渇いた土地と無風が支配する辺境の惑星に、機械生命体の悲鳴が虚しく迸った。
「ええい、忌々しい蛆虫共めが! まんまと破壊されてしまえばよかったのだ!」
「ぐあっ! そ、そんな殺生な! ああガルバトロン様、どうかお慈悲を」
鋼鉄の拳で殴打されても、なおいじらしく命乞いをするのはスカージだ。
「ああわかったくれてやろう──それならワシの手で引導を渡してくれるわ死ねえええい!!」
暴君の右腕に装着された巨大な砲身から紫紺のレーザーが放たれた。スカージの右脚を掠めたそれは、誰も開拓しないであろう荒野に直撃し、そこにあった丘を爆発と共に消滅させた。
「ひいいッ、か、勘弁してくだせえ」
その破壊力を知る髭面の追跡者軍団リーダーは、その場にへたり込んでしまう。
惨めな二人のトランスフォーマーを見兼ね、サイクロナスはスカージの胸になお銃口を向けようとするガルバトロンを諫める。
「お言葉ですがガルバトロン様、此奴への制裁にエネルギーを使うのは……」
「皆まで言うな! わかっておるわ、これはただの余興に過ぎん」
この場を共有する面々は、言葉なくしてこの緊張感さえも共有しているのを苦渋に感じていた。辛酸を嘗めさせられた荒くれ者の彼らは、その暴力を纏め上げる力こそが絶対であり、
「ワシはマトリクスを奪取する計画を練る。ジャールに戻るぞ!」
その絶対は、凋落したデストロンにとって致命的なものであった。各々のデストロン兵は、乾留液でも浴びさせられたような顔をして彼に続いた。
*
基地に帰投したデストロンは、羽根を、或いは車輪を休めていた。そんな中、スタントロン部隊の二人は不服にも警備の任に就いていた。
「やれやれ、メガトロン様の時は優秀なブレインサーキットをお持ちだった。もし今もあるなら、俺たちにこんな無意味な仕事はさせまい」
「おい、やっぱりクーデターを起こすしかねえよ……な、モーターマスター」
「確かにな。いっちょ後ろからメナゾールにユナイトして襲えば」
二人の会話は、サイクロナスの赤い目が赦さなかった。彼は憲兵みたいな語調で問う。
「私のセンサーは貴様らの発言を反逆と解釈した。ガルバトロン様に報告させてもらうぞ」
「ゲエ! ズラかるぞ!」
「チッ! 腰巾着がよ」
モーターマスターとデッドエンドはそれぞれトラックとスポーツカーにトランスフォームし、基地の外へと飛び出していった。排気ガスを撒き散らしながら……
「やはりデストロンの風紀は乱れているな」
取り残されたサイクロナスは眉間に皺を寄せ、深い溜息ののち現状を憂いた。そうして俯くと、彼は着実に思い出す懊悩があった。
「私には戦前の記憶が、ない」
地球での戦いも、古株のデストロンが殺害した数々のサイバトロンも、生前のスタースクリームの裏切りも、メガトロンに絶賛されたレーザーウェーブも……
……メガトロン。
「クソッ!! 奴らの称えるメガトロンは、メガトロンとは何なのだ!」
過去のデストロン軍団なぞ一蹴できる実力を、私は産まれながらにして持っていたのに──
「……その過ぎ去った戦争を知らない」
巨きい災厄によってこの世に生を受けたのを、こうして独り悔いる時間が彼を彼たらしめ、そして一人の武人に仕立て上げたのである。
「メガトロンはガルバトロン様の前身……それならば、私は、」
「あ、あのう」
「……ん? 貴様か」
声をか細くして、遠慮のある距離感で彼を呼んだのはスカージであった。
「貴様にかけてやる言葉などない。次の戦いに備えて武器でも磨いておけ!」
「サ、サイクロナスの旦那は相変わらずですな」
こんな脆弱な戦士が自分と同じ出自を持つ事実に、サイクロナスは屈辱を覚えないはずがなかった。だが、今日はそればかりではない。
「……待て!」
「へい? なんでございやしょう」
「メガトロン、様……を知っているか」
「ああ、連中が噂してやがりますぜ、それに」
要領の悪い返事にサイクロナスは自身のエナジーシグネチャーに変調がないか心配になった。
「こないだ……そう、あのワケのわからない戦いの後から、
「もういい」
「へ? はぁ」
サイクロナスは失望していた。それはスカージの頭の悪さにではなく(そもそもそんな部分に彼は期待をしない)、スカージを仲間だと無自覚に認識していた醜さと、それを醜く思うように出来ている自分の
それに加えて、彼も『あのワケのわからない戦い』について何も感じていないでもなかった。
スカージが恐る恐る背を向けて消え失せたのを見るや、サイクロナスは再び思惟に耽る。
「ダイナザウラーやテラートロン共が異常を来たした、あの戦い」
有機生命体に擬態したトランスフォーマーにだけ降り注いだという『声』。
「私にも、聞こえていたんだ。僅かに」
認め難い真実を、スカージによって語られた過去によって認めざるを得なくなってしまった。拳を壊れんばかりに握り、湧いて出る憎悪を殺していた。そうして感情を確かめながら、サイクロナスは確信した。かつて異星の有機生命体をスキャンしていた事実を。
「あのヴィジョンは、私の目、私の手」
地球の植物を食い散らかす下賤なトランスフォーマー。棘のついた節足と未熟な口吻を模した姿。
「ああ、そうだ、前世は
神の悪戯か、彼に与えられた記憶はそれだけだった。
「……私が過去に動揺するのも、ガルバトロン様にお仕えしているのも、原因はひとつ」
サイクロナスは固く握った手を開き、敬虔な信徒のように掌を胸に宛がった。
「そうプログラムされているからだ」
呟いて、彼は好敵手ウルトラマグナスに照準を合わせる想像をしながら、スタントロンが謀反を企てている可能性がある旨を我が主へと報せに行った。プログラムに従って。
2010第26話「原始の呼び声」後のお話。
キムチ丼食いながら考えました。
有機生命体に擬態したTFにのみ聞こえたあの声は、実はサイクロナスらにも聞こえていて、それが過去を知る手掛かりになり……
また、武人として滅私をし個を抑える彼の性質に対して、ユニクロンによって生み出される以前の自分を知りたいという欲動に駆られるジレンマに苦しみ……
といった独自解釈を含みます。