「千葉君、菅谷君、吉田君ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」
ある日の放課後、僕は3人を呼び止め協力を呼びかけた。
吉田君は寺坂君に、わりぃ、先行っててくれと断りを入れてやってきてくれる。
普段から絡みがあるという訳では無いけど、勉強を教える機会が何度かあって、そのおかげかもしれない。
千葉君と菅谷君とは日常的に絡みがあるから、すんなりと応じてくれた。
この3人は、僕が計画した暗殺に必要不可欠な存在だ。
「ん、どうした?並盛」
「手伝って欲しいこと?普段勉強も見てもらってるし、別に構わないぞ」
「なんだ、頼み事なんて珍しいな」
千葉君と菅谷君、吉田君は快く引き受けてくれた。
殺せんせーはすでに外国へと飛び立った後で、この準備に気づくはずがない。
僕が三人に話したのは、暗殺の計画と『対殺せんせー弾を当てれば細胞壊れるなら、別に銃じゃなくてもいいよね?』という素朴な疑問だ。
「確かに、そこは盲点だった。了解、図面は任せろ」
「うっへぇ〜、俺の仕事量半端ないな。なんとかするわ」
「ラジコンのリモコンを応用すれば、確かにやれそうだな」
内容を3人に説明すると、千葉君は驚き、菅谷君はきつそうだとげんなりし、吉田君はすでに構想を考えてくれている。
「僕も手伝うから、よろしく頼むよ」
「「「おう!」」」
その日から僕らは、暗殺の準備をしていることに気づかれないように、密かに行動を行った。
そして、その日がやってくる。
「殺せんせー、暗殺するんでちょっと待ってもらっていいですか?」
授業が終わり、僕は先生を呼び止めた。
クラスのみんながざわつきだす。
初めて僕がメインの暗殺をするからだと思う。
これまで僕は、サポートばかりだったからね。
「おや、並盛君から暗殺を受けるのは初めてですねぇ。君ほど真面目な生徒です、どんな暗殺をしてくるかお手並み拝見とまいりましょう。ヌルフフフ」
殺せんせーは持っていた教科書を教壇に置き、いつでも来なさいと笑う。
「その前に先生、一つ質問いいですか?」
「にゅや、なんですか?並盛君」
「先生は、殺されそうなほど追い詰められたら、この教室の外まで逃げますか?」
僕の質問に、殺せんせーは緑の縞模様顔になって言う。
「ヌルフフフ、いいでしょう。先生はこの教室から出ることなく、君の暗殺を潜り抜けてみせますよ」
「よかった」
僕は自分の席から、教室の真ん中まで足を進める。
みんなには、各々自分の席についてもらってる。
少しでも先生の逃げ場をなくすためだ。
自然と笑顔になった僕の口からは、次の言葉が飛び出した。
「それなら、殺せます」
「殺せんせー、暗殺するんでちょっと待ってもらっていいですか?」
僕は筆記用具を片付けていた手を止め、並盛君の方を見る。
並盛君はこれまで暗殺のサポートしかしてこなかったから、突然の暗殺宣言に驚いた。
並盛君の質問に、殺せんせーは縞模様になって答える。
舐めきっているときの顔だ。
「ヌルフフフ、いいでしょう。先生はこの教室から出ることなく、君の暗殺を潜り抜けてみせますよ」
「よかった」
並盛君は笑って、片手に銃を持って教室の中心に向かって歩く。
その後の彼の一言と笑顔に、僕はいつか感じた殺気を思い出した。
にこやかで、いつもの、普通の明るい笑顔で、並盛君は言葉を綴った。
「それなら、殺せます」
その言葉を皮切りに、片手をポケットに入れ、片手で銃を構える並盛君は、引き金を引いた。
バシュッ!
ビチビチッビチビチッ
その瞬間、殺せんせーの触手が1本、弾けた。
切れた触手が床をのたうち回り、音をたてる。
僕や殺せんせーも含めクラスのみんなは何が起こったのかわからなかった。
いや、みんなというのは違うかもしれない。
千葉君と菅谷君、吉田君はガッツポーズをしていたのだから。
一部を除きクラス全員が唖然とする中、並盛君は笑ってまた、引き金を引いた。
「殺せんせー、避けなくていいんですか?ほら〜、次は頭かもしれませんよ?教室内だけで逃げ切ってくれるんですよね?そこに留まっていると、また触手が弾けちゃいますよ?」
……カルマ君直伝の煽りだ。
このためにこの前、カルマ君に殺せんせーの煽り方を教わってたんだ。
……それに、言葉遣いが丁寧な分、余計に嫌味に聞こえる。
しかもそれを、いつもの優しい笑顔で言うのだから、言われる側の殺せんせーからしたら相当なものだろう。
すぐに、緑の縞模様は消えていつもの黄色い顔に戻る。
額にピシッと怒りマークができるのを見ると、並盛君の挑発は聞いているみたいだ。
僕達は並盛君の触手破壊に驚きこそすれ、席に座っていて欲しいという彼からのお願いを守るために、首を動かして見守り続ける。
破壊された触手を見て、殺せんせーは教室の後ろに猛スピードで移動した。
教室の後ろに移動した殺せんせーに向かって、再び並盛君は銃を向ける。
「駄目だよ殺せんせー。そこも、僕の射程圏内」
バシュッ
ビチビチッビチビチッ
2本目の触手が弾ける。
「にゅやっ!?並盛君、いったい何を……?」
「ははっ、教えるわけないじゃないですか。ほら、また当てちゃいますよ?」
殺せんせーを狙う時も、引き金を引くときも、終始並盛君はにこやかな笑顔で、それでいて、少し怖かった。
その後も殺せんせーが移動した先々で、並盛君が引き金を引くと触手が弾けた。
すでに、6本もの触手を撃ち抜いている。
何度か外したのか、触手が撃ち抜かれることがなかった時があったけど、それでも、徐々に並盛君は殺せんせーを追い詰めていっていた。
このまま殺せるんじゃないか?
クラスのみんなの中にそんな雰囲気が漂い始めた中、殺せんせーが納得したように笑いだした。
「……ヌルフフフ。なるほど、ようやくわかりました。さすがですねぇ、並盛君。設計は千葉君、作成は菅谷君と吉田君ですか。よく、私に見つからずに作り上げましたね」
「ッ!……ごめん、みんな。押し切れなかった」
並盛君がお手上げだと言って、銃を下ろして座り込む。
同時に、暗殺に関わっていたらしい3人も、悔しそうに下を向いた。
何もわからずじまいの、おいてけぼりの僕達は、殺せるかもしれないという興奮から少しずつ冷め始める。
その後はすぐに、並盛君達にどうやって触手を撃ち抜いたのか質問攻めだった。
まぁ、すぐに殺せんせーが瞬間移動でなにか抱えて現れたから、質問攻めはほとんど行われなかったんだけど。
「ヌルフフフ、まさかこんなものを天井裏に設置しているとは、気づきませんでした」
みんなからの、僕達暗殺に関わった4人への質問攻めを止めるために、殺せんせーが瞬間移動して、対殺せんせーBB弾が入った容器と、そこから伸びるチューブを大量に持ってきてくれた。
……残念、完璧に見破られていたか。
「よい着眼点です、並盛君。私は、対殺せんせーBB弾に、『触れるだけ』で細胞が壊れてしまいます。この道具を天井に設置し、この暗殺のために開けた小さな穴から落とす。並盛君が持っていた拳銃は空砲のダミーだったわけですね」
「……?え、でもそれじゃ、好きなとこにBB弾を落とすのって、無理じゃない?」
茅野さんが首を傾げて疑問を口に出した。
最もな質問だと僕は思う。
殺せんせーの触手を行く先々で破壊するためには、ただ開けた穴からBB弾を落とすのでは無理がある。
そもそもどこに行くのかわからないのだから、ピンポイントで当てることなんてできない。
だって別の場所に落としちゃったら、さすがに先生にすぐ気づかれちゃうじゃんというのが茅野さんの疑問だ。
「確かに、茅野さんの疑問通り、それでは先程の暗殺の答えとしては不十分です。並盛君、ポケットに入っているものを見せてくれますか?」
「はい、どうぞ」
いつの間にか名探偵コスをしている殺せんせーに、左ポケットに入れてあるリモコンを差し出す。
僕も含め、誰も殺せんせーのコスプレにおかしいと思わないあたり、殺せんせーにだいぶ毒されてきていた。
「彼はこのリモコンを使って、自分の好きなところにBB弾を落としていたんですよ。彼はこの教室の中心に立って暗殺を始めました。おそらく、その場所を中心点として座標を管理していたのでしょう。その証拠に、彼は暗殺が始まってから1歩も動いていません」
うんうん、確かにとクラスみんながシンクロする。
僕の答えとしては、まったくその通り、だ。
僕は千葉君に頼んで座標を設定してもらい、天井に小さな穴を開けてまわった。
中心点を0として、教室の正面黒板側をA、廊下側をB、背面黒板側をC、運動場側をDとして設定し、それぞれに5ずつメモリを設定する。
例えば1回目に僕が殺せんせーの触手を破壊した時の座標は、(A5)。
この場所は、教壇と黒板の間、つまり最初に先生が立っていた場所になる。
2回目に破壊した時の座標は、僕の席より後ろ側で少しカルマ君寄りだったので、(C5,B2)だ。
座標を入力して決定すると、容器からチューブにBB弾が1発流れ、その座標の位置で開けた穴を通って落ちてくる、という仕組みだ。
菅谷君には、容器の作成とチューブの配置、吉田君には座標を入力するためのリモコンとチューブにBB弾を送る仕組みをお願いしていたんだ。
リモコンはABCDのボタンが1つずつ、リセットボタンが1つ、決定ボタンが1つというシンプルなものだ。
後は僕が殺せんせーを任意の座標に誘導して煽りながら、タイミングを見計らって空砲の銃を撃つだけでいい。
……とはいっても、目測で座標を打ち込まないといけないため、かなり神経を張っていた。
煽るとは言ったけど、しゃべりで座標を打ち込む時間を稼いでいたんだ。
「ヌルフフフ、どうですか並盛君、この私の完璧な推理!」
「……完璧ですよ。はぁ……結構頑張ったのになぁ。千葉君、菅谷君、吉田君、協力ありがとう」
手伝ってくれた3人に感謝を述べて、僕の初めての暗殺は終了した。
ね?ね?完璧だったでしょう!と何度も食らいついてくる先生に、ちょっとだけウザイと思ったことのは、胸の奥にそっと置いておくことにした。
「ヌルフフフ、並盛君達にに続いてみなさんも、どんどん暗殺してきてくださいね?」
緑の縞模様に再びなった殺せんせーは、笑いながら教室を後にした。
その後、僕たちはみんなに、最高記録だよ!六本も触手を破壊した人なんて他にいないよ!と賞賛を受けた。
殺せなかったのは残念だったけど、これでやっと僕も暗殺に貢献することができただろう。
やっとみんなと肩を並べて暗殺できる気がする。
その後の殺せんせーは、教室に入る度に天井を1回は見回すようになった。
きっと僕たちの暗殺のせいだ。
これで、天井に何かするっていうのは難しくなっちゃったなぁ。
仕留めきれなかったことは今でも悔やまれる。
でも、心のどこかで、まだ殺せんせーから学びたいという思いもある。
「ヌルフフフ、今日もみなさん、元気に暗殺をやりましょう!」
先生が天井を見まわして教室に入ってくる。
なにはともあれ、今は目の前の授業だ。
僕は鞄から筆記用具と教科書ノートを取り出して、委員長の号令を待った。
ちなみに、教室の扉の桟にBB弾が何発か置かれるようになり、殺せんせーは足下もこれまで以上に注意するようになったそうだ。
今回は、衆人がE組に転入してから1、2週間くらいのことを想定して書きました。
何気寺坂グループにも勉強を教えていたあたり、クラスの真面目君は引っ張りダコのようです。
息抜きと思っていただければ、と。
対殺せんせー用のBB弾に触れるだけで細胞壊れるなら、銃で撃たなくてもいいのでは?という、素朴な疑問からヒントを得た暗殺でした。
作った装置については、ガバガバです。そんなんじゃ作れねぇよみたいな意見は、まぁ、作ったお話の中なのでここは一つ。