 ある日のことである。

 

「暇だ……」

「いや早すぎだろ!! なんで始めたばっかりで書類仕事全部終わってるんだよ!!」

「だってこんなの都の頃の仕事量に比べたら……」

「え!? 都!? なに!? 怖い!」

「あの……仮面くん? あなたはあくまで補佐なのですから、仕事を全てやる必要などないのですよ……?」

「振られた仕事はこなすのが校務だから仕方ない」

「さすがです校務先輩……! し、四宮副会長! 私にも仕事を振ってください!」

「伊井野さんに振る仕事は主に最後になりますから、残りの石上くんの仕事終わりを待ってください」

「───石上、遅い。早く」

「自己新レベルで早い仕事が出来てたのに、なにこの言われ様……」

 

 そんな会話をきっかけに始まった暇潰し! かぐやが取り出したトランプで始まったカードゲーム!

 シンプルだが奥の深いババ抜きが始まり、仕事中の石上を抜いた5人で戦いは始まった!

 ……なお、乗り気でなかった白銀を誘うため、かぐやが出した“勝者は敗者になんでも一つお願いごとが出来る”という条件は全員に適用!

 なにかを感じ取ったのか息を切らせて走ってきた藤原を加え、今まさに勝者権限を狙う男女がぶつかり合う! ……ちなみにトランプを取り出した時点でムッとしていた伊井野は、いつもの如く藤原に口説き落とされていた。

 

「ババ抜きってなんだか久しぶりな感じがしますねー……えへへ。はいかぐやさんっ」

「私もこういった遊戯はそうそうする機会がありませんので……お手柔らかにお願いしますね、会長」

「それを言うなら俺もだぞ。こういった遊びはやる暇も機会もなかった。ほれ、校務補佐」

「……娯楽の僅かが買い食いと、自作のゲームでした……。はいミコ……」

「な、なんでそんなに暗いこと言うんですか!? だだだ大丈夫です! これからたくさん楽しいことしましょう!? 校則違反は罰しますけど! あの、はい、藤原先輩」

「仮面くんももっとはっちゃけて楽しめばいいんですよ。いっつもいっつも校務校務って、そればっかりじゃ青春なんて楽しめません。それを青春だなんてぬかす気でしたらラブ探偵としましては怒っちゃいますよ? 猛省してください。はい、かぐやさん」

「好いた惚れたのみが必ずしも青春とは言えませんが……ペアですね。はい、会長」

「そうだぞ藤原書記。たとえば学生時代に経験するバイトなんかも十分青春に繋がるものだ。汗水たらして己の経験を積んでいく……これも青春だろう。なぁ校務補佐」

「……仕事してるといろんな人が騒ぎに来たり酒飲みに来たり遊びに誘いに来たり……そのくせ仕事が進んでないと俺だけ叱られる人生でした……はいミコ……」

「あ、ぁああああ……ぁあああああ……!!」

「しっかりしろ伊井野監査! 引いてやるんだ! むしろ勝利して“全力で楽しめ”って願ってやれ!」

「頑張ってミコちゃん! 勝った人だけが仮面くんを解放してあげられるんです!」

「勝った人が…………は、はい! 頑張ります! そう……そうだ、これも人助け……! けっして生徒会の仕事中に遊んでるわけじゃ───!」

 

 ───ババである。

 

……私なんて

「伊井野監査ぁああっ!?」

「はぁ……終わりっと。ほら伊井野、こっち終わったから交代。こっち終わらせて仮面先輩の仕事、少しでも減らしてやれ」

「……! 石上……!」

「というわけで代打です藤原先輩、どうぞ引いてください」

「石上くん……ふふん、上手く誘導してるつもりでしょうけど私は騙されませんよー? その自然かつあくまでほんの少しだけ突き出されたカード……テーブルカードゲーム部の部員として、それはフェイクだと断言しましょう! つまり他のカードは全て安全! とみせかけて、このカードこそ安全!」

「───!」

「動揺しましたね~? エヘヘ石上くんたらミコちゃんと代わったばっかりで失敗したくないって張り切りすぎちゃいましたね~。じゃあこれを───」

 

 ババである。

 

「……プフッ」

「ふぎゃぁああああああああっ!! さっきびくって動揺したじゃん! 視線あちこちに動かしてたじゃん! なんですかなんなんですかどうなってるんですかー!!」

「いや得意顔でなに言ってるのかなって笑い堪えるのに必死で」

「石上くんの鬼! 意地悪!! ~……かぐやさんっ!!」

「私に怒られても困るのですが……あら、ババですね。はい会長」

「……楽しそうだな四宮」

「少々分かったことがありまして。手札が残り一枚になるまで、このババ抜きというゲームは如何にして相手にババを引かせたものか、と楽しむものだと認識しました。ならば───」

(……藤原の性格を見抜いた上で、ババだと分かった上で引いたな、四宮───!! 俺に、ババを引かせるために! 俺に、“ババ抜きにおいての負けの象徴”を引かせるために───!!)

「さ、会長。私も藤原さんと同じように突き出させていただきます。どれを取るかは会長次第ですが」

(負けではない……! まだ枚数も残ってるんだから、ババを引いたところで負けではないというのに、“四宮の手札からババを引き抜くかもしれない”という事実がこうも……!! ええい惑わされるな! 最終的に勝てばいいんだ! そうそう、たかだか一度ババを引くくらい───)

 

 ババである。

 

(あれ!? なにこれ悔しい! うっわめっちゃ悔しい!! べつに負けじゃないのに悔しい!!)

(あー引いた! あー! ババ引きましたね会長~! あっ……な、なんでしょうこれ……! とても、すごく……楽しい! みんなでやるババ抜きってこんなに楽しかったのね!)

「っぐ……!! こっ……校務補佐……! さあ引け……!!」

「じゃあこれ……あ、ペア」

(ちぃっくしょぉおおおおおおおっ!!)

(あらあらまあまあ……! ババが残っちゃいましたね会長~! いい傾向と言えます……そう、このまま私が勝って、願いを……会長に、願いを……!)

 

 そう! きっかけこそ暇潰しから始まり、勝者権限のお願いとして白銀に自分を映画に誘わせたかったかぐやであったが、この大勢の前でそれをさせるのは不可能! それをさせてしまえば“うわ……こんな大勢の前でそんな告白まがいのことさせる気ですか……。四宮先輩ってやっぱり……うわぁ……うわぁあああ……”とか思われたり、“四宮副会長……白銀会長とお似合いだと思っていたのに、公開処刑みたいなことをさせるためにゲームに勝ったなんて……。人前でそんなことをするにはどれだけ勇気が必要かっ……! わ、私は多くの目の前に立つだけでも緊張するのにっ! 四宮副会長には情というものがないんですか!?”などといったことを後輩達に言われかねない!!

 そんなことをこの天才が許すわけがない!

 この状況を制御し、勝利をつかみ、かつ公開処刑のようなことにはならない誘われ方を───!

 

(そ、そう。たとえばほら。大勢の前で会長に誘わせる、ではなく、ただ遊びに出かけるための待ち合わせ場所や時刻などを決めさせるだけなら───! そう、あたかも会長にデートプランを練らせる、といった状況を作り上げれば───!!)

 

 疑似デートの完成である。

 あくまで遊びに行くための時刻などを事細かに決めて、向かうというだけの疑似デート。

 デートとは“憎からず思い合っている男女が二人で出かけることを意味する”ことは周知の事実であろう。

 好き合っていない、意識し合ってもいない男女が出かけることは遊びに出かけるだけと同意! 遊びに出るのとデートでは意識の違いが存在するのだ!

 

(違いますけど!? 会長が、会長が私の勝者権限で、私にそういった待ち合わせを口にするだけで!? わわわ私と会長は断じて! そう! 断じてデートをするわけではありませんけど!)

 

 今! かぐやの脳内では素敵なお花畑が完成しつつあった!

 アホの種から芽が出たそれらは脳内を埋め尽くし、ついには天才をアホが埋め尽くすような事態へと発展してゆく!

 やがてそんな幸せな脳内が、勝利への道筋を確実に作ってゆき───

 

「あ。一番であがりましたー!」

() () ……!!

 

 にぱー、と勝利を獲得した藤原が下種認定された。

 

あなたはいつもいつもそうやって私が手にしたいものばかりを横からかっさらっていくのねそーですかええそーですか。もういいです分かりましたそうですねええそうですよわたしはあなたという人間のそういうところが───

「じゃあ勝者権限です。会長、かぐやさんを男らしく、デートに誘うみたいに待ち合わせ時間とか決めてください」

あなたのそういうところが好きぃっ ! !

「なっ……! 勝利者に直接関係がない命令もありなのか!?」

「当たり前です! 男女が二人で映画を見に行くんですよ!? たとえ恋人関係じゃなかったとしても、そういうところはきちんと男の子からびしっと言ってもらいたいものなんですっ! そんな努力もなく“え? べつに貰いもののチケット消費したいだけだから?”とかそんな気持ちで女の子を誘うとかあんまりにもあんまりです! 猛省してください!」

 

 藤原、ここぞとばかりに白銀のなぁなぁマッチング状態を指摘! これには“状況で”かぐやと出かけることになって内心喜んでいた白銀も驚愕! “そうなったらいいな”が達成されたとはいえ、確かにそれはあまりにも男らしさに欠けている! 自分はそんな、結果だけに満足する目的で彼女との時間を望んでいたのかと自身に問いかける!

 

(───っ……いや……!)

 

 答えは当然否である!!

 

「確かに、それはないな。ああ、男らしくないとも」

「はい! なので会長は───」

「はい千花ストップ。そこから先は御行に任せよう。あんまり言っちゃうと、今度は御行が“千花に言われたから仕方なく”って感じになっちゃうから」

「はうっ!?」

 

 ラブ探偵を自称する彼女はヴィスィーと白銀を指差し諫めるが、はいそこまでとばかりに校務仮面に止められ、さっと白銀とかぐやから離される。

 それを見た石上もまた何を言うでもなく二人から離れ、やがて二人は───

 

「よ、よし。四宮、その───」

「は、はいっ、会長っ……!」

 

 敗者から一変して、勝者に。

 今、白銀とかぐやの脳内ではアホの木が爛漫であった。

 

  本日の勝敗───藤原&かぐやの勝利

 

「……なんか格好つけたこと言っておいて負けるとか。ほんと石上って……」

「はうぅっ……!?」

「こらーミコー? そういうこと言わない」

「男の子ってほんと妥協ばっかですよねー……もっと努力して結果を勝ち取るくらい出来なきゃ、どんなに好きでもいずれ見放されちゃいますよ? いえまあ私も男子と付き合ったことなんてないんですけどねー」

「男女じゃ価値観が違うんですよそもそも。男は結果、女は過程を見るっていうじゃないですか。それと同じです」

「こらー石上くんー? そうやって大勢を盾に自分を正当化するのは無しですよー?」

「……ごめんなさい」

「はい。素直に謝れるのは美徳ですよ、石上くん」

「ああうんそうかも。つい先日、イカサマがバレても悪びれもせず、顔を真っ赤にして誤魔化す誰かとは大違いだもんなぁ」

「仮面くん! 今いいところなんだからそういうの言っちゃダメ!!」

「ということで藤原先輩、僕は自身の正当化を無しにしたのでお願い完了です」

「俺も“今いいところなんだからそういうの言うの”をやめるからお願い完了だな。これで勝者権限終了、と」

「ぇえええええええええっ!?」

 

 ……校務仮面、石上、敗北しつつも勝利。

 

「……じゃあミコちゃん」

「ひうっ!?」

 

 備考。伊井野ミコの敗北。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告