ラビット・プレイ   作:なすむる

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55話 防具完成

更新されたステータス、それを書き写したものを渡された僕は、しばし固まった。新しいスキルの発現、それは嬉しいけど…このスキル達は、なんだか恥ずかしい。

 

これ、要するに僕の英雄になりたいって気持ちと、レフィを護りたいって気持ちが具現化されたことだよね…と。名前からして、効果からして、間違いなくそうだと思う。

 

ロキ様もそれを察しているのか、なんとなく表情が引きつっている気がする。前の魔法の時にも、どれだけレフィーヤに影響されてるんや…って呆れられていた気がするから、それも仕方ないのかもしれないけど。

 

「まぁ…有用そうなスキルやからええんちゃうか? これで、一緒におらんとアビリティが下がるとかやったら困ったけど…デメリットがないなら、喜んでええと思うで?」

「そ、そうですよね…それに、レフィと一緒に迷宮探索する時には、凄く役に立ってくれますよね…!」

「ほほーん? ()()()なぁ…元から仲良かったけど、なんや、随分仲良うなったんやなぁ? それに、うちは対象が誰かもわからんし何も言っとらんのに名前が出てくるってことは何か心当たりがあるんやな、ベルたん? なぁなぁ、レフィーヤと何があったんやぁ?」

 

ロキ様が背後に座ったまま、僕は首を後ろに向けながら話す。そうしていると、僕の言葉を聞いたロキ様が、ニヤァっと意地の悪い笑みを浮かべた。それを見て、僕は自分の失敗を悟った。

 

「…あっ、そ、その…なんでもないです、よ?」

「いやいやベルたん、それはちょーっち無理があるやろ? ほれほれ、言うてみ? それとも神様に隠し事するんか?」

 

ロキ様が知らないことの片鱗をポロリと話してしまった僕は、ロキ様に背中に乗られたまま尋問を受け始める。あんな恥ずかしいこと、言いたくないしそれに…僕の胸の中にしまっておきたいと、必死に抵抗するけど、ロキ様も諦めない。

 

「っ、そ、その、い、言えません…」

「そんなこと言わんといてぇな、ほら、誰にも広めたりせぇへんから、な?」

「う、うぅ〜、い、嫌です!」

 

尚も抵抗する僕と、是が非でも聞き出したいと面白がっているロキ様。折れない僕と、譲らないロキ様。この後も長く問答が続き、最終的にどうしようもなくなった僕はロキ様を振り払って逃げ出した。

 

「うおぁっ!? あ、ちょ、ベルたん!?」

 

脱いでいた上着もその場に置き忘れたまま、涙目で逃げ出した。

扉を押し開けて出て行く際、視界の端、僕が逃げ出した方と逆方向に誰かがいた気がしたけど、そんなことを確認する余裕も考える暇も僕にはなかった。一目散に、自室へと逃げ帰る。

 

 

 

「あちゃあ、からかいすぎたなぁ。泣かせてもうたか…それに、二つ名も伝え忘れたし…ちょっと調子乗りすぎたなぁ」

「ああ、その通りだな、ロキ」

「へ?」

 

そして、ベルが見逃した人物。それこそ、彼が母のように慕うハイエルフのリヴェリアであった。

今は、拳を握り怒りに身体を震わせている。

 

「偶然用事があって来てみたら…半裸で泣いて逃げて行くベルを見たのだが…ロキ、覚悟は、できているだろうな?」

「あっ、ちょ、ママ、堪忍して…あギャァぁぁぁぁぁアァぁぁあァッ!?」

 

 

 

部屋で毛布に包まっていた僕に、ボロボロになって縛られたロキ様をリヴェリアさんが連れてきた。ロキ様は僕に向かってリヴェリアさんに謝らせられていた。なんだろう、神様に向かってこんな感想はいけないと思うんだけど…なんか、見ていて悲しい気持ちになった。

そんなロキ様に謝罪されたので、僕はそれを許した。

もう、無理に聞き出そうとしないと約束してくれたから。

 

その時にようやく僕の二つ名、今日の昼間に決まったというそれを教えてもらった。

 

最速兎(ラピッドリィ・ラビット)

 

最初は、どこかの男神様の案で『愛兎(ラブリィ・ラビット)』とかいう案が出されて、僕の顔を見た女神様達が賛同してそれに決まりかけたけど、なんとかこれをねじ込んだ…らしい。

その点については、深く感謝した。

 

ロキ様は再度申し訳なさそうな顔をして、謝りながら出て行った。リヴェリアさんに首根っこを掴まれながら。

 

 

 

そんなこんながあり、それから2週間。

この間、僕はずっと忙しい日々を過ごしていた。

 

アキさん、ラウルさん、レフィに付き添われて中層の到達階層を16階層まで伸ばしに行ったり。何故か、運良くか運悪くかミノタウロスに遭遇することはなかったけど。

 

あまり関わりのなかった同じレベル帯の人達と上層から中層を一緒に探索して、連携しながらの戦闘の練習を行ったり。

 

フィンさんに槍の稽古をつけてもらったり。

 

レフィに僕が並行詠唱を既に出来ることを知られて追い回されたり。

 

リヴェリアさんに魔法の効果的な扱いを教えてもらったり。

 

アイズさんだけが僕の鍛錬をできないことを嘆いていたり。

 

ティオナさんがどう自分の名前をもじってもあだ名をつけようがないことに悩んでいたり。

 

リューさんから魔法を何度か教えてもらったり高速戦闘時の並行詠唱のコツについて指南してもらったり。

 

シルさんと買い物に行ったり。

 

ギルドからランクアップが公式発表され、以前より注目を浴びるようになったがその視線もあまり気にならなくなってきた。というより、時たま受ける強く熱い天上から感じる視線が一番怖い…なんだろう、この視線。おかげで視線や気配に敏感になった気がする。

 

まぁ、そんなこんなで充実した2週間を過ごしていた。

ステータスもしっかりと伸び続け、フィンさんからの槍の稽古は実戦形式に移り変わった。ティオネさんからもダガーの扱いを学び、ティオナさんからは体術を学んだ。

ステータスによるものか技術によるものかイマイチわからないけど、間違いなく身体の動きは良くなっている。

 

そして、リューさんからも魔法をストックさせてもらった。それは、予想していた物の遥か上を行く超特大魔法。これを、高速戦闘しながら並行詠唱するなんて、信じられない…という目で見ていた僕に、色々とコツを教えてくれるようになった。それに僕はありがたい限りだと甘えていた。

 

 

そんな僕に、ようやく、待望とも言える連絡が来る。

 

━━頼んでいた防具が、完成したのだ。

 

 

 

「随分と長く待たせてしまったな…ようやく、ようやく満足いく逸品ができた」

「いえ、気にしていませんよ、むしろ、そんなに頑張ってくださって、ありがとうございます」

「ああ、今回はいい経験になった…さて、まずはお披露目からだ。これが、お主の新たな防具…銘は、お主が付与魔法を使えると聞いて、トリガーを頼み込んで聞いてな。アイギス・プレートと名付けた。まぁ、神話のように山羊革ではないのだが…竜種の革を内張に、外を希少金属製にしているから、見た目以上に軽く、防御力もある」

 

それぞれの特性を活かす組み合わせを探すのが、大変だった、と漏らす椿の話を聞かながら、ベルはその軽鎧を眺める。

 

…凄い、ひと目見ただけでそう思わせるほどの防具だった。

 

無駄のない、質実剛健な作りなのに、どことなく感じる優美さ。ベルは、この防具に一目惚れした。

 

外見は、一般的な防具と変わらないオーソドックスな作り。

しかし、金属の煌めきが違う。細部の作り込みが違う.

 

「では、最後の調整を行うとするか」

「はいっ」

 

身体に合わせながら、各所を修正していく。そうして出来上がった、一点物の装備。

 

「おぉ…」

「うむ、思った以上に似合っている…これで完成だ」

「あ、あの、ありがとうございました! 僕みたいな駆け出しに、こんな…」

「何、詫びも兼ねてとはいえ、手前はベル坊には期待しているからな。それに、代金もフィンからしっかりと貰っているのだ。仕事として請け負った以上、手前に文句はない。その装備を活かして、もっと先へと進むが良い。ベル坊ならそれが出来ると信じているぞ?」

「…っ、はい、大事に使わせて頂きます!」

「申し訳ないことに、今はまだ専属契約を結ぼう、とまでのことは言えないが…何かあれば、相談してくれ。可能な限り応えよう。それに、その防具と先日に渡した槍は、できれば手前の方で整備を行いたい」

「わかりました、椿さんのところに持ってきます…何か、気をつけることはありますか?」

「いや、特段に普通の武器と変わることはない。普通の手入れをしてもらえればそれで充分だ」

 

そんな会話を交わして、新たな装備を受け取った僕は店を出る。

ワクワクが止まらない、こんな良い装備を身につけられるなんて、3ヶ月前の僕では考えられもしなかった…こんな物を贈ってくれたんだ、フィンさんの期待にも、応えないと。

 

そうして僕は、昂った心のまま一歩先へと踏み込む決意をした。

 

 

 

「ーーねぇ、オッタル。あの子は貴方から見て…どうかしら?」

「…信じられない速度で成長を続けています、冒険者としては…素質があるでしょう。既に、凡百ではあの少年には太刀打ちできないかと」

「そう? なら…そろそろ試練を与える頃合いかしら?」

「時期尚早かとも思いますが…貴女が寵愛する程なのです、成し遂げてみせるでしょう」

「そうね…なら、オッタル。貴方に任せるわ…あぁ、でも、ロキを怒らせるようなことをしてはダメよ?」

「ハッ…承知いたしました」

 

そして、それに呼応するかのように、オラリオで最も高いところに棲まう美の女神が温めてきた企みを実行に移す。都市最強の男が、その命を受けて動き出した。

 

「…ふふ、可愛い子。貴方のその素敵な魂の輝き…もっともっと光り輝かせて、私に魅せて頂戴」

 

数多の男を魅了してきたその瞳は、今、1人の少年へと向けられていた。

 

 

 

「ふんふーん、ベルたん、今日もしっかり伸びてるなぁ。この調子で行けばLv3も遠くないんやないかー?」

「ほ、ほんとですか?」

 

数日前に更新して以来の更新、今も、メキメキと伸びて行っているステータスは、既にLv2の中でも上位に近い総合値を誇っている。

 

「うんうん、これだけアビリティ伸びれば器自体はもう充分やし、何か切っ掛けが…偉業を達成すれば昇華してもおかしくないでー? いやぁ、本当にベルたんはいい子やなぁ」

「そうですか…ありがとうございます!」

 

ロキは内心、いや、まぁ、異常やけどな…と思いつつも今はこの幼い少年の成長をただ喜ぶ。今回も酷かったけど、次回のランクアップの時にはもっと色々と問い詰められるかもしれんなぁと思いながら。スキルの詳細は隠しておきたいところだが、さて、どうしようか。

 

「まぁ前のランクアップが2ヶ月半で…今はそれからまだ1ヶ月経ってないんやしもっとゆっくりでもええと思うけど…ベルたんは早く強くなりたいんやもんな?」

「はいっ!」

「んでもベルたん、だからって無謀なことしたらあかんで? 1人で階層主に特攻するとか、死んでまうからな? やったらあかんで?」

「そ、そんなことは流石にしませんよ…僕も、命が惜しいですから…」

 

しっかりと、釘を刺しておくことは忘れない。焦るあまり散って行った冒険者など数え切れないほどいる。そんな者達が眠る墓場の中に、この少年を入れるわけにはまだいかない。

 

ロキ・ファミリアの秘蔵っ子として、ベルの存在はじわじわと認知されてきているのだ。特に、前に魔導書(グリモア)がベルの元に渡るように画策したであろう美の女神は怪しい。非常に怪しい。何か企んでいるような気がしないでもない、狡知の神たるロキはそういったものに敏感であった。

 

「さぁて、んじゃこれで更新はおしまいや。装備も新調したし、明日からまた頑張るんやで?」

「はい! ありがとうございました!」

 

ベルを見送るロキは、その細められた目を見開く。

 

「…一回、話し合っとくべきなんかなぁ。なんやろなぁ、神としての勘が、面倒な気配を感じてるんやけどなぁ…」




ちなみにベル君の二つ名、ちょっと長いんで多分周りからはラピラビとかそんな感じに略されて呼ばれてると思います。

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