階段を上がるにつれて、厄が感じ取れるようになってきた。上に居る誰かが非道い厄に見舞われているのだろう。いや、最早この厄の濃さは穢れだ。
ようやく登りきると、そこには縁側で話している二人の人間が見えた。
「少し前の事です。黒い手が、私の、娘を...」
「なるほど」
前に山で会った巫女はちら、と私を一瞥だけして話に戻った。男の方は私に気が付いていないようだ。
「...なので、お願いします。どうか娘の仇を...」
「でも其処は人里では無かった」
「...確かにそうです」
「なら私には何も出来ない。私はあくまで人里の住人を守るに過ぎないから」
「そんな...」
巫女の言葉に、男は頭を抱えた。話から察するに、娘が妖怪にでも殺されたのだろう。穢れが渦を巻いている。
ここまで濃いとなると専門外ね。もはや私が受け取れる厄を超過している。
...くだらない。
「...は?」
しまった。考えがつい口を出てしまった。しかも男に聴こえてしまったようで、血走った目で此方を睨んでくる。
「いったい何がくだらないんだ?」
聞き間違いよ。私はそんな事言ってないわ。
「...ふざけるな、そんな言い訳が通じると思うなよ。何がくだらないって?」
...じゃあ言わせてもらうけど。
売り言葉に買い言葉。とは少し違うけど、こうも詰め寄られては言わないという選択肢は無かった。
人間なんて、遅かれ早かれいつかは死ぬわ。貴方も、そこの巫女も。貴方の娘は
たったそれだけの事なのに仇討なんて...本当にくだらないわ。
「......」
男は黙っている。判らないけど、恐らくは怒っているのだろう。凄い目つきをしている。
「あんた、謝りなさい」
私が?
「どんな考えを持ってようが知ったこっちゃ無いけど...それで傷つく人も居んのよ」
成るほど。解ったわ。
改めて男に向き直る。私はしっかりと目を合わせて謝った。
ごめんなさい。私のせいで、貴方を傷つけてしまった。
「......」
男は黙ったまま、私の方を見ていた。少しは怒りが収まってくれただろうか。それからぶつぶつと何かを囁きながら、階段の方へと向かっていった。
怒っているせいなのか、不安定でふらふらとした歩き方をしている。やる気の無さそうな足が石に当たってはよろけていた。
「あっ」
そんな情けない声が男の最後の言葉になった。
最初の一段目で足がもつれたようで、石段を転げ落ちていった。時々ゴンッ、と鈍い音が鳴って、最後は滑っていくようなジャリジャリ、とした音になった。
あっ。
私もまた男のような情けない声を出してしまった。
縁側でぼんやりとしていた巫女が、男の姿が落ちたと見えるとすぐに飛んで行った。私も石段の上まで行き、下を覗き込む。
見えたのは、ボロボロになった男の死骸に手を合わせる巫女の姿だった。私も手を合わせておいた。
▽▽▽▽▽▽▽
私が原因かしら?
「どうかしら。全部が全部あんたのせいでは無いだろうけど」
それでもあんな事は言わない方がいい、とキツく注意された。出来るだけ言わないようにしよう。
それにしても、神社だというのに驚くほど神性が散らばっている所だ。どうしてこんなに点在しているのだろう?
ねぇ、此処って何の神様かしら?
「何の神様でもないわ。こんなのポーズみたいなもんよ」
流石にこれは驚いた。神社なのに何も祀っていないなんて。
...あら?そういえばこの神社って何時から在ったかしら?私が山に行った時には既に在ったはず...
でも、まだ結界が
「及ばない物は考えない方が良い」
耳元で突然聴こえた囁き声。私は飛び退きながらも後ろを見た。
...やっぱり貴女か。
「どうしてこんな場所に居るのかしら?」
少し旅に出ているだけよ。それとも、それすら許されないのかしら?
「いいえ、私は何も否定しませんわよ。それよりも」
何よ。
「結界は在ったし、今も在る。当然、神社も。それだけでいいじゃない」
実に都合のいい考えね。納得出来ないといえば出来ないわ。
「納得してもらわなくとも。受け入れてくれればそれで良いのです」
成るほど。
賢者にとって、結界については触れられたくないらしい。そのくせ考える余地は与えるのだから性質が悪い。
考えるだけ考えさせて、結局何の答えも得られない。
「ここの生活には慣れたかしら?」
何よ、今更その質問は。
「少しね。貴女がまた余計な事を考えそうだったから」
...ねぇ、初めて会ってもうどれ位になるかしら?
「さぁねぇ。もう覚えてないわ」
私、今が一番貴女のこと嫌いよ。
「そう」
言うだけ言って帰られた。久しぶりに来て何を言うのかと思えば、くだらない警告だとは。
ちょっとオリ要素出ちゃったかな?一応原作寄りにしてるんですが(地霊殿のちょっと前)。
結界について考えるの禁止。何となく幻想郷ではありそうです。
雛ちゃんも神様ですし、こんな考えしててもいいかなと。
それでは、またいつか。