ラビット・プレイ   作:なすむる

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ベル君がエイナさんとイチャイチャ(?)している間に館に戻ってきた4人と幹部勢の会話です。茶番会…とも言い切れない。


33.5話 眷属会議(裏)

ロキ・ファミリアの本拠地である黄昏の館。

その館の中庭の東屋に、4人の美少女が揃っていた。

ぼんやりと中空を見つめたり、頭を抱えたり、格好こそ様々であるが等しく深い後悔に苛まれているようであった。

普段であれば、凛としているアイズですら背中を丸め、背景にどんよりとした黒い雲を背負っているようであった。

うだうだと雑談もとい愚痴を言い合いながらただただ時間を浪費する、そんな、なんとも言えない空間が広がっていた。

 

「でー、結局何ー? ベルのことだからそんなほいほいついてかないと思って提案したのがーなんだっけー?」

 

ティオナが、うだうだとティオネに文句を言う。どうせ、考えたのはお前だろうという確信を持ちながら。アイズならそんなことはしない。というよりできない。

 

「2週間に一度、優先的にシルさんがベルのことを誘う権利よ…」

 

ガッカリと肩を落としながら、盛大に後悔しています、と言うのを全身で表現しながらティオネが答える。馬鹿妹の嫌味に言い返すでもなく。

 

「そうですかー、でー、あの日のことを覚えていないベルは迷惑をかけたと思ってシルさんに謝ってー」

 

それを聞いたレフィーヤが、若干やさぐれながら話す。

何せ、可愛がっていた弟分のたまの休日、その半分以上を取られたのかもしれないのだ。色々と考えていた予定は崩れた。

冒険者としてある程度安定し、都市で生きる人間としての知恵や遊びどころなど、面倒を見ようとしてたあれこれも恐らくこのままではあの面倒見の良さそうな…いや、確実に良い、綺麗で可愛いあの少女に取られてしまうだろう。

 

「追加で魔導書の件でベルが謝ってー、それを気にせず許したシルさんにー?」

 

ティオナが、嫌味を交えたような口調で話す。

アマゾネスとしての雄を求めるような強い執着こそないが、それでも、同じ趣味を持ち、自分とは全く正反対の特徴…白い肌、白い髪…を持つ人間種族のベルを彼女は自分の思う以上に甚く気に入っていた。

種族柄男がおらず、弟という存在は認識の中でかなり薄いが、それでも、もし自分に弟がいたらあんな感じなんだろうか、と思うくらいには。

 

「ベルが僕にできることならなんでもしますーとか安請け合いしてー? それを聞いたシルさんがー?」

 

言葉のキャッチボールを交わし、最後に、アイズがバットを振り抜く。

 

「…2週間に一度、荷物持ちとして買い物を手伝うことをベルに…っ!」

 

最近、ようやく懐かれて色々と連れて歩こう。そうだ、じゃが丸君の屋台を食べ歩こう。そんなことを思っていたアイズも、いつになく感情を露わにしながら言葉を放つ。

ここのお店は何味が、あそこのお店は何味が美味しいと、自分のお気に入りの店を教えてあげようと思っていたのにそれをする時間はひどく少なくなった。

 

そう、皆が項垂れている原因である、ベルと過ごす時間をあの少女に取られたと言う事実。

それを、言葉にする。

 

全員が机に倒れ伏すかのように項垂れる。

 

「…ベルの性格からして、あの提案なら断れないわよねぇ…失敗したわ。そんな隠し球があったなんて。ベルなら定期的にレフィーヤかティオナ辺りを誘う用事があると思って、せいぜい月に1回遊びに行く程度だろうと思って提案したのに…」

 

はぁ、と4人の溜息が揃う。

そこまで積極的にシルの誘いを受けないだろうと安易に渡した2週間に一度の優先的な約束を取り付ける権利は、最悪の形で行使されたと言っても良い。なんなら、これは4人が絡まない件の、シルの魔導書の件に対するベルの償いなのだから、酒場でのやり取りをベルに秘密にすると言う私達の契約には関係ありませんよね? とシルに言われれば、下手をすれば毎週掻っ攫われかねないことも理解している。ただ、シルとしても全面的にやり合うのは避けたいのかそこまでの無茶は言ってこない、と言うより、そもそも毎週ベルと街に出かけられるほどの休みがないのだが。

 

それでも、自業自得とは言え悶々とするものはあるのだ。ただの愚痴、恨み言だと分かっていても言わずにいられない。そんな、どうしようも無い感情が4人の中に渦巻いていた。

 

ここまで全てがシルの策略であったのではと、考え過ぎるほどに考えてしまう。いや、そんなことはない。もしそんなことが可能でも、そのために魔導書(グリモア)を仕込むなど…。

 

また、溜息が出る。

 

「…随分と、何かを悔やんでいるようじゃないか。お前達、あの少女と何を話したんだ? 勿論、教えてもらえるな?」

 

その、息を吐き切った瞬間を目掛けたかのように声が掛かる。

 

「「「「!?!?」」」」

「…どうした、そんな鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして。さぁ、お前らがそんな風に項垂れていると言うことはベルに関わる話なんだろう? ほら、早く話せ」

 

呼吸を疎かにされていた身体は、慌てるように酸素を身体に巡らせる。脳に届いた酸素が、ようやく凍りついた身体を溶かす。

 

「リ、リヴェリア様…その…べ、ベルには内密に…」

「どうしたレフィーヤ。まさかとは思うが、よもやベルの意思の確認もせずになんらかの取り決めを交わした…なんてことはないだろうな?」

「うっ!?」

 

果敢にも説得、いや、交渉を行おうとした一番弟子たる妖精は、瞬時に撃沈し。

 

「…リヴェリア、それは…」

「アイズ、言い訳をしようとするな。目が泳いでいるぞ? ティオネも顔を逸らすな。ティオナ、吹けていない口笛はやめろ。みっともない」

 

娘は、母に目論みを看破され、黙りこくる。

双子は、意を決してか諦めてか、リヴェリアの方を向く。

 

じりじりと詰め寄るリヴェリアを相手に、4人は追い詰められていく。

そんな時に、救いの手か、悪魔の手かわからないが、手が差し伸べられる。

 

「ンー、リヴェリア、一旦落ち着こう。怒る気持ちはわかるけど、誰も口を開かなくなってしまったじゃないか」

「しかしだな、フィン…」

「いーや、今はフィンの言う通りや。これは敵に対する尋問やのうて家族に対するただの質問なんやからな。ま、それを聞いて怒る分には構わんけどもはなっからその調子やと話が進まんで」

 

他ならぬ、ファミリアの主神と団長によって。

 

「…はぁ、仕方あるまい。すまなかったな、4人とも。少々熱くなってしまったようだ」

「いえ、その、悪いのは私達なので…」

「…リヴェリア、その、ごめんなさい…」

「実は、ちょっとした約束をシルさんと…」

「…2週間に一度は、シルさんが優先的にベルの休みにお誘いできるようにって」

「…まぁ、それに関してはどのみち魔導書(グリモア)の件で話が進んだようだから結果的には問題ない、か。しかし、お前達がそれほどの条件を許した対価はなんだ? まさか、ベルの魔導書(グリモア)の件を許してもらうこと、とかか? それならわからないでもないが…」

 

少し落ち着いた、リヴェリアの鋭い質問に4人が一斉に顔を逸らす。

 

「…お前達?」

「そ、そのーあのー、なんていうか…」

「酒場での一件のことを…」

「…ベルが、覚えていないみたいだったから」

「…隠し通すことにして…その、シルさんの口止め料として…」

「ま、まさか…お前達、自分の恥ずべき行為をベルに隠すために、あまつさえその隠したい張本人であるベルを売ったのか…!? 恥の上塗りをしてどうする!? 隠し事ばかり増やして…それでもお前達はベルの姉貴分か!?」

 

烈火の如く、リヴェリアが吠える。

それを聞いていたフィンも、流石にこれは止められないと首を振る。ロキですら、頭が痛そうにしている。

 

「レフィーヤ! お前は何を考えている!? それでも誇り高きエルフの一員か!? 自らの保身の為に仲間を売るような真似など…ましてや、お前のことを慕っているベルのことを、ベルの気持ちをお前は裏切ったのだぞ!? アイズ! お前もだ! 折角ベルがお前にも心を開いたと思った矢先、そんな振る舞いを…誰から教わった!? もう一度倫理道徳その他諸々の授業が必要か!? ティオネ、ティオナ! アマゾネスともあろうものが男を自ら手放してどうする!? 自身の種族としての振る舞いすら忘れたか!? それとも、ベルのことなんてどうでもいいのか!?」

 

矢継ぎ早に繰り出される説教に、みるみるうちに4人の姿が小さくなっていく。しょぼんと背中を丸め、椅子から降り、自然と土の上に座る4人。

 

「「「「ごめんなさい…」」」」

 

自然と、口を揃えて謝る4人。しかしそれにも、怒声が飛ぶ。

 

「謝るのは私にではないだろう戯けが! ベルにだ!」

「「「「はい…」」」」

「しっかりと酒場で起こした件についても話して謝るんだぞ!? お前達から話さないなら、後で私がベルに教えるからな!?」

「「「「はぃ…」」」」

「変な先入観を持たせてはお前達に悪いかと配慮してベルに説明しないでおいたというのに…これ幸いと隠そうとするとは…っ、全く、なんと情けない…フィンっ!」

 

フィンへと目を向ける。リヴェリアの意図を汲み取った団長は、ロキを伺う。ロキも首を縦に振り、主神の同意を得た団長が4人に告げる。

 

「ンー…ベルには非のないことで彼の予定に影響するのは可哀想だけど…仕方ないか。4人とも、当分ベルとは少し引き離させてもらうよ。彼のことが可愛いのはわかるけど少し、頭を冷やした方がいい」

「「「「…ぁぃ…」」」」

「4人に、他数名を加えたパーティで迷宮探索に行ってもらうとしようか。10日間くらいの日程で、その間はラウルやアナキティ達にベルの面倒を見てもらう」

 

結局、酒場の件もバレることとなり、勝手に取り決めた約束までバレることとなった4人。ましてや、長期の迷宮探索を命じられベルと物理的に引き離された彼女達はそれはそれは意気消沈としていた。

 

尚、余談ではあるがその際の説明が尾を引いて、遠征に赴いた4人は別としてシルにビクつくベルの姿があった。シルへの意趣返しを込めた4人の説明は、ベルに影響を与えていた。


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