ラビット・プレイ   作:なすむる

45 / 101
活動報告の方で書きましたけど、投票が50件変えて評価バーが埋まりました本当にありがとうございます!
また、UAも10万件突破、総合評価も2000Pt突破してました。
いつも読んでくださってありがとうございます!


42話 強制戦闘

「ベルー、次の連れてくよー」

「っあ、は、はぁいっ!」

「ベル君、頑張るっすよ! 次でちょうど50体目っす!」

「は、お、わかり、ましたぁ!」

 

14階層、正規ルートからかなり離れた広大なルーム。

 

その中央に、僕は立っていた。

 

そのルームから伸びる道はなんと8()()

 

間違えたルートを進んでしまえば、たちまち方向感覚を失いかねないそんなフロアに僕はいた。

 

 

 

そして、僕を監督しているはずのLv4冒険者のうち、アナキティさんは1体〜最大でも3体のモンスターをここに誘導していた。このくらいなら相手取れるはず、と。これはなんだろう、新手のいじめかなぁと思うような間もなく連れてこられる。休憩もなしに連戦すること2時間と少々。得物が軽いからなんとか振れてるけど、そろそろ腕も脚もきつい。

 

ラウルさんはそんな僕をいつでも助けられるように、少し距離を取ったところで武器を手に立っている。この特訓をアナキティさんから告げられ、そんな無茶な!? と助けを求める僕と目を合わせないように静かに武器を取り出したときは、少し泣きかけた。ラウルさん、アナキティさんに完全に尻に敷かれてる…と、少し男として幻滅しながら。

 

ほとんどがヘルハウンドだけど、たまに連れてこられるアルミラージに若干の抵抗を覚えながらもやらなければ僕が痛い目に遭うだけだと精一杯の力で屠っていく。

並行詠唱も使って、全力で。リヴェリアさんの魔法をかなりストックしていたから、3体が相手の時には魔法で一掃したりもしている。放たれた火炎を避けるのはかなり難しく、ヘルハウンドの恐ろしさがよくわかった。

 

いやしかし、普通に可愛いんだよな…アルミラージ…。

 

「そろそろ休憩にしよっかー?」

「んー、そうっすね。もう限界っぽいっすし」

「ぜひゅっ…お、おねが、しま、ふ」

 

そうして、膝が笑い出しもう気力も尽きかけた頃、身体を回転させる力を使いながらヘルハウンドに深く刃を食い込ませ、切り裂いた瞬間にかかる休憩の声。

人間の限界を知り尽くしているようなその加減具合に、内心、恐れ慄きながらその場に崩れ落ちる。滝のように流れる汗、痺れるように乾く喉、酸素を求める身体、自重を支えられない筋肉、そして、回転が鈍く朦朧とする脳味噌。全くコントロールできなくなったそれらをなんとか押し留めようとする。膝と両手で、身体を支える。

 

「思ったより粘ったねぇ。持って1時間ちょっとって予想してたのに」

「自分も1時間半で限界って読んでたっすけど、まさかそれを軽々と超えるとは思わなかったっす」

 

そんな僕の耳に、会話が飛び込んでくる。

ラウルさん、無茶をさせるアナキティさんを諫めてくれていた貴方はどこに行ったんですか?

 

ちょっと周りに敵がいないか見てくるっすー、軽い声でそう言いながら、一本の道へと入っていくラウルさんの背中に視線を向けるも、気付かれることもなくその姿が闇の中へと消えていく。

 

「はひゅ、ぜっ、は、はふっ…ふー、ふっ」

 

そんな、恨み言のようなことを脳裏に浮かべながらも、一向に整わない息を整えようと荒く呼吸を繰り返す。

 

「よーしよーし、ベル、焦っても落ち着かないよー。ほーら落ち着いてー、吸ってー吐いてー、はい、吸ってー吐いてー」

 

アナキティさんが、汗と血まみれになっている僕の頭を嫌がりもせずに撫でながら、背中をポンっ、ポンっ、とリズミカルに叩きつつ呼吸のテンポを誘導する。僕はそれに合わせて、激しく脈動する心臓に抗うかのように少しずつ肺を大きく、ゆっくりと動かす。

少しずつ息が落ち着いてきた頃、アナキティさんがバッグパックの中からシートを取り出して敷き、そこに寝転がらせられる。

 

仰向けになった僕の胸辺りを、ポンポンと叩き続けてくれる。

 

 

「はっ、はっ、はぁ…ふぅ…はぁ…」

「落ち着いた? はい、これ飲んで」

 

ある程度落ち着いた頃、パッと頭から手を離したアナキティさんが何かを差し出して、僕の顔を支えて横向きにして、口の中に入れてくる。流れてくる液体を、喉が勝手に求め出す。幾らかが口の中に入らず溢れていくのを感じながら、それを飲み込む。

 

「はひっ…んっ、んぐっ、んくっ…あ、これ、美味しい…」

 

夢中になって飲み込むこと、数回。

アナキティさんがそれを僕の口から離す。

 

「疲れた身体にこれ一本って触れ込みのドリンクなんだけど、そんなに美味しい? 初めて買ってみたんだけど…ん」

 

そのまま、自らの口元へと持って行き…咥えて…こくりと一口、呑み込む。

 

「お、甘…塩っぱい…? うん、まぁまぁ…美味しいかも…あ、ベル、まだ飲みたいの?」

 

まぁまぁ? 物凄く美味しいんだけど…そう思いながら、アナキティさんの行動をぼんやりと眺めていた僕の方を見てその飲み物をまた僕の口元へと運び、飲み口を僕の口の中へと入れて、ゆっくりと傾けてくれる。

また、流れてきたその液体を大人しく嚥下する。うん、物凄く美味しい。それこそ、身体がこれを求めていた! と言わんばかりにピッタリと合っている感じだ。

そうして、一本丸々空となったところでようやく落ち着いた。

 

「あんまり人気ないみたいだったから期待してなかったけど…うん、また見かけたら買ってみよう」

 

そんな風に独り言を言うアナキティさんをぼんやりと見ながら…不意に、先程やっていたことについて意識が向く。

 

こ、これ、こっ、今の、間接キス!?

 

顔が熱を持つのが、自分でもわかる。そうして、なんとなく、そう、本当になんとなく、アナキティさんのその柔らかそうな唇から目が離せなくなる。う、うわ…だ、ダメだダメだそんな不純な…っ!

 

そんな僕を見て、アナキティさんが顔を寄せてくる。近付く唇から、目が、離せない。

狼狽ている僕に、アナキティさんが更に顔を寄せて、彼我の距離は既に十数C、目と目が、合う。

そうして、更に距離を詰められ…とうとう距離がなくなり、僕と、アナキティさんの

 

 

 

額が、触れ合う。

 

 

 

「ふへぇ…?」

「ベル、熱が出ているじゃない…!? ごめん、体調悪かったの!?」

「ひぁ、い、そんなことは…あれ?」

 

多分、その熱は違う原因です…と言おうとした僕だが、言われた直後に身体から力が抜ける。

 

「んぁ…?」

「激しく動いた後にしても、この熱は…っ! ベル!?」

「ん…」

 

ぼんやりとした頭が、目を曇らせる。

唯一見えたのは、綺麗な黒。それを最後に、微睡むようなその感覚に身を預ける。意識が飛ぶ。

 

 

 

「ちょっとベル!? 大丈夫…じゃないわよね…っ、ラウル! ラウルー!?」

「どうしたんっすかー!?」

 

パタリと力尽きたように、全身を脱力させたベルを見てアナキティが焦る。恐らくは体調不良から来る風邪のようなものだろうとは思うけど、それはここで判断できることではないし、勝手に判断していいものでもない。

 

そのため、実質的なリーダーであるラウルを呼んだのだ。幾ら少人数とは言え、報告連絡相談の徹底は重要である。

 

少し離れたところから叫びながらの返事、その直後に、武器やら鎧やらの音を立てながらこちらへと走り込んでくる音。

ラウルがここにたどり着く前に叫ぶように状況の説明を行う。

 

「ベルが高熱! 意識なーし!」

「重体じゃないっすか!? とりあえずハイポーション使ってあげてさっさと上に連れて帰るっすよ!」

「了解! 使った! 背負って帰る!」

 

流れるようなそのやり取りは、流石は同期の仲と言えるだろう。

 

そうしてアナキティがベルを背負った瞬間、部屋に駆け込んできたラウル。2人揃って、下ってきた以上の速度で迷宮を駆け上がっていく。

 

ベルはアナキティの背中で、全身を熱に火照らせながら眠っていた。

 

 

 

「…極度の疲労と、急激な体温の上昇により身体の制御が効かなくなったのでしょう。油断はできませんが命に関わることはありません。熱が引いていけば、目も醒めるでしょう」

 

Lv4冒険者としての脚力を全開にし、駆け込んできた先はディアンケヒト・ファミリアの治療院。そこで、丁度治療院にいた既知の治療師である『戦場の聖女(デア・セイント)』に頼み込んでベルの様子を見てもらったのだ。都市有数の医療系ファミリア、ディアンケヒト・ファミリアの団長であり、Lv2冒険者にしてオラリオ最高の治療師(ヒーラー)である彼女、アミッド・テアサナーレの診察は何よりも信頼できる。

 

「…しかし、彼のような年端もいかない少年がここまで疲弊するほどとは、何をさせたのでしょうか? 治療士としては苦言を呈さずにはいられませんが」

「そ、その…2時間ほど、ぶっ続けで戦闘を…」

「2時間ですか…ちなみに、どういう条件でしょうか?」

「…ひっきりなしにモンスターを連れて行って、休む間も無く…」

「そうですか、戦闘を行なっていたのは何階層でしょうか?」

「14階層っす…」

 

アミッドの尋問のような質問に、2人は大人しく答える。

それを聞いたアミッドは、表情こそ崩さないものの、呆れた、ということを如実に表すかのような声音で2人に告げる。

 

「なるほど、サラマンダーウールを着込んだ状態で休憩を取る暇もなく、2時間、戦闘し続けていたと…」

「「はい…」」

「…間違いなく、脱水と体温上昇による熱中症です、今回はこの程度で済みましたが、重篤となれば命を落とすこともあり得ます。くれぐれもご注意下さい」

 

それを聞いて、2人は焦りと驚きを露わにする。

Lv4冒険者としての頑健な肉体を手に入れて長い2人には欠けていた視点、その気になれば飲まず食わずでかなりの間戦い抜くことができる…できてしまう2人は、自分自身を基準にとは言わないが、ベルにとってかなり高い…いや、遙かに高いラインに目標を置いてしまったことに気がつく。

 

ベルはまだ、Lv1冒険者だ。ましてや、冒険者としてはもうLv2にランクアップできるとは言え、まだまだ未成熟な13歳の少年だ。

 

そんな彼の身体に、甚大な負担を強いていたことを2人は気が付いた。

初心者に付き添うなど、久方振りである。ロキ・ファミリアでは上位の冒険者が初心者や駆け出し達の面倒を見るとは言え、大抵はLv2、精々Lv3が行うものだ。

Lv4まで来ると、オラリオ全体を見ても数少ない上級冒険者であるため仕事も、義務も多い。そんな戦力を駆け出しのお守りに回すなど、勿体無いにも程がある。今回のこれがかなり特例なのだ。

 

だから、加減を間違えたのであった。Lv2冒険者が余裕を持って行えることは、Lv1冒険者が限界ギリギリで頑張ればできるかもしれない。

されど、Lv4冒険者が鼻歌混じりにできることでも、Lv1冒険者にとっては不可能なことかもしれないのだ。

 

そして、ベルが頑張り過ぎてしまったのが合わさってこの不幸を生んだ。途中で、ベルに()()()()()が訪れた時点で倒れてしまえばそこで終わっていたのに、その限界を超えてしまったのだ。そして、そこから行われたのは限界を超える身体の酷使。

 

深く悔やむ2人。アミッドはその2人の様子を見て、故意や悪意は見えないと少し安堵していた。




や っ ぱ り ス パ ル タ 

ベル君、昨日の疲労が抜けきってない+慣れない環境+慣れないサラマンダーウール+激しすぎる運動にて無事熱中症でダウン。
まぁ熱中症という概念がオラリオにあるかわかりませんが…あることにしておきましょう。

ちなみにラウルさん、ベル君がしっかりヘルハウンドを倒せてるのを見たので消極的賛同でこれが行われました。まあ単体ならそんな強い敵じゃないっすよね、とかそんなんで。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。