ラビット・プレイ   作:なすむる

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アンケート回答、ありがとうございます。
疾風、リューさんが勝つと思ってそれを用意していたんですが新魔法のあまりの人気に急遽書き換え。今は競っていますが、アンケートの結果は新魔法ということにして今日2話目の投稿にします。これをもってアンケートは停止いたします。

ちなみに、アンケート次第でベル君の翌日の予定が決まりました。


27話 町娘逢引(1)

落ち着いた後に、レフィーヤからプレゼントを受け取ったベルは喜びを露わにした。元より、隠すことなどできない馬鹿正直者ではあるが以前貰った戦闘衣はミノタウロス戦でもうボロボロになっており悩んではいたのだ。食事が終わり、風呂に入った後にいそいそと着替える。

それは、緑のラインを走らせたデザインの、少し濃い色合いの黄色地の戦闘衣。言うなれば、ティオナやティオネの腰布と似たような色合いだ。

 

これをレフィーヤさんが? と、ベルは少し訝しんだ。が、ティオナやティオネがここまで直接的な色味のものを送ってくるだろうかと少し悩み、特にティオネさんが…? ないよね、まぁいいやと考えを投げ捨てた。

 

どちらにせよ、嬉しいのである。サイズもぴったりで、動き易い。

 

お礼と…そう言えば、リヴェリアさんに明日、シルさんとの約束があるから休みが欲しいことを伝えに行こうとベルは思い立ち、おそらく2人がいるであろう書庫へと向かう。

先ほど、確か少し調べ物をすると言っていたのでまだそこにいるだろうと期待しながら向かったのだ。

 

果たして、そこに2人はいた。

静かにドアを開けて入るベルを見て、レフィーヤは顔を緩める。早速着てくれてる、と言わんばかりに顔を綻ばせた彼女に、ベルは礼を言う。

 

「失礼します…あ、あの、レフィーヤさん、これ、凄く着易いです。ありがとうございました」

「どういたしまして、ベル。良かったです、サイズぴったりで…成長していて、小さかったらどうしようかと心配していたので」

 

そんな、悪気なく放たれたレフィーヤの言葉に、満面の笑みで礼を言ったベルの顔が強張る。強張り、引き攣り、上がっていた口角はへんにょりと下がり、目もそれに合わせてずぅんと下に落ちる。首が、かくりと垂れ下がる。

以前着ていた戦闘衣を貰ってから、実に1ヶ月以上は軽く過ぎているはずだ。訓練し、腹が一杯になるまで飯を喰らい、よく寝る。そんな生活をしているのに、まるで成長していないことを突きつけられた感じがしてベルは項垂れた。

 

そんなベルの様子に、あれっ? と目を瞬かせたレフィーヤはあっ…と何かに気が付いたように声を漏らして、殊更に優しい猫撫で声でベルに話しかける。

 

「あっ、あ〜、ベル? その、意地悪を言ったわけでは…ほ、ほーら、ベルはまだ成長期が来ていないだけですよ、ええ! それに、その、ほら、そのままの方が小さくて可愛くていいと思いますよー? ね?」

「レフィーヤ…慰めようとしているのはわかるがそれは逆効果では無いか…?」

 

レフィーヤの言葉が一つ一つベルの心を抉る度にベルの体勢は床へと下がっていく。今はもう両手両膝を床につけて首がガクリと下がっている。

そんな中、レフィーヤと共に本を開いていたリヴェリアはベルを哀れんでいた。人間の男の子、とりわけ、ベル程の年頃で無邪気なものは強く在りたい、格好良く在りたいという願望を持つ者が多いことをリヴェリアは知っていた。それに反することを言われるのは相当に恥ずかしいことだろう。ましてや、一つしか歳の違わない、自分より圧倒的強者で、見目麗しいエルフ…女の子に、となると。

 

ここでベルは、自分の誇りと、死にたくなるような羞恥心から身を守るために今までの会話をなかったことにするという防御反応を行った。ゆっくりと体を起こすと、レフィーヤの方に努めて視線を向けないようにし、リヴェリアにお願い事を告げる。

 

それがまだ真顔で、さも何も在りませんでしたという顔付きであればまだ格好がついただろうにベルの顔は目尻に薄らと涙を浮かべ、耳まで紅潮させてプルプルと震えていた。

 

「リッ、リヴェ、リアさっ、あし、明日はお休みをもらいますぅぅぅぅっ!!」

 

ダダっ、パタン、ダダダダダ!

 

律儀に扉は閉めていったものの、泣きながらの逃走である。呆気にとられるリヴェリア。顔を青くするレフィーヤ。なんやなんやと近くを歩いていたのか、若干酒の匂いを漂わせながら近寄ってくるロキ。この場はまさに混沌であった。

 

リヴェリアは、一度、オラリオ1の医療系ファミリアであるディアンケヒトファミリア団長『戦場の聖女』アミッドに頭痛薬を処方してもらうかと遠い目をしていた。

 

ロキも、修羅場の気配を感じたのか変に茶化すことはせず退散していった。いくらロキとは言え、自らの身を捨てるのは惜しいし怖いのだ。

 

真っ青になったレフィーヤはリヴェリアへの挨拶も忘れて、自室へと帰っていく。ボケーっと布団に包まり、幾らかの山吹色が布団の隙間から漏れている妖精団子を見たルームメイトはその余りの虚無さに恐れ慄いた。

 

 

 

「うっ、ぐす、う、べ、ベルに、ベルに嫌われちゃっ…!」

「よしよし、大丈夫大丈夫」

「…ベルはいい子だから、きっと、仲直りしてくれる」

 

翌日。昨日の宣言通り外に出ているベルとは打って変わってレフィーヤは自室に閉じこもっていた。

 

朝食の際、さり気なく近付いて昨日のことを謝ろうとしたレフィーヤであったが、ベルはレフィーヤが食堂に入ってきたのを察知すると栗鼠か何かのようにモギュモギュゴキュゴキュと朝食を口の中に流し込み逃げるように食堂を去っていったのだ。完全に避けられている、そうレフィーヤが思うのも仕方がない。

 

え…と呆然とするレフィーヤが再起動したのは数分後。入り口で立ち尽くしている彼女にどしたの? とアイズと共に食堂へ来たティオナが声を掛けてからだ。

 

その後、虚無の表情でベルとの間にあったことを説明し、ティオナとアイズの話を聞きながらとりあえず朝食を流し込んだレフィーヤは、そのまま流れるように自室のベッドの布団の中へと潜り込んだ。

 

レフィーヤのルームメイトがその酷い様相にティオナとアイズに助けを求め、駆け付けた2人がレフィーヤを慰めていたちょうどその時。ベルは身支度を終えてそろりと黄昏の館から出掛けて行った。

 

それを遠目に執務室の窓から見ていたリヴェリアは、いつもより少しお洒落…というよりかは冒険者としてではなく一般人として整っている格好と、しっかりと梳かされたベルの髪を見て溜息をついた。

 

また、荒れそうだな…他人事のようにそんなことを思いながら。

というより、仕方がないところはあったにせよ休むにしても事情を伝えて行かなかったが、また女性関連かとリヴェリアは痛む頭を抑えた。

これが約束の相手とやらがリュー・リオンならば冒険者としての格好をして行くだろう、まさかあの気難しい同胞がただの逢引をベルと楽しむこともないだろうとある意味で信頼しながら。

となると、ロキ・ファミリアの外どころか冒険者ですらない相手…もしくは、戦闘や探索系ではないファミリアの冒険者ということもあるか、とそこまで考えたところでリヴェリアは考えることをやめた。

 

先ずは、レフィーヤのことをとりあえず慰めてやろう、今日のベルの用事は隠して、と。そうして、脚をレフィーヤの自室に向けた。

 

ベルが帰ってきたら先に話を聞かねばな、と呟きながら。

 

 

 

約束の午前10時丁度より早い、午前9時30分。ベルは既にシルと待ち合わせをしている噴水広場へと来ていた。周りでは、既に多くの人が活発に動いている。冒険者が集まる場とはまた違う、平和な喧騒に呑まれていると遠くに見慣れた薄鈍色が見えてくる。

ベルの姿を見て、ハッとした顔のシルがベルに走り寄る。

 

「おっ、おはようございます、ベル君! 待たせちゃいましたか?」

「おはようございますシルさん、僕も今来たばかりですから、走らなくても…それに、約束の時間はまだまだ先ですよ?」

「ふふっ、ベル君に会えると思うとつい…でも、ありがとうございます」

 

そんな風に和やかな空気を作る2人を遠目に見た人は2人して薄い…方や白、方や薄鈍色…髪の色を見て仲の良い姉弟だなぁと微笑ましく思い、近くで話を聞いていた人は歳の差カップルかと目を瞬かせ、一部の冒険者はベルの姿を見てシルの顔を二度見どころか三度見四度見した。

そんな中、ベルは普段ウエイトレスとして働いている時は纏められているその髪。今は下ろされたシルの髪に目をやっていた。そして、ふと、ベルのお爺ちゃんが昔言っていたことを思い出す。

確か…

 

「あの…その、服も髪型も、いつもと違って新鮮で…よく似合ってます」

 

…女の子の、普段と違うところがあったら、とりあえず褒めろ、と。

そんな風に、顔を赤くしながらとはいえしっかりと女の子の格好を褒めるベルに、シルはもとより浮かべていた笑顔を深くする。欲を言えば、可愛いとか、綺麗とか、そういった一言まで欲しかったところではあるが。

 

「ありがとうございます、ベル君も、普段の冒険者の格好とは違って…そうですね、少し大人しく見えますが似合っていますよ? 格好いいです」

 

そう、互いに互いの格好を褒め合う光景は正に初々しいカップルのようであった。

 

「…では、行きましょうか。今日はよろしくお願いしますね?」

「はい、こちらこそ」

 

ゆっくりと、されど逃さぬように、しかし自然に、だが、ベルが嫌がれば離せる程度に。手を握ったシルに、ベルは顔を更に真っ赤にして慌てながらも握り返した。それを受けて、シルは少し顔を朱に染めた。

 

その余りの甘酸っぱい雰囲気に、周りからは微笑ましいものを見る視線と、嫉妬に狂った目線が飛び込んできた。

 

「…ふふ、まずは装飾品を見て歩きたいんですが、大丈夫ですか?」

「え、ええ、今日は1日、シルさんに付き合うと約束したので…」

「では、こちらから行きましょう」

 

2人が離れて行った広場の中では、囃立てる一般人に紛れて騒めく冒険者達の声が虚しく響いた。

 

━━━あの飼い兎、他所にも主人がいたのか━━━

━━━可愛い女の子ばっかり、なんて野郎だ━━━

━━━てか、豊穣の女主人の子だろあれ!?━━━

━━━フレイヤ様まで目をかけているのか?━━━

 

などなど、噂話としてはまぁ面白い、しかし事実の話としてはそれはそれは妬ましい情報が飛び交う。豊穣の女主人の店主、ミアが元フレイヤ・ファミリアの団長にして元Lv6の冒険者だということは知っているものは知っている。故に、あそこの店にはフレイヤの影を感じるのである。そこの店員が関わりを持つ、つまりは、美の女神フレイヤの神意である可能性がないではない。ましてや、その相手は看板娘のシルであるのだ。冒険者達の疑惑と推論は尽きることがない。

 

そんなことを話されていると知らないベルは、背後で騒めく人の声を受けて顔を益々赤くしていた。そんなベルを見たシルは、本当に初々しくて可愛い、と思いはしたがそれを顔にも声にも出さない。おそらく少年は非常に嫌がるだろうと確信して。

 

できる女は、こういうところの気遣いが違うのである、と、とある少女が聞いたら泣き出してしまいそうな、タイミングの良過ぎる…悪過ぎる? ことを思いながら。

 

肩に掛けている鞄の中の本をポンとひと叩き。いつ、自然に話を切り出してこれを渡そうかとシルは悩みつつも、この時を楽しんでいた。


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