「さてみなさん、
始めましょうか!」」」」」
授業が始まると、殺せんせーが始めましょうかと声を掛けた。
……全員分の分身を出しながら。
というか、この前までそんなに分身できなかった気がするのだけど……。
「「「「いや……何を?」」」」
さすがに超生物に慣れてきた僕たちも、疑問の声を抑えることはできなかった。
先生が突然クラス全員分の分身を出して、始めましょうかと言われても……。
「学校の中間テストが迫ってきました」
「そうそう」
「そんなわけでこの時間は……」
「「「「テスト直前超高速強化学習を行います!!」」」」
「先生の分身が一人ずつマンツーマンで」
「それぞれの苦手科目を徹底して復習します!」
う、うん。することはわかったけど、分身一人ひとりが喋っているの、なんかすごいな。
高速移動して分身を出しているんだよね。
さっきの言葉も、『せそんれせぞいれののぶにんがしてんかがもひくとをりてずっつてマいンしツてーふマくンしで』みたいに、交互に1文字ずつずらして喋っているのかな?
……だめだ、考えるだけで頭パンクしそう。
「並盛君は、そうですねぇ。どの科目を勉強したいですか?先生個人的には、理科を教えたいんですけどねぇ」
頭がパンク仕掛けた僕に先生が話しかけてきてくれる。
分身した先生はみんな、何かしらの科目の鉢巻をしているけど、僕のだけまだ何も書かれていない。
苦手科目がないのだから、それはそれで正しいのかも。
「はい、じゃあ理科でお願いします」
あ、鉢巻に理の文字が入った。
僕が言った瞬間に、僕の殺せんせーの分身が鉢巻を変える。
いつのまにか理科の教科書も手に持っていて、相変わらずとても速い。
国語6人、数学8人、社会3人、理科5人、英語4人、……ナルト1人。
本当に少し前までは、4~5人くらいが限界だったのに、先生も僕たちと同じで成長しているのかな?
「にゅゃっ!?」
殺せんせーの叫び声に、何事かとノートから視線を先生に向けると、顔が変形していた。
……え、なに?どうしたの?
何があったのか目をパチクリさせていると、隣から邪悪な笑い声が聞こえてきた。
あぁ、カルマ君のせいなんだね。
「急に暗殺しないでくださいカルマ君!それ避けると残像が全部乱れるんです!あ、ちょ、言ってるそばからナイフを刺そうとしない!」
グニャグニャと殺せんせーの顔が変形していき、さすがに授業ができなくなってきたので、
「カルマ君、それくらいにしとこう。楽しめたし」
「そうだね~、俺も結構楽しめたし、静かに授業受けるよ」
よかったよかった、これで授業に集中できる。
……ん?
カルマ君が、静かに授業を受ける?
そんなことがあるんだろうか。
「そんなに驚いたような顔しなくていいじゃんか衆人君。今数学の教わってるとこ、楽しくて俺好きなんだよ」
ニヤリと笑って言うカルマ君は、教科書を見て先生の説明を聞きながらノートに問題を解いていく。
その姿を見て、素行不良なだけで、やっぱり真面目な人なんだと改めて思った。
「さぁ並盛君、人のことばかり気にしていないで、君は君の勉強を始めましょう」
「あ、ごめんなさい殺せんせー。えっと、じゃあこの部分のことなんですが」
今日の授業の内容は、とても濃いものになりそうだ。
「「「ありがとうございました!!」」」
今日の授業も全て終わり、そしてやはり、いつものように殺せんせーは殺せなかった。
暗殺のターゲットのはずなのに、授業がわかりやすくて、普通に先生してるところが、いつか僕達の壁になるかもしれない。
とにかく、今は考えても仕方ないから、日々を楽しく過ごそうと思う。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
「ん、俺も行くよ〜」
「じゃあ僕待ってるね」
僕とカルマ君がトイレに行ってる間、渚君は待ってくれるみたいだ。
あんまり待たせるわけにもいかないから、少し早足で向かう。
「そうだ、前々から聞こうと思ってたんだけど、よくあんな暗殺思いついたね。俺も確かに、手に対殺せんせー用ナイフ切ったのを貼り付けてとかしてたけど、あの考えは斬新だった」
「ありがとう。僕も最初は、みんな殺せんせーに銃を使ってたから、ある程度の速度で当てないと細胞を壊せないと思ってたんだけど、ほんとにそうなのか疑問に思ってね」
なるほど、それで千葉や菅谷、吉田を使って暗殺の準備をしたわけか。あいつらの才能はとがってるもんな。と、カルマ君は納得したようだ。
トイレから教室に戻っていた時、理事長先生とすれ違った。
珍しい、この校舎に足を運ぶなんて。
殺せんせーの様子でも見に来たのかな?
僕達は会釈をして通り過ぎようとすると、理事長先生から声をかけられる。
「やぁ、並盛君に赤羽君。中間テスト、期待しているよ」
それだけ言って理事長先生は旧校舎を出ていく。
期待しているよ、と言った理事長先生の笑顔は、貼り付けたような笑顔ではなく、本当の笑顔のように感じた。
それはカルマ君も同じように感じたみたいで、
「へぇ、理事長先生も案外いいとこあるのかもね」
「案外って……理事長先生はなんだかんだ優しい人だよ」
カルマ君の言うことに苦笑しながら、僕は教室の扉を開いた。
途端に感じた違和感。
いつも通りの放課後の風景なのだけど、みんなの雰囲気に、どことなく違和感を感じた。
カルマ君は気にしていないようだけど、さっきまでと比べて少し、クラスの雰囲気が暗い気がする。
「じゃあ、帰ろっか。行くよ、渚君、衆人君」
すでに荷物を取り、廊下に出ようとするカルマ君の声で、違和感にはとりあえず蓋をして荷物を手に取る。
「うん、今行くよカルマ君」
僕の気の所為だったかな。
2人を教室で待っていると、ガラッと扉が開いた。
あまりに早かったから、殺せんせーが忘れ物でもしたのかなと思っていたけど、
「やぁ、E組の生徒達」
教室に入っきたのはまさかの人物で、教室に残っていた僕達は唖然とした。
「こ、こんにちは、理事長先生」
磯貝君が僕達を代表して挨拶をした。
理事長先生は磯貝君にニッコリと微笑んで、僕達に向き直る。
「今年のE組には、私が才を認め、期待をしている生徒が“2人”も在籍している。彼らはきっと、勉強面で君達にも良い影響を与えているだろう。中間テスト、期待しているよ」
理事長先生はそれだけ言って、教室を出ていった。
僕達に向けられた、理事長先生の貼り付けたような笑み。
それは僕達を、暗殺者から一瞬でエンドのE組生徒に引き戻した。
理事長先生が、『2人』を強調したことも、僕達にとってはダメージとなった。
理事長先生が教室を出て行ったことにより、空気が和らいだせいか、みんな少しずつ明るい雰囲気を取り戻し始める。
少しすると、先程と変わらない放課後の景色になった。
するとすぐに、また教室の扉が開いて、並盛君とカルマ君が入ってくる。
「じゃあ、帰ろっか。行くよ、渚君、衆人君」
「う、うん。今行くよカルマ君」
僕はカバンを手に取って席を立つ。
カルマ君と並盛君はカバンを手に取り、ほら帰るよとすでに廊下で待っている。
……理事長が期待している2人は、きっとこの2人なんだろう。
なんとも言えない感情になったけど、2人と話をしていると少し気が楽になる。
E組はやはり楽しい。けど、E組はE組だ。
カルマ君や並盛君のように、何かしらの事情があってきたのではなく。
成績不振のためにやってきた僕を含め他のみんなには、理事長の言葉と貼り付けたような笑みが突き刺さった。
翌日。
「おはようございます、みなさん」
「「「「「「今日は先生、更に頑張って増えてみました!」」」」」」
……いや、増えすぎだと思う。
マンツーマン以上に増えて、どうやって僕たちに教えるつもりなんだ殺せんせー。
「「「「「「さぁ授業開始です!」」」」」」
しかも、残像もかなり雑になってる……。
髪の毛が生えたり眉毛が生えたりするの、残像にいったいどんな現象が起きているんだ……?
むしろ騒がしくて、少し集中が散りそうだ。
そんな中でも、きちんと教えてくれるところは、純粋にすごいと思った。
昨日の倍くらいの分身はいるから、きっとしゃべる時ものすごく頭を使っているのだろう。
殺せんせーの脳って、どんなふうに出来てるの?
長いようで短かった、騒がしい時間の終了を告げるベルがなった。
終業のベルが鳴った瞬間に、殺せんせーは教壇にもたれかかる。
やっぱりすごく疲れたみたい。
昨日マンツーマンでも少しきつそうだったのに、今日は倍以上に増えていたからなぁ。
「さすがに相当疲れたみたいだな」
「今なら殺れるかな?」
前原君が少し呆れながら、中村さんは嬉々としてナイフを構える。
「な~んでここまで一生懸命先生をすんのかねぇ」
「ヌルフフフフフ、全ては君たちのテストの点を上げるためです。そうすれば」
岡島君が零した疑問に、先生は笑って、答える。
……殺せんせーの目が輝いている。
そうすれば、いったいなんなんだろう。
「――となって殺される心配もなくなり、先生にはいいことづくめ」
……結局巨乳だった。
ピンクの顔でにゅやにゅや笑う殺せんせーは、1ミリもぶれない先生みたいだ。
その先生に僕も含め、みんなため息を漏らす。
僕のは呆れのため息だった。けど、みんなのは違った。
「いや、勉強の方はそれなりでいいよなぁ」
「うん、なんたって暗殺すれば賞金100億だし」
「100億あれば、成績悪くてもその後の人生バラ色だしね」
勉強はそれなりでいいという言葉に、みんなが言葉を漏らし始める。
え、せっかく先生がわかりやすく教えてくれてるのに、自分から学ぶことを諦めるの……?
しかも、それじゃあ、以前のビッチ先生と同じじゃないか。
暗殺があるから他は疎かにしていいなんて、ビッチ先生が反面教師になってくれた意味がなくなる。
あの時ビッチ先生を非難した正当性がなくなってしまう。
「にゅやっ!?そういう考えをしますか!?」
「俺たちE組だしよー?」
E組だから、と言い始めるみんなに、さすがに見過ごすことができなかった僕は口を挟むために息を吸い込む。
それ以上E組であることを悲観して、暗殺だけに頼ってはだめだ。
殺せんせーはターゲットである前に、僕たちの先生なんだ。
「え、ちょ、待とうよみんな!殺せんせーのおかげでみんな少しずつ学力上がってきてるよ?このまま殺せんせーに教えてもらえるなら、もっと勉強も上を目指せるよ!」
「並盛君の言う通りですよ!あなたたちはまだまだ上を目指せます!」
僕の言葉に殺せんせーは大きく頷いて言葉を発したけど、みんなには響かない。
「そりゃ、確かに殺せんせーの教え方も、並盛の教え方もわかりやすくてマジで感謝してるよ」
陽人君が僕の言葉に反応して返してくれるが、僕の言葉は届いていないようだ。
陽人君は、でもなぁ、と言葉を続けてひなたさんを見る。
パスを受け取ったひなたさんは、うんと頷いて、言葉を紡ぐ。
「うん、カルマ君や並盛君は元々点数とれてるからすぐ成果が見えるけど、私達はもとが悪いからさ」
「うちらにとっちゃ暗殺は、勉強やテストよりも、身近な選択肢でチャンスなのよ」
ひなたさんの言葉に中村さんも乗っかる形で意見を口にした。
違和感の原因はこれか……?
みんな、やたらとエンドのE組であることを強調し、そんな自分には勉強なんかより暗殺のほうがチャンスだと口にする。
昨日、トイレから教室に帰るときに、理事長先生とすれ違った。
もし、理事長先生がなんらかの話をみんなにしたならば、今の状況にも少し納得がいく。
昨日までは、みんな勉強を諦めてなどいなかったのに。
クラスのみんなの言葉を聞いて、下を向いた殺せんせーは、静かな声で言葉を発した。
「……なるほど。よくわかりました」
殺せんせーの怒ったような、それでいて優しいような、そんな声だ。
「今の君たちには、暗殺者の資格がありませんねぇ。全員校庭へ出なさい」
殺せんせーの顔は、暗い紫に☓印。
僕たちが間違えたときの顔だ。
先生に言われるがまま、僕たちは教室を出て校庭へと向かう。
みんながざわざわと、しながら校庭へ向かう中、
「君にはとばっちりでしょうが、連帯責任ということで、私のお説教は右から左に聞き流しておいてください」
僕にだけ聞こえるように、殺せんせーはそう囁いて、校庭のど真ん中へとにゅるにゅる歩き始める。
「急に校庭に出ろなんて、どうしたんだ殺せんせー?」
「さぁ、いきなり不機嫌になったよねぇ」
なんでなんだろとみんなは首を傾げているようだ。
「な~んかさ、昨日まではエンドのE組だってこと忘れて楽しく勉強なり暗殺なりなんなりやってたのに、みんなどうしちゃったんだろうねぇ」
カルマ君がぽつりと独り言を漏らした。
カルマ君はどうやら昨日の雰囲気の変化に気づいていたみたいだ。
そのときは興味がなかったから話題にしなかったんだろう。
「なんなのよ、急に来いって」
「殺せんせーがイリーナ先生も呼べって」
ビッチ先生を呼びに行っていた片岡さんが帰ってきた。
これでこの教室の全員が出揃ったことになる。
「イリーナ先生。プロの殺し屋として伺いますが、あなたはいつも仕事をする時、用意するプランは1つですか?」
「いいえ、本命のプランなんて、思ったとおり行くことのほうが少ないわ。不足の事態に備えて、予備のプランをより綿密に作っておくのが、暗殺の基本よ」
「では次に烏間先生。ナイフ術を生徒に教える時、重要なのは第一撃だけですか?」
「第一撃はもちろん最重要だが、次の動きも大切だ。強敵相手では、第一撃は高確率でかわされる。その後の第二撃、第三撃を如何に高精度で繰り出せるかが、勝敗を分ける」
その殺せんせーの質問で、殺せんせーがみんなに言いたいことが、なんとなくわかった気がする。
単に勉強を諦めたからお説教をしているのではなく。
暗殺だけを自分の主軸としていたら、殺せんせーが他の誰かに暗殺されたり、この教室からいなくなってしまえば、残るのは、心の底に根付くE組という枷だけ。それを危惧して殺せんせーは怒っているんだ。
「結局何が言いたいんだ?」
陽人君のつぶやきに応えるように、先生はくるくる回転しながら言葉を紡ぐ。
次第に竜巻のように風が先生に集中して、砂ぼこりが巻き上がる。
ヒューと口笛をカルマ君が鳴らす中、僕はサッと眼鏡をポケットに入れ、顔と目を覆う。
こうしなきゃ、眼鏡に砂がついて、後で洗いに行かなくちゃならない。
ていうかカルマ君、呑気に口笛なんて吹いてないで顔とか手や袖で覆った方がいいと思うよ!?
「先生方のおっしゃる通り、自信を持てる次の手があるから、自信に満ちた暗殺者になれる。対して君たちはどうでしょう。俺達には暗殺があるからいいやと、勉強の目標を低くしている」
竜巻のように、から竜巻そのものになり始めたあたりで、いよいよまずいんじゃないかと思い始める。
突然山に竜巻が出現するなんて、ネットニュースなんかに取り上げられちゃったらどうするつもりなんですか殺せんせー……。
「それは、劣等感の原因から目を背けているだけです!もし、先生がこの教室からいなくなったら?君たちには、E組であるという劣等感しか残らない!」
そんな危うい君たちに、と先生はより一層竜巻を成長させながら、僕たちにアドバイスをくれた。
目とか口とか覆ってるから、音でしか周りの環境がわからない。
『第二の刃を持たざる者は……暗殺者の資格なし!!』
その言葉と共に、竜巻が消える。
風の音が消え去り、薄っすらと目を開けると、雑草だらけで何もなかった校庭が、サッカーゴールや朝礼台まで整備され、おまけに綺麗にライン引きまでされている。
一瞬で先ほどまで見ていた光景が塗り替えられたことに、超生物に慣れたと思っていた僕たちは、大きな衝撃を受けた。
そして、改めて認識する。
先生は来年、地球を破壊する超生物であることを。
「校庭に雑草やでこぼこが多かったのでねぇ。手入れしました。先生の力があればこんなこと、朝飯前です。もしも君たちが、自信を持てる第二の刃を示せなければ、先生の相手に値する暗殺者はいないとみなし、校舎ごと平らにして、先生は去ります」
「第二の刃……いつまでに?」
渚君の疑問に、先生はいつもの顔に戻って、いつもの声で告げる。
「決まっています。明日です」
その後告げられたクラス全員50位以内という無理難題に、僕らは唖然とする。
全員50位以内……?
僕だって、いつも70位とかなのに、取れるのかな……?
僕たちの不安を感じてか、先生はアドバイスを僕らにくれた。
私は君たちに、きちんと戦えるだけの刃を育ててきました。自信を持ってその刃を振るってきなさい。ミッションを成功させ、恥じることなく胸を張りなさい。自分たちがアサシンであることに、E組であることに、と。
先生のその言葉で、みんなの、僕らの眼が変わる。
そして、中間テストの日がやってきた。
テストは全校生徒が本校舎で行う決まりだ。
普段立ち入らない教室でテストを受けることになるため、僕達は完全にアウェーでの解答を強いられる。
不安は、ない訳じゃない。
でもテストのために、殺せんせーにたくさんのことをわかりやすく教えて貰ったんだ。
旧校舎で待つ殺せんせーに、50位以内手ごたえありですという報告がしたい。
トントントントンと、僕らの集中を乱すように、担当の先生が音を立て続けるが、気にせずに問題に取り掛かる。
みんなもカリカリと答案用紙に答えを書き綴り、問スター達を、教えて貰った刃で切り倒していく。
問10まで答えを書き終わった時、僕達は背後から、見えない問スターに殴られた。
なんだ、この問題。
その問題に、僕の頭はフリーズする。
明らかに、知らされていたテスト範囲外の問題だ。
まずい、ここで落としたら、とても50位なんて入れない。
思い出せ、ここは、殺せんせーが個別授業の時にさらっとついでに教えてくれたはず。
記憶を引っ張り出しながら、なんとか解答していく。
なんとか最後まで解答することはできたけど、自信はない。
なんとか部分点を取れないかと、いろんな角度から切り刻んでみたけど、望み薄だ。
みんなは問10で止まってしまった人がほとんどらしい。
次の教科も、この調子だったらまずい。
不穏な空気が流れる中、次のテストの開始を告げるベルが鳴った。
……教室の空気は、かなりというか、すごく暗い。
みんな中間テストの答案を返されたところだった。
烏間先生が抗議の電話をしに職員室へ向かったけど、理事長先生のことだ、きっとなにも変わらない。
教室全体が暗い空気の中、扉が開いてにゅるにゅる、いつもよりゆっくりと殺せんせーが入ってくる。
教壇の前で止まると、そのまま黒板を向いて、言葉を発した。
「……先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見すぎていたようです。君たちに顔向けできません」
みんなは下を向いて、点数の変わるはずのない答案とにらめっこを続けている。
そんな中で、トントン、と机の隅をつつくカルマ君が、にやりと笑って僕に答案を見せつけてくる。
僕はその点数に、驚きのあまり声を発せずにいると、カルマ君はナイフを取り出し、殺せんせーへと投げた。
「にゅやっ!?」
「いいのぉ~?顔向けできなかったら、俺が殺しに来んのも見えないよ?」
「カルマ君!先生は今落ち込んで――なっ!?」
先生の言葉を遮って、カルマ君は教壇に自分の答案を教壇に雑に置く。
その点数はほぼ満点で、数学に至っては100点満点だ。
「俺問題変わっても、関係ないし」
おぉ、すっげぇ。
数学100点かよ。
えぇー!?すごい!
クラスのみんなが席を立ってその答案をのぞき込む。
そのせいか、教壇周りには人だかりができた。
「俺の成績に合わせてさぁ、あんたが余計な範囲まで教えたからだよ。だから出題範囲が変更されても、対応できた。けど、俺はこのクラスを出る気はないよ。前のクラスに戻るより、暗殺の方が全然楽しいし」
そこで言葉を区切ったカルマ君は、邪悪な笑みをにやりと浮かべて、先生の顔を覗き込む。
……なるほど、カルマ君らしいや。
「で?どうすんのそっちは。全員50位以内に入んなかったって言い訳つけて、ここから尻尾巻いて逃げちゃうの?それって結局さぁ、殺されるのが怖いだけなんじゃなぁ~いの?」
わかりやすい挑発に、殺せんせーはすぐ乗っかる。
渚君が持ってる弱点ノートに書いた弱点を突いた、カルマ君らしい煽り。
その意図をくみ取った片岡さんが陽人君を肘で突く。
暗かったクラスの雰囲気は、殺せんせーを除いて全員が、明るくなる。
みんなしてにやりと笑顔を浮かべて、カルマ君に続いて煽り始めた。
「なぁ~んだ、殺せんせー殺されるのが怖かったのかぁ」
「それなら正直に言えばよかったのにぃ~」
「ねぇ~、殺されるのが怖いから逃げたいって」
「……ムキィ、ムキムキムキィ!にゅやぁああ!逃げるわけではありません!」
みんなの挑発兼煽りに、殺せんせーは顔を真っ赤にして、しかも大量の怒りマークを浮かべて叫んだ。
「へぇ~、じゃあどうすんの~?」
カルマ君が面白そうにそれを見ながら、煽り口調で言う。
「決まっています!期末テストであいつらに倍返しでリベンジです!!」
「「「「あはははは!!」」」」
クラス中が笑いに包まれた。
にゅやぁあ!?笑うところですか!?と殺せんせーが言うも、それすらも可笑しく感じてしまって、みんながみんな心の底から笑いだす。
かくいう僕も、そのみんなの一員だ。
本当に、E組に来てから笑うことが多くなった。
殺せんせーが言ってくれたように、ここでなら僕は、壁を越えられるのかもしれない。
カルマ君が、にやりと笑みを向けてきた。
僕はいつもの笑顔で返し、また笑った。
数学76
英語77
国語78
理科80
社会79
総合390
総合順位 186人中50位
これまでまったく伸びなかった成績が、初めて少し伸びを見せた。
その喜びはものすごいものだったと思います。
なんとかここまで書き終わりました。
これからは、楽しい楽しい修学旅行のお話しです。