星野家の三女 作:星野家の概念的存在になりたい
ちまり「みゃーお姉ちゃん!私を弟子にして!」
みやこ「…………へ?」
私こと星野みやこがいつもの様に花ちゃんたちに着てもらう新しい衣装を自室で作っているところにお風呂上がりのちまりが部屋にやってきて突然弟子入りを志願してきた。
状況を理解出来ずに呆けていると私が聴き取れなかったと思ったのかちまりはその場に正座してもう一度繰り返すと両手をついて頭を勢いよく下げた。
ちまり「みゃーお姉ちゃんの弟子にして欲しいの!」
うん、ちょっと良く分からない。
みやこ「えぇと……何かの新しい遊び?」
ひなた「ちがうぞみゃー姉、ちまりは自分で服を作れるようになりたいから弟子入りしたいんだって」
繰り返されても分からないものは分からないので思い付いた事を聞いてみるが、それは違うと遅れて入って来たひなたが答えてくれた。
それにしても服を作りたい、か。
そういや前にもそんなようなこと言ってたっけ?
あの時はもう少し先の話かと思ってたけど、急にしかも弟子だなんてどうしたんだろう?
みやこ「まぁ、それは別に構わないけど急にどうしたの?」
ちまり「わ、私も……自分で作った服を着て貰いたいな……って」
みやこ「ん〜……そっかぁ」
うん、気持ちはわかるけど……何故か松本さんが頭にチラついて素直に喜べないなぁ。
でもまぁ、ちまりも本気みたいだしここで断る方が良くないよね。
みやこ「わかった、夜寝るまでの間でよければ教えてあげる。それでいい?」
ちまり「うん!ありがとみゃーお姉……じゃなくて師匠!」
みやこ「別に呼び方は変えなくていいって──ってあ」
ちまり「やっぱりダメ……?」
みやこ「あぁいや、そうじゃないんだけどね?」
ちまりには友だちとの時間は大事にして欲しいからそれ以外の空いた時間にしたけど、そうするとひなたにかまえる時間が減ってしまう。
これを機に姉離れしてくれればいいけど、もしそれでこの前見たくいじけてしまったらちまりが自分を責めて私に教わるのをやめちゃうかも。
それを避けるにはどうすれば良いかと考えた時にふと名案が閃く。
そうだ、ひなたも一緒に教えればいいんだ。
ひなたならきっと即答してくれるだろう。
みやこ「そうだっ、もしあれならひなたも一緒に学んでみる?」
と、そう考えた私の問い掛けにひなたの答えはと言うと……
ひなた「んー、みゃー姉が喜ぶなら覚えるけど……やっぱわたしはいいや!」
みやこ「へ?」
ひなたなら二つ返事でやると思っていた私は予想外の返事に思わずポカンとしていた。
別に無理強いするつもりは無いけれど一応確認して置かなきゃならないことはある。
私は気を取り直し、ひなたに聞き返す。
みやこ「えっと、そうするとひなたに構ってあげられる時間が減っちゃうけど大丈夫?」
ひなた「おう!ちまりにも聞かれたけど近くで見てるから大丈夫だ!」
みやこ「ちまりが?」
それってつまり……まぁひなたがそういうなら良い、のかな?
ちまり「ひなたお姉ちゃん……ほんとに大丈夫?無理はしないでね?」
ひなた「無理なんてしないぞ!だからみゃー姉、ちまりがノアに服を作って上げられるように力を貸してくれ!」
ちまり「ひ、ひなたお姉ちゃんっ!?わ、私は……えと……その……」
ちまりは顔を真っ赤にしながら誤魔化そうとするも言葉が出てこないで詰まらせる。
でもそっか、そうだろうとは思ってたけどあげる相手はやっぱりノアちゃんだったかぁ。
プレゼントに手作りの洋服は少し重い気が……ま、まぁノアちゃんならきっと喜んでくれるはず?
みやこ「そ、それじゃあ今日の所は部屋に戻りな。お姉ちゃんは明日花ちゃんたちに着てもらう衣装を仕上げちゃうから」
ひなた「わかったー!おやすみみゃー姉!」
ちまり「おやすみ、みゃーお姉ちゃん」
二人が部屋を出ていくのを見送ると、私は再び机に向かい衣装作りを再開する。
みやこ「うへへ……うさぎの花ちゃん、似合うだろうなぁ〜……ふひっ」
おっといけない、集中集中。
それにしても……さっきのは正直言ってかなりびっくりした。
今まで自分を後回しに常に私やひなたの事を優先させてきたちまりが自分のしたいをちゃんと伝えてきたのだから。
思わずひなたに聞き返してしまいちまりを不安にさせちゃったけど私はそれくらいに動揺していたのだ。
ちまりはわがままを殆ど言わないし私やお母さんに頼まれた事は嫌な顔一つせずやってくれる。
確かにひなたと二人で私の部屋に飛び込んできて一緒に寝るといって聞かないことはある。
だけどそれだって自分の為というよりひなたの為なんじゃないかと思える。
個人的にはそうじゃない事を願いたいけど。
とはいえ、そう考えてしまうくらいにはちまりは年不相応に大人びていた。
だけどそんなあの子もある日を境に変わり始めた。
それは隣に越してきたノアちゃんが家にやって来た日である。
もちろん花ちゃんとの繋がりも切っ掛けには違いないけど、あの日私は7年ぶりにあんなに目を輝かせるちまりを見て思わず泣きそうになった。
当然顔には出さないように努めたから不審がられる事は無かったけど、それでも私はノアちゃんならちまりの心の傷を癒してくれるんじゃないかって根拠の無い確信を胸に彼女に託した。
まぁ、その後ノアちゃんたちに事件の事を隠した私が何言ってるんだって話だけどね。
でも、ノアちゃんは私よりずっと強い子だった。
あんなことがあっても変わらず、いや……より一層頑張ってくれてる。
そして、今日その成果を強く実感出来た。
みやこ「ふふ、妹たちの成長を実感出来てお姉ちゃんは嬉しいよ」
千鶴「そりゃ良かった。で、あんたは何時私に成長を実感させてくれんだい?」
みやこ「うぇ?お、お母さん!?どうしたのいきなり〜」
千鶴「なに、明日出勤になったからひなた達のお昼と夕飯の用意を頼もうと思ってね」
あー、そういう事。
まぁおこづかい貰えるしいっか。
みやこ「わかった〜」
千鶴「ついでにクリーニングも取りに──」
みやこ「会話せずに済ませられる所じゃないから無〜理〜」
千鶴「……はぁ、相変わらずだね全く。少しは成長を実感させて欲しいもんだよ」
そんな呆れ顔しなくてもいいのに……
みやこ「私だって成長してます〜」
千鶴「はいはい……ま、とにかく明日は頼んだよ」
みやこ「はーい……ってそうだ」
あ、丁度いいから今日の話を伝えておこうかな。
さすがに反対はしないと思うけど話しておいて損はしないよね?
みやこ「ねぇお母さん、ちまりが服を作れるようになりたいって言ってたから教えることにしたけど良いよね?」
千鶴「ちまりが?」
みやこ「うん、そうちまりが」
千鶴「そっか。まぁちまりもアンタに似て器用だし、本人がやりたいって言うなら良いと思うよ」
みやこ「ありがとー」
千鶴「ただし!ちまりを夜更かしさせるんじゃないよ」
みやこ「わ、わかってるよ〜」
教えながらだしひなたも一緒にいるから大丈夫大丈夫……多分。
ちょっとだけ不安げに答えるとお母さんは怪しむような視線をしばらく私に向けたあと深くため息をついて部屋を出ていった。
まぁ、大丈夫だと思うけど……一応ひなたにタイムキーパーをして貰おう。
私はそう心に留めつつ再び衣装作りに戻ったのだった。