「カンニングの噂がでているみたいだね、
「僕はカンニングなどしていません。何度も、担任の先生にもかけあったと思いますが」
「そうだね。君のような真面目な生徒がカンニングなど、私も考えたくはない。しかしだね、並盛君」
言葉を区切り、理事長は続ける。
どこまでも合理的な彼は、たった一人の真面目な生徒のために、C組全員を停学或いはなんらかの罰を与えるなどということはしない。
「火のない所に煙は立たないともいう。噂が流れた以上、下級生にも示しというものがつかない。真面目で聡い君なら、その意味がわかるだろう?」
「…………はい」
その後何も言わずに、E組行きが確定した彼は理事長室を後にした。
「……実にくだらない。世の中このような理不尽ばかりだ。善者が喰われ愚者がのしあがるなど。今ひとつ教育を施さねばならない」
一瞬光を取り戻した目は、すぐに暗くなる。彼の手帳には、B〜Dクラスへの再教育という文字が追加された。
僕が家に帰ったあとはもう、親から何時間も説教が続いた。制服のまま正座で、ひたすら両親からの罵倒を受ける。
僕はカンニングなど、していないのに。
あなたをそんな子に育てた覚えなどないとか、なんで自分で努力しなかったんだとか、お前ならそんなことする必要もなかっただろとか、親として恥ずかしいとか。
ようやく解放されたのは、帰宅から4時間がたったときだった。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、窓をを開けて外を眺める。
僕の家は大きなマンション8階の一室であったため、夜景が綺麗に見える。
「はぁ……疲れるなぁ」
頼まれごとはなんでもやってきたし、親にも大きな期待ばかりをかけられていた。真面目なのだけが取り柄の僕にとって、結構頑張ってきたと言えるほどのこれまで。
これ以上なにを望まれてたんだろう。
「ここから飛ぶことができたら、きっと楽しいんだろうな、まぁしないんだけど」
1人で夜空に苦笑いを零す。
「そうですねぇ。なんなら一緒に飛んでみますか」
突然後ろからかけられた声に反応して振り返ると、黄色い触手をうねうねさせるタコが、僕の部屋に居た。
「だから、飛べたら楽しいんだろうなってはなs……え、誰!?やばっ、うわぁぁあ!!?」
驚いた拍子に、窓枠にかけていた手が滑り、僕の身体は窓の外へ滑り落ちる。
やばい、死ぬ。
ぎゅっと目を瞑りその時を待った。
……?
しかし一向にそのときは訪れず、うっすらと目を開けると、そこには先程みた黄色いタk――
「うわぁぁあ!!?」
「にゅやっ!?落ち着いてください並盛君!私は別にあなたのことをとって食べたりなどしませんから!」
「ほ、ほんとですか?じゃああれですか、僕はこのまま宇宙人になすがままされるみたいな感じですか?ていうかなんで僕のこと知ってるんですか?」
何、何なんだ?本当に。この状況なに?なんで黄色いタコと一緒に空飛んでるの?
「にゅや、おかしいですね、烏間先生から何も聞いてませんか?」
烏間、先生?少なくともうちにそんな名前の先生はいなかったはずだ。
僕が首を横に振ると、おかしいですねぇと、タコはどこにあるかわからない首を傾げる。
「きっと明日、烏間先生という人から説明があるはずです」
その後謎の黄色いタコと雑談するくらいには僕も落ち着いた。
夜空の観光は終わり、今は僕の部屋だ。
明日のことはまた明日考えよう。
……肝心なこと聞いてなかった。
「タコさん、あなたは何者なんです?」
「にゅやっ!?私はタコじゃありません!確かに雑談に夢中になるあまり自己紹介がまだでしたね。先生はみんなから殺センセーと呼ばれている、明日からあなたの担任になる先生ですよ」
にゅやっと笑い、黄色いタコ改め殺センセーはどこかに飛んで行った。
目が覚めると、朝6時30分を時計は示していた。
「……夢、だったかな?」
常識的に考えて、あんなことがありえるわけがない。黄色いタコと一緒に空を飛ぶとかどんな夢だ。
やっぱり疲れているんだ。
朝ごはんを準備し、今日のニュース(月の様子について流れてた)を見ながら食べる。両親は共働きで朝がとてもはやいので、いつも朝食は1人だ。夕食はいつも一緒だったが、今後空気は悪くなるだろう。
ちょっと憂鬱になりながら学校へ行く支度をし、鍵をしめて家をでた。
マンションから出ると、黒塗りの以下略が停まっていた。
何事かと見ていると中からスーツのイケメンな男性が出てきて、手帳を広げながら話しかけてくる。
「私は防衛省所属の烏間という者だ。君は並盛衆人君だね?」
「えと、はい、そうですが」
防衛省?僕なにかしました?
烏間……夢で名前が上がった人だ。
「国家機密を話すことになるのでこちらの車に同乗してくれ。勿論学校まで送る」
「……わかりました」
手帳も本物っぽいから、誘拐ではないだろう。そう判断して車に乗ることにした。
「まず謝罪をさせてくれ。朝から待ち伏せのようなまねをしてすまない」
烏間と名乗った、スーツのイケメンさんが頭を下げ謝罪してくる。
僕としては学校まで送るとのことだったので特に気にしてなかった。
「気にしないでください。それで、国家機密を話すことになるから、というのはどういうことですか?」
「ありがとう。まずこれを見てくれ」
と渡された資料には、夢のタコが載っていた。
夢じゃなかった!!?
吹き出しそうになるのをなんとか抑え、資料を凝視する。
「ん?どうした並盛君」
「……いえ、昨日の夜このタコさんに会ってまして」
「なんだとッ!?あのタコ好き勝手に出回るなと言っているはずだが」
この少しの間だけで、烏間さんの苦労がわかった気がした。
「……ということで、君にはあのタコを3月までに密かに殺してもらいたい。つまりは暗殺だ」
「……わかりました。この依頼受けます。まぁ、もうC組には戻りたくないですしね」
「ありがとう。ところで何か質問やこんなものが欲しいなどはあるか?」
「そうですね……今のとこは特になにもないです。必要になるものがあったら都度お願いに行きます」
そうか、と烏間さんは資料に目を落とす。
そしてまたすまない、と謝罪をしてきた。
「君たちの本分は勉強だ。本当は我々大人がどうにかしなければならないが、この有様だ。最大限のサポートは約束する」
あんまり気にしないでくださいと大人に言うのもなんか違う気がする。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
8時15分。
教卓には殺センセーではなく、烏間先生が立っている。
僕達は昨日、本校舎からこのクラスに転入してくる生徒がいると説明を受けていた。
隣の茅野とも、どんな人なんだろうって話をしていた。名前は聞いていないから楽しみである反面、E組に落とされたことに落ち込んでるかもしれないという思いがある。
……少し前の僕みたいに。
でも、今のE組は前のE組と違うんだ。
とてもいいクラスなんだって知ってもらおう。
「みんなには昨日説明したが、今日から本校舎より転入してくる生徒がいる。入ってくれ」
ガラッと扉を開けて、新しい仲間が入ってくる。
「どうも、初めまして、は挨拶としておかしいかな。今日からE組で勉強することになる
ところどころで、メガネのイケメンだ!すごい、こんだけ濃いキャラのクラスなのに被ってない!との声があがる。
「彼にはもうすでにこのクラスの担任の話してある。並盛君、このクラスの日常に驚くかもしれないが、頑張ってくれ。以上だ、あとはタコに任せる」
烏間先生は言い終えると、携帯を取り出しながら教室を後にした。
……色々と忙しいんだろうなぁ烏間先生。
「さてさて、ようやく私の出番が来たということで、質問タイ〜ム!みなさん並盛君に聞きたいことありますか!?」
はーい!とたくさんの手が上がる。
かくいう僕も、手を挙げている中の1人だ。
「ヌルフフフ、並盛君、交流も含め君が指名してみてください」
「えと、じゃあそこの、水色の髪の女の子、んと……潮田渚ちゃん?」
途端、クラスに爆笑の波が走った。
「ハハハッ、いやぁ君いいね。おもしろいじゃん。渚ちゃんもそう思うでしょ?」
「渚ちゃん、ぷぷっ、可愛いよ渚ちゃんっ」
「え、ちょ、並盛君違うから僕男だから!?カルマ君も茅野さんも揶揄わないで!?」
「あぁすまない潮田さん、そういう設定なんだね」
「設定とかないから!?正真正銘僕男だよ!?」
一通り爆笑の波が去った後、再び質問タイムに入る。
とはいっても、踏み入ったような質問は特になく、趣味だったり得意な科目だったりだ。
僕には不得意科目がない反面、得意と言えるような科目もない。
みんなからは不得意科目ないのすごいって言われたけど、僕からすれば得意科目があるのがすごかった。
ちなみに僕の席は一番後ろ、赤羽君の隣だった。
質問タイムの後ホームルームが終わり、これから授業が始まるところだ。
「並盛君、君は俺の事怖がったりしないんだね。本校舎だと俺の噂よく聞くんじゃない?」
「え?だって、赤羽君はあの時正しいことをしていたじゃないか。君が止めてなかったら僕が止めに入ってたよ。まぁ、不良行為が目立つのはそうだと思うけど」
赤羽君がE組に落とされた理由は、僕は知っている。あの理事長先生のことだ、想像すら容易にできる。
彼は目をパチクリさせてニヤッと笑う。
「へぇ、君、やっぱりおもしろいね」
「それほどでもないよ。僕の取り柄は真面目だけだからね」
「その真面目ちゃんがE組に落とされたの?」
「……そうだね。まぁでも、もう気にしてないよ。こんなに楽しそうなクラスにこれたんだから」
明るい笑顔で並盛は言う。
カルマはこの時の笑みが、渚の雰囲気と重なって見えた気がした。
背筋に冷たいものが走った、そんな気がした。
授業に必要なものを机に出したところで、ガラッと扉をあけ、殺センセーが教室に入ってきた。
「ヌルフフフ、みなさんちゃんと席に着いていますねぇ。それでは磯貝君、号令を」
と、そこで隣から忘れてた、と声が。
「うちの挨拶、ちょっとおもしろいよ。はいこれ並盛君、てか衆人君って呼ぶことにするよ」
差し出してきたハンドガンを受け取り、なるほど、と思いながら言葉を返す。
「ん、じゃあ僕もカルマ君と呼ぶことにするよ」
マガジンに弾が入っているかを確認し、コッキングを行う。
そこに、学級委員長の声が響いた。
「起立!気をつけ!礼!」
僕は頭の中にメモをした。
1.授業の始めに、桃色の雨が降る。
暗殺教室を書きたくなってしまった、そして書いた、それだけのお話。
どこにでもいる、真面目で器用貧乏な子が暗殺教室でどんな生活を送るのか