寝てしまったベルの上着を剥ぎ取り、ベッドに寝かせて跨る神ロキ。
滅多にない経験をしたことを考慮し、ステータスの更新をしようと考えたのである。
『
背中に、神が定めたエンブレムと共に
神の恩恵を受けた者は、それ以外の者とは隔絶した身体能力を誇る。さらに、レベルが上昇すると格段に能力は向上する。
全ての者が、はじめはLv.1、ステータス0から始まる。
そうして、数多の戦いや修練を積み重ねることによって
殆どの冒険者はLv.1のまま冒険者としての活動を終えてしまう。それは、道半ばにして散って行ったり、試練に挑むことなく安穏とした冒険しかしなかったりなど、理由は様々だ。
さて、ベルは冒険者となってからまだわずかに2週間。それも、元々戦闘能力があったわけでもないため、ほとんど戦闘らしい戦闘は行えていない。唯一、日々の雑用や訓練による経験値が入っているくらいである。
そんな彼がダンジョンに潜り、最弱のモンスターとは言え数体のモンスターを屠り、そして、ミノタウロスからの必死の逃走劇を繰り広げたのである。これはある意味良い経験になっていると感じたロキが、今更新するべきと決めたのだ。
「さてさて、ほんじゃまぁ見てみよか〜」
浮き浮きとした様子で、ベルの背中をペタペタと撫で回す。
その横で、幹部達の雑談が繰り広げられる。なかなか子兎に懐かれない剣姫がエルフの女王にコツを問う様子は、一般団員の男に見られたらベルが闇討ちされてもおかしくない、非常に危険なものであったが。
「なんやこれぇ!?」
そうして、ベルが有用な経験値を稼いでいることに満足したロキがステータスの更新を行った。その直後に出たのが、この叫びであった。
それを聞いて、雑談に興じていた面々が己が主神へと声を掛ける。
「む、どうしたロキ。魔法でも発現したか?」
「…魔法は残念ながら発現しとらん…けど、スキルが発現した…」
「…どんなスキル?」
エルフが聞き、神が答え、ヒューマンが聞く。
「わからん! 初めて見るスキルや! なんやこれ…」
「どんなスキルなんだい? 有用なスキルだといいけどね」
「何はともあれ、めでたいことではないか!」
神は慌て、小人は冷静に、ドワーフは酒を煽る。
有用なんやろうけどなぁ…そう呟きながら、神は羊皮紙へその内容を共通語へと書き直した物を渡す。
ベル・クラネル Lv.1
力 : I 34
耐久 : I 14
器用 : I 48
敏捷 :H 101
魔力 : I 0
《魔法》
【】
《スキル》
【
・早熟する
・熱意と希望を持ち続ける限り効果持続
・熱意の丈により効果向上
部屋の中が静かさに包まれた。
数秒、十数秒、沈黙が続く。ふむ…や、ほぉ…などと、息を漏らしただけのような声なき声がようやく出てくる。
そして、皆がそのスキルを理解したのか目の色を変える。
「これは…とんでもないスキルだね」
「ああ…早熟する、か。経験値の補正だろうな」
「ううむ…じゃがしかし、効果も曖昧じゃのう。これは、黙っていたほうが良いかもしれぬ」
1人、アイズだけは小首を傾げていたが。
「ダンジョン…楽しかったんやろなぁ…」
命の危険への恐怖より、未知への好奇心が上回るんか…遠い目をした主神が呟く。
これは、首輪を掛けなあかんなぁと思いながら。
ベル・クラネル 13歳。
今まではまだ放し飼いであったのが、脱走の前科から首輪とリードを付けられることが決まった瞬間であった。