ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

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いろいろ考えながらカタカタ書いたもの、
前話との関連性はありません。
前のウマ娘ノーザンブレードは三番目に書いたもの。
こちらは二番目に書いたもの。
次は最初に書いたもの。
特に設定とかあまり気にせずにわか頭で書いたものなので、あまり深く考えずに読むことを……オススメシマス……。


傍らに立つオトモとして

 ───それを彼女が口にした時、白い少女は思った。

 こいつがこんなもんで足りるもんかい、と。

 

(美味いはまあ美味いんやろな、おお、それは認めたる。あのオグリが目ぇ輝かせながら食ぅてるの見れば言われるまでもないわ)

 

 けど。

 

(あないな串団子3本とお茶(・・・・・・・・)程度でオグリが満足するわけないやろがっ! ほ~れ見てみぃ、あっちゅう間に団子も食って……って、あない大振りの団子三つとも、よぉ口ン中入るな!?)

 

 タマモクロスは驚いた。団子は串に三つついていて、その一つが大きく開いた口にやっと入るか入らないかの大きさだが、それを一口できゅぽん、と口に含んだのだ。

 それをもっちゃもっちゃと咀嚼しながら、美味しいのかこくこくと頷き……次いで、置かれていたお茶を両手で掴み、ゴッゴッ……ぱはぁっ! と勢いよく飲み込み、残りの二本の串もきゅぽんきゅぽんと食べていった。

 やはり最後はお茶でシメると、彼女は思う。

 

(さ、来るでぇ? 足りない言うか、素直におかわり言うか。まぁどう転んでも腹は鳴るんやろな)

 

 腕を組んでフフッと笑うと、不思議なことにオグリキャップが席を立った。そして店主にお辞儀をすると、なにやら両手をゆっくりと頭上に持ち上げていき、“フーン!”といった感じにガッツポーズを取るのだ。

 あ? なんやそれ、と思わず突っ込みそうになりつつも、まあすぐにまた食いモン欲するに決ま「……うん。お腹いっぱいだ」「なんやてぇえええっ!?」常識が覆された瞬間である。

 

 

 

 

 

 ──────“ウマ娘”。

 

 彼女たちは、走るために生まれてきた。

 

 ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走る───それが、彼女たちの運命。

 

 この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。

 

 彼女たちは走り続ける。

 

 瞳の先にあるゴールだけを目指して───

 

 

 

 

 遠い昔の物語。

 のちに何者かが壁画に残したものの中に、人と、ウマ娘と、その隅に人ではない、ウマ娘でもない何かが描かれていた。

 それがなんだったのかを研究する者も居れば、ただ立った猫を絵として刻んだだけだと言う者も居る。

 人の学者は答えを探し続けるけれど、ウマ娘はその身に流れる血で、その存在のことをなんとなく理解していた。

 自分たちはその存在に助けられたことがあり、その存在の友であったと。

 けれどいつしかウマ娘が人の前で走ることが当たり前になると、その隣人とは疎遠になっていった。

 いつしか隣人の姿を見ることはなくなり───時は現代。遥か昔より現在へと移る。

 

  ───北海道、某所。

 

 その山奥にてポーチを下げた小さな存在がニャ、と鳴き、身だしなみのチェックを終えた。

 

『それじゃあキャンペンガールさん、お大事にニャ。もう全然普通に動けますし再発の危険もありませんがニャ、無茶しての故障はさすがに面倒見切れないニャ』

「ありがとうございます、ノーザンさん」

『ニャ』

「ノーザンブレードさぁあああん!!」

 

 ドッゴォッ!!

 

ーーーウ!?

 

 綺麗なお辞儀でニャ、と返した猫姿の二足歩行猫に、まだまだ小さな一人のウマ娘が見事なタックルをかました。タックルというか、抱き着きというか。ショットガンタッチと言えば分かりやすいだろう。

 ちなみにウマ娘は70キロもの速度で走れると云われ、そこまでの距離はなかったとはいえ、強く部屋の床を蹴り弾いた少女のタックルは猫の腰、というか胴体にドゴォと分かりやすい衝撃を伝えた。

 あたかも逃げるカズマさんにタックルする女オークの掛け声のような悲鳴が漏れました。

 

『ゲボッ……オゴッ……な、なにするニャお嬢……! 抱き着く時は助走は無しにとあれほど言ったニャ……!』

「お別れなんて嫌です悲しいです! ずっとここに居てくださいぃい!!」

『……それは出来ない相談なのニャ。昔から言ってきたニャ。ボクは太古の時代からウマ娘さんをサポートするオトモアイルー。そんな子らの成長のためと願われては、動かないわけにはいかないのニャ』

「うくっ……ひっく……のーざんぶれーどさぁん……!」

『お嬢はいつでも泣き虫ニャア。このくらいで泣いていたら、おかーさんとおかーちゃんから離れた時にどうなるか、今から心配ニャ』

「あぅううう……」

「ほら、スペシャルウィーク? あまりノーザンさんを困らせないの」

「でも……おかーさん……」

 

 えぐえぐ泣くウマ娘の少女、スペシャルウィークの母、キャンペンガール。

 彼女は泣きながら猫に抱き着く彼女の傍に屈み、抱き寄せると頭を撫でた。一緒に猫が挟まれた。ギニャ、と聞こえたが、感動の場面に猫の声は届かなかった。

 そもそものこの関係は、身籠り弱ったキャンペンガールのもとに、一匹の二足歩行猫が現れたことがきっかけだった。出会いはまた別であり、とある山頂にてまだ元気だった頃の彼女が猫と出会うことから始まる。彼は自らをアイルー種のノーザンブレードと名乗り、キャンペンガールも伝説上の猫獣人に驚きつつも嫌な感じはまったくしなかったので、いつか遊びに来てくださいと家の位置を告げ、月日が経ってから遊びに行ったネコが弱った彼女を発見、甲斐甲斐しく世話をし始めたのだ。

 のちに産まれたスペシャルウィークに“おかーちゃん”と呼ばれる友人とともにその世話は続き、産後の命が危ぶまれていたキャンペンガールは猫の世話のお陰もあって、今では全然元気である。

 

『ギニャニャ……ゴニャアッ! ……はー、はー……! とにかく、別れが嫌ならスペ嬢もトレセン学園に来ればいいニャ。ボクが呼ばれたのはそこなんだから、来れば会えるし来ても知り合いゼロじゃなくなるから寂しくないニャ』

「うぅうう……そりゃ、いつかはいくつもりですけど……」

『ニャ。だったら待ってるニャ。その時は思いっきりお持て成しさせてもらうから、日本一のウマ娘、頑張って目指してみるニャ』

「ノーザンブレードさん……」

「けど、ブレードさんさ。こっから中央トレセンって、とんでもなく遠いよ? 移動手段なんてあるのかい?」

 

 えぐえぐするスペシャルウィークをキャンペンガールに任せ、おかーちゃんと呼ばれるキャンペンガールの友人が猫を掴み寄せ、話しかける。

 スペシャルウィークが「あ~……!」と泣きながら手を伸ばすけれど、はいはいと呆れたキャンペンガールが娘を抱き寄せ、頭を撫でて苦笑した。

 

『ニャ。移動手段なら腐るほどありますニャ。伊達に古い時代からウマ娘さんをサポートしてないニャ。そりゃ、キャンペンガールさんに会うまでしばらくはサポートも出来てませんでしたがニャア』

「へえ……たとえば? こっちとしちゃ、二足歩行する喋る猫なんて初めて知ったし初めて見たんだ。言っちゃなんだけど、あんたみたいな二足歩行猫が電車に乗ってる姿も飛行機に乗ってる姿も見たことがないし聞いたこともない。恩人なあんたが、珍しさを理由にどこぞの研究者なんぞに捕まる様は見たくないよ」

『大丈夫ニャ。飛行手段がありますし、なんならトレセン学園の理事長とボクは知り合いで、国と契約してボクを捕獲または研究することを禁ずることを決定してもらったニャ』

「国って。……急に話がデカくなってきたね」

『そんな話がなきゃわざわざ中央までに行かないニャ。この平和で自然溢れる北海道の山で平和に生きるだけニャ』

「ははっ、そういやあんた、キャンペンに見つかった時はオロフレの頂上に居たそうじゃないか」

『ニャ。霧の上の山の陰に住処を作ってたんだけど、懐かしい香りがして出てみたらウマ娘さんが居たのニャ』

「私も驚いたわよ。ウマ娘の古いお話でしか知らないくらい、いっそ興味が無いウマ娘じゃ知りもしないお話なのよ? ウマ娘に寄り添う猫の話、って」

 

 アイルー種、といっても現在はノーザンブレードを名乗る彼しか居ない。

 そうなれば繁殖できるわけもなく、彼の代でアイルー種は滅ぶこととなる。

 どこか悲し気な顔で彼を見る二人の女性は、どこかに同じ種の雌が居ることを願った。

 

「っはは、旦那と恋人時代にデートしてた時、だったっけ?」

「もうっ! 冷やかさないで! ……デートでオロフレ登頂とかどうせ変だーとか言う気でしょう? 現役退いてからだと、身体を動かす機会なんて中々ないんだから、あの人が考えてくれたいい発散方法だったのよ」

「で、旦那置き去りにして登頂して、その先で猫を見つけたと」

「…………そうだけど」

 

 母はぽしゅうと顔を赤くしてそっぽを向いたという。

 友人は、それはもう楽しそうに笑った。

 

『ニャ。アイルー種のお話なんて壁画に残ってるか、代々誰かが伝えてくれたかくらいニャ。理事長さんとも山頂で出会って───』

「猫が喋ったーとか驚かれたとか?」

『驚いたのは僕の方だったニャ』

 

 ちなみに。面倒事ばかりが続き、気分転換に北海道旅行を選んだ某理事長が、苛立ち半分に山を登り、みっしりと山を覆っていた霧を突っ切り登頂した頂上にて、“登頂! そしてここでならば誰も聞かれまいぃ! 上層部のばっかものー! あたまでっかちー!”と全力で叫ぶ中で、その声にこそ誘き寄せられた猫は誰でしょう。

 そう、こやつです。

 

(あの時は聞こえるわけもない声に驚いて、でもそんな希望に縋るように住処から飛び出て……霧を抜けた先にあった小柄な後ろ姿に、“亞莎!?”って叫ぶように声をかけて…………人違いで。心が折れて、泣いたんだっけ)

 

 猫は懐かしむ。声があまりに似ていたのだ。

 長い旅にも慣れてしまったせいで、不意に聞こえた声に希望を抱いてしまった。

 抱いてしまったら、押さえつけていた“弱さ”は耐えられない。

 縋るように走り、求めるように霧を抜け、その姿に叫び……勝手に裏切られた気分になり、号泣した。

 相手にとってもとんでもない状況だっただろう。

 知らない名で呼ばれ、振り向いて見れば伝説の生物が壊れたように泣いていた。

 近寄って抱き上げて、声をかけてみれば、『ごめん亞莎、ごめん、ごめんなさい』と泣きながら言う猫。

 帰りたい、傍に居たい、やさしい家庭を築いていこうって約束したのに、守れなくてごめんなさい。

 続く言葉に、泣き声に耐えられなくなり、秋川やよいという名の少女は彼を招くことに決めた。

 というより、してやれることがウマ娘と関わらせることくらいしかなかったのだ。

 伝承が真実ならば、この猫……アイルー種はウマ娘をサポートすることに長けていたとされている。

 ならば、多く触れ合うことが出来る場所へ連れ出すことが出来れば、この悲しみも紛らわせてやれるのではと。

 しかし勧誘してみれば、『今、命が危ないウマ娘さんが居るのニャ……だから、そのウマ娘さんがもう大丈夫ってところまでくるまで、待っていて欲しいのニャ』と返された。

 そういう事情ならばと住所と連絡先を書いた紙を渡したのだが、考えてもみれば伝説の生き物で、オロフレ山頂に住んでいるような猫に連絡先や住所を渡しても……「? 電話? もしもし?」『ニャ。繋がったのニャ』「驚愕!? スマホを持っているのか!?」大変驚いたという。

 

(……約束を果たしに行きますニャ、理事長さん)

 

 どこか凛々しい顔をすると、猫は彼女らが住まう家の庭に出て、ポーチをごそごそと漁る。

 なんだなんだと見に来る三人の前で彼は尖ったものを体に纏うと、

 

「それじゃあ大変お世話になったのニャ。また機会があったら会いに来るニャ」

 

 とだけ言い残し、纏ったものから伸びる何本もの尖った管? 翼? のようなものから赤白い光を放つと、まるでジェット噴射で弾かれたように空へと飛んでいった。

 

「えぇええええええええええっ!?」

「飛んっ……えぇえええええええええっ!?」

「ノーザンブレードさぁあああん!! 元気でいてくださいねぇええええええっ!!」

 

 そんな声をも置き去りにして、彼は飛んだ。

 天高く飛翔し、人目につかない位置まで来ると横にのみ飛んで。

 

 

 

 

 

-_-/北郷一刀(ノーザンブレード)

 

 空を飛ぶ。猫が飛ぶ。雲を突き抜け星に……はならないけど、天彗龍(てんすいりゅう)のようには飛んでいる。

 

『ニャ、そういえば理事長にも電話をかけないといけないニャ。ニャフフ、ボクのスマホは電波じゃなく氣で繋がっている特別製ニャ。どこに居たって氣で繋がるこの安心感……プライスレスニャ』

 

 スペちゃん一家に別れを告げて、空の旅へとレッツゴー。

 その中で電話をかけると、亞莎とよく似た声の少女……秋川やよいはすぐに出てくれた。

 

『受信っ! 待ちわびたぞっ!』

『ニャア、お久しぶりですニャ、理事長さん。久しく連絡も入れずにごめんなさいニャ』

『杞憂っ! それよりも迎えは本当に必要ないのだろうかっ!』

『今もう北海道を発ったところニャ。ところで何処に向かえばいいのニャ?』

『通達っ! まずは東京都府中市の───』

『ニャア、現在東京都上空ですニャ』

『光速!? 北海道を出たところだと───』

『えーと理事長さん? 空に赤い光、見えるニャ?』

『……疑問? 空に……驚愕っ!? 赤い光がぐるぐる回っている!?』

『それがボクですニャ。どこか降りられる場所、教えてほしいですニャ』

『───……』

 

 電話の先で、なんかOH……とか聞こえた気がした。

 まあ途中で雲とか途切れちゃったし、今さら隠したってどうしようもないもんね。

 なのでおそるおそる告げられた位置を、理事長さんのケータイに埋め込んだ氣を探知しながら照らし合わせてみれば、なにやら馬鹿広い……もといバ鹿広いなにかの施設を発見。

 おお……あれが日本トレーニングセンター学園……略してトレセン学園か。でっかい、大きい、広すぎる……。

 理事長が教えてくれたのはその中でも砂のようなものが広がる場所だった。……ニャア、ダート用の砂を集めてるとこですニャ。

 

『では逝きますニャ。もとい行きますニャ。もし近くに人かウマ娘が居るなら避難しておいてほしいニャ』

『何故っ!? ……!? ひ、光がぼっ、ぼっと弾かれるようにしてひぃやぁあああああああああっ!?』

 

 ギキィイイイイイイイイイインッドォッゴォオオ───……ッヒィイイン……!!

 耳を劈くような音とともに流星となって着地。

 そうしてからはすぐにバルクネコウィングをポーチに仕舞って、ばたばたと駆けてきた見知った女の子にきっちりとした礼をして挨拶。

 

『ニャア。改めまして、アイルー種のオトモアイルー、ノーザンブレートと申しますニャ。炊事洗濯掃除に開墾、医療に治療に書類仕事もなんでもできますニャ。サポート業ならお任せあれ、ニャ』

「か……歓待。まさか空から来るとは思わなかったが……」

『バ鹿正直に電車に乗ったり飛行機に乗ったりは出来るわけがないですニャ。もちろんフェリーにも乗れないなら、自力しかないのニャ』

「驚嘆。そして天晴! どのような事情があろうとも私はキミを迎えると決めていた! 決めたからにはそれを貫く! といってもアイルーの話は伝説上のものしか知らないわけで。質問。キミにはなにが出来るのだろうかっ」

『ニャア。今までで一番喜ばれたのは料理だったニャ。特に北海道のスペちゃん家では食費のことで泣いて喜ばれたのニャア』

「納得! ウマ娘はやはり食べるが故っ! ……疑問。あなたは独自の食材入手ルートでも持っているのだろうか?」

『ニャ。ネコといえばポーチですニャ。ボクのポーチにはお役立ちのアイテムや素材がたくさんたくさん入っておりますのニャア。その数はほぼ無限といって問題はございませんのニャ』

 

 言いつつニョルリ、とウォーミル麦から採れた粉とブレスワインで作った菓子を取り出し、差し出す。

 越してきてお世話になるなら、挨拶はとっても大事。

 

『ニャア、これからお世話になりますニャ』

「驚愕ッ!? まさかその小さなポーチから、いくらでも出せるのかっ!?」

『ニャ。でもさすがに無限じゃニャいのニャ。なので少し耕せる土地を貸してほしいのですニャア』

「歓迎っ! これからよろしく頼もうっ!! そして了承! 余らせている土地があるから是非使って欲しい!」

『ニャアッ、ありがとうございますニャ!』

 

 ここに、一人と一匹が固く握手を交わした。

 契約は完了せり。猫もといネコはこれより始まる日常をどこかわくわくしながらも歩み出したのだ───!

 

  それで───

 

 これがああなって───

 

「疑問ッ! 人手は本当に───」

『大丈夫ニャ! 何を隠そう、ボクは開墾の達猫ニャアアアア!!』

「困惑!? 驚愕!? ただの土地がみるみる畑に!? 田圃に!?」

 

 それがこうなって───

 

「疑問!? 朝植えたばかりの土からもう作物が!?」

『ノーザン印の氣は大地と作物にとっても栄養を与えるニャ。ただし収穫時刻を間違えるととんでもないことになるニャ』

「成程……天晴!! もはや何も驚かんっ!」

 

 あれがそうなって───

 

「驚愕ッ!? 驚愕驚愕! あなたを先ほど食堂で見たのだが!?」

『超一流のネコともなりますれば、分身の術くらい使えますのニャア。聞けばあまりの忙しさに食堂のスタッフが逃げ出したとか。けどボクに任せてくれれば無問題ニャ。ウマ娘が喜ぶ、体に良くて美味しい料理、た~っぷりご用意するニャ!』

「~……感謝ッ!! ところで風呂場がいつの間にか温泉になっていたという報告が上がっているのだが……」

『ニャア! 疲れを癒す温泉と繋げたのですニャ。なのに普通の風呂場では風情がないと、外観もいろいろ返させていただきましたニャ』

「こっ……工費ッ! 費用などは───」

『ボク一人でやったから問題ないのニャ。アイルーはウマ娘のサポートが“この世界”の本懐。どんな些細なことでも気になったら言ってほしいのニャ。怪我をしてもたちまち治療してみせますニャ!』

 

 なお温泉はそれっぽい景色は見えるけど、全部“記憶の中の絶景集”を流しているだけだ。

 たまにネコファルクモードで空を飛んでる光景もあるから、流れる景色が苦手なウマ娘にはキツいかもだけど。

 

  というわけで大体の仕事が定着するまで3ヶ月がかかった。

 

 ……ところで、ウマ娘というのは基本、全盛期の姿でいられる時間が長い。その“全盛期”になることを“本格化”というのだが、それが始まるともう凄いの一言。

 こう……ウマ娘がね? こう……人間では考えられんくらい成長する。一言で言うなら幼虫が成虫になるレベルで。人で例えると街雄さんがジャージからブーメランパンツになる、みたいなのをイメージしてもらえれば、サイドチェストをしてハローマッソーな彼を思い浮かべられるだろう。

 “ンゥウン! アーッ! ハイッ! サイドチェストッッ!!”ってレベル……とまではいかないまでも。

 ええと……そうだな、ある日に及川が急に体が痛い~とか言い出して、見守ってたら貂蝉になった、とか。……いや言い過ぎか。むしろ怖い。Jリーグカレー食ってマサオくんがラモスになるくらい怖い。

 ともかくその本格化が始まる小学校高学年~中等からが勝負であり、そこからそれこそ本格的に体作りが始まるといっていい。

 もちろんその前からトレーニングをすれば、一層鍛え上げることも出来るだろう。けど、本番はやはり本格化が始まってからだ。

 逆に本格化が始まったのに鍛えないウマ娘は、あまり走りに特化することが出来ず、そういったウマ娘の大体は人間と同じ仕事をしながら日常を過ごす。力は人間の数倍はあるからね。

 さて本題。何故本格化の話をしたのかといえば……

 

『おにぎり10個お待ちニャ!』

『13番でお待ちの方おにぎりとお味噌汁とお漬物の朝ご飯セットニャー!』

『甘味野菜盛り合わせ10組通りましたニャー!』

『ニャア!? じゅっ……ええい根性ニャー!』

 

 ……食うのである。本格化が始まったウマ娘は、食うのである。

 となれば当然ネコ一匹では足りる筈もなく、分身したネコ軍隊とともにせかせかと捌いては、ウマ娘たちの様子を見ていく。

 ボクがまずやよい(こう呼べと言われた)と相談して、一部で始めたことがある。

 その一部は本当に一部で、その一部でも頷いてくれる者だけを対象に始めるものだったのだが───

 まず一つ。食と衣服と履き物等の外国化が進む前の日本人って、ある種超人みたいな存在だったって知ってる?

 それこそ伝承の忍者やサムラーイみたいな存在ばっかりで、質素で米や味噌を主体として食べていた者なんて、それこそ日に百里の道をも歩むという、なんて言葉を実際にやってのける存在だった。百里といかないまでも、馬が走る長距離を30分程度遅れるくらいで到着出来ちゃうくらいには、足の速さもスタミナもあった。力の方も、船に積んだ米俵を船から下ろすため、いっぺんに五つも背負って歩けるくらいにパワーがあった。

 ……さて、お気づきだろうか。俺も炭治郎たちが居た世界で、鬼が鬼にとして活動するより前の時代から現代までを、随分と質素に生きた。

 結果として体は作り変えられ、かつての日本人……というよりは“ヒノモト”の者として完成した。

 今思えば縁壱はそれこそ最初から完成していたヒノモトの者であり、先祖返りレベルでその恩恵を受けたからこそああも……なんて考えることもあった。

 まあ、ようするに。

 時速70キロで走ることは出来ないまでも、近い速度で走ることは出来るっていうバケモン集団だったのだ、日本人っていうのは。知ってる? 昔居た飛脚の中でも、超一流の飛脚ともなると、“江戸と大阪”との間……五百と数十キロを2日間ぽっちで往復出来たらしいよ? 片道じゃなくて往復ですって。バケモンでしょう?

 そりゃね、破竹衝とか刀で人を真っ二つとか出来るわけだ。

 じゃあ問題。

 ウマ娘に流れる日本人の血を、食事事情と氣で呼び覚ますことが出来たら?

 そんなことを何人かのウマ娘に持ちかけて、彼女らはあっさり頷いてみせた。

 極一部の内の極一部、30秒以内に返答してみせたのは……マルゼンスキーという少女だけだった。ただし、大前提として“楽しく走れること”が条件。

 

『フニャーアアア……! ようやく終わったニャ……! サポート大好きとはいえ、これが毎日とかなかなか堪えるニャア……!』

『本体、ちょっと相談ニャ』

『ボクらの猫メシは当然ながらネコスキルが発動するものニャ』

『? そうだニャ、それがどうかしたのニャ?』

『……“ネコの腹へらずスキル”ニャ』

『『『『!?』』』』

『あれがあれば、食べてスキルが発動すれば追加は起きないニャ!』

『けどアレは最終手段ニャ……! 確かにお腹は空かなくなるけど、=栄養が行き届いているわけではないのニャ……!』

『じゃあどうするニャ!? このままじゃ過労死ニャ!』

『……出来ると思うのニャ?』

『『『『『氣がある限りは無理だニャア……』』』』』

 

 過労死なんて無理だ。だって疲れても氣で癒せるし。精神までは無理だけど。

 なのでそのスキルのことは保留ってことで。本格化が安定して、なのに食べ過ぎる子にこそあげようと思った。

 

『ところでマルさんはどうなったのニャ?』

『ヒノモト因子の開花は成功したのニャ。これを安定化させることが出来れば、ヒノモト覚醒出来たウマ娘さんは相当ヤベーことになるニャ』

『数値化するとどんな感じニャ? ステータス的に』

『全集中した時と似たような感じニャ。それがそのままってわけでもないけど、ウマ娘の身体能力にプラスされる感じニャ』

『軽く言うけどアレ、無言で握手かまして握って力込めれば本気で潰れるレベルニャ』

 

 その通りである。たとえば誰かの腕を掴んだとして、集中して力を籠めれば腕を折れるレベル。

 それを自在に操れるようになれば、基本の速度、スタミナなどは化けてしまう。

 変わった話になるけど、昔の日本人は靴など履かず、素足、または足袋などを履いて、足全体を使って衝撃を殺して歩いていた。

 それが染みつくと面白いもので、体は質素と低燃費に慣れていき、必要に応じて力もついた。

 中身の入った米俵5つ持つとか、あの時代の女性はほんと基本が恋柱に近いレベルだった。

 

『それで、なにか特殊な訓練とかさせてるのニャ?』

『とんでもないニャ。マルさんは楽しく走りたいをモットーにしているから、押し付けは許されないニャ』

『じゃあルドルフってウマ娘ニャ?』

『そうなるニャ。ただあくまで奥の手としておきなさいと言ってあるニャ』

『……そりゃそうニャ。ヒノモト因子として血が思い出す程度ならいいけど、極めようとして呼吸法として覚醒したら、痣が生まれるかもしれないニャ』

『25歳までしか生きられないなんて残酷ニャ。そんなことになったら、希望を抱いて預けてくれたご家族さんに申し訳が立たないニャ』

『生命力の氣で相殺するにしても、氣の活性化に時間を取られちゃトレーニングに集中出来ませんものニャア……』

 

 食堂の一角でニャアニャア会議をして、それが終わると天に前足を突き出し合い、次の作業に移る。

 言った通り炊事洗濯掃除に開墾、医療や書類整理も請け負っているから正直に暇がない。

 けれどもそれも続ければルーティーンというものが出来てくるわけで。

 難しいことも日常の一部にしてしまえれば、多少は息抜きをするタイミングっていうのも見つけられるものだ。

 ……外的要素が無ければだけど。

 

『バッカモーン! トレーナーさんの指示を無視してトレーニングして骨折とかなにを考えているニャ!?』

「だ、だって……上手く走れなくて、速く走れなくて、他の娘はどんどん成果を上げてるのに、私は……!」

『単純に疲労が溜まっているだけニャ! こんな状態でさらにトレーニングしたって効果が得られるわけがないニャ! ……幸い折れ方も綺麗みたいだニャ、これに懲りたら、休むように言われたらきっちり休むことニャ』

「あ、あの……私、また走れるようになりますか……? 折れるの、二度目なんです……! あまり折れると癖になる、って前にお医者さんに言われてて……!」

『それなのに無茶したのニャ!? ッカー! バカニャ! ええいちょっと目ぇ閉じて痛みに耐えてるニャ! ~……“透き通る世界”……!』

「ぐすっ……え、え? あのっ……痛ぁああああああああああっ!?」

『とっても痛いけど今度はそうそう折れないようにしてやるニャ! ほんと、これに懲りたらもう無茶はしないことニャア!!』

 

 足の骨を折ってしまったウマ娘を、氣の鍼と糸でもって縫合。さらに氣を埋め込んで骨密度を強化、固定。

 さらに、酷使し過ぎて痛みすぎている筋肉などにも癒しの氣をたっぷり流し、体全体を癒していった。

 

『ふぅ……さ、立ってみるニャ』

「ひうっ!?」

『ひうじゃないニャ! ……立ってみるニャ。ゆっくり、ゆっくりニャ』

「う、う…………ぅ? あれ? 痛く……ない? あれっ!? くたくただった体も……痛かった背中も!? えっ、えっ!?」

『痛いところ庇うと、ヘンなところ痛くなりますものニャア……』

「これ……猫さんが?」

『猫じゃないニャ。親しみを込めてネコ……んん、ノーザンからとって、ホンゴーさんと呼ぶニャ』

「ドクターさぁああああん!!」

『《がばしー!》ギャニャアアアアア!? 人っ……ネコの話を聞くニャアアアア!!』

 

 痛みに苦しむ隣人を救うのもネコの努めにして務め。うーんマンダム。

 というわけで、一方で誰かが調理する中、一方で誰かが癒し、一方で誰かが耕している。

 それらが終わり、一日が終わる頃には元に戻って情報を結合するんだけど、疲れも一気に来るわけで。

 

『ゴニャニャ……七度の瞬間錬氣を弾かせるほどの疲労じゃないのはありがたいところだニャア……。さ、明日の仕込みもバッチリ完了、今日はもうおやすみニャ……』

 

 ウマ娘のオトモは本当に楽じゃない。そりゃ調理スタッフもやめますよってくらい食うし。

 しかしこうして大食らいさんがたくさんだと、ボクの心も喜びますのニャ。

 鈴々や季衣は元気にしてるかニャア……ボクは元気です。

 

……。

 

 とある世代。とあるウマ娘がクラシックで二冠を制し、一人のウマ娘に憧れを持たれ、そのまま無敗で三冠を得たのはしばらく経った頃のこと。

 誰もが少女、シンボリルドルフの偉業に驚き、しかしそれは止まることを知らず。

 やがてダブル三冠、トリプル三冠を得ると、世界はシンボリルドルフこそ最強のウマ娘だと目を輝かせた。

 しかし、例外はどこにでも居たり在ったりするものだ。

 誰かが言った。

 

  シンボリルドルフが出るレースはつまらない、と。

 

 勝つウマ娘が決まってしまっているのだから、見どころは2着以降だ、と。

 全てのウマ娘の幸福を願うことを目標に走り続けていた少女が、これに傷つかない筈がない。

 なにせ、それを言っていた者の中にはウマ娘も混ざっていたのだから。

 努力し、練磨し、己が出来る、出せるものの錬磨を続けても幾度となく取らされる2着。1着の壁が大きすぎて、出来る努力を見失った者が辿り着く場所がそこだったのだろうか。

 

『ウマ娘さんの質も落ちましたニャア……まさか勝てない理由を才能に全振りするとはニャ』

「っ!? なっ……聞いてたの!? ぬっ、盗み聞きとかっ! 最低じゃない!」

『他人の悪口は最低じゃニャいのニャ? あんな大声で言っておいて随分だニャア』

「~……うるっさいわね……! っ、そ、そうよ! あんたよ! あんたでしょ! ルドルフが常勝するようになったきっかけって! 前にあのっ……ひ、ひのもと因子? とかいう実験の手伝いをしてほしいとか言って! もしそうなら私にもあれをっ……」

『あれは食事事情と生活習慣を変えるだけですニャア。ルドルフさんは適正が出たけれど、あなたも出るとは限りませんニャ』

「否定論は聞きたくない! いいからやれって言ってんの! ~……なにが九冠よ……! 前まで隣を走ってた私だけなんでこんな置いてかれて……!」

『了解しましたニャ。ただし食事管理はしっかりさせていただきますのニャ。その間、間食は無しだしスイーツなども食べることは許されないニャ。食事はおにぎりにお漬物に味噌汁が大半。構いませんニャ?』

「は……? な、なにそれ、そんなんで力がつくわけ……スタミナが続くわけ……」

『その先に辿り着いたのがルドルフさんニャ。この因子調査は、過去の日本。つまり食文化等が外国に染まる前の日本人を参考に開始された実験ニャ』

「過去の人の因子って。でも所詮はウマ娘のものでもない理想論でしょ? 走りにそんなに役立つわけ───」

『飛脚という過去に存在した職業の一流の人は、二日で570キロを往復したとされているニャ』

「二日で!? 570キロ!?」

『持ち上げられる重さも300キロを超えていましたニャ。嘘だと思うなら“女丁持(おんなちょうもち)”で調べてみるといいニャ』

「……お、おんな、ちょう、もち……………………うそ」

『これが研究しているものの正体ですニャ。もしやるなら食事は質素に、走る際には裸足で走ってもらいますニャ。そんな泥臭い地道の先に、今のルドルフさんはいらっしゃいますのニャア』

「………………私」

『努力無くして栄光無し。そりゃあ才能もあるのかもしれないニャ。でも、その才能が開花するまで、いったい人やウマ娘はどれだけ努力すれば報われるんでしょうニャ』

「───……やる。やるわ。明日……ううん、今日から。私にその因子が無くたって構わない。意地でも隣に追い付いて、一人で皇帝ヅラしてるあいつにドロップキックかましてやるわよ! その上でとんでもなく謝る!」

『ニャフフ……いい目になりましたニャア。ボクはウマ娘さん達の“勝ちたい”を心から応援しますニャ。でもその勝ちたいが、自分の実力以外のものから来る場合、心底軽蔑しますのニャ。あなたがきちんと自分の努力でルドルフさんに勝ちたいと思い直してくれたこと。ボクはとっても嬉しいニャ』

「……やってやろうじゃない。万年2着とか言われていようが、2着だからこそある可能性ってのを見せてやるわよ」

 

 こうして謎のウマ娘さんとの因子開花トレーニングは始まった。

 疑われても困るからと、寝食はルドルフさんと一緒で。

 本当にこんな食事なのね……と驚くこともそうだったけど、そのトレーニングのなんと泥臭いこと。

 素足を泥だらけにしながら走る背中に、彼女の荒んでいた心は驚愕の色へとメリメリと音を立てて変わっていき───

 

「ねぇねぇポートエレガンスー、最近あの皇帝サマと同じ練習してるそうじゃないのさ。どう? やっぱりインチキみたいなこと、してた?」

「……あー……あの頃の私ってこんなだったのね……。平和だったわ……頭あったかかったわ……」

「? なに? どしたのよ」

「同じことしてみりゃわかるわよ……。あの頃のわたし馬鹿だったわー……自分がやってたことが最高の努力だとか自惚れてた……。こんな泥臭いことやってて、そのくせ前より足速くなってりゃ世話ないわよほんと……」

「ちょっと?」

「勝ちたいけどね。今は2着でいいわって話。ルドルフ出なけりゃ私が最速だ。それでいい。ただし油断したら噛みついてやるからそのつもりでって、それだけ」

「よくわかんないわよー。ちょっとー?」

「私の心の港は広くて上品なのよ。嫉妬なんてアホくさかったわ。じゃ、これからトレーニングだから行くわ。あんたも人のこと愚痴ってる暇あったら、練習の見直ししてみなさいな。動くばかりが強くなる一歩じゃないって知れるわよ」

「は? ちょ、待っ……」

 

 人もウマ娘も、“程度”を知ると手抜きをしたがる。

 その中で、なんとかそれ以上になるための努力が出来る人が、少しずつ自分の戒律を破戒、上を目指せるようになるのだろう。




そしてズガーっと書くと急に終わる。
はい、次はまた別のお話で、チラ裏で書いてるマぱか話のネタとかも地味にあったりするやつですね。
こーゆー前のがあって、同じネタがあるとちょっぴり恥ずかしい。

日ノ本因子については過去の日本人が元ネタとなっております。
気になる方は“過去の日本人 身体能力”や、内容と同じく“女丁持”で検索だ!
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