ギャフターの外のこと   作:凍傷(ぜろくろ)

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 最初に書いたのこっちだった。エムエディタの自動保存の履歴から発掘された。
 いろいろ捏造独自設定がごろごろ。
 しかしこう……ねぇ?


プロトタイプ貧乏少女

 どうしようもないことっていうのは、どうしようもなくあるもので。今回の場合、それは我が家の家庭事情に在りやがりました。

 

「無理よ。うちにそんな余裕、ないんだから」

 

 家の貯蓄が危険でヤバいのである。

 わたし医者になるYO! などと言い出せば、“ん……そうかい、よかったねぇ”で会話を終わらせられるようなレベルでやばい。

 しつこく言ってみれば怒られる。余裕はない。ないったらない。

 

「じゃあどうしたら余裕が出来るの?」

「……はぁ。そうねぇ……キリンが立派なウマ娘になって、有名になれば───」

「じゃあなる!」

「え?」

「有名なウマ娘になる!」

「だめよ」

「なんで!?」

「学校通わせるお金さえ危ういの」

「えっ……ぇな、なななんで!? えっ……なんで!?」

「お父さんが連帯保証人になって、相手が逃げちゃったからなのよ……!」

「………」

 

 世はカオスである。

 その日から、俺……もといわたし、“キリンホンゴー”の“目指せ立派なウマ娘”計画が始まった。

 ……まずは幼くても出来る新聞配達からね。ハラショウ。

 

 

  ◆キリンホンゴーの秘密⓵

  実は生まれ、自分の性別とウマという存在を知った際、

  雄ウマじゃないことを泣いて喜んだ。

 

 

 ──────“ウマ娘”。

 

 彼女たちは、走るために生まれてきた。

 

 ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走る───それが、彼女たちの運命。

 

 この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。

 

 彼女たちは走り続ける。

 

 瞳の先にあるゴールだけを目指して───

 

 

 

 ……という書物を、図書館で見た。

 学校には結局行けなかったから、図書館でこの世界のことを学んだ。

 まず、この世界に馬は居ない。

 馬、という字すら無い。

 似たようなものはあるものの、漢字の下の点が四つではなく二つなのだ。

 それと、ウマ娘は走るために生まれたとか書かれてしまうくらい、走ることが大好きらしい。

 俺はどうだと訊かれると……まあ、うん。俺のはもう手段になっちゃってるから、楽しいとか好きとかは無いかなぁ。

 ガッコが無いからほぼフルタイムでバイトに明け暮れて、中学卒業あたりの年齢になれば、4月からバイトを増やして、勉強は図書館で。

 そうして氣を使えば走って疲れることもなく、氣を使えば寝不足や過労でヤバいことになることもなく。

 やがて伝説のバイトガールとか呼ばれ始める頃、困っている人が居れば助け、苦しんでいる人が居れば“手当て”をして、世のため人のためウマ娘のため、超人アルバイターとして 働いている。

 種類は様々だ。時間が許す限りに全力で。

 

 俺は一人のちっこい女の子に声を掛けられていた。

 

「質問ッ! 君は何故そんなにも仕事をしているのかっ!」

「営業妨害で訴えますよ」

「心外ッ!? 周囲の人に聞き込みをしたところ、君は朝から晩までほぼ毎日仕事三昧と聞いた! 疑問! 学校はどうしているのか!」

「お金がないので通ってませんそれじゃあ」

「懇願ッ! 疾駆! 停止願い!」

「……医者になりたいんです。そのために、立派なウマ娘になってお金を稼がないと。でも正直もう学校なんて通えないと思ってるし、だからこうしてバイトを掛け持ちして稼いでます」

「……困惑。君は走りたくないのか?」

「走るのは嫌いじゃあありません。でも子供の頃から新聞配達をやっていたから、もう楽しさよりも手段でしかないんです。お金を稼がないとやっていけませんから」

「………」

「じゃあ」

 

 幼女……幼女? に背を向けて、走り出───そうとしたら、「提案ッッ!!」……ちょっと待てぇいとばかりに大声で呼び止められた。

 何事なるか? あんまり暇じゃないんですが。

 

「紹介! 私は日本ウマ娘トレーニングセンター学園理事長! 北里味美(きたざとみよし)という!」

「……ドーモ、はじめましてリジチョー=サン。キリンホンゴーです」

 

 挨拶をされたならば返さなくてはスゴク・シツレイというもの。

 ていうかなんなのこの人。今俺忙しいんだが。

 

「あの。それで提案って?」

「助成! 私は全てのウマ娘に幸せになってほしい! なので君を補助金付きで我がトレセン学園へスカウトしたい!」

「それは活躍ありきの提案では? わたしがなんの成果もあげられなかったら───」

「愚問! 大志や野望を抱く者は、夢を抱く者よりも貪欲に願いを叶えようと努力するものだ! 結論ッ! 君は誰よりも成果を望み、結果を出してくれると信じられる!」

「…………助かりますけど。あなたがわたしに望むことはなんですか?」

「勝利! 勝ちたいというウマ娘の本能を知らずに、笑顔もなく仕事をするだけの君が私は悲しい! 続・結論! 手段でもいい! 走ってほしい!」

「………」

 

 立派なウマ娘になれば、金は後からやってくる。親が言うにはそんなとこ。

 写真撮られて雑誌にされて、より一層有名になればそういったものの金の何%かが支払われたり、本人さえ良ければモデルなどで活躍するのもありなんだとか。

 ……いやまあ数え役萬☆姉妹のマネージャーやってた北郷といたしましては、それ逆の方が向いてる気がするんだけど、とか思わんでもないけど……俺今トレーナーじゃなくウマ娘だもんなぁ。

 背に腹は代えられませぬ。どの道金無いし、とにかく一着になりまくってれば有名にはなるのなら。

 とりあえずはトレセン学園? に、奨学制扱いで入学することになった。

 活躍が振るわなかったら働いて返せ的な条件で。あと入学試験はもちろん行なう。

 馬……もといウマに関することでせう? 御遣いの気の所為で動物たちに愛されたこの北郷に、むしろ麒麟の名を冠したこの北郷に、馬のことがわからないとでも?

 

 

  ◆キリンホンゴーの秘密②

  実はべつに馬たちと会話出来たわけじゃないから、

  その時の馬の気持ちを述べよとか言われてもわからなかったりする。

  しかし関わった動物たちからの好感度はほぼMAXだったりした。

 

 

 結論。ギリギリでの入学となった。笑ってくださいドちくしょう。

 まあ入学してしまえばこちらのもので、あとは選抜レースとやらに出て、トレーナーにスカウトされればいい、と。

 トレーナー無しでは選抜レース以外には出られないそうだから、さっさとやるべきでせう。

 しかし…………

 

「広いなぁ……」

 

 改めて、日本ウマ娘トレーニングセンター学園、略してトレセン学園の広さに驚く。

 なんといっても練習のためのレース場の広いこと広いこと。

 一応入っていいことは知らされているから、階段を下りて芝へと降りてみれば……おおう、この芝を踏み締める感触……なんか知らんけどすごいしっくりくる。走りたくなる、というか。

 芝……芝か。

 

「ターフな芝よ……そのちっぽけな伸び具合が実にターフだ。何故そんなにターフなんだ? 葉脈が樹液にでもなったか」

 

 言葉にはなんの意味もない。ただ、もはや遠い昔の記憶となってしまったネタを、なにかの拍子に思い出す瞬間を大事にしたいと思うのは悪ではないと思うのだ。いいよね、ワムウ。

 さてと。運動服も支給されてるけど……着替えは生憎手元にない。だったらどうするか?

 

「ちょっと走ってみようか」

 

 この学園のスカートは、異様に長い。え? そこからスカート? ってくらい、腰の上の上あたりからスカートが始まる感じ。

 これを多少下に降ろして……うん、これで多少乱暴に走っても下着が見える、なんてことはないだろう。

 え? 中身男なのにそんなことを気にするのかって? ……女になったのが初めてじゃなければ、やがてそうなっていくものですよ。

 

「よし」

 

 トッ……と軽く駆けだした。走るというよりは、弾むように前へ。

 トットットッと慣れてくると、少しずつ踏み締める力を強めて。

 

(……やっぱり、違うな)

 

 バイトのために走るのと違う。

 守るために鍛え、磨き上げて来たものを、お金を稼ぐために……とか言うつもりはなかったけど、やっぱりちょっと抵抗はあった。

 そんな抵抗が、今は普通に“走りたい”に飲み込まれていって……少しずつ少しずつ、胸にわくわくを思い出させてゆく。

 

(……まだいける)

 

 ターフを踏み締め、スピードを上げる。

 風を切って、地面を蹴って、置き去りにして。

 速度に慣れたら再び踏み締め、加速。

 加速した分だけ足を速く動かして、コーナーに到れば体を斜に、足にかかる負担の全ては氣をクッションにして殺す。速度は殺さず、むしろ加速して地を蹴り前へ前へ前へ。

 すぐにまたコーナーに着くけど減速無しの外側直角雷速運動。

 ここまで来れば呼氣常中の感覚も完璧に取り戻して、あとは飽きるまで芝を蹴った。

 走って走って。これが最後の直線だ、と決めた頃には神速の踏み込みでスパートを掛け、ターフを滑るようにして足を止めた。

 

「うん、よし。スカート邪魔だから、やっぱり走るなら体操服だな」

 

 思ったよりもひらひらする。あとあの風の中をスカートで走ると、バタバタとはためいて足に当たって痛い。

 汗もまあ掻いたし、さっさと寮に行って汗でも流そう。と、歩き出した俺の足が、なにかによってハッシと止められる。

 ハテ、と見下ろしてみれば、黄色のシャツの上に、前を閉じていないベストを着た男が居て、俺の足をベタベタと触っていた。

 ……ふむ。

 

「えぇと。わたしの下段突きは本気じゃなくてもコンクリートブロックを軽く10枚粉砕しますけど、死にます?」

待てすまん悪かった待ってくれ!!

「人の体に触れるのに許可も得ない相手に、こちらにだけ許可を要求する大人が居ますか。歯ァ食い縛りなさい。その歯ごと頭蓋を粉砕してくれます」

「食い縛る意味これっぽっちもないだろそれは!! ままま待て待て誤解だ! 俺はこの学園でトレーナーやっている者で!」

「……それがのちに彼の墓標に刻まれる言葉であった。全て漢文で刻むので安心して死んでください」

 

 ヒュボズバァンッ!! と音速拳を眼前に止めてやると、彼はしずしずと身を屈め、「命ばかりはご容赦を……!」……土下座をしたという。

 

「…………はぁ。それで、なにかご用ですか? それともあなたが御用になりますか?」

「笑えないからやめてくれ! ~……最後の方しか見られなかったが、その服であのスパート……その走りに惚れた! 俺にっ……お前のトレーナーをさせちゃくれないか!?」

 

 トレーナー……おおう、早く見つけたいとは思ってたけどまさか相手の方から。

 けれどもここで問題点。この人は俺が小学も中等も経験していないことを知らない。これはフェアではない。ないよね?

 北郷、こう見えてしっかり開示するタイプです。ズル、出来れば良くない。手段としてはもちろん考えないでもないけどさ、そういうのは後に回そうよ。

 

「……あなたは学歴などを気にする人ですか?」

「学歴? いや、素行が多少悪かった~くらいならヤンチャで済ませる程度だが」

「わたし、小学も中等も経験していません。全部図書館で学んだ知識でここに立っています。家が貧乏だったもので」

「………………マジか」

「はい。それで、あなたは学歴を───」

「いいや気にしない! いや厳密に言えば素行が悪いとか他人に迷惑かけるとか、そういうことさえしなけりゃ全然気にしない!」

「そうですか。ではよろしくお願いします。わたしはキリンホンゴーといいます」

「お……おおっ! よろしくなっ、キリン!」

「……………」

「……? どした?」

「……はぁ。名前は?」

「っとと、そりゃそっか。沖野だ。トレーナーでも沖野でも、好きに呼んでくれ」

「では“妖怪オミアシ・スキー”で」

「急に勝手に足に触れたのは真剣に謝るから勘弁してくれ!」

 

 そりゃ結構。

 さて、これでトレーナーがついたわけだから……レースが出来る!

 この世界の母親よ……俺、やるよ! 稼いだ先から親の保証人詐欺の支払いで金が散った俺だからこそ、ここいらで有名になって、稼いだ分は自分のお金に出来る世界に辿り着きたい!

 ……や、まあいい加減支払いも終わるんだけどね。今回の給料で完済。

 あとは自由でよろしい。親にめっちゃ感謝されたもんさ。

 でもここで油断したらまた要らんところで借金作りそうじゃない?

 貯蓄はあって困るもんじゃなし。だから仕事もしてたんだけど

 よしよし、それじゃあ早速レースがどうたらの話でもしようか。

 知った知識じゃ、なんでもデビューレース、とやらがあるらしいから、まずはそれを。

 

 

  ◆キリンホンゴーの秘密③

  実は、かつて翠や白蓮とともに世話をし友好的になった馬たちの因子を継承している。(強制)

  殿堂入りウマ娘になれば他のウマ娘に因子継承をすることが出来るかも。

 

 

 そして言われるままにトレーニングをして、初めてのデビューレース。

 結果は…………ぶっちぎりで一着だった。なんか……ごめん。

 いやあの……ほら……さ? 俺ほら……疲れないからさ、作戦:逃げとか言われても全速力で走り続けるだけだし……さ。

 「規格外だと思っていたがここまでとは……」とか沖さん(トレーナー)も目を見開いて飴落としてたし。

 でも……え? なに? …………え? ライブ? ………………え?

 

「……さて沖よ」

「沖よ!?」

「ライブなんて聞いていないんだが。言うことあったよね? レースよりも重要なこと、言うことあったよねぇ?」

「へ? …………ライ……あぁっ!?」

「ほう。忘れていたと申されるか」

「……………てへっ♪」

 

 この日俺は、ウィンクして舌をだす青年を、カメハメ流トリプルビーフケーキの餌食にした。

 そして後世に伝えていこう。この前途ある若者トレーナーに思い知らせる時には、肉技(キン肉マン技)をオススメする、と。

 

  はい、というわけでライブだが。

 

 予め伝えられた歌を歌いなさいとのことだけど、この世界の歌とか俺知らんのだが。

 さてどうしよう……とか思ってたら、あまりにもぶっちぎられた他のウマ娘達が、「こんな差を付けられて人前で歌うとか、耐えられない!!」と言ったらしく、俺だけで歌うことになった。

 ……イジメだろうか。

 仕方ないので音楽無しの声のみで歌うことで、なんとか許してもらった。

 声に氣を乗せて放つと遠くまで聞こえて、なにより胸に響いて心地良いんだよね。

 

「~…………───」

 

 歌いながら、流れるように踊る。

 氣での演出も忘れず、ここぞというところで氣を舞い散らせ、きらきらと輝かせたりした。

 結果は………………静かなものであった。

 うんまあ、一応結構な数のお客は居たものの、急に一人で歌い始めりゃ誰だって困惑する。俺だって困惑する。

 ので、ペコリと頭を下げてライブは終了。

 控室っぽいところに戻ってから、なにやらドワーってすごいそのー……歓声? みたいなのが聞こえてきたけど、たぶん俺のあとに誰かがパフォーマンスしてくれたんだろう。感謝。

 さ、ここからだ。有名になろう。

 

 

  ◆キリンホンゴーの秘密④

  実は親の借金の返済を手伝うことで、本来かかる期間の三分の一の速度で完済した。

  親は頭が上がらなくなってきている。

 

 

 ブッチぎりすぎるとヤバいことを知ってからは、氣を調整しつつも全力で走った。

 久しぶりに自分の身体能力のみで走る感覚は案外新鮮で、そこにウマとしてのスペックやらがまざると、これがまた楽しくて仕方がない。

 どうやらかつての頃に世話したり乗せてもらったりした麒麟や黄鵬、紫燕といった、翠の愛馬達の想いを受け取っているらしく、恥ずかしながら、俺とこうして走れるのが嬉しい嬉しい、という気持ちが内側から溢れてくる。

 ……でもセキト。お前、名前こそ赤兎馬のソレだけど、犬じゃん。なんでウマに因子飛ばしてるの? や、スピード★★★とか相当貴重らしいけどさ。

 

「んー……なぁホンゴー?」

「キリンです。なんですか?」

 

 そうして今日も今日とてターフを走る……と、3週したところで沖Tが話しかけて来た。

 

「お前、どうして本気で走らないんだ? 初めて見た時に見せた速さはそんなもんじゃなかっただろう」

「ええ。本気のわたしはあんなもんじゃありませんが」

「…………え?」

「なにか?」

「………………お前、どんだけ手ぇ抜いて走ってるんだよ」

「デビューレースでも割と反省していた方なんですよ、わたし。出る杭は打たれる、というでしょう。目立つことで有名になり、お金が入るのは喜ばしいことですが、“わたしが居るんじゃ絶対に無理”と他のウマ娘に思わせたいわけじゃないんですよ」

「お前……」

「はっきり言ってわたしは異常です。お望みなら全てのレースで永遠に塗り替えることの出来ないレコードでも叩き出しましょうか? そんなことをしたら、これからそのレースで走るウマ娘はどう思うでしょう」

「……届くかもしれない、が丁度いいってことか」

「ええ。なので本気は有り得ません。あるとしたら、人命救助の瞬間くらいでしょう」

「なるほど。わかった、そういう事情があるんじゃしゃーない。……はぁ、とんでもないやつのトレーナーになっちまったぁ~ぃ……」

「次に入る子のことを考えてやってください。わたしはとりあえず無敗の九冠ウマ娘でも目指しますから」

「それこそお前塗り替えられるやつなんか現れないだろうが! お前いろいろ考えてそうで、実は馬鹿だろ!」

「失礼な。というか会うたび飴を口に銜えているの、なんとかならないんですか。糖分過多なんじゃないですかコノヤロー」

「お前たまに口悪いよな……」

 

 ハテ。ところで九冠とか適当に言ってはみたものの、たしか牡と牝で出られるレース出られないレースがあるとか無かったっけ? や、こっちの世界と元の世界で違いがあるかもだけど。

 ていうかこの世界、そもそもウマ息子とか居ない。娘が居るのに。

 まあそんなことはどうでもいい。心底。俺が種馬とか呼ばれない世界……トテモ、スバラシイ……!

 なので走る。俺さえ居なければ一着になれた他の皆様にはとてもとても、かなり悪い結果になるかもだけど……負けるわけにはいかない。

 何故って、俺だって努力で身に付けた力だからだ。

 継承云々は置いておくにしても、鍛えてきたものや信頼、想いがウマ娘の力になるのなら、今この体に宿っている全ては自分の努力の結晶だ。それを否定するのは違うって、ハッキリ言える。これだけは。

 だから、今回ばかりは、この世界では遠慮はしない。手を抜いてるだのなんだの、どう思われようとも盛り上げ方でファンを稼ぎ、金を稼ぎ、医者になるのだ───!

 

「ところで、お前さんはなんだって医者になりたいんだ? ウマ娘の中の神話にだってなれそうな勢いだろ」

「ウマ娘は故障で引退、夢を諦めるしかない娘が多すぎます。子供の頃にそれを知ったその時から今まで、それを癒し、夢見る心を守り、応援したいという気持ちは一切変わっていません。……言ってはなんですが、家があそこまで貧乏でなければ少しは事情も変わったんでしょうけど」

「あんな家に産まれなければ、なんて考えてるか?」

「まさか。父は信頼から保証人になりました。それを裏切ったクズを許しはしませんが、親を恨んだりはしていません。お金が絡むと人は変わりますからね。沖さんも、金勘定で人に頼るのはやめておきましょうね。誰かに誘われたとしても、まずは財布の中身を見ること」

「あー……ヤブヘビだったかぁ」

「新しい娘が来た時、がっかりされないようなトレーナーになってくださいね。あんまりだらしがないと、鉄拳制裁も辞さず、いよいよになればこの脚の全力でもって股間を蹴り上げます」

「死ぬからな!? しっ……死ぬからな!? 本気で!」

 

 股間を庇うように下がる沖野Tはしかし、はぁと溜め息を吐くと、手に持っていたトレーナー教科書的なものを開いて頭を掻いた。

 トレーナーになっても勉強は続けているらしい。いいことだ。

 

「そうはいいますが、この間もわたしの走りを見に来たという生徒の足を許可もなく触って蹴られていたじゃないですか」

「誤解だ! ぃゃ間違ってないけど誤解だ!!

「はいはい、セクハラ目的ではなく脚質が気になっただけ、というのは分かってますよ。ただその誤解を全自動で広めて、わたし以降に担当ウマ娘が一切居ない、なんてことにならないようにと言っているんです」

「あー……失礼いたしました」

 

 顔を赤くして、頭を掻いて、沖野Tは頭を下げた。

 あれ、中身が男な俺でも本気でびっくりするからね? 気配感じさせないとか、邪気が一切無いのはわかるけど、邪気がないなら無断で女性の足に触っていいわけがないのだ。

 

「はぁ……んで? まずはなにをするんだ?」

「G1全部制覇しましょう」

「お前さ、距離適性とか少しは───」

「全力で5km以上は余裕で走れます」

「いやちょっと待て、スパートとかの問題もだな」

「一歩目から最速を弾き出せますが?」

「OKわかったもう何も言わん! 好きなだけ搔っ攫ってけこんちくしょーぉ!」

 

 トレーナーの許可が下りた! ならばもはや遠慮は要らぬゥゥゥ!!

 

  と、いうわけで。

 

 まずは人気を集めなきゃならんらしいので細かなものから。

 作戦の多くは、最後尾から一気に1着になる、という盛り上がりを見せての人気集めで。

 観客はそれはもう盛り上がってくれた。むしろ実況のお姉さんがすっごい元気。聞いていて元気になれるね、素敵だ。

 最後尾から終盤で一気に抜くことを追い込み、という。作戦はそれで行くことに大決定したので、残り400mまでは好きに走れとのこと。

 先頭が残り400mに差し掛かったら、溜めていた脚を振り絞る勢いで、駆ける。

 元々のあの時代、氣というもので“足の動かし方”から学び直した俺だ。どういう足運びがどれだけ、どういった地形に合っているのかは把握している。

 氣は足への衝撃吸収のみに使って、あとは己の脚力のみで他のウマ娘を抜いていく。

 ウマ娘は、人型の生き物で70キロの速度を出せる“走りのプロ”だ。けど、考えてみてほしい。どれだけ人より優れた脚力を持っていたとしても、70キロの速度で足を何度も地面にぶつける、という事実を。そうしなければ速く走れないとはいえ、そんなことを続ければ脚は破壊される。ウマ娘に足の故障が多い原因はこれだ。

 馬の時はさらにこれに“人”っていう40kg以上の重りを乗せて走っていたんだから、骨折だって容易くする。

 そんなこれまでと未来を思えば彼女たちが夢を見て走り、故障に泣く瞬間をどうにかしてやりたいって思うのは当たり前だ。

 

  でも。だから。

 

 そんな当然のために、あなたたちの努力を抜き去る今を許してほしい。

 

「おぉっとここで追い込んできた! キリンホンゴー! キリンホンゴーです! 速い速い! 最後尾から一気に攻め込んでいく!」

 

 セット。

 

「さらに加速! 姿勢を呆れるほどに低くして突っ込んで行く!」

 

 セット。

 

「なんとさらに加速! さらに加速した! 先頭集団はこのまま逃げ切ることが出来るのか!」

 

 セット……!

 

「また加速だー!! 疲れを知らないのかキリンホンゴー!」

 

 スパート!

 

「今先頭に追い付いt……抜いたー! 並ばない! 並ばせない! 抗わせない! 置いていく! すごいすごいぞ! もはや独走状態! 今、速度も一切落とさないままゴールイン!! キリンホンゴー! 一着はキリンホンゴーです!!」

 

 ……呼吸は……さすがに弾む。

 それを、大きく吸い込んだ空気で落ち着かせると、高揚していた気持ちも鎮める。

 氣を使わない最高速度からゆっくりと速度を落としていくと、ドッと沸いた歓声に手を振りながら、その場をあとにした。

 

  ……そうした行動が、普通になっていく。

 

 基本に忠実に、スタートダッシュのための基礎、コーナーを上手く曲がるための基礎をただただ基準に、その鍛錬のレベルを上げる方向で。

 特別なことはしない。ただただ基礎の昇華を積み重ねて、

 

「3番人気、キリンホンゴー!」

 

 練習を重ね、

 

「2番人気はこの娘、キリンホンゴー!」

 

 レースを重ね、

 

「さあいよいよ1番人気に名を置く存在になってきました! 本日の1番人気! キリンホンゴー!」

 

 勝利を重ねること幾数十。

 

「本日の主役はこの娘をおいて他に居ません! 1番人気! キリンホンゴー!」

 

 その時代の最速、と言われる……そんな北郷になるのには、時間は要らなかった……とは言わない。

 氣を衝撃吸収以外に使わないとなると、純粋な速度勝負になる。そうなるともちろん、その時代に本当に恵まれた“本物”っていう存在は強敵として立ちはだかる。

 そうなると……楽しかった。

 この沸き上がる“勝ちたい”という気持ちは、本能レベルでウマ娘が持っているものらしい。

 俺が居なければ間違いなく1番人気だった、なんて言われている彼女はとても強く、速く、そして───

 

「これで勝ったと思うなよぉおおおっ!?」

 

 ……そして、元気だった。

 なんでか俺だけにやたらとぶつかってきて、俺があくまで“先頭が残り400mの地点に到達するとスパートをかける存在”と知ってからは、同じくそれを合図に死力を振り絞るようになり、それが回を増す毎に強くなっていって、

 名前はメジロ……なんたらだと思うんだけど、名前を聞こうとするとなんでか騒音に掻き消される。

 なもんだから何度も訊き返すんだけど、そしたら当然怒るじゃない? 何度目だー、って。

 実際そうなったんだけど……そんなことを十数回続けていると、なんか途中から口調がお嬢様っぽくなった。何事? もしかして悪い口調を親とかに怒られたりした?

 

  しかしそんなことがあっても勝負は勝負。

 

 1着のみを取り続けたこのウマ娘人生も、そろそろ終わりだ。

 何故って、お金がしっかり溜まったから。

 栄誉も栄光も、全てはそのためだけの……言ってしまえば通過点だ。

 インタビューも散々受けたし、なんなら運動靴とかのCMに出ないか~って誘いまであって、そういったことを重ねてお金も増やした。

 途中、俺のようになりたいです、と言ってきた小さなウマ娘さんに驚いたりしつつ、時間を作って少し話をしたりして。……その娘の夢が激重で、その先は地獄だぞとか言いそうになったけど、出来る限りの努力で頑張ろうねと無難に言っておいた。

 名前を聞いたらとんでもないウマ娘だったので、リル、と呼ぶことで心の平穏を保ちましたが。

 やめて? 俺みたいになりたいとか言わないで? その名前で俺に憧れるのは正直やばい。

 

  というわけで。

 

 メジロ……がまだ現役で居られる内に、こんな動機がアレなウマ娘なんてランキングから消えるべきだろう。

 だから───だから。

 俺がそれを最後に引退する、と言ったそのレースの前に、メジロ……は条件を出してきた。

 条件って言っても負けたら何をどうする、なんて話でもない。

 ただ、本気の本気、全力を見せてくれ、と。

 そして、「わたくしが挑んだ1着はこんなにも非常識な1着なのだと思い知らせてほしい」とも。

 俺以外に敗けるつもりはないから、ずっと届かない1着であってほしいとまで言われたら……うん。

 

「あなたは永遠の王者であっていてくださいませ。わたくしでも他の誰でも追い付けないような、伝説の怪物、麒麟であったのだと思えるくらい」

「……負けて泣いても知らないからな」

「あら。泣きますわよ? 泣いた方が忘れられませんもの。ゴール直後には、確かに息を荒げているのにいつも回復が速いホンゴーさん?」

「………」

「あなたの本質は追い込みなどではないでしょう。逃げで十分、先行で遊び、差しで手抜き。追い込みなど、客を沸かせ、人気を得るためのパフォーマンス。……あなたの本気は、あんなものではありません。違いますか」

「…………いいんだな?」

「……見せてくださいませ。ウマ娘の神とさえ言われたあなたの疾駆を。そして願わくば、一生塗り替えられることのないレコードを」

「……ん。わかった。じゃあ……最後にその、もう一度。名前を聞かせてくれないかな。わたしの後に1着を得るあなたの名前を、しっかりと胸に刻み込んでおきたいから」

「まあ、何度目ですの? まったく…………ふふっ。ええ、わたくしはメジロ───。メジロ───ですわ」

「………」

 

 キイイン、という音が放送席のマイクから鳴った。ご丁寧に彼女の名前に被せるように。

 わざわざ二回言ってくれたのに、また訊くのってスゴク・シツレイでは……?

 

「……ごめん。ハウリングの所為で聞こえなくて」

「も、もうっ……! ちゃんとお聞きになってくださいな! 二回も言ったわたくしが馬鹿みたいではありませんの!」

「ごめんごめん……! で?」

「はぁ……わたくしはメジロ───うるさっ!?」

「ファンファーレうるさっ!?」

 

 訊き直したら丁度ファンファーレが。そしてうるさい。

 

「……あの。聞こえました?」

「ごめん」

「~……わ、わたくしはっ! メジロ───うるさっ!?」

「歓声うるさっ!?」

 

 訊き直したら歓声がうるさかった。

 

「………」

「………」

「しょっ……勝負の後! ……控室で。約束ですわよ」

「……うん。なんか、ごめん」

「なんであなたが謝りますの!?」

 

 だって泣きそうだしキミ。

 でも結局名前を聞くことは出来なかった。

 全ての景色を置き去りにして全速力で大逃げした結果、そのレースのレコードを大幅に更新。そのくせ今回で引退だというんだからなんだそりゃって感じで記者に行く手を阻まれ、わちゃわちゃしている間にゴールしてきたメジロ……にタックルされ、「なぜ最初からこれだけの走りを見せませんでしたの!? 何故!?」と本気で怒られ、腰の痛みに痙攣していたらがっくがっく揺さぶられて脳が揺れるし囲まれるし他のウマ娘たちにもどーゆーこっちゃワレー、ザッケンナコラーとばかりに囲まれるし。

 でももう引退だから知りません。死力を振り絞った結果ですと言ったら妙に納得されたからそれでGO。

 ……以降、その祭典にて記録を更新することが、ウマ娘たちの最終目標とされるようになったとさ……。

 “どれほどの冠を頂いても、どれほどの連勝を手にしても、それを塗り替えられねば最速ではない”。

 そんな言葉がいつしか生まれ、最速のウマ娘として妙に語り継がれることになってしまった。

 ……そんな俺はといえば無事に医学を修め、医者になることに成功。

 今は静かに、ちっこい診療所でのんびりと暮らして───

 

「勧誘ッッ! あなたに是非トレセン学園に来てほしい!」

 

 ……いたら、いつかの幼女が来た。

 やあ幼女。まだ幼女やってたんだね幼女。

 

「否定っ!? あなたとは初対面だし幼女呼びは失礼だ!」

 

 ……初対面? どう見てもあの時の幼女にしか……おや?

 そういえばあの時にはあった耳も尻尾も……おや? 

 

「若く見られているのに失礼は失礼だ」

「程度ッ! 程度問題であると断言する! だが問題はそこじゃない! 勧誘! トレセン学園に来てほしい! あっ……わ、私は日本ウマ娘トレーニングセンター新理事長、秋川やよいという!」

「ドーモ、リジ・チヨ=サン。キリンホンゴーです」

 

 秋川やよい。ほう。名前も違うときた。

 嘘をついているようには見えないし、たしかにじぃっと見てみれば、あの時の幼女と同じだとしたら年齢マジックが起きているとしか思えないほど若々しい。

 けどまあそれにしてもだ。

 

「…………それはそれとして。せっかく開業したのに我が診療所をブッ潰し宣言ですか。喧嘩売ってるならわたしの夢と、わたしが居たために1着になれなかった我らが同胞の分、渾身を込めてあなたをグーで殴ります」

 

 言って、てこてこ歩いてお庭にある巨岩をドゴーンと拳で破壊してみせた。

 たくさん氣を込めたお陰で粉砕紛いになったそれを、彼女は目が飛び出るくらいに目を見開いて見つめ、やがて微笑みながら近づく俺に気づくと、ぴあーと悲鳴を上げた。

 

「誤解! 誤解誤解誤解! やめて許して! そんなつもり全然ない!」

「あのですね。こちとらまだお金返し終わってないんですよ。奨学制度は大変ありがたかったんですけど、有名になったお陰で集まったお金も診療所の開設等で飛んでしまいました」

「て、提案。この診療所はもちろんそのままにしてていい。というよりこちらで維持費も出すし掃除もしよう! 代わりにトレセン学園の医療師に……」

「………」

「………」

 

 広げた扇子を片手に自信満々だった様子は萎みすぎて、びくびくおどおどしてらっしゃる。

 ていうかこの娘何歳? あの時の幼女が秋川さんと結婚して北里さんを辞めた結果なの? まあいろいろ事情はあるんだろうけど。

 あの時の幼女は……競争ウマ娘ではなかったのかな? まあ、そうか。じゃなきゃ理事に関わる仕事なんてなかなか治まることなんてできないよな。

 

「……はぁ。わかりました。元々ウマ娘の故障を治したくて目指した道です。そのウマ娘が多く集まる場所に来いと言われては、拒否は出来ませんね」

「……!!」

 

 わああ……っ! とでも言うかのような、心やさしいヒーローを前にした子供のような喜び方をされた。

 やっぱり幼女じゃないか?

 

「歓喜っ! 歓喜歓喜っ! キリンホンゴーが来てくれる! 嬉しい!」

 

 ……うん。やっぱりあの時の幼女とは違うらしい。喜び方が確実に初めての反応だし。

 なによりこれ、憧れの人の傍に来られたファンの反応そのものだ。

 

 

  ◆キリンホンゴーの秘密⑤

  実は保健室を任されたのち、どんな病気や体調不良も

  保健室に来れば治す化け物として君臨することになる。

 

 

 トレセン学園での仕事が始まった。

 走りでは引退した身だから、ほぼ保健室の住人みたいになっている……ので、結構暇だったりする。

 なのでリジ・チヨさん(理事長)の仕事を手伝うことにした。

 

「不安。それはその、まだまだ私は若いけど───」

「理事長、ここ間違ってます。ここは効率が悪い。見直しを要求します。そこ、時間かかりすぎ。さっきと似たような案件なら迷わない。支出案件は一度全部ひとつにまとめてから処理してください」

「有能!? え、えあ、あわ、あわわ」

「はいこれ。判子お願いします」

「う、うん」

 

 保健室に用事がある場合はブザーを鳴らすようにってブザー置いてあるから大丈夫だろう。

 そんな調子で理事長の仕事を手伝うわけだが……この娘っこ、お金はあるしウマ娘を支えたい気持ちは本物だけど、いかんせんところどころでポンコツである。

 なので指導するとともに効率と信条を上手く分けた仕分け方、処理の仕方を伝授しつつ、溜まっていた仕事を片付けたり他県他市のトレセンに顔を出しての会見も手伝う。

 中央、と呼ばれる、俺が雇われてるトレセン学園ほど賑やかさはないものの、スカウトマンはいつでもどこでも目を光らせているらしい。

 

「感謝。私はこんな見た目だから、他のお偉いさん方に舐められることが多い。……母のようにはまだまだ上手くやれない」

「そう。人を見た目で判断するなど愚の極みね。一度お灸でも据えた方がいいのではないかしら」

「……疑問。いつの間にかホンゴーは口調がキツくなっている。……何故だ!」

「あら。わざわざ理由を聞く必要があるのかしら。書類に“これもウマ娘のため”と書かれれば、どんな案件だろうと判を捺そうとするおバ鹿さん?」

「ひ、否定っ! どんな案件でもではない! きちんと私が書類に目を通した上で!」

「へえ? そう。なら貴女は『学園を維持するためのお金がないので支援をお願いします』なんて案件に対し、調べもせずに判を押し、お金を出そうとしたことが熟考した結果だと、そう言うのかしら」

「ひうっ!? と、ととと当然! そうすれば強くなれる、羽撃けるウマ娘が居るのなら、協力は惜しまない!」

「阿呆なのかしら貴女は」

「微痛っ!?」

 

 ぺしりとおでこを叩いた。わざわざおでこを隠す髪を持ち上げて。

 

「あの学園は名ばかりのトレセンで、ウマ娘なんて一人も居ない。そう言えばお金が出されると踏んで、お金だけを目当てにそう名乗っていた学校だったわ」

「そ、それでも! それを元手に立派なトレセンを作るつもりなのかもしれない!」

「そんな学園にウマ娘を通わせるくらいなら、一人でも多く中央に招きなさい。学園の維持費さえ困難な場所で十分な勉強が、成長が出来ると本当に思っているの?」

「うぅ……」

「貴女の、ウマ娘のために、という思いは本当に尊く得難く有難いものだと思っているわ。わたしもあなたに助けられたのだから、助けてと願われれば全力で助けるわよ。けれど。無知が故に破滅に向かうのであれば、私は貴女の頬を叩いてでも止めるわ。理解しなさい、学びなさい秋川やよい。貴女の行動は確かに様々なウマ娘の夢に貢献する型になっているわ。けれどね、貴女の軽率な行動が、その夢どころか舞台さえ砕くことさえあるのだと」

「……既知。それくらいの自覚はある。だが万能じゃないから助けてもらっている。その自覚もあるし、未熟を痛感している。……助力感謝。これからも頑張るので、これからも支えてほしい」

「ふふっ……ええ、良い心掛けね」

 

 ……学園としての地盤の再構築、見直しをする中、結構ポンコツなところが発見された理事長。俺が初めて会った時は理事長は理事長でも駆け出しも駆け出し状態だったらしく、金はあっても書類仕事などでは他の方々に随分と支えられていたらしい。

 そうした事情を知れば、指摘出来る部分や口が出せる部分には口を出して支える中、やんわり言っても結構強引な彼女相手の場合、いつしか口調が華琳っぽくなっていって……なんだかとんでもなく頼られるようになっていた。

 俺、あなたに雇われてるんですけど。や、そりゃあ頼ってくれるのは嬉しいけど。でもたまぁにおずおずと相談してくる案件、保健室の先生が相談に乗るようなことじゃない気がするんだけど。

 

  とまあそんなこんなもありまして。

 

 俺は保健室の先生をやりつつ、この学園の生活にも慣れ───

 

「助力! 助けてほしいホンゴー!」

 

 慣れ───

 

「救助! ウマ娘が事故に巻き込まれて───」

 

 慣れ……

 

「救難ッ! 求めた覚えもない荷物が着払いで届いて───!!」

「どうしてあなたはまずわたしのところに来るの!! ウマ娘が事故に巻き込まれたとかならまだ分かるわよ! ええ分かるわよ!?」

「あ、あぅ、あぅう……!」

「………」

 

 結論。たぶんこの娘、もとい理事長、人に甘える機会を逃しながら成長してきた子だ。親があんなパリッとした存在なら、そりゃあ娘と関わってる時間より仕事やってそうだよなぁああ……。

 それでも気を張って頑張っていたところに甘えられる相手が出てきて、しかも丁寧に叱られ、笑顔を向けられ、成長するのを手伝ってもらったりしたら…………あっちゃぁああああ……!!

 頬をコリリと掻いて、聞こえない程度に溜め息。

 この娘の声、亞莎に似てて断り辛いんだよなぁそもそも……。

 

「わかった、わかったわよ……それで?」

 

 そして手伝う意思を見せれば、頼れる姉という存在に寄り掛かりたい盛りの子供のような笑顔。……やっぱり溜め息ひとつ、白い帽子ごと彼女の頭を撫でた。

 その時に、人間ではありえない感触が手に感じられたけど、今さらだ。

 彼女……秋川やよいも気づかれて嫌な気分をしている様子もない。というか袖引っ張ってにこーってしている。

 さて……それじゃあさっさと片付けますか。

 

 

  ◆秋川やよいの秘密⓵

  キリンホンゴーにドチャクソ甘え、頼りにしている。

  その後、補佐研修で入ってきたたづな、という少女には、

  ホンゴーは自身の自慢の姉だと誇らしげに紹介したらしい。

  ほぼ常時身に付けている大きな帽子と長いスカートには意味があるらしいが……?

  なお母は超絶仕事ウーマンなため、甘えた記憶はない。

 

 

 ……言った通り、ウマ娘には怪我が絶えない。そのどれもがほぼ足に関することであり、他はといえば頭痛がする~とか夜更かしが~とか、練習したくな~いとか。

 そんなウマ娘がトレーナーの手によって連れられてきて、俺がそのメンタルカウンセリングを……って! 保健室は相談所じゃないんだが!?

 でも怠けたい気持ちも分かるし、なんなら夜更かししたり買い食いしたりしたい気持ちもわかるっていうかそのー。

 全寮制だとやっぱりねー、そういうのねー、あるよねー。

 悔しいけど分かる。ちくしょう分かる。

 なもんだから真面目に取り組んでる娘を見ると、甘やかしたり褒めたくなるっていうか。

 その被害者の最たる者が、たぶんやよいになるんだと思う。あれは……うん、ちょっとその、甘やかしすぎた。

 

「ぐすっ……うっ……ひっ……! やだ……いやぁ……! 頑張ってきたのに……レースに出られないなんて……!」

「泣いてもいいわ。けれどその後はきちんと前を向きなさい。これからあなたは自分と戦わなくてはならないの。骨折の恐怖、自身の出せる最高速度からの転倒。その痛みへの恐怖、普段踏み締めているターフが自分に迫る恐怖。それらに打ち勝つ勇気だけ、今は持ちなさい」

「でもっ……でもぉお……! 骨折したら、出る筈だったレースに間に合わな───」

「でもは聞かないし三度は言わせないで頂戴。……“その勇気”だけ、持ちなさい」

 

 本日一番目の保健室への来客は、骨折者だった。

 近日に迫ったレースにじっとしていられなくて、トレーナーの指示を振り切って全速力で疾走。

 今日まで苛め抜いた体を休めるための期間にそんなことをすれば、悲鳴を上げていた体もいい加減折れてしまうというもの。

 そんな彼女の足に触れ、氣でもって診察をする。

 ……折れているのは間違い無い。けど、折れ方は綺麗なもんだ。これなら───

 

「………」

 

 まず痛覚を和らげる。

 人参汁を濾して白湯と混ぜたものを渡して、少しずつ飲みなさいと言って、腫れあがっている部分をやさしく撫でる。

 その感触に肩を弾かせ涙を散らす娘に、オーバーワークはしないことを約束させる。

 

(……氣を沁み込ませて、内側で操作。骨をくっつけて……氣で縫合。あとはうざったいほどに氣を送り込んで治癒能力を活性化させて……)

「あ、あの……治りますよね? 私、もう走れない、なんて……」

「治ったわ」

「そ、そうですよね! 治りま───え? 治っ……?」

「立ちなさい。ゆっくり。……いい? ゆっくりよ」

「え、あ……の? えと…………えっ!? 痛くない……痛くない!? えっ!?」

「燥がない。騒がない。静かになさい。いい? 少なくとも今日一日はずうっと足に負担をかけず、寝転がるでもいいから楽にしていなさい。これ以上指示を無視して怪我をしてもいいなら止めはしないけれど、次は診てもあげないわよ」

「えぁ、あのっ、えっ!? だって骨、折れて……え?」

「骨折で、ただの保健室に連れてこられる理由を考えてみなさい。普通、病院に運ばれるでしょう? ……それから。折れてもここに来れば治る、なんて意識での練習もやめなさい。折れ方がクセになってしまっては、わたしでもどうしようもないのだから」

「───………………かみさま……」

 

 ……なんかぽそりと呟いた途端、両手を組んで祈られた。

 目を閉じたまま涙はぼろぼろこぼすし、何度も何度もありがとう言われるし。

 でも無碍に出来ないあたり、俺って俺だなぁとか……うう、ちくしょう。

 

……。

 

 それからも保健室での仕事は続いた。

 怪我も病気もなんのその。でも肥満で来られた時はオイコラとさすがにツッコんだ。

 ……や、まあ、代謝機能を促進させて痩せさせた時とかも神とか言われて崇められたけど。

 そもそもなんなの? なんで太り気味、なんて症状で保健室くるの。ていうかそれ症状じゃないでしょ? 病気で太ったとかならわかるけどさ。

 骨折治したあの娘はその後、骨折した時の恐怖や転倒の恐怖にも打ち勝ち、予約していたレースを1着で勝利した。

 わざわざ報告に来たし、なんなら用事もないのに時々保健室にいらっしゃる。

 俺は俺で、暇な時は本当に暇だから、最新医療の知識を頭に叩き込むことや、それすら終わった後には思いついたことを文字として書く暇潰しなどをしていた。

 ……ら、来た。やよいである。そう呼んでくれと言われた。

 

「で? 今日はなんの用なのよ」

「邪険!? そ、その……選抜レースの時期だから、トレーナーらやウマ娘たちの様子でも見にいかないかと」

「……そっか、もうそんな時期か」

「お姉さま?」

「お姉さまはやめなさい」

 

 前略華琳様。あなたの真似をしていたら理事長が妹になりました。助けてください。……ハッ!? また“助けてください”が癖になってる!

 

「わかったわ、行きましょう。例の如くブザーだけ置いて」

「歓喜ッ! いざ行こう! 共に行こう!」

 

 椅子から立ち上がって歩き出すと、早速腕にしがみついてにっこにこの幼女。

 ……ウマ娘って外見年齢、若い時間が異様に長いよね。

 いろいろ考えながらも、人の純粋な笑顔を邪魔する趣味はないからそのまま移動。

 広い広い練習場……トレーニング用トラックまで来ると、走る多くのウマ娘を囲むようにしてトレーナー達が存在していた。

 俺が現役の頃にルールは変えられて、現在ではトレーナー無しでも選抜レースには出られるらしい。

 ただ、トレーナーが居なければその後のレースには出られない、というのは以前と変わらない。

 練習だけでトレーナーの目を惹かせる才を見せつけるか、選抜レースでその才を発揮、トレーナーに選ばせるか。

 小学を修学して中等に入ってきたウマ娘たちは、そうして自身の担当トレーナーを手に入れる。

 

「やよい、貴女から見て今年度の注目出来る娘は誰かしら」

「愚問ッ! 誰もが素晴らしい才を秘めている! ……でもどうしてもと言ったら一人だけ」

 

 トラックを見下ろせる階段の上にて、やよいはある一点を見つめる。

 視線を辿ってみれば…………おお、あの娘。

 

「確かわたしの記者会見の後に来た……」

「肯定ッッ! お姉さまのようになりたい、なって一緒に走りたいと言ったウマ娘だっ!」

 

 そう。俺が現役の頃、目をきらっきらさせて隣に立ちたいと言ったウマ娘。

 名前は確か───なんて言うはずもない。競馬を多少知っていれば、耳にも目にも届くその名前……シンボリルドルフ。

 皇帝、と呼ばれた走りと、様々な馬場でも実力を発揮する、“絶対”を身に宿した存在だ。

 彼女が子供の頃に名乗られて、“ぇええええ!? ウッソォオオ!”とクロマティ高校のように叫んだあの日を今でも覚えている。叫んだ、といっても心の中でだけど。

 ……とか考えていたら、シンボリルドルフは走り出していた。

 

「……さすがに速いわね」

「同意。蹴り足に迷いがない。あれはゴールまでの“自分の動かし方”を完全に決めた走りと見える」

 

 実際そうだと思う。

 やがて余裕さえ残して1着でゴールした彼女は、息を乱さぬままに自分を見ていたトレーナーに声をかけて回っていた。

 そして言うのだ。我こそはと思う者は名乗り出て欲しい、と。

 でもなぁリル~……そのやり方だと、みんな怖がるだけだぞ? あそこまでしっかりした走りを見せた後じゃ、失敗したら無能トレーナの烙印を押されることになる。

 

「……沈黙」

 

 OH……と開いた扇子で口を隠し、目を糸目にしてしょんぼりしたやよいとともに、俺もOH……と沈黙した。

 案の定、先程までわあわあと騒いでいたトレーナーらは黙りこくってしまい、リルは腕を組みどっしり構えながらも、少しそわそわしている様子。

 

「……さすがに可哀想か」

 

 走って、1着になった。そんなウマ娘は褒められるべきだ。

 だから俺はトレーナーと観客溢れる人込みに紛れながら、久しぶりに変換を発動。

 ウマ娘から男の姿になって、……もとい、戻って、トレーナーらの一歩前へと躍り出た。すると、やっぱり不安だったのか顔を明るくさせたリルが俺を見つめ───た途端、頑張って顔を凛々しく引き締めた。

 ……この娘の夢は、ちょっと重く、大変だ。そのために手段なんて選んでられない、なんてトレーナーを求めるとともに言ってしまうあたり、その道が困難であることも知っている。

 だから俺は、少し力を抜けとばかりにまずは手に持った一冊のノートを差し出す。

 

「誰一人歩を進ませない中、名乗り出た君の勇気にまず感謝を。このノートは……もしや私の道への導となるものが書かれているのだろうか」

 

 もちろん、医療や足の使い方などの注意点等に寄った本だ。

 それを見れば、彼女の真っ直ぐさもブフォッホォ! という吹き出した音とともに……あれ?

 

「………………!!」

「………」

 

 先ほどまでスーパー凛々しかった少女の顔が真っ赤に染まり、腕で顔を隠すようにしてそっぽを向いている。

 ハテ、と、彼女が持ち上げ顔を隠している腕とは逆側の手に掴まれたままの本に目を向けてみれば、そこにはこう書いてあった。

 

 

  強いウマ娘を育てるための第一歩は、まずは何よりも“頑丈で逞しい精神”を作ること。

 

  そう───

 

  逞しい(タフ)なウマ娘には、芝生(ターフ)が似合うのだから───!!

 

 

 ぁぁあぁああれ俺が暇に任せて書いたオヤジギャグ集だーーーっ!!

 やばい渡すやつ間違えた───ていうか皇帝さんめっちゃ笑いこらえてる! めっちゃくちゃ震えまくってる!

 あ、でも復活した! 口角めっちゃぷるぷるしてるけど咳ばらいをして───続きを読み始めた!?

 やめちょっ……やめて!? それ読んでも寒い心が来襲するだけの本でしてね!? 親父ギャグが好きな人じゃなくちゃ、まず楽しめるような内容じゃあ───

 

 

  そのトラックを走ると、いつもトレーナー……師匠ばかりが褒められた。

 

  私だって頑張っているのに、とウマ娘が愚痴をこぼすと、師は苦笑して違うよと言った。

 

  あれはいい芝の手入れだね、って言ったのさ。

 

  そう、師ばかり褒められる……芝刈りが褒められたのさ!

 

 

「ぼぶうぅっしゅ!?」

「「シンボリルドルフ!?」」

 

 盛大に噴き出す中、他のトレーナーが大変驚いていた。

 ていうかやめて!? ね!? やめて!? 俺の悲しいジョーク集で公開爆笑とか、なにを見て笑ってるの? とか見られちゃったら俺もうここらへん歩けない!

 なのに涙まで溜めて、笑うのを我慢しながらページをめくるシンボリルドルフさん。

 

 

  ある日、担当しているウマ娘が“はちみー”、というものにハマっていると聞いた。

 

  これを聞いて、私も普段の頑張りを労うためだと似た名前のものを用意してみた。

 

  翌日、七味唐辛子ドリンクを口から盛大に吐き出した彼女に激怒された。

 

  一味足りないだけであの怒り様……“しちみー”ではだめだというのか……!

 

 

「コッホ……! くふっ……! いやっ……そういう問題ではっ……こほっ……!!」

 

 

  ある日一人のトレーナーが言った。

 

  トレーニングも大事だが、それを持続させる力も大事だと。

 

  学んだことを身に付かせるためのウマ娘の精神テンションが何より大事だと。

 

  意思を強く持ち、目指す意思だけでは無駄な力が入ってしまうとも。

 

 

「……! ほう、その通りだ。冗句だけでなく真面目なことも書けr───」

 

 

  そんな志も熱く厚い一人のトレーナーが私に頼みがあると言ってきた。

 

  担当の娘にはちみーを奢りたいので金を貸してくれ。

 

  ……志も情も厚いのに、財布の厚さはぺらっぺらだった。

 

  ちなみに俺もお金がないのでしちみーを渡した。

 

  ……放課後、唇を赤く腫らした、奴の担当ウマ娘が殴り込んできた。何故だ。

 

  俺に金が無ぇことは、キミの担当の鐘ヶ音(かねがね)さんにもかねがね言ってきたことなんだが。

 

 

「~~~…………こほっ……こ、こんなものでっ……~……!!」

 

 …………うん。

 なんかある意味で肩の力とか抜けたみたいだし、この機に乗じてそっと姿を消そう。

 そうと決まればリルがノートに夢中になっているところで、気配を消して「待ってくれ」捕まった。

 その顔は凛々しさを無理矢理保とうとしているのに笑いをこらえきれず、めっちゃぷるぷるしてた。なんだこの皇帝かわいいなおい。

 

「ひとつ、聞きたいのだが。あなたは皆が二の足を踏む中、どうして前に出てこれたのだろう」

「顔、ぷるぷるしてるぞ」

「しっ……質問に答えてほしいっ! わわ私のことはいいから!」

 

 皇帝かわいい。などと思いつつ、当然のことを口にする。

 

「最初から実力のあるウマ娘の担当になって、成功させられなければトレーナーの責任。さっきから耳に届いた言葉だ。たぶん、キミも聞こえたと思う」

「……ああ。聞こえた」

「俺はその発言にふざけんなを贈りたかった。最初から実力があるウマ娘だから? 成功させなければトレーナーが無能だったから? 本当、バカげてるだろ。ウマ娘にとって、一生に一度の機会だぞ? 最初から実力があるとか、無能だからとかそんなのが関係あるか。力の限り努力して、練磨して、その先で誰かに勝ちたい、または走ることを楽しみたいって頑張ろうって時に、自分じゃ成功させてやれるか不安だから様子を見る? ……それは、無難なウマ娘なら、成功できなくても仕方がないって思ってもらえるってことか?」

 

 ぎろり、と。怒りを氣に宿して、後ろを向いてトレーナー達を睨みつける。

 トレーナー達はぎくりと肩を震わせ、視線を逸らした。

 

「ここに来るウマ娘達はみんな、努力して勝ち取って入学してきた娘たちだ。そんな娘たちを自分の評価のために無難だ優秀だって決めつけて選ぶなら……そんなバッヂ、捨てちまえ。本当に彼女たちの夢を、隣に立って応援したいって思えるなら、自分の可能性なんて考えないで二人で死ぬほど二人三脚してみるべきだろ。ウマ娘は一生に一度の願いをあなた達に託す。なのにあなた達は一生に一度の覚悟もなく無難だからで選ぶのか?」

「……だが。もし自分の力不足で───」

「……あなたは今、なんの目的で、何を通過したからそのバッヂをつけてここに立ってるんだ? ウマ娘たちが持つ夢に優劣をつけるななんて言うつもりはないけどさ。……あなた達はトレーナーだろ? “どんなにささやかな夢でも、大きすぎる夢でも、一緒に叶えよう”って隣に立つ気持ちもないのになんでここに居るんだ?」

「───!!」

「もう一度言う。夢を持って走る娘に向かって、無難だ優秀だ、有能だ無能だなんて気持ちを決めつけて二の足踏んでるなら、そんなバッヂ捨てちまえ」

 

 言い切って、リルの方へ視線を戻す。……と、なんだかふるふる震えているリル。が、俺の手をハッシと掴み、「あなたがいい!」……と、少女然とした声色で元気に言ってきました。

 …………ワッツ?

 オ、オウ、ちょっと待ってくれウマーン、もといウーマン。私実はホンゴーヨ? 事情があってバッヂも無いのにここに偵察に来た、保健室のヌシですことよ?

 とか思ってたら、背後から「了承ッ!!」の声。ちょっとやよい!? アータ急になんば言いはらずばい!? ていうかやよいは変換のことは知らないから───あ。やばい。ここでごねると後々面倒なことに……!

 

「……はぁ。後悔しない自身があるなら、いーよ。担当、受け入れる」

「───!」

 

 リルの表情がぱあっと花開くように笑顔になった。

 はいはい、落ち着きなさいな皇帝。

 そんなんじゃ皇帝っぽさが───いやいいか。やよいと同じく、この娘も“自分”が出せる場所がないと、いつか壊れちゃいそうで怖いし。

 

 




 秋川やよいを甘やかしたい人生だった……。甘やかしてない気がするけど。
 理事長、いいよね。こっちではノーザンテースト疑惑を親に押し付けた内容になっております。
 そして声優。恋姫の亞莎と同じ声優で、水橋かおりさん。ちょほいと声聞いただけでもあらまあ! って分かるこの独特の声調よ……。
 口を開くと八重歯が見える幼女理事長……いいネ!

 しかしどこまでタフなターフが好きなんだ、自分……。
 ええと、とりあえず発掘出来たのはここまで。
 昨日何故か途中でインターネットに繋がらなくなり、次話投稿画面を開きっぱなしで放置するハメになりました。メモかなんかにコピーして保存しておけばよかっただけだと気づいたのは目が覚めてからでした。アホである。

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