それはとある日の生徒会室でのことである。
「問題! “愛□丘菊”……“□”の中に入る文字はなんでしょう!」
「問題以前に仕事中に急に大声出さないでください藤原先輩。前振りもなくいきなり問題とか、今回の書記の仕事が少なくて手持無沙汰になったからってやっていいことじゃないでしょう」
「石上くんが正論で殴ってくる! か、かぐやさぁん! ミコちゃぁん!」
「藤原さん、仮にも仕事中ですから、急に問題と言われても困ります」
「ひゅぐぅ!? み、ミコちゃん? ミコちゃんは頷いてくれるよね? ね?」
「え、えぁ、あの、あのあの、藤原先輩、でも、今は確かに仕事中で───」
「かわいいかわいいミコちゃんは、ミコちゃんだけは私の味方してくれますよね? かわいいミコちゃん、やさしいミコちゃん」
「えっとその……ここらで息抜きに、なぞ解きくらいいいんじゃないでしょうか、皆さん」
「千~花~? とりあえずミコを篭絡して人数による優位に立つのはやめなさいって言ってるだろー?」
「だって暇なんですもん! 今日はTG部の活動がないからこっちに来たのに、こっちが思いのほか暇なんですもん!」
「うわっ、生徒会役員を使って暇潰しますって断言しましたよこの人。どうするんですか仮面先輩、伊井野はあの通りというかいつもの通り藤原先輩に巻き込まれてますし」
「とりあえずTG部顧問に苦情の連絡を───」
「やめてくださいぃっ! 仮面くんには情ってものがないんですか!? そんなことされたら部の予算とかまた削られちゃうじゃないですか! 普通考えたらわかるでしょ!? 普通考えたらわかるでしょー!?」
「うーわー自分を妄信する後輩をDV加害者みたいに丸め込んでおいて情とか普通とか言い出しましたよこの先輩」
「優、優、顔真っ赤にして涙目になってるから、ひと呼吸で正論ぶつけるのやめたげて」
「仮面くん、石上くん、相手にするだけペースに飲み込まれるばかりですよ。反応している時点でもう徐々に“仕方のないこと”という事実に飲まれかけています」
「「はっ!?」」
「かぐやさん!?」
校務仮面、石上、戦慄! よもや既に藤原ワールドに飲み込まれていたなど、かぐやにツッコまれるまで気が付かなかったのである!
しかも無意識にとくるのだから、これはさすがに負けかと溜め息をひとつ、彼は一言を口にするのだった。
「……はぁ。答えは“上”。で、いいか? 千花」
「……! 正解です仮面くん! ちょっと簡単すぎましたかねー!」
「うわ、めっちゃいい笑顔」
「はぁ……まったく。いつもそうして藤原さんを甘やかすんですから」
「いいだろ、ミコの言うことももっともだってことで。御行も手を止めて、ちょっと頭のリラックスとかどうだ?」
「ん───謎解き問題か。───……キリのいいところまでやってるから、終わるまではそっちで楽しんでいてくれ」
「そうか。じゃあ───」
嘘である。
白銀御行というこの男、“学業においては四宮かぐやをしのぐ存在である”というプライドを持っている。
そんな自分が子供騙しの謎解きなんぞを解けないなど許せるはずもない! だが最初の問題の答えが何故“上”になるのかが、考えてみてもわからない!
なのでまずは様子を見るため、キリのいいところまで作戦に出たのである! ……ちなみにキリのいいところまで作戦とは、主に子供達が親にゲームをやめなさいと言われた時に使われる、かわいい文句である。
ちなみに答えを聞いた時、“あーそういう! あー! あーーー!”と妙に納得するのもよくあることである。
「じゃあ次の問題です! アルファベットでN・E・W・Sの四文字。数字で表すと、Nはほにゃらら、Eは3、Wは9、Sは6。ではNに入る数字はなんでしょう! あ、答えは私の耳元で、ささやくように言ってくださいね!」
「あ、俺からいいか?」
ごさりと紙袋を揺らし、校務仮面が軽く手を挙げる。それに驚いたのは白銀である。答えがさっぱり見えてこないからであった。
しかも今回はコソコソ回答。誰がどんな順番で答えても、白銀は答えがわからないのだ。
「はい! 正解です! 仮面くんはこういうの強いんですか? まさかこんなに早く答えられるとは思いませんでした」
「自分で問題とか作ったりして、子供たちと遊んでた時期があるからな」
「あ、じゃあ僕もわかったんで。……ですよね」
「はい、石上くんも正解! ……ってかぐやさん! 見えないように空中に数字を書くんじゃなくて、囁いてくださいよー!」
(えっ!? 四宮もわかったの!?)
「じゃあ、残りはミコちゃんですねー。ミコちゃん? わかりませんかー?」
「えっ……あの……Eが3でWが9……? Sが6で……N、N、が……?」
(あーーーーーよかった! 俺だけじゃなかった! あーーーーーっ!!)
「じゃあミコちゃんの負けってことで、次の問題行きましょう!」
(えっ!? 答えはっ!?)
「えっ!? あの藤原先輩、答えは……」
「あ、そうでしたね、えっと、答えは12です」
(え? なんで!?)
「え!? どうしてですか!?」
「ミコ、ミコ、ほら、東西南北と、時計」
「東西南北と………………あー!」
(あーーーーーーーーーーーっ!!)
学年1位たちの納得が、心と生徒会室にこだました。
「えへへー、ミコちゃんはちょっと頭が硬いのかもしれませんねー。これは少しこういったなぞなぞで、考える頭に柔軟性を持たせなくちゃです」
「ああ、藤原先輩とか頭すごいやわらかそうですもんね」
「おいこらー? ぶっとばすよー石上くん」
「藤原先輩っ、次をお願いします! 次こそすぐに解いてみせますから!」
「うんうん、ミコちゃんは素直ですね~。じゃあ第3問。8×8=4。同じく8×8=32。9×9=40。では19×19=なんでしょう」
「っ……!」
「いや藤原先輩、それある程度のそういった方向に知識がなきゃ無理でしょ」
「えぇっ!? 石上くんもうわかったの!?」
「ええまあ」
「大丈夫……? 見栄とか張ってませんか……?」
「たまにそういうのも見たりするんで、まあ。あと問題集片手に持たなきゃ問題出せない人に見栄とか言われたくないです」
「ふぬぅ!?」
ぐぅの音が出せない藤原であった。
ともあれ、石上はツッコミつつも指である形を作った。答えは言わない、というルールの上での行動!
これを見て白銀と伊井野は思考を巡らせる! 白銀の脳裏に“ラップ”という言葉が浮かぶが、掛け算方式の問題の答えにはなり得ない! そもそも掛け算の割に答えが違うのであれば、それは掛け算とは離れたなにかを意味する筈!
今! 白銀と伊井野の頭の中で、学年1位のプライドが、思考をかつてないほどの速度で回転させる!
「かぐやは解けたか?」
「ええ、早い段階で。そういう仮面くんは?」
「まあ俺も。経験としては祖父との勝負で9×9=40が多かった。19×19も祖父の知り合いが好きで、たまに」
「なるほど。その言葉で間違いはないと確信できました。では皆さんも見当がついているようなので、答えを言っても?」
「僕は構いませんよ。ちなみに4の方の8×8は僕も息抜きにすることあるんで、答えはちゃんとわかってます」
「結構です。伊井野さんは…………目が回ってますね。では。答えは0です」
「はい、正解です」
((え!? なんで!?))
白銀と伊井野、驚愕!
「ちなみに理由も答えられますか? あ、じゃあこれは石上くんに」
「ボードゲームのゲーム開始時のコマの数でしょう。オセロなら8×8のマスに白黒二個ずつの計4個。将棋なら9×9のマスに自分と相手の20個ずつ、計40個。今回の問題の19×19で0っていうのは、囲碁を指しますね。あれはスタート時にはコマ数0ですから」
言いつつ再び先ほどの手の形を取る石上。白銀がラップ独特のポーズかと思っていたそれは、碁石を構えたものだったのだ!
「はい! 石上くん正解です!」
((あーーーーーーーーーー!!))
白銀&伊井野、激しく納得!!
「じゃあこの調子でさくさくいっちゃいましょう! あ、会長、お好きな時に混ざってくれていいですからね!」
「あ、あ……ああ。片が、付いたら……な」
「はい! では第四問です!」
その後も問題が出る度、白銀と伊井野は悶絶。
学年1位という自負がぼろぼろと崩れ落ちる中、しかしせめて一問でもと思考を回転させ、その度に答えに辿り着けず、内心で“あーーー!”と納得する時間が続いた!
「………」
そんな様子をちらりと見る紙袋。
ふむと頷いて、問題を出し続ける藤原から問題集を抜き取り、「じゃあ、ここからは俺が出すから千花も答える側に回ってくれ」と告げた。
「いいですねー! 丁度私も答える側やりたいなーって思ってたんです! あ、でも私その問題集全部やっちゃってるので……」
「大丈夫だ。即興問題には慣れてるから。じゃあ第一問だな」
「どんと来いです!」
「ずっと正解するっていうのも、なんだか新鮮なもんですね。仮面先輩、お願いします」
「はぁ……まだやるんですか。(……こんな猿でもわかるような問題を解くよりも、なにかしらの会長の弱点をさぐる糸口になるようなものを用意してくれればいいのに……)」
(絶対当ててやる絶対正解してやる次こそは次こそは次こそはぁあああ!!)
(正解しなきゃ正解しなきゃ校務先輩が出題するなんてあぁあああ正解しなきゃ……!!)
溜め息を吐くかぐやを他所に、二人は現時点で弱点を曝け出しまくっていた! 巡らせる思考が答えにこれっぽっちもかすらない屈辱! 今まで積み重ねてきた知識が通用しない世界! 二人のプライドは崩れゆくばかりで、積み重ねてきた時間が無駄だったと言わんばかりの問題たちに、いっそ泣きたくなってきていた!
だが───
「頭を使いすぎないことが重要なんだから、難しい話は無しで行こうな。問題。キスはキスでも、一度くっつくとなかなかとれないキスはなに?」
(((キッス!?)))
脳内驚愕にかぐやが参戦した。
「あ、ちなみにどんどん出していくからわかった瞬間に答えてくれていいぞ」
「ではここは私が!」
「はい千花」
(藤原書記!?)
(藤原さん!?)
(藤原先輩!?)
「答えはホッチキスですね。簡単すぎますよぅ」
「はは、だな。でも一問目なんてこんなもんだろ。というわけで、こんな調子の軽い問題で行くから」
「なるほど、難しくもないからちょっと考えるだけでいいんで楽ですね」
「ふふん、石上くん。ちょっと難しめの問題ならまだしも、こういった方向での私は───強いですよ?」
「へぇえええ……じゃあ僕も頭を休めるつもりでのんびりいかせてもらいます」
(ホッチキス……あー! ホッチキスね! あー! あー!!)
(あー! ホチキス……あー!!)
(え、えーわかってましたよホッチキスですねホッチキス! いえべつに!? キッスと考え込んでしまって、ホッチキスと結びつかなかったなんてことはありませんけどええありませんけど!!)
白銀と伊井野は知識を取り入れ、次の応用とするための基盤とする! かぐやは一人真っ赤になっていた!
「第二問。口に八個入れるとあっというまに四個になるもの、なーんだ」
「あ、これは簡単ですね」
「ふえっ!? ……い、いしがみくん? かんたんって……」
「え? もしかして藤原先輩わからないんですか? 簡単すぎるとか言っておいた矢先に!?」
「そそそそそそんなことあるわけないじゃないですかわかりますよわかってますよ!? 私はゲームにおけるブラフ以外嘘なんてつかないんだから! つかないんだからー!!」
嘘である。
この女、言葉にした直後にこそ答えは見えたが、質問した時点では答えは見えていなかった。
それを、質問した直後にわかってしまったなんて言い出せず、ちくちくと攻撃されるハメになっただけである。
「答えは口です! 漢字の口に数字を入れると日や目になって、八を入れると四になるんですよどーですか正解ですよね!?」
「はい、正解」
「……!」
「うわー、すごいドヤ顔。どうせ喋ってる途中だ気づいたとかわかったとかそんなところなんでしょうに」
「答えられて正解ならなんの問題もないんですもん嘘にならないなら私が正しいんですよへへーんだぁ!!」
(い、いや、わかってたし? 口で八……四、だろ? わかってたし!?)
(え? え? 口で八で……漢字? 八、八……あ! あーーー!)
そうして出題されるたびに藤原と石上が我先にと答えを告げ、その度に驚愕と納得を繰り返す白銀と伊井野。
かぐやは一人溜め息を吐きながらも、書類仕事を片手間に進めたり全員分の紅茶を淹れたりしていた。
藤原は次こそ余裕で答えてやろうと、耳に意識を集中させた。
「硬貨が二枚あり、合計金額が150円。一方は五十円玉ではありません。さて、硬貨は何円と何円でしょう」
「んんんんんんんん!?」
「千花、声がえらいことになってる」
「あ、これ僕わかります」
「ん゙ェエ!?」
(なにぃ!?)
「えっ!? アンタこれわかるの!?」
「簡単だろ、仮面先輩、答え言ってるようなもんだし」
「……!?」
伊井野ミコ、驚愕! 声にならない声をあげ、すかさず異議ありとばかりに藤原が声をあげた!
「え? あの……仮面くん? 一方が50円じゃないのに150円なんですよね? 問題間違ってませんよね?」
「優がちゃんと分かってるじゃないか」
「……!?」
(え!? じゃあマジで普通に答えあるの!? 100円と50円……一方が50円じゃなくて……え!? どゆこと!?)
端で聞き耳を立てていた白銀、さらに困惑!
「合計が150円で、硬貨が二枚で……え? 一方が50円じゃなくて……」
伊井野、さらに混乱!
(はぁ……まだ続けるのかしら。片手間で仕事も終わってしまいましたし、そろそろ……)
かぐや、なおも静かに溜め息。
「じゃ、優。答えは?」
「100円と50円ですよね」
「はい正解」
「「なんで!? 50円じゃないって言ったのに!!」」
「藤原先輩も伊井野も固定して考えすぎ。一方が50円じゃないから100円なんでしょーが」
「え? …………え?」
「一方じゃなく両方だったら、そりゃ50円って結論は出ませんよ藤原先輩。重要なのは“一方”が50円じゃないことなんです、この問題」
「…………引っ掛け問題じゃないですかー! 仮面くんのアホ! 鬼畜! リラックスとか言っといてストレス溜めさせてどーするのぼけなすー!!」
「だから難しく考えるなって言ったのに……」
(いや……引っ掛けがどうとかではなかった……! 校務補佐はほぼ自分で答えを言っていたのに、俺達はそれを難しく捉えた所為で聞き流す結果になってしまっていただけだ……!)
(柔軟に……なるほど。校務先輩、次は難しく考えずに行かせていただきます───!)
そして意気込む白銀と伊井野。力が入りすぎていることを自覚出来ていない二人であった。
「じゃ、またまた簡単な常識問題だ。木の上に鳥が8羽居ます。猟師さんが銃で一羽仕留めました。残りの数は?」
(常識問題───常識。なるほど、単純に答えろというそのままの意味か!)
「単純に単純に───はいっ! 7羽ですっ!」
「はいミコ不正解」
「あれぇっ!?」
「いや伊井野……常識で考えれば、銃声鳴れば狙われた鳥以外はみんな逃げるだろ……」
(へ? …………あーーーーーーーっ!!)
「え? ……あ。……あー!!」
「じゃあ次はある意味常識問題。えー……っと。1、サル。2、イヌ。3、○○。4、鬼。5、人間。3番目に挙げられている生き物はなんでしょう」
取り出したメモに文字を連ね、訊ねる校務仮面を前に、一同思案。
なるほど、と頷くかぐやと、ああ、そういうことですかと頷く石上と、あ、これ桃太郎だーとポワポワ微笑む藤原と───
(桃太郎! これ桃太郎だろ! サルイヌ鬼人間ときたら、あそこに入るの絶対キジだって! 常識問題だもんな! 難しく考えちゃいけないんだもんな! つまりキジだ!)
「常識的に考えて、桃太郎に登場する生き物……だから、○の数からしてキジで……ん。難しく考えないで、常識的に───あれ? でも“ある意味”って校務先輩が……」
(───ハッ!? そうだ、ある意味……ある意味常識問題って言ってたぞ校務補佐は! ある意味……いや、もしやこれこそ俺を惑わす言葉の可能性も……!)
「ううん、難しく考えちゃだめなら単純に! はいっ! キジです!」
「はいミコ不正解」
「あれぇっ!?」
「ええぇえええええっ!? キジじゃないんですか!? だって桃太郎ですよねこれ!」
「えっ……もしかして藤原先輩わからないんですか!? さっきまで得意顔でふふーんとか言ってたのに!? 恥ずかしい……! これは恥ずかしいですよ藤原先輩!」
「はぅう!?」
「キジじゃない……○の数が二つで、他に登場するのは……はっ! そ、そうです! “夫婦”! 老夫婦です校務先輩!」
「はいミコ再び不正解」
「あれぇっ!?」
(えっ……マジで? 夫婦じゃないの? え? じゃあ誰?)
白銀、心の中で呆然。もはや書類作業が停止している状態である。
「かぐや、答え言ってもらっていい?」
「はぁ……はい。答えは鬼、ですね」
「はい正解」
(えぇええええーーーっ!?)
「えぇえっ!? な、ど、どうして……鬼は四番目に───!」
「伊井野さん。この場合、仮面くんがわざわざ文字として書き出したことに意味があります。文字にして、私達に見せて、“三番目に挙げられている生き物を答えなさい”と言ったのなら、鬼以外には有り得ません」
(………)
「………」
(あーーーーーーーーっ!!)
「あーーーーーーーーっ!!」
白銀&伊井野、衝撃の納得!!
そして同じく納得とともに騙されたと叫ぶ藤原!
「またひっかけ問題じゃないですかー!! 簡単って言っておきながらずるいです! 鬼畜の所業ですよ! 猛省してください仮面くん!!」
「いや……ある意味常識問題だろ。視覚的常識問題ってやつだよ。じゃあ次の問題……だけど、あんまり長く続けるのもあれだし、これが最後にしよう」
「お……おお、だな。あまり遊ばれていても困る」
「会長も混ざってくれたらよかったのにー……」
「まさか、会長までもがそうそう遊ぶわけにもいかんだろう」
「息抜きって言ってるんですから会長もやりましょうよー」
「藤原さん、あまり無茶を言ってはいけませんよ」
「むー。ですけど……」
しょぼんとする藤原を他所に、白銀は誰にも聞こえないように静かにひっそりと息を吐き出していた。
(だめ! まっずい! 一問たりともわかんねぇ! 1・2問聞けば応用ですぐ答えられるだろうとか思ってたのにちっともわかんねぇ!)
(一問も解けないなんて……そんな……! 勉強と関係ないからって、せっかく校務先輩が出してくれた問題を……!)
「では問題。何度“あげる”といっても“いらない”と答えるのはどこの国の人でしょう」
(───イラン人!! これ絶対イラン人だろ!)
(いらない、いらない───いらん? イラン人!? はっ……初めて解けた! せ、せんぱい! 校務せんぱい! 私───)
(あ、これひっかけ問題だ。最後までこれなんて、仮面先輩意地悪するなぁあああ……)
(……ふふん、もー騙されませんよ仮面くん。“いらない”って答える人ですもんね……これイラン人じゃないですよね……仮面くん最後の最後までひっかけ問題なんて……)
(はぁ……イラン人。と見せかけて“日本人”ですね。いらない、と日本語で答えているのですから。7人でかくれんぼをして4人見つかりました、残りは何人? と言っているようなものですね。ええ、もちろん答えは2人ですけど)
それぞれの頭の中に答えが浮かぶ!
確信とともに初めて解けたことに喜ぶ白銀! 同じく興奮と緊張を胸に、挙手をして答えたい衝動に駆られる伊井野!
早くもひっかけ問題だと気づき、ちらりと伊井野を見つめては“やらかすかなぁ”と溜め息を吐くも、忠告はしてやらない石上!
藤原は楽しそうに伊井野を眺めるばかりである! そしてかぐやは───白銀の弱点はどのようなものかを考えながら、小さく溜め息を吐くのであった。その横で答えがわからず苦悩しているとも知らずに。
「は、はいっ、答えはイラン! イランの国の人です!」
「はいハズレ」
「えっ───」
(え!? ウッソマジで!? え!? イラン以外なくね!? え!? だっていらないって答える───いらない? いら───あーーーーーっ!! え、あ、やばっ、わかっちゃった俺! 答えたい! 今俺挙手してめっちゃ答えたいんですけど! でも───)
【まさか会長までもが遊ぶわけにもいかんだろう】
(ぁあああああっ!! 会長までもがとか言っちゃったよ俺ぇええっ!! 俺言っちゃったよ! 藤原! もうちょっと強く誘ってくれ! 俺今なら喜んで参加するから! 俺わかったから! 藤原! 藤原ーーーっ!! はっ!? いや待て!)
【はぁ、まったく。答えは日本人だろう? いらない、と日本語で言っているんだからな。さ、遊びは終わりだ。仕事に戻れ、諸君】
(こ れ だ !! よ、よし行くぞ!)
「はぁ……もういいですか? 答えは日本人です」
「かぐや正解!」
(まったく……。いえ、けれど……雑学にも明るいという意味では、会長も“頼もしい奴め”とか思ってくれたりして、好感を持ってくれるんじゃ……)
(ぁあああああああーーーッ!! わかってたのに! 俺わかってたのにぃいいっ!!)
白銀のかぐやへの好感度が少し下がった。
「え、え? にほんじん……? だって、いらな───あーーーっ!?」
本日の勝敗。……白銀&伊井野の敗北。
なおこの日より、藤原が問題を出すのを今か今かとソワソワする、白銀と伊井野の姿が見られるようになったとかならなかったとか。