ラビット・プレイ   作:なすむる

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リヴェリアのターン。
おかしいな、記憶の中の数少ない戦闘描写より、ご飯の描写の方が長いような気がしないでもない。


39話 魔法特訓(2)

丸一日、絞られ続けた僕は満身創痍の状態で館へと戻って来た。

リヴェリアさんは軽く汗ばんだ程度で、全く相手にされていなかったことがわかる…あんなに綺麗で華奢なエルフなのに、Lvの差って、残酷だ。もとより諦めてはいたけど、なんだか男として完全に負けた気分。打ち拉がれている。

 

 

 

その特訓の途中、お昼ご飯を食べるために一度迷宮から出て連れて行かれたのは大樹の中心部をそのままくり抜いたようなお店。

野菜や魚がメインの、エルフ料理を多く揃えているお店だった。勿論、料理人も店員もエルフばかり。お客もほとんどがエルフで、わずか数人、草食系の獣人がいた…好みって、種族によってやっぱ変わるんだろうか。ベートさんはお肉好きだけど、アナキティさんは魚好きだったよな…そういえば…。あ、でも、クルスさんはなんでも美味しそうに食べてるし…うーん。そんな風に悩んで僕が立ち止まると、店員さんがこちらへとやってきて席へと案内をしてくれる。

リヴェリアさんを見てギョッとし、後ろに連れられている僕を見て目を丸くしていたけど。かと思えば、店内でこちらに気が付いた人が出てきて小さな騒めきが起こる。それは波紋のように店全体に波及して、結局ほとんどの人の視線が僕達に集まることになった。

 

い、居心地が良くない…。店の雰囲気は穏やかなのに、ジロジロと突き刺さってくる視線が全く穏やかな気分にさせてくれない…。

ま、まぁ、皆と街を歩く時はこれより酷い感じだし大丈夫大丈夫…。

そんな風に強張った僕を見て、リヴェリアさんが申し訳なさそうに目を軽く伏せる。

 

「すまない、ベル。ここまで注目されるとは思っていなかった。私は慣れているから問題ないが…気が休まらないだろう?」

「い、いえ、大丈夫です…ちょっと緊張はしますけど、皆と街を歩いている時はもっと酷いですから…っ」

「まぁ、確かにそれもそうか…では、折角のランチだ。楽しむとしようか。さぁ、頼むとするか」

「はいっ…え、えっと、リヴェリアさん、その、メニューを見ても…よくわからないんですけど…」

 

促されて見たメニューに踊る聞き覚えのない言葉達。

た、たれっれ? おるとら?

 

「…どんなものが食べたいんだ?」

「うっ…そ、その、パスタとか…?」

「わかった、私が頼むとしよう。3人分頼むから、分け合うとしようか。ベルが食べられないものが出てきたら私が責任を持って食べる」

 

は、恥ずかしい…なんか、本当に僕は無知というか…逆に知っていることと言えるのは英雄譚と歴史くらいしかないなぁ。

こんな様子じゃ、それこそ厳しい、知識を尊ぶエルフの人にリヴェリアさんとの関係?を見られたらなんて言われるか…。

 

本、もっともっと沢山読むようにしよう…。

 

流れるように注文を行ったリヴェリアさんの姿をチラッと伺いながら、そんな決意を固めた。

 

「お待たせいたしました、注文の品と、取皿をお持ちいたしました」

「ああ、ありがとう。ほらベル、食べるぞ」

「はい…あ、これ」

「どうした? 食べられなかったか?」

「い、いえ、好物です…その、出身の村で年に一度、お祭りの日に出たものに似ていて…」

 

香草を詰めた、鳥の蒸し焼きのようなもの。まぁ、お祝いの料理としては良くある一般的なものだろうけど。僕らにとっての年に一度のご馳走が、まさか普通のランチの一品として出てくるとは…やっぱりオラリオって凄い。ふくふくとした食欲を誘う湯気を出すそれは、熱された鉄板の上に乗せられていた。下の方が綺麗に切られているし、中に香草以外にも詰め物がされているんだろうか。一度僕の村でも、鶏肉の中から一緒に蒸された卵が出てきたことがあったっけ…いや、それはなんか違うな。うん。

 

「ああ、まぁそれとは少し違うが…見た方が早いな、切り分けてみろ。骨は丁寧に取り除かれているから問題ない」

「はいっ」

 

備え付けられている長めのナイフを使って、ゆっくりとその胴体に刃を入れる。切り過ぎて、鉄板を傷付けたりしないように慎重に…。

カツン、と底に刃が触れる音がして、そこから分け開くように横にナイフを動かす。すると、ふんわりとした湯気と共に立ち昇る匂い。

断面から出てきた、とろりとした白いもの。

ぐつぐつと鉄板に熱せられたそれは

 

「…とろっとろになったチーズに…麦、ですか?」

「ああ、大麦のチーズソースリゾットだ。このお店の一番人気でな、季節を問わず人気がある。味も絶品だぞ? チーズも、普通の牛の乳からではなく山羊の乳から作られている…まぁ、食べてみるのが一番早い」

「そ、そうですね…じゃあ、いただきます」

 

そう言って、スプーンに掬ったそれを口元に運ぶ。

目の前まで運ばれてきたそれは、まるでキラキラと輝くかのような光を放っている…ように見える。間違いなく、美味しい。

疑うことなくそれを、口に放り込む。

 

「あ、そのまますぐだと熱いぞ…「〜〜っ、〜!? 〜〜っ!!」…ああっ、もう、本当に手のかかる…ほら、水だっ!」

 

リヴェリアさんの忠告が耳に入り、脳に届く前に僕の手は動き終わっていた。パクリと咥えて一度噛んだその瞬間、暴力的なチーズの良い匂いと旨味、麦の甘味。絡んだソースの濃厚な味。とても美味しいそれらを舌で味わった…がしかし、脳がその美味を理解する前にその感想は塗り潰された。圧倒的な熱量を持って、僕の舌を焼き尽くさんとするその粘性を帯びたソースに、熱さが閉じ込められていた麦に、そしてそれらをまとわりつかせるチーズに、僕は声にならない悲鳴を上げた。

口を開けても、閉じても、熱い。とにかく熱い。喉奥に流し込もうとしても、喉がその熱さを拒否する。吐き出すわけにもいかず、はっふほっふと口の前を両手で覆う僕にリヴェリアさんが水を差し出してくれる。

 

何も考えずにそれを受け取り、流し込むようにして水を飲む。

ようやく落ち着きを取り戻せた僕だが、口の中が、ヒリヒリする…うぅ。

 

「焦り過ぎだ、馬鹿者が…熱いことくらい、わかるだろう。ほら、舌を見せてみろ」

「ひゃい…」

 

涙目で舌をべっと出す僕の顔に、近寄るリヴェリアさんの顔。

な、なんか…ち、近い…いや、舌の様子を見るために近寄るのはわかるんだけど…あぁ、やっぱり綺麗な瞳をしているなぁ…。

 

「…ん、爛れてはいないし、少し赤くなっている程度だ。問題ないだろう」

「ふわい」

「よし、口を閉じていいぞ。全く…そそっかしい奴だな」

 

そうして、瞳に見惚れていた僕と目を合わせてから離れるリヴェリアさん。僕が置いたコップを回収していく。僕は、その時視線を感じてパッと周りを見渡した、すると、色んな人が僕達の方に視線を向けていた。そうして、僕の目が向いたのを察知するとバッと一斉に顔を逸らす。

 

ええと…僕達の席は一番奥まった2人掛けで、他のお客さんの席から見るとさっきの光景は…僕の方に覆い被さるようにして顔を近寄せたリヴェリアさん…のその背中と、その後数秒、その体勢で固まった僕達…。

客層を見ると、カップルが多い。エルフのカップルってこんなにいたんだってくらい。ロキ・ファミリアの女性のエルフさん達は沢山いるのに皆独り身なのになぁ…言ったら半殺しにされかねないから、絶対に言わないけど。まぁそれは置いておいて、そんなお店で、さっきのような行動を取った僕達を見る、他人の目…?

 

あっ。

 

これはまさか…勘違いされて…る…?

い、いやいやいやまさかそんな。あのリヴェリアさんが僕と…なんて万が一、いや、億が一にもあり得ないだろうし、そもそも釣り合わないし、周りからも許されないだろう。そんな勘違いをする人なんているはずがないさ、うん。さっきのだって仲が良いなぁと微笑ましいものでも見る視線か、精々が嫉妬の視線に過ぎないはずだ。そうだ、そうに決まっている。

 

よし、気にしないことにしよう。わーい、このご飯、美味しいなー。

こっちのパスタも…うわ、本当にすっごい美味しい。

おお、このサラダみたいなのも美味しい…あ、今度レフィーヤさんのお礼にここのお店に連れて来てみようかな…。きっと気に入ってくれるはず…もう知ってるのかな? リヴェリアさんが通い慣れてる様子だったし、レフィーヤさんも来たことありそうだなぁ。

 

現実逃避と思考に走った僕は、ニコニコとご飯を食べ進めた。

それを見て、連れてきてよかったと言ってくれたリヴェリアさんも、食事を進めた。2人、雑談を交えながら綺麗に平らげた。

 

会計して出る時に、僕が財布を出そうとするとリヴェリアさんが全部出すと言って少し話し合いが起きたけど、それは割愛。

ちなみに、聞こえてきたお値段は結構なものだった…夜の、酒場としての豊穣の女主人よりもしかしたら高いんじゃ…。と、そう思わせるような。

 

そうして、腹を満たしてから迷宮に潜り直し、腹ごなしの軽い運動を行った後………朝はせいぜい昼まで3時間ぶっ続けだったのが、昼からは夜遅くまで、10時間ほどぶっ続けで特訓を行った。精神力が枯渇しそうになるとポーションで回復され、疲労で倒れそうになるとポーションで回復され、気絶すると気付薬で回復され…薬漬けになりながら特訓を行った。ま、まぁ、成果はあったから…。

 

それで、ようやく帰ってきたのが、ついさっきのことだ。

 

「では、ベル。明日からはラウル達と共に迷宮に潜るようだが…変に気を張るんじゃないぞ? 元より、うちの育成方針としては上級冒険者をリーダーに据えて駆け出し達の面倒を見るものだから、遠慮せずに学んでこい、魔法の勉強もしっかりとするんだぞ?」

「ふぁい…」

 

眠気と疲労でうつらうつらとする僕に、別れ際にリヴェリアさんからの忠告と檄が飛ぶ。

 

「じゃあ…おやすみ、ベル」

「おやすみなさい、リヴェリアさん…」

 

ホールで別れて、僕は自分の部屋へと向かう。

もう、日付を跨ごうかというくらいの時間帯だ。早く汗を流して寝ないと…そのままベッドに倒れ込みそうな体を叱咤して、無理矢理シャワーを浴びてなんとかベッドに潜り込む。

 

ああ、もう眠気がすぐそこに…。明日からはラウルさん達と迷宮探索…楽しみだなぁ。

 

疲れた身体は、すぐに睡眠を求めて、いつになく気持ち良い深い眠りに入った。




今日明日明後日と少し仕事が忙しいため、更新が滞るかもしれません。
お許しをば。

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