山の中腹で、私は旅に出る決意を固めた。
厄を集める為に、というのもある。でもやっぱり、一番大きな理由としては此処に居ることに飽きたからだろう。そもそも私は此処に執着する理由は無い。
確か最初は、人間が近づかない場所に行こうとしていた気がする。そして、天狗と鬼が支配するこの山に来たのだった、と思う。覚えていないが、まぁ私が此処に来た理由などどうでもいいのだ。
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「えー!?雛、出て行っちゃうの!?」
うん。ちょっとだけ寂しいけれど。
廃れた神社で、静葉にお別れを告げる。とはいえ、いつかは戻ってくるのだけど。多分近い内に。穣子が居ないけど、多分散歩にでも行ったのだろう。この二柱も立派な神様なのに、かなり人間くさい。
でも、だからこそ私も仲良くなれたのだろう。なんやかんや、私も人間が好きだから。
「うー、また友達が離れていくわ。まぁいいわ、元気でやってね」
うん。行ってきます。
「ちなみに、何処から巡っていくの?」
守矢神社。
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初めて来たけど、こんなに大きかったのね。人っ子一人居ないけれど。
「そりゃ、こんなに寒いとねぇ。春くらいから人間が来始めるよ」
蛙なのに冬眠しないのね。
「私、別に蛙の神様じゃないよ?」
蛇だって寒いと辛そうよねぇ。時々見ていて可哀想になってくるもの。
「...本当に蛇?神奈子のこと言ってない?」
そういえば、二柱居ると聞いていたのだけれど。
もしかして自ら信仰集めに?でも、有り得なくは無いかなぁ。
「今神奈子なら地底に行ってるよ。頭が空ろな子を探してるんだって」
地底?久しく聞いたけれど、どうやってその存在を知ったの?
「そりゃまぁ、祟り神でちょちょいと」
ふぅん。まぁいいけど、あんまり面倒くさいことしないでね。
「ありゃ?貴女ってそんなだったっけ?」
私だって愛しているもの。この郷を。
「へぇぇ。ただ勘違いしないで欲しいけど、神奈子だって妙なことをしようとしてる訳じゃない。単なるエネルギー革命よ」
八咫烏、ね。
「さぁね。私もそんなに説明してもらってないから」
そう。それじゃあ、もう行くわ。風祝にもよろしく。
「...一瞬で見抜かれちゃった。厄神様って、厄介なのねぇ」
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さて、山を降りようかしら。そしたら何処に行こうかな。
そういえば、私ってこの幻想郷のことを殆ど知らないのよねぇ。長いこと山に籠ってたからなぁ。見聞を広める、っていう目的もこの旅にはあるのかしら。
「おい、止まれ」
あら、何かしら?
「此処は我ら――天狗の土地だぞ。貴様こそ何をしている」
...若い子って、物を知らないのねぇ。それとも貴方が特別無知なだけかしら。
「...言うじゃないか、小娘。つまり、天狗を敵に回すと」
あらあら、本当に知らないのねぇ。まったく、天魔も教育がなってないわねぇ。
まったく、本当に腹立たしい。いくら天狗との接触を避けてきた(関わったら碌なことにならないから)といっても、まさか忘れられているとは。
私に近づいちゃ駄目だと、キツく言っておかないと。
「んなっ、貴様何を...!?」
いいから、暫く私に身を任せなさい。
囁いただけで無抵抗になっちゃうのねぇ。可愛いというより、愚かしい。
厄を吸うのではない。放出する。
「...ガッ」
あら?
「ゴホゴフゲホゲホエホゲホ!!?」
汚いわねぇ。血を吐きながら咳しないでよ。
「きっ、貴様ゲホッ!!」
あら、喋れもしないの?随分厄が溜まってたみたい。
「......カハッ」
斃れた。もう少し静かに死んでもらいたかったなぁ。ほら、もう白狼天狗が来てしまった。
でもまぁ、この子は私のことを知っているから良かった。全然近づいてこないから、私が動く必要が無いのよねぇ。
「...またですか、雛さん」
私は悪くないわよ。この子から言い寄ってきたんだから。
「まぁ、でしょうね。私もこの人嫌いでしたし」
椛ちゃんも言うようになったわねぇ。ちゃんと私がやったんだって言うのよ?
「解ってますよ。で、こんな下まで降りてきて何を?」
旅に出るの。いや、もう出てるのかしら。
「......旅、ですか」
大丈夫よ、ちゃんと気をつけるから。今回は特別なの。
「果たしてそんな理屈が通じますかねぇ」
此処は幻想郷なのだから、通じないことなんて無いわ。残酷に受け入れなさい。
「...まぁ、良い旅を」
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さて、何処に行ったものだろうか。とりあえず真っ直ぐ行こうかな。私なら大丈夫だろうし。
そんな考えのもと適当に歩いていたら、森に着いた。妖怪の気配もなく、なかなかに静かな森。纏わりつく胞子は少し鬱陶しいけど、そこまで気にはならない。
それにしても、気配が一つしか感じられない。多分前に会った子かしら?
...『なんかします』。霧雨魔法店。
つまり、此処にはあの人間が居るのかしら。
コンコンコン、と三回ノック。返事が無いわ。中でただの屍になっているのかしら。
再度コンコンコン、とノック。やっぱり返事が無い。もう一度、とやろうとしたらドアが開いた。
髪はボサボサで、下着にキャミソールだけの恰好。色気がまるで感じられないわね。
「何だ、客か?」
...折角綺麗な髪なのだから、整えてきたら?
「いいんだよ、これが私流だ。というか、お前誰だよ」
覚えてないのね。少し前に会ったばかりなのに。
「んん?」
目つきを鋭くしながら覗き込んできた。じろじろと観察して、ようやく私のことを思い出したようだ。
「お前、山に居た奴だな。なんで出てきたんだよ」
色々思うところあってね。
「依頼が無いなら帰ってくれよ。私は忙しいんだからな」
今の今まで寝入ってたくせして。
「だから寝かせてって言ってるんだ。道案内ならいつかしてやるよ。おやすみ」
おやすみ。
あれ、私どうしよう?
雛ちゃんを主人公にしてみました。
最初は何となく思いついただけだったのですが、思ったより主人公適正があるんですよね雛ちゃん。
この会話方法については、実験みたいなもんです。それでは、またいつか。