私は性懲りもなく、自分らしくもなく、またこんな場所へ訪れていた。
「……」
脇目も振らないというのはこういう行為なのだろうか、私は仲間も連れず──連れられず、不毛の地である墓所に足を踏み入れていた。ここを静謐な空間だと私のセンサーが認識するのは、閑静だというのが理由だが、
「R.I.P.安らかに眠れ か」
ここは戦士が久遠に眠れる場所だから、という潜在的な理由があった。偶然にも人間たちにも同じ『発想』があったのが興味深いものだけど、今はそういう気持ちにはなれない。
こんな私の一面を知ったら、皆はさぞ驚くだろう。
「もっとも君は、こんなものに納得して休眠するではないだろうがね」
ゴング。戦時中に友人となった勇敢な戦士の名だ。彼は決して臆する事なくデストロン軍と戦った英傑だ。あのメガトロンの武器を奪った事さえある。
「君はあの冒険で私を認めたね」
そんなメガトロンの体内で短い旅をした。それまで私は彼に『臆病者』と詰られていたのを噛み締め、またゴングの名が刻まれた棺と彫像を見上げる。
「君はもはや無謀だった。あの世にも恐ろしい脳波に触れて」
本来、無知とは恐怖心を煽るものだ。それを彼はものともしなかった。尊敬はできても、その蛮勇を模倣する者はなかなか現れまい。
もちろんそれは、彼へ手向けた誉め言葉だ。
「きっと、君は」
「…………一番最初に飛び出して、撃たれたんだろう?」
ここに眠る怪力の持ち主は不意打ちをしたり、或いはされたりはしない。多分──非科学的な考察が許されるのなら──デストロンの襲撃にいち早く向かって、それで……
「おい、パーセプターじゃないか。何をしている」
「ン? ああ、ウルトラマグナス」
虚を突かれたが、私の頭脳回路はすぐに疑問を覚ってくれた。
「ウルトラマグナスこそ、なぜこんな場所に」
「時折ここに来ているものでな。パーセプターもそうだろう」
こちらに目もくれず、自然な態度で大きい棺の前へ向かっていった。私はなんとなく彼の巨体に追従した。
「これは、コンボイ司令官の」
「うむ……」
黙って司令官の名が刻まれた棺を見るのみだった。手を触れる事もない。
彼のそういった甲斐甲斐しさ、健気さからコンボイ司令官という偉大な人物への敬意が窺えた。
「コンボイ司令官は、誰よりも仲間の安全を考えて戦っていた。孤立奮戦していても、私たちが危険な目に遭わないように考えていたよ」
非情になれない、そういう点では司令官という立場は不向きだったかも知れない。
「そのようだな。話には聞いているが……実際に見てみたかったよ」
慕われている部分を見るに、不用意に不向きだとは言えないが。
「ロディマス司令官が悔やんでいたんだ」
「何を?」
「コンボイ司令官が死んだのは自分の所為だと……おっと、これは秘密にしてくれよ。噂をしていたなんてあのヒヨッコに知れたら、余計に傷付くだろう」
ウルトラマグナスは普段見せない陽気な面をつくってみせた。彼も不器用な男だ。
「チャーが制止したと言っていたよ、確か」
「ああ……」
しばらく沈黙が訪れた。それはそうだ、互いに誰かと喋るつもりでここへ来たわけではないのだ。
「では、私は戻るとする。パーセプター、君もあまり長居するなよ」
「ああ、わかったよ。気を付けて」
ウルトラマグナスはそそくさとここを後にした。次第にシャトルが発つ音が聞こえ、私は機能がオフラインになっていたかのように立ち尽くしていた。
「……コンボイ司令官」
彼は間違いなく苦労人だったはずだ。エアーボット部隊が加入した時もスリングたちが反旗を翻す所だったし、アラートのブレインサーキットがショートした時も謀反を起こしたし、ゴングが私に苦言を呈した時も……
「あなたは誰も責めたりはしなかった」
地球という未知の惑星で、誰もが不安だったあの頃、誰よりも孤独だったに違いない。司令官である彼が狼狽えてはいけなかったと、今振り返って判断できる。
「ですがね司令官」
私は胸に手を当て、天井を見上げた。
「私を庇う必要はなかったんです。私は嬉しかったんですよ、ゴングに皮肉を浴びせられたのがね。私の行動に呆れる仲間は多くても、批判とはいえ──関心を持って最期まで接する者はいなかったんですから」
私に、こんな独り言をいう機能があったのに我ながら驚き、驚きながら頭脳回路が明晰になっていくのにまた驚いた。
「では、失礼します」
信じられないほど律儀に、私は戦士たちを起こさないように帰路に就いた。シャトルの駆動音で起きてしまわないか、少し不安だったがね。
お話的には2010なんですが、墓所が健在なので第8話「コンボイの影」よりも前だと思います。
ザ・ムービーの出来事を想うと胸が痛いですね……