ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

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基本一話ずつな感じで。短いです。


校務仮面は青春したい③

  デート

 

 そんな響きに心ときめかせぬ少年少女は滅多に居ないだろう。

 相手のことを思えばどきどきもするしきゅんきゅんもする。特に初めてのデートなんてことになろうものなら、ドキドキはもちろんのこと、いきすぎれば胃痛にさえ発展する緊張を抱くこともざらにあるといえる。

 そんな中にあって、彼女───四宮かぐやは、白銀が指定した待ち合わせ時刻の30分も前からその場に立ち───

 

(だ、大丈夫かしら……服装、おかしなことになってない? 会長はどういった服を……も、もし服装があまりにも不釣り合いだったら───!)

なんだ四宮その恰好は。随分と気合が入っているようだが、そうかそうか、俺との映画鑑賞がそんなにも楽しみで張り切ってしまったのかそうかそうか。しかし……ふぅむ。俺の趣味ではないな

(───あ! だめ! これ結構精神的ダメージ大きい!)

 

 かぐやは割とガチで泣きそうになった。

 どうあれ最初は私服の自分を褒めてほしいだなんて欲が、ぷかりと浮かんでしまったがための精神的ダメージ!

 会長のことだから外出時でも制服で来るのでは!? なんてことが頭をよぎれば、今から自宅へ戻って制服に着替えてきてしまおうかとさえ思えるほどの激痛が今! かぐやの胸を襲う!

 そんな、どこか陰を負ったような様相の美しい女性を男どもが放っておくはずもなく───

 

「校務執行妨害だばかもの」

 

 知らず、監視に来ていた校務仮面に雷の如き速さで始末されていた!

 

「うわー瞬殺……相変わらずすごいですね仮面先輩。ていうか純粋に心配しての声かけとかだったらどうするつもりだったんですか」

「どうって……んー……大体の人間は目を見ればわかるからなぁ。最初は親切心でも“あわよくば”が浮かんでくると、隠しきれない緩みが出るんだよ」

「あー……それは分かるかもです」

 

 そしてそんな、静かなる校務に付き添う一年組、石上会計と伊井野会計監査。

 

「あの、校務先輩、校務と映画鑑賞と、関係ありますか?」

「いい質問だなミコちん」

「ミコちんはやめてください!」

「高校生徒たる者がすべきことといえば、勉学運動それから青春。待ち合わせるソワソワ女子をナンパしようなんて、青春妨害だ。ほら、校務執行妨害」

「で、ですけど学校の外でまで……」

「んー……ミコ? たとえばお前は校外で秀知院生徒が人目を憚らずちゅっちゅしてたら止めるだろ?」

「ちゅっ……!? は、はい、止めると思います……」

「それと同じだと思えばいいよ。風紀委員が風紀の乱れを防止するのが仕事なら、校務仮面は学園の乱れを正すのも仕事の内だ。学園の外で起きたことでもなんか学校側が責任取らなきゃいけない事態になった時、それ校務と関係ないのに……! って泣き言言ったって誰も頷いてくれないのと同じだな」

「うわ……身内側から聞くと、それ本当にとんでもない理不尽ですね……」

「まあ俺の学園内での仕事は、用務員のソレと大して変わらないわけだけど」

「いえ、仮面先輩ほど働く用務員のおじさんとか居たら、それはそれで奇跡です。普通に胃を穴だらけにしてゲロ吐いてぶっ倒れてると思いますよ」

「いやいやまさかまさか。たまに生徒の悩みとか諍いを耳にして、たまにたまたま解決出来ましたってことくらい、どこぞのおじさんだって出来る出来る」

 

 まさかまさかと紙袋の奥で笑う校務仮面であったが、石上も伊井野も内心“いやいやいや、そんな用務員のおじさん居てたまるか”とばかりに首を横に振っていた。

 そんなまさかまさかに救われた二人としては、どこか苦笑気味に校務仮面を見て“それはないですよ”と思うばかりであった。

 

「っと、白銀も来たみたいだし、俺達は俺達で鳥の助行くか」

「地味に楽しみになってきました。事前に調べたりもしたんですけど、一部の人には結構人気らしいですよ、とっとり鳥の助」

「え? 人気なんでしょ? アンタ、レアチケットがどうとかって言ってたじゃない」

「買う人自体が珍しいって意味での激レアだよ」

「あー、そういう認識で頷く人も多いみたいですねー、鳥の助」

「って、藤原先輩!?」

「藤原先輩、どうしてここに……!?」

「えへへー。仮面くんがお父様に“とっとり鳥の助すら見ちゃいけないのか”って言ってくれたみたいで、鳥の助のことを調べたお父様直々に“鳥の助なら良し”との許可が出たんですよー」

((鳥の助ならOKなんだ……))

 

 そうして四人はぞろぞろと、二人はしずしずと鑑賞券であるそれを入場券に交換してもらう作業に入る。

 一応四人は白銀&かぐやが意識してしまわないよう、多少時間をずらしてからの交換作業に入ったのだが、ここでかぐやの未知との遭遇により、白銀とかぐやの席が離れ離れになるというアクシデントが───

 

「四宮、こっちだ」

「え、会長?」

 

 起こらなかった。ことここに到り、前日の藤原による“男からビシッと誘うべきです”命令が活きたのである。

 それを言われるまでの白銀であったならば、かぐやが一人べつのカウンターへと向かったところで驚きも戸惑いもするだろうが手を引くこともなく傍観するだけだっただろう。座席指定で呆然とするかぐやを見て、12羽のペンギンGを利用しての失敗の未来を踏襲していたに違いない。

 が、ここに来て“男ならば”を胸に抱いた白銀御行! 勉学一本のみでかぐやを圧倒するその頭脳は伊達ではない! 一度経験し、モノにすれば継続して応用さえ出来る天才である彼が、そんな未来を見過ごすはずがない!

 

「ペアチケットだからな。同じ場所で交換しなければ有効ではないかもしれん」

 

 しかしその文句といえば、“あーほら、貰ったこれってペアチケットだし? 一緒じゃないと交換出来ないかもなんじゃね?”みたいな、男らしさを説けば誰もが首を傾げてしまいそうな理由であった!

 ……そうとは知らず、未知なる座席指定で頭から煙を出していたかぐやは、“そういうものなのですね”とあっさりこれを受け入れる! 踏み込んだ質問をしていれば白銀を焦らせることも出来たろうに、頭がもはや考えることを放棄していた!

 結果として、映画は隣同士で見ることになったので、これはこれで勝利である。

 

  ……本日の勝敗。白銀&かぐやの勝利。

 

「子供向けの時間つぶし程度の作品だと思ってたのに泣かされるなんて……! 悔しい……!」

「鳥の助……! 奥が深かったな……! ハム太郎的な作品を予想していただけに、すごい意味で裏切られた……!」

「ずびっ、えぐっ……感動じまじだ……! 見なきゃ……! 今までのお話、見なきゃです……!」

「理不尽に立ち向かって、孤独でも頑張る鳥の助……! 私が生徒会に求めていた世界が、あんな小さな世界に詰め込まれて……!」

 

 備考。とっとり鳥の助のファンが4人増えた。


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