「ベル、ということで今日…いや、明日からはレフィーヤと共にダンジョンに潜ってもらうよ。それから、お目付役として…明日はティオナかな。手の空いている前衛職を一緒につけて2週間くらいは実践的に学びながらダンジョンに入ってもらう」
「ええっ!?」
「なんだ、ベルはレフィーヤと一緒に潜るのは嫌か?」
フィンさんに話を聞きにきた僕に告げられたのは、まさかの対応。
い、いくらなんでも駆け出しの僕の面倒を見るために…。と思っていると、リヴェリアさんからは嫌がられていると思われたのか、わざとなのか、苦笑混じりに質問が投げられる。その質問に、同席していたレフィーヤさんがムッとした顔を見せる。
「い、いや、それ自体は嬉しいんですけど…なんか、申し訳ないなぁって…僕なんかのためにわざわざ」
「…嬉しいんだ…」
何か小さく呟いたレフィーヤさんが表情を戻すが、そっちに気を回す余裕がなかった僕はその変化にほぼ気付かなかった。
フィンさんもまた、苦笑いをして言葉を返す。
「まぁ、今回は君の入団時期が運悪く遠征シーズンに重なっていたからできなかったけど、本来は高レベル冒険者の指導のもとでダンジョンに潜るのがうちの鍛え方だからね。そんなに気にすることではないよ」
「それに、安全性も段違いだからな。今回は運良く同胞が助けてくれたようだが…しかし、ベル。お前は随分と悪運が強いな」
「何回も死にそうな目に遭ってる時点で、不幸だと思うんですけど…それからベル、同胞の方について後でちょっと…」
「と、とりあえずわかりました。えっと、じゃあ、レフィーヤさん。よろしくお願いします!」
「むっ…ええ、明日から…まずは今日は装備を整えて、明日に向けて準備をしましょうか。私が選んであげます!」
そう言うと、微妙な表情を作る団長と副団長のペア。
まぁ…いいか、と呟いたリヴェリアさんが、何かをレフィーヤさんに差し出す。
「…そうだな、そうするといい。レフィーヤ、武器庫の鍵だ。
「駆け出しに見合った装備にしてあげてね? 君も少し、過保護なところがあるから…余りに強い武器は、才能を腐らせてしまう」
そんな3人の言葉にはてなを浮かべる。
武器庫? そう言えば、僕がゴブリン相手に使っていたロングナイフは…
ああ、そう言えば最後に手放したような…と考えたところでレフィーヤさんに手を引かれる。
「ほら、さっさと行きますよ。全身きっちり揃えましょう!」
「は、はい…あ、でも、僕、装備の良し悪しなんて分からないんですけど…」
そう言うと、ピタリとレフィーヤさんも動きを止める。ぎこちなく振り返り、僕の目を見て、不安げに揺れた後に通り過ぎ、フィンさんとリヴェリアさんに目を向ける。
「わ、私も近接戦闘の装備なんてわからないんですけど…」
それを聞いた2人は、悪気はなかったのだろうけど笑い出してレフィーヤさんが顔を真っ赤にし、結局、一頻り笑った後にわざわざ呼び出してくれた休暇中のティオネさんとティオナさん、それから、アイズさんが一緒に選んでくれることになった。
「主武器は、やっぱり短剣がいいかしらね?」
「うーん、ベルならやっぱダガー? あんま重たいと使いにくいよね」
「……両刃と片刃なら、両刃の方が便利」
「刃渡りが長すぎても持て余すでしょうし、この辺かしら」
「それならこっちはー? 軽いし扱いやすい…ん? これ、ミスリルかな」
「…これ、オススメ。アダマンタイトが入ってるから少し重いけど、硬い」
「あんたらねぇ…駆け出しにミスリルやらアダマンタイトやら、扱わせるわけにいかないでしょうが!」
「このくらいが丁度いいって! そんなナマクラ、すぐダメになるよ!」
「ナマクラって…このダガーも中層レベルなんだけど」
「…モンスターの攻撃を受けることも考えたら、それじゃ少し心許ない」
「だからって最初からこんな武器渡したら、上層のモンスターなんてバターよバター!」
「…うーん、じゃあ切れ味だけなんとか落とせないかな…」
「…硬さは、譲れない…」
「この
ギャーギャーと言い合いながらベルの武装を選ぶ近接戦闘タイプの猛者達を尻目に、レフィーヤさんがこれはどうだあれはどうだと軽鎧を持ってきてくれる。体に合わせながら着てみると、合う物が少なく、何個かの候補を残して悩んでいた。
「うぅん、このあたりですかね?」
「そうですね、他のは大きすぎてつけられそうにないので…」
「ですよね…ベル、小さいですし」
「? 今、何か言いました?」
「いえ、なんでもありませんよ。…これにしましょうか」
最後まで悩んだ末に選んだのは、真っ白な軽鎧。首回りと、動きを阻害しない程度に肩・胸・関節部を守る軽装。その中に緑色の戦闘衣を着る。
血が滲んでしまっている箇所やほつれてしまったり破れてしまった箇所があったが、まだ着れるし折角贈ってくれたものだから…と頼んで修繕してもらったのだ。
「…うん、いいんじゃないですか?」
「そう…ですかね?」
「ええ。冒険者っぽく見えますよ」
それ、褒め言葉じゃないです…そう、肩を落としたところに背後から声がかかる。振り向くと、2本のダガーを持ったティオナさんが手招きしているので近寄っていく。
「ベルー、これ、ちょっと振ってみて」
「…合金製だけど、かなりいいダガー」
「…駆け出しに持たせる装備じゃない………ベル、それ、相当高いから壊すんじゃないわよ」
「うえっ!? は、はい!」
ティオナさんとアイズさんの言葉に嬉々として受け取り、武器を握った瞬間、ティオネさんの忠告が聞こえてくる。Lv5の冒険者が相当高いって言うなんて…と手が震えるが、良く馴染むその武器の感触に、震えは消し飛んだ。
ヒュン、ヒュン、と持ち替えながら、両手でその2本の武器を振るう。わずかに、片方が扱いにくい感じがした。
「…こっちの黒いダガーは少し扱いにくい気がします…」
「…それはアダマンタイトが入っているから、少し重たいのかも」
「アダマンタイト…!? で、でも、こっちの白いダガーはかなり扱いやすいです!」
「じゃあそれで決まりだね! 多分そっちはミスリル合金かなぁ」
「ミスリル…!?」
「…ベル、悪いことは言わないから当分これを使いなさい」
そうして、頭を抱えるティオネさんからそっと渡されたのは無骨なショートダガー。鋼製で、名のある鍛治師の作ではないがゴブニュ・ファミリアの名を冠することは許されている作品だそうだ。これでも上層の敵には勿体無いくらいとのこと。
振ってみると、一番馴染む感じがした。
…先入観も大いに関わっている気がするけど。
「…お二人には悪いんですけど、僕、これを使おうと思います…」
不満気な2人を横目に、ティオネはほっとした顔をしていた。
無論、レフィーヤ同様駆け出しに見合った装備を、との団長からの言葉を貰っているからだ。
それでも、ティオネもティオネなりに心配して更に程度の低い…それこそ、駆け出し冒険者くらいしか用のない短剣もある中からその装備を選んだのであるが。
「だから、上層でハイポーションなんて必要ないでしょうが!」
「…万が一があるかも…」
「マジックポーションはなんの意味があるの!? ベルは魔法を使えないのよ!?」
「……億が一が…」
「あるわけないでしょ!!!」
その後、街に出てポーションや携帯道具を買うたびに言い争いが起きながらも、装備をなんとか整えたベルは一端の冒険者のような装備に身を包むことができていた。
明日からまた迷宮に潜ることができるベルは、楽しさと怖さに挟まれながらも、みんなと買い物に出たことで緊張をほぐすことができていた。
ちなみにステータス
ベル・クラネル Lv.1
力 : E 402→435
耐久 : C 575→601
器用 : E 481→492
敏捷 : C 622→634
魔力 : I 0
《魔法》
【】
《スキル》
【
・早熟する
・熱意と希望を持ち続ける限り効果持続
・熱意の丈により効果向上
【
・強い感情により能力が増減する
・感情の丈により効果増減