「なるほど、紅魔館ね。いいんじゃない?」
まだ一度しか行ってないから。それじゃあ、またね。
お見送りは一人だけ。まぁそれも仕方ない、みんな忙しいのだろう。
かぐや姫に送られながら、私は紅魔館へと飛び立った。思わず何日か滞在してしまったが、中々面白い体験だった。
「おろ」
あら。
「誰かと思ったら厄神か。こんな所でとは珍しい」
死神ね。出来れば会いたくなかったわ。
「そんな非道いこと言うなよ。あたいはそんなに持ってないんだからさ」
そりゃ、船頭ならそうでしょうけど。で、何してるの?
「ちぃと永遠亭までね」
あら、私が今まで居た所よ。
「ほう」
鎌を持ち直す死神。
じっ、と此方を覗き込んでくるが、何か見えるのだろうか。
「あんたは極夜だね」
きょくや?
「宵に覆われ、陽の光は届かない。晴れない厄を持ったあんたにゃぴったりだ」
...もしかして罵られてるのかしら?
「光を浴びないという事は、陰ができないということ。筋の通った奴だね」
あら、誉められてるのかしら?
「ただの気質の話だよ」
よく解らない。まぁ、どうでもいいことだ。私は紅魔館へ行くのだから。
死神も暇ではないのだろう、ぱっ、と居なくなってしまった。
▽▽▽▽▽▽▽
湖の中に建っている紅魔館を眼下におさめる。
前に来た時は、パーティーに招待されたから来たんだった。
降りると、門番が壁によりかかって寝ていた。
もしもーし。
返事がない。どうやら本当に眠っているようだ。
どうせだからと肩を突っつくが、反応なし。帽子を取るが、反応なし。ほっぺをむにむに。反応なし。
いい加減入ろうかな。
勝手に門を開ける。反応なし。
中々に広い庭園をぷらぷら見て回る。妖精は一人も居なかった。
「お客様ですか?」
ええ、そうです。
パーティーの時に会ったメイドさん。いつの間に来たのだろう。
恭しく一礼したあと、
「どうぞごゆるりとお楽しみください」
そして居なくなった。目の前に居たのに、まったくタネが見えなかった。
お楽しみください?
どういう意味だろうか。
「む、来たか」
背後から声を掛けられた。
振り返ると、吸血鬼がパラソルテーブルの下でワインを飲んでいた。
来たか、って私が来るのが分かっていたの?
「当たり前だ。私が呼んだからな」
?
大仰に首を傾げるが、吸血鬼はただ笑うだけだった。
手に持ったワイングラスを掲げる。
「お前は今日の珍客だ。とっとと此方に来い」
仮に私が本当にスペシャルゲストだったとして、その態度はどうなのか。
まぁ吸血鬼はこんなものか、と思い直す。
私が向かいに座ると、吸血鬼が直々にワインを注いだ。
「秘蔵の銘醸だ。美味いぞ」
いただきます。
くい、とグラスを傾ける。仄かな渋みと酸味。それに、圧倒的な甘味。
喉を通った後の残り香は、華やかにして優美だった。度数は高めだろうが、スーッと飲めた。
美味しい。
気づけばそう言っていた。それに気をよくしたように、グラスにおかわりが注がれた。
つまみが無いな、と思っていたら先程のメイドさんがチーズを持ってきた。
「お口に合うか判りかねますが」
それは少し辛子の風味があって、ワインと絶妙に合わさっていた。
吸血鬼はワインばかり飲んでいたが、恐らく辛いのが苦手なのだろう。