ラビット・プレイ   作:なすむる

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47話 強制休養(5)

結局、1日目はアナキティとベルはずっと一緒にいた。

この夜の時点で、ベル本人的には身体の痛みや不調もほとんど取れていたがアミッドの言である。恐らく体の内部的にはまだダメなんだろうと察して、破るわけにはいかない、と大人しく明日以降も休養を享受することにした。

 

無茶無謀を繰り返すベルでも、怖い人は怖いのである。

ましてや、あの端正な顔立ちからエイナやリヴェリアのような説教が繰り出されると考えると、気も沈む。

 

なお、2日目からは通常の出歩きくらいはアミッドから許可されていたようで、それを聞いたフィンから一つのある提案がベルに持ち込まれた。

それを、ベルは受け入れる。明日の予定が決まった。

 

 

 

そして翌日、朝食を済ませて正門前へと集まる。

集まったのは、フィンとベルだ。折角だからラウルも同行させようかとフィンは考えていたが、何やら()()があるらしく昨日の晩からホームに居ない。フィンは仕方ないかと諦めて、2人で行くことにした。

 

それを聞いたアナキティは呆れながら、あいつはまた…と呟いていたが、ベルにはなんのことか分からなかった。そんなアナキティは、今日は午前中はベルをフィンに預け、少し街へと出掛けていた。

 

フィンはかなり身軽な装いで、ベルだけが昨日の夕方にラウルから返された装備品をつけての出発である。向かう先は…ヘファイストス・ファミリアの店舗。

 

フィンからの、ベルへのランクアップのお祝いの品を注文するために彼らはそこへ赴く。

 

 

 

「ベル、今日偶然街中で椿・コルブランド…、ヘファイストス・ファミリアの団長に出会ってね。実は、君の話を聞いたんだ」

 

ベルの元へお見舞いと称して来ていたフィンが、少しの会話を挟んだ後に会話を切り出す。それに、ベルは苦笑いを浮かべる。

 

「あぁ…椿さん。何か言ってましたか?」

「いや、特には。申し訳ないことをした、と言っていたけど…本人はかなり気にしているようでね。それなら、と僕の方から一つ提案したんだ。ベルが嫌じゃなければで構わないんだけど…君の防具を椿に作ってもらおうと思っているんだけど、どうかな? 勿論、あっちは作らせてくれるなら全身全霊を込めると約束してくれた」

「僕の、防具を…?」

 

あの、椿さんに? そう視線で問い掛けるベルの心が揺らいでいるのを見て取ったフィンは、内心安堵する。

椿の話では、ヘファイストス・ファミリアの実店舗に武器の整備に訪れたベルを追い返してしまった、と言うように聞いていたから、ヘファイストス・ファミリア自体に嫌悪感を抱いているかもしれないと心配していたのだ。穏やかで心優しい少年ではあるが、であるからこそ、内心で渦巻くものがあってもおかしくない。

しかし、この様子を見るに軽い忌避感程度だろう。なんとなく、他にも選択肢があるなら避けたいなぁという程度の。そのくらいなら、如何なる聖人でも持ち合わせているだろうし嗜めるほどの事でもない。

 

今回もゴブニュ・ファミリアという選択肢はあるがそちらだと精々が上級鍛治師(ハイ・スミス)の中堅どころの作品だろう。いや、無理を言えば最高峰の鍛治師が受けてくれるかもしれないが。

 

「うん、君のランクアップと、その最速記録更新のお祝いも兼ねてね。勿論、君がヘファイストス・ファミリアよりゴブニュ・ファミリアがいいと言うなら、そちらで頼んでも構わないよ。あくまで、君のお祝いなんだ」

 

ただ、団長同士、縁のあるファミリアとして、相手が求めて来たことについて少しくらい融通を効かせてあげたいからね。

 

無論、その裏では遠征で頼っている身として、良好な関係を結んでおきたいという打算もあるわけだが。

 

そう言うフィンに対して、ベルは悩む。いや、内心ではあのヘファイストス・ファミリアの団長自ら。上級鍛治師(ハイ・スミス)どころかこの都市一の最高鍛治師(マスター・スミス)に装備の面倒を見てもらえることなど、それこそ1級冒険者にならなくてはほぼないことから決まりかけてはいるのだが。

 

だからこそ悩むのは、自分が受けたほんの少しの嫌な気持ちに、ここまであちらが譲ることがあるのだろうかと言うこと。

かえって遠慮の気持ちが湧いて来ている。

 

「そ、それはありがたい提案ですけど…でも、僕なんかにそんな…」

「謙遜も遠慮も、悪いものではないけどね。でもベル、貰えるものは貰っとけ。良く言われることだけど、冒険者として強かに生きるなら必要なことだよ。今、君が選べるのはヘファイストス・ファミリアで椿・コルブランドに作ってもらうかゴブニュ・ファミリアの上級鍛治師(ハイ・スミス)に作ってもらうかだよ? あぁ、僕のお祝いが受け取れないと言うなら、それも構わないけど…僕は今日、枕を濡らして寝ることになるだろう」

 

フィンの、芝居がかった口調と目元を拭う動作にベルは狼狽する。

 

「わ、わかりました! 是非、お願いします!」

 

観念したのか、叫ぶようにそう言うとフィンはキラキラとした笑みに戻る。ベルも、踏ん切りがついたのかとてつもなく嬉しそうにしている。

 

そんな会話を黙って見ていたアナキティの内心は心配で埋まっていた。

 

この子、ちょっと簡単すぎやしないか、と。

 

 

 

そうして2人は、ヘファイストス・ファミリアの店舗の中でも最も高級品が立ち並ぶエリアへと来ていた。そこに、都市一の鍛治師、最高鍛治師(マスター・スミス)であり、冒険者としてもLv5で『単眼の巨師(キュクロプス)』の二つ名を持つ椿・コルブランドが待っていた。

 

「おお、ベル坊。来てくれたか! いや、よく来てくれた。約束通り歓迎しよう」

 

溌剌とした表情の椿は、ベルを迎え入れる。

 

「椿さん、お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」

 

そんな椿に、ベルが持っていた少しの忌避感は消え去った。

今あるのは、こんな凄い人が僕の装備を作ってくれるんだ! という年相応の喜びの感情。

 

「いやいや、この前は本当にすまなかったな。今回はフィンの取りなしもあってこのような機会が得られた。手前の全身全霊を持って、最高の作品を作ると約束しよう。それで、フィン。良いのだな?」

「うん、思う存分作ってくれ」

「無論、ではベル。こちらへ来てくれ。採寸を行おう。何、成長期だろうから成長するにつれて調整できるように作る。鎧の種類はどうする?」

「あ、えっと…軽鎧でお願いします。その、今着ているこれと似たような作りで」

 

慣れているその形状を手放せないのか、そんなリクエストをしながら奥へと消えてゆく2人をフィンは見送る。

 

さて、値段は如何程になるだろうかと考えながら。

 

そして、昨夜、大胆にもベルはフィンにおねだりを敢行していた。

その内容を、連れて行かれた部屋で椿に告げる。

 

「そ、それから、椿さん。あの、フィンさんには許可をもらったんですけど…槍を一本、見繕って欲しくて…」

「槍? それは構わぬが…お主の武器は短剣ではないのか?」

「ええと、刺突系の攻撃がダガーじゃしにくくて…色んな人に相談したら、リーチの長い剣を持つか槍系の武器を持つかで話が決まったんですけど」

「ああ、ベル坊は普通の剣は扱えないのか?」

「なんだかしっくりこなくて…槍の方がいいなぁと」

「ふむ、いや、フィンがそれを認めたということはそれなりに才能があるのか…ううむ、ちょっと待っていてくれるか?」

「はいっ!」

 

一度出て行った椿が、何本もの槍を持って現れる。

 

「一応、フィンからも話は聞いて参った。というより連れて来た。ファミリアに入りたての訓練では短剣と槍に適性がありそうだったとか? であるのならば、鍛つことに否やはない。だからまずは…どれが合うか、試してみるとしようか」

 

短槍、長槍、戦槍、それぞれ異なる特性を持つ、しかし槍と一括りにできる武器達がずらりと並べられる。

 

大体15C程毎に長さが切り替わるようだ。そこには、身の丈を超えるような長槍から剣と、どころか、短剣とさして変わらない長さの短槍まであった。

 

試し斬りも行われる広い部屋のそこで、フィンも見る中で身体に負担がかからない程度に軽く槍を振るうベル。それを見たフィンは少し驚いていた。

 

槍は扱っていなかったはずなのに、格段に上手くなっている。

 

短剣での経験を上手く落とし込んでいるのか、経験的にはほぼ初心者の槍をそれなりに扱えているベルの姿がそこにあった。とは言え、同じLv1でも槍をずっと扱って来た冒険者には流石に勝てそうにないが充分である。

 

「ンー、身の丈より長い槍は扱い辛そうだね」

「短すぎる槍も、扱いがダガーとそこまで変わらないだろう。主武装を補う副武装と扱うとなれば…」

「背中か腰に吊るせた方がいいね、行動の邪魔になっても困る、となると…」

 

「「110Cの片手槍」」

 

2人の意見が揃う、それは、フィンが扱う小人族(パルゥム)にとっての長槍より短い長さ。レイピアや直剣と似たり寄ったりの長さではあるが、敏捷に重きを置くベルでは、直剣は少し苦手としていたしレイピアは性に合わなかったようだ。

 

 

 

その後、かなりの時間をかけて入念に採寸やベルの動きの確認を終わらせた椿は短い言葉で2人を見送ると、早速と言わんばかりに工房に下がっていく。製作はそれなりに期間がかかるようで、完成が近づいたらまた連絡するとのこと。

 

こうして、ベルの装備がまた更新されることとなった。

それも、椿・コルブランド謹製の間違いなく上級武器。

 

フィン・ディムナも、周りの面々のベルへの過保護っぷりに苦言を呈することがあった割にはこの扱いである。何か、ベルを見るときに眩いものを見るような目をすることがあるが、それが何なのか、この時は本人と主神を置いて他に知るものはいなかった。

 

だがしかし、これだけの物を与えられて奮起しないベルではなく、休養が明けたら槍を教えて欲しいと早速フィンにお願いし、フィンもそれを承諾。

 

それならとフィンから鍛錬をつけるよう各々に話をつけると言われた結果、ダガーの扱いをティオネ、体術をティオナに。槍の扱いをフィンに。魔法の扱いをリヴェリア、レフィーヤに。そして冒険者としての知識やサポーターとしての立ち回りや、戦闘指揮についてをラウルやアナキティに。

 

ロキ・ファミリアの錚々たる面々が、各々の得意分野でベルを鍛えることとなった。勿論、ぴったりと張り付いて教えるわけではなくあくまで時間がある時に教える、という程度のふんわりとした内容ではあるが。

 

 

 

なお、アイズのみが以前ベルを気絶させた件により、未だにベルの鍛錬を行うことをリヴェリアから許可されていない。




ベル君装備更新

武器
椿・コルブランドが上級鍛治師時代に作ったミスリル合金ダガー
ゴブニュ・ファミリアの上級鍛治師作のアダマンタイト合金ダガー
椿・コルブランドの新作片手槍(素材及び仕様:?????)

防具
椿・コルブランドの新作軽鎧(素材及び仕様:?????)
アナキティからプレゼントされたサラマンダーウール
レフィーヤからプレゼントされた戦闘衣

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