告白。
それは幸福と不幸を同時に持ってくる可能性を秘めている、大変恐ろしい行動である。
好きな人からの告白は幸福であり、好きな人への告白と拒絶は関係の断滅を意味する。
それをそうと知ってなお告白するのが恋愛脳に動かされた者達であり、多くの場合は“こいつ、俺に気があるんじゃね!?”なんて勘違いから関係を破壊してしまう。
さて、ここに本日、恋愛相談をしに生徒会へとやってきた秀知院生徒が居るわけだが。
「僕……同じクラスの柏木さんに告白しようと思うんです!」
「やめとけ」
「やめといた方がいいですよ」
「え? 田沼くんて自殺志願者ですか? どうしたらチョコボールで告白しようって思えるんです?」
「あの。さすがにチョコボール3粒で告白されても迷惑だと思います。いえ迷惑です」
(辛辣──────!!)
秀知院学園二年! 田沼翼!!
バレンタインデーに柏木からチョコボール3個を貰ったという接点以外、特に関係もない彼女に告白しようと思った彼は今───生徒会のほぼのメンバーからボロクソに言われていた!
そもそもが恋愛相談に乗っていたのは白銀のみだったのだが、あとからあとから現れた生徒会メンバーにも相談に乗ってもらうという自体に陥り……この有様である。
校務仮面には即答でやめとけと言われ、石上からはやめといた方がいいですよとやんわりと言われ、藤原においては自殺志願者とまで言い出す始末! かぐやはこの場に居ないが、伊井野の言葉がトドメとなって翼の胸を貫いた! 男子にとって、女子の“迷惑”という言葉は本当に突き刺さるのである!
相談を受けて、なにかいい言葉を言ってやろうとしていた白銀、白目になりながらも翼を思うと泣きそうな気持ちであった!
「やっぱり僕なんかが恋愛とか無理なんでしょうか……」
「や、そうでもないぞ? お前が柏木に彼女居ないか訊かれてた時、俺も校務で廊下に居たんだけど、あの中に確実に一人だけ、お前のこと好きな奴居たし」
「えっ……本当ですか!?」
「え……マジですか? 言葉で聞いた限りじゃ、どの反応もひどいと思うんですけど」
「えっとたしかー……“居そうにないもんねー!”と“超ウケル!”と“ふふ”って笑いでしたよね。……仮面くん……どれも脈なんてなさそうですよ?」
(藤原ぁああ! ほんとちょっとは空気読めお前ぇえええっ!!)
藤原の空気を一切読まない言動が、田沼の胸に突き刺さった。俯き震える田沼を見れば、白銀の心の絶叫も当然である。
「そりゃその場できちんと聞いてないからだろ。普段からなにかっていうと田沼のこと見てたし、言ってた言葉もよく聞いてみれば声が震えてた。あれは嬉しさを押し隠してる声だな」
「ほっ……本当ですか!? いったい誰が───!」
「ああ、えっとな───」
「「「「「───!!」」」」」
瞬間、生徒会メンバーは強い関心を抱いた。
「超ウケルって言ってた子。四条眞妃」
(えーーーーーーーーーーーっ!?)
扉の外で話を聞いていたかぐや! 誰よりも先に心の中で大絶叫!!
「えっ……四条、って、あの四条先輩ですか!?」
「あー……なんか確か、四宮先輩の遠縁に当たるとかなんとかいう……そういう人でしたっけ」
「そうそう、その四条眞妃」
「そんな……ぼ、僕のことを、彼女が……!? だって、顔を見合わせたらツンケンされてばっかりですよ? 好きだなんてそんな……」
「いや、100%成功するから告白してみるといい」
「100%!? 本当ですかっ!? ぁっ……で、でも告白なんてどうしたら……」
「そこは自分で考えよう。気持ちをぶつけて付き合っていくんだ、自分の言葉で伝える努力もなしになぁなぁなんて、ここにおわすラブ探偵が許さん」
「エ? ───そうです許しませんよ!!」
「藤原先輩、今自分がラブ探偵だってこと忘れてましたね」
「ふひゅー! ひゅー! ふしゅー!」
「口笛、吹けてませんよ」
「まあ千花は置いといて。田沼、この際だからチョコボール3個分の恋はきちんと吹っ切っておくこと」
「…………ハイ」
「けどまあ告白は自分の気持ちをぶつけるにしても、100%の成功率でも思い出に残るものであるに越したことは無いよな」
「そーです! 男性から女子への告白ですよ!? いっぱい考えてたくさん努力して、やっと、やぁっと、たくさんの想いを伝えるんです! その努力を怠るなんてことは私でなくとも全女子が許しません!」
きっぱりと言われ、田沼は考える。100%と言われて浮かれはしたが、確かにつまらない告白で恋人になっても、それは一生思い出に残ってしまうのだ。
ならばここで男を見せねば! 彼の中の男が今、静かに覚悟を完了させようとしていた!
「じゃあどんな告白がいいかな。や、言葉は田沼に任せるとして」
「シチュとかですか? ……それ、僕に訊きます?」
「ゲーム知識とかでもよかったんだけどな。御行はどう? 告白するならこんなの、とか助言とかある?」
「ふむ。……まず、ここに件の女性が居ると仮定する。で、そのすぐ横の壁を───こう!」
白銀は生徒会室の扉へ強く掌底をかました! 外で聞き耳を立てていたかぐや、大驚愕! すかさず「俺と付き合え……!」なんてイケボで囁かれたものだから、かぐやの胸はびっくりとトキメキがごっちゃになっていた!
「へー……壁ドンですか。古典的かもですけど、効果はありそうですよね」
「いや。この技の名前は“壁ダァン”だ。俺が名付けた」
「え……いや会長、それ壁ドン───」
「壁ダァンだ」
「壁ド───」
「壁ダァンだ」
「………」
石上優はしばし考えた。そこへソッと校務仮面が近づき、ドンとダァンの差を語り始める。
「優。ドンとダァンの差は、壁に当てる手の勢いと強さだ。御行のそれは相手にぶつける思いを全力で表すようにぶつけて、昨今の壁ドンはドンというよりはトンに近い。勢いが足りない」
「……! つまり壁ダァンとは……!」
「昨今の軟弱な壁ドンの完全上位互換奥義だ。手元が狂うと壁をダァンどころか、意中の相手をギガンテックプレッシャーなほどに危険な技だな。立ち位置に寄れば危険が伴う状況を自ら作り出し、しかしその危機感をトキメキへと変換、告白を成功させる」
「マッチポンプじゃないですか」
「それ言ったら壁ドン開発者自体がそれじゃないか」
「ですね」
そして和んだ。結果が得られるならいいじゃない。いわゆる思考放棄である。
田沼も「天……才……!?」と震えていることから、石上も微笑みを浮かべて思考を投げた。
「ありがとうございます生徒会の皆さん! 皆さんのおかげで勇気出てきました! 特に会長……僕にこんな技まで伝授してくれて! さすが、あの四宮さんを落としただけのことはありますね!」
「「「「「!?」」」」」
生徒会メンバー、激震!
「え……御行、お前そうだったの……!? いっつもヘンテコな行動ばっかりとって踏み出さないから、この子ったら行動起こす気これっぽっちもないんじゃ……とか思ってたのに……!」
「内心がひどすぎる!?」
「僕は会長と四宮先輩、お似合いだと思ってたんでいつかはそうなるかと。ソファ使って首絞められた時はどうなるかと思いましたけど」
「首絞っ……!? お前になにがあった石上!!」
「会長! 会長とかぐやさんってそうだったんですか!? いっつもいっつも関係ないそんなつもりはない気の所為だとか言ってたじゃないですかー!!」
「いやほんとそんなつもりは……!」
「生徒の見本となるべき会長と副会長が……っ! 嫌っ……私達に隠れて、黙っているような関係を……!」
「お前また盛大な勘違いしてるだろ伊井野! 校務補佐! 校務補佐ー!」
乞われたならば颯爽解決。校務仮面はふるふる震えて怯える伊井野をさっと引き寄せると、倒れまいとする人の本能を利用、体重移動を操り、気づけば伊井野はソファの上に座る、校務仮面の腕と膝の中に居た───!
「え───」
「……そうだな、辛いよな。信じてた人がまさか、なんて考えると。お前はいつも頑張ってる。そのままのお前でいいんだ。でもな、もう少し信じてみよう? その頑張りを広げてみよう。大丈夫、お前なら出来る。辛い時は泣いてもいいんだ。でも、その涙にも誇りを持てるように、誤解だけはしないようにしよう……? 大丈夫……きみはやさしい子だから───」
そして繰り出される、囁くようなイケメンボイス! 声に氣を含ませることでその効果は倍増し、さらにはソファの上でお姫様抱っこ状態になった時には既に氣で包まれていた伊井野にとって、その効果はさらに倍増!
弱っていた心にやさしい言葉が染み渡り、ちょろいと称されても仕方がない速度で言葉のやさしさに落ちていった!
「え───あの、あれは」
「見ないでやってください、生徒会の恥部です」
震える田沼に石上は冷静に懇願した。
傍から見れば、紙袋をつけた男が怯えている女子をソファの上でお姫様抱っこしながらやさしい言葉をかける、などというおかしすぎる状況! しかし校務仮面の紙袋など幼い頃から見慣れた伊井野ミコにとって、そんな常識的なおかしさなど許容範囲なのである!
親が秀知院のOBであるならば、誰もが校務仮面の世話になるのは当たり前! 仕事で忙しいため、または海外で仕事をしている際などに、校務仮面に甘えてしまう者達は案外結構居たりした! 当然伊井野ミコの親もそうである!
幼い頃からお手伝いさん以上に踏み込んで接してくれた校務仮面という存在に、きっと代は変わってるんだろうなーと思いつつもそれだけで絶大な信頼を置く伊井野ミコは、彼を疑うということを知らないのだ!
……ちなみに、ベッドのない自室で大きな熊のぬいぐるみに抱かれながら寝るのが彼女の睡眠というものだが。当然、校務仮面に同じように抱かれながら眠ったことがある。氣で包まれながらの睡眠は安心と温かさ、そして校務仮面の心臓の鼓動も相まって、彼女はかつてない程のやすらぎを得ながら眠ったという。
これで校務仮面の頭が坊主で、子守歌が般若心経だったら完璧だったのだろう。伊井野ミコの趣向は深い。
そういった経緯でこてーんと幸福とやすらぎに落ちた伊井野は、見ないようにしている心優しい生徒会メンバーのことも忘れ、スヤァと眠りについたのだった。
「ふぅ、強敵だった……!」
「いつもすまない、校務補佐……!」
「苦労をかけます、仮面先輩……」
「ミコちゃん、思い込みが激しいですからね……」
「あ、なんか校務仮面さんの立ち位置が分かった気がします……」
本日来たばかりの田沼にすら、校務仮面の立ち位置が理解出来てしまった。
校務仮面───中身の彼とて、真顔で女性に向かってあんな……歯が浮くどころかカタパルト発射してしまいそうな言葉など連続して吐き出したくないのだ。しかし昔から知る彼女は必要とされることに喜びを覚える、というところがあるため、歯を食いしばって癒すのだ。
最初に生徒会メンバーに見られた時の反応などは目も当てられず、思わず“あ、死のう”……と死を選んでしまうほどに恥ずかしかったという。
「で、なんの話だったっけ」
「会長と四宮先輩がお似合いって話ですよ」
「あ、そうだそうだ」
「あ、そ、そうですよ会長! まさかもうかぐやさんに告白したんですか!? 私に隠れていつの間にそんなことしてたんですか!? どうして私に相談してくれなかったんですかー!」
「ラブ探偵を自称してる藤原先輩なら、言わなくてもわかってくれるって思ったんじゃないですか?」
「ふぐぅ!?」
伊井野が校務仮面の制服の上着に包まれてソファですいよすいよと眠る中、ラブ探偵は言葉の槍に貫かれ、永眠したくなりそうな心境だった。
「けど実際どうなんだ、御行。俺は───いやまあ、人の恋愛観にあまり踏み込みすぎるのもあれか」
校務仮面、マジで会話を始めつつもハッとして話題終了サイン!
丁度自分を見ていた石上と白銀に生徒会の扉を軽く促してゼスチャー!
ハッとした石上と白銀、すぐさま状況を察知! かぐやに関する恋愛話を終了することに賛同!
「会長! それでどうなんですか! 気づけなかった私も私ですけど、もし告白がまだならいろいろ相談に乗りますからー!!」
しかしFは気づかなかった!
(おいこらァァァァ!!)
(今しがたゼスチャーしたばっかりでしょうが空気読んでくださいよ!!)
白銀&石上、心の中で絶叫&軽くゼスチャー! しかしFには届かなかった!
「い、いや……んんっ、そのだな。いや、確かに可愛いとは思う。美人だし」
白銀の言葉に、わあ、などと目を輝かせる対象Fの後ろで、校務仮面は死んだ目で大きなカンペを持っていた。
それを目にし、白銀は言葉を続ける。
「おしっ……お淑やかで気品もあるし!? それでいて賢いとか完璧すぎだろっ!!」
「……あの。これは」
「触れないであげてください、生徒会の恥部です」
石上は静かに涙を流した。
いつの世も男は女に振り回されるものなのである。それらを校務仮面が語ったお話でよく知る白銀と石上は、生徒会の安穏を守るために心を律して行動した。
「ああもう四宮ったらマジ最高の女ァアーーーッ!!」
白銀はヤケクソになり、普段ならば絶対に言えない言葉を“これ言わされてるだけだから! 生徒会の調和のために言わされてるだけだから! だったら普段言えない言葉とか思い切り心込めて言ってもいいよな!”的な気持ちで全力で叫んだ!
その想いは扉の外のかぐやの心に突き刺さり、嘘偽りのない気持ちを正しく受け止め、顔を赤くさせていた。
人の黒さと幾度も対面する機会がある“四宮”に立つ者として、偽りの言葉など簡単に見抜けるかぐやである。───だからこそ!
(会長……! そこまで私のことを評価して……!?)
耳に届いた言葉がマジであると理解すればするほど、顔は勝手に灼熱し、出るに出れない状況に陥った!
これよりしばらくかぐやのアホ化により、生徒会は平和な日々を送るのだが。まあそれは別の話である。
「あ、ちなみに田沼。告白するならな、いい場所があるよ」
「え、いい場所……ですか?」
(……? 仮面くん?)
「ん、この校務仮面が全面的に推しましょう。スポットAっていってな? 渡り廊下の半ばにある場所で、まあもちろん時間帯も重要になるのもあるんだけどな、これがまたいい具合に演出してくれるんだ」
「演出……」
(スポットA───!?)
白銀が対象Fに質問責めにされている中、かぐやは聴力に全神経を注いでいた。
「まず渡り廊下の室内灯がキーライトに。窓から差し込む西日がバックライトに。体育館のソーラーパネルが反射板になって、風で運ばれるラベンダー畑の香りがい~いシチュを作る。その全ての恩恵を、時間が限られているとはいえ作り出すのがスポットAっていう、渡り廊下中部の窓際にぽつんと存在する場所だ」
「すごい……! そんな場所が……! そ、そこで彼女がドキっとした瞬間に、畳みかけるように会長の壁ダァンですね!?」
(まあ……! そんな場所が……!)
かぐやは強い関心を抱いた。
……本日の勝敗。四条眞妃の大勝利(めでたく付き合うことになった。即落ちだったという)
備考。ラブ探偵がかぐや関連で白銀をつついてくるようになった。白銀は静かに涙を流した。
また、四条眞妃と田沼翼の告白劇場を近侍に撮影させていたかぐやが、それを見て白銀に告らせるためにいろいろと画策し、スポットAにて側頭部にサッカーボールが直撃することになるが、それもまた備考である。