森を抜けて少し歩くと、広がった地に着いた。
辺りにはよく分からない物が散乱している。妖怪達が彷徨っているし、あまりいい場所では無いなぁ。
それでも何かないかと目を凝らしながら歩くと、とある妖怪がこちらに背を向け座り込んでいた。どうも何かを食べているようだ。回り込むように動いて、妖怪が何を食べているのか確認する。
ジロッ、と妖怪が睨んでくる。その手には大きな肉塊が握られていた。
そんなに睨まなくていいじゃない。
別に盗ったりしないわよ。
そう言ったものの妖怪は私の観察を止めず、それでもひたすらに肉塊を噛み千切っては呑んでいた。襲い掛かってこないだけマシなのだろう。他の妖怪もまた私の姿を認めても襲ってはこなかった。
そして妖怪が食べ終わるまで見ていようと腰を下ろすと、ようやくその肉塊が人間のそれであることが判った。
天狗達は人間を食べない(少なくとも食べているのを見たことが無い)ので、すこし新鮮な感じだ。どうやら食事シーンを見られるのが嫌だったようで、妖怪はもそもそと適当に齧ってからその肉塊をぽい、と捨てて何処かに行ってしまった。
私はその肉塊を手に持ってみる。子供の身体だったようで、かなり小さい。顔は無く、かろうじて繋がっている右腕と右上半身だけが残されていた。皮膚と筋肉の断面から、それなりに太っていた子だったのだろうと推測する。
襲ったのなら残さず食べなさいよね。
妖怪が食べ残して去っていったことに、少々の怒りを覚える。折角殺してその肉を手に入れたというのに、全くもって勿体ない。
私は肉塊に手を合わせ、また森の中へと入っていった。
▽▽▽▽▽▽▽
さて、またしてもこの静かな森へと戻ってきてしまった。
どうしたものだろうか。やっぱり元来た道を通って森を出ようか。
...あら。
薄暗い森の中で、すこし明るい場所があることに気づいた。知らず知らずのうちに、さっきの子の所まで戻ってきたのだろうか。
いや、それは無い。先程とは違うルートを通ったはずだ。なんにせよ、行って確かめるのが一番だろう。
虫のように、明かりに向かって歩く。
隣に生えている木が少なくなってきて、丸く光が差し込んでいる場所に出た。そして、その中央に一軒の家がある。
もしもーし。
訪問してみる。コンコン、と二回ノックすると住人であろう人が顔を出した。端麗な顔に不思議そうな表情が浮かんでいる。
「何方かしら?」
ただの厄神よ。
「...ああ、貴女が」
聞いたことが?
「ちょっと知り合いからね」
厄神だと名乗ると、わかりやすく距離を置かれる。まぁ、いつものことで、当然のことだ。
本当は歓迎してもらいたかったし、中に入れて欲しかったのだけれど。いや、流石にこれは我が儘か。厄神を歓迎する者などそうは居ない。
色んな所を見てみたいの。何か知らない?
「そうね...」
顎に手を当てて考え込んでいる。差し詰め、私が行っても大丈夫であろう場所を探しているのだろう。
「...ごめんなさい。私、あまり出歩かない性質だから...」
いいのよ、気にしないで。いきなり来て悪かったわね。
そうして、結局何も情報を得ぬままに森の出口が近づいてきた。
▽▽▽▽▽▽▽
森と外の境界線かのように、道があった。
甃で出来た、恐らくは参道。
森のすぐ側に、参道...?
どうせだから、と行ってみることにした。それにしても、今までの旅路でそれなりに移動したのではないだろうか。
コツコツ、と足音を立てて甃を歩いていると、ブーツの底が擦れ始めているのを思い出した。長いこと履いているからなぁ。
そんな事を考えていると、長い石段が映った。ブーツなんだから勘弁して欲しいのだが。