ラビット・プレイ   作:なすむる

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60話 騒動勃発

「さぁ、行きますよベル!」

「はい、行きましょうか、レフィ」

 

結局、言葉の通り次の日の朝には全快した様子のレフィと僕は街へと出掛けることにした。今日は冒険者としての僕達ではなく、ただのベルとレフィとして。

 

「…その服、似合っていますね。戦闘衣とは印象が違って、可愛いです」

 

つまり、今日は2人とも私服らしい私服だ。

普段は少し出掛けるくらいでも、念の為に帯剣していたり戦闘衣を着ているけど今日の僕達はどこからどう見ても一般人にしか見えないような装いをしている。

 

「ふふーん、前にアイズさん達と一緒に買いに行ったんですよ! ベルも似合っていますね。そんな服、いつ買ったんですか?」

「ええと、前にシルさんと買い物に行った時に…」

 

聞かれたことに答えると、満面の笑顔だったレフィの顔が笑顔のまま固まった。

 

「へぇー、そうですかぁ…」

「え、う、は、はい…?」

「…まぁいいです、なんか、そろそろベルのそういうところに怒るのも馬鹿らしくなってきました…」

「あ、あの?」

「気にしなくていいですよ、私もあまり気にしないようにしますから」

「な、なんかすいません…」

 

多分、僕の言葉か行動か何かがレフィの…というより、最近の周りからの反応を見るに女の子の心の中の何かに引っ掛かったんだろうけど…僕はまだまだ未熟だなぁ。お爺ちゃんの言う、沢山の女の人に好かれるような漢になんて中々なれそうにない。いや、そう言うのを求めているわけじゃないけど。

 

でも、英雄たる者、女を侍らせよとか、ハーレムを築けとか色々言ってたけど…。お爺ちゃんは実際、そんなものを作っていたんだろうか。なんか、時たま実感が凄く、物凄く篭った声で語っていたけど。

メンヘラとかヤンデレってなんのことなんだろうか。

 

「…それで、今日はどこへ行きましょうか?」

「ええと、お昼は前にリヴェリアさんと行ったお店に行こうかなと思っているんですけど…それ以外はあんまり考えてなくて」

「そうですか…それでは、少し見たいお店があるのですが付き合っていただいていいですか?」

「勿論ですよ」

 

今日は良い日になりそうだ。

雲一つない青空の下、僕とレフィは手に手を取り合い、街を散策した。

 

勿論、今日も凄い数の視線に襲われたけど…もう、気にするだけ損なんだろうなぁこれ。レフィも見られることに慣れているのか、そこまで気にした様子は見せていないから、僕も気にしないようにしよう。

 

「今、あれが虜にされたエルフか…とか呟いたなんとなく、本当に何となく腹が立つ同胞の男の顔はしっかりと覚えましたよ」

「今何か言いましたか? レフィ」

「いえ、なんでもありませんよ?」

 

時々、不穏なオーラを発していた気もするけど。

概ね平和に、凄く楽しい時間を過ごすことができた。

 

 

 

「あぁ、ここでしたか。私もたまに来るんですよ。ベルの好みに合ったなら良かったですけど、人間種族(ヒューマン)の男の子だとここのご飯は物足りないのではありませんか?」

 

このオラリオで、エルフの中で一番人気の高いお店なんですよここ、そう言うレフィはなんとなくだけど嬉しそうな顔だったと思う。ここにして良かった。

 

「やっぱりレフィも知っていたんですね…いやいや、そんなことありませんよ。とっても美味しかったです」

 

そんなことを言いながら、店内へと入る。

偶然にも、僕達を迎えてくれた店員さんは前にリヴェリアさんと来た時と同じ店員さん。

 

「いらっしゃいま…せ?」

 

今回は、僕達2人を見て目を丸くしていた。

 

「…お席に案内いたします、こちらへどうぞ」

「はい、ありがとうございます」

 

グッと、何かを呑み込むようにした店員さんが僕達をそのまま案内してくれる。何か問題でもあったのだろうか…?

案内されて椅子に座ると、レフィが僕の様子に気が付く。

 

「前にリヴェリア様と2人で一緒に来たなら、あの対応も仕方ありませんよ。同胞ならともかくリヴェリア様が他種族と2人きりでどこかへ行くことなんてアイズさんやフィンさん、ガレスさん、ロキさんを除けば滅多にありませんからね」

 

そして、リヴェリア様のお気に入りとエルフの中では既に広く認識されているのでしょう。と、レフィは困ったような笑顔でそう教えてくれる。

 

もしかしたら、噂を鵜呑みにしている人もいるかもしれません。次には、意地悪な笑顔でそう言ってくる。

 

噂って言うと…ハイエルフの隠し子ってやつかな?

あはは…なんか、もしそうなんだとしたら本当にリヴェリアさんに申し訳ない…。

それにもしかしたら、あの時の動きで誤解されているのかもしれないし…そんなことはないと信じたいけど。

 

 

 

ランチを楽しみ、街の散策を楽しみ、既に西日が照り付けてくる時間帯。歩き疲れ、太陽に熱された僕達は休憩がてら噴水広場のベンチへと座る。2人横並びに、肩が触れない程度の距離。

 

「…視線、凄いですね」

「そうですね…痛いくらいです」

「まぁ、それだけベルが有名になったと言うことですよ。冒険者としては喜んで良いと思いますよ?」

「これが、何か偉業を成し遂げたからとかで見られてるなら良いんですけど、これ噂のせいですよねほとんど…なんであんな噂が…」

「まぁ、ほとんどはそうかもしれませんけど…それでも、ミノタウロスの撃破にランクアップ最速記録の更新。ベルに注目している人や神は、少なくはありませんよ? 有名になると言うのも良し悪しですが…私も、魔法大国(アルテナ)からは目を付けられているようですし」

 

そんな風に話している僕達の耳に、わざと聞かせるかのような大声が。

 

「ーー何だ何だ、どこぞの『兎』が一丁前に有名になったなんて聞こえてくるぞ!」

 

その声に顔を上げると、僕達の前に、徒党を組んだ数名の冒険者達が姿を表す。全員、何かニヤニヤとした笑みを浮かべて僕達の方をチラチラと見てくる。その顔に浮かんでいる感情は…きっと、悪意。

 

その先頭に立つ、小人族(パルゥム)の冒険者が声の主のようだ。

 

「…ベル、相手にしてはいけませんよ」

「レフィ…はい」

 

それを受けたレフィが顔を曇らせながら、僕に注意する。

 

新人(ルーキー)は怖いものなしでいいご身分だなぁ…最速兎? ランクアップ記録更新? ハンッ、嘘もインチキもやりたい放題だ、オイラは恥ずかしくてそんな真似できねぇよ!」

 

甲高い、幼い少年のような声が活気ある広場の喧騒に遮られながらも響く。近いところにいる人はその声を聞いて、少し遠くにいる人も騒ぎを感じ取ったのか目を向けてくる。

 

金の弓矢に燃える球体…いや、輝く太陽。それを刻んだエンブレム。

目の前にいる冒険者達の、統一された黒の戦闘衣。その肩に貼り付けられているどこかのファミリアの証。

僕には、どこのファミリアかはわからない。それを悟ったレフィが僕の耳に口を寄せて、呟く。

 

「…アポロン・ファミリアです、厄介なところに目を付けられましたね」

 

そして、何も言い返してこない僕達を見て小人族の冒険者は顔を歪ませる。酷い笑い方だ、人を貶すことしか知らないような、そんな笑み。

 

「ああ、でも、掠め取るのだけは上手らしいな。瀕死のミノタウロスを倒した()()()()で昇格できたんだって? 流石はあの()()()『兎』だ、立派な才能だぜ!」

 

冷やかしているのか、嫉妬か、それとも…侮蔑か。

ランクアップの理由は公表していなかったけど…そうか、世間ではそう言うことになっているのか。

それでも僕は口を閉ざす。レフィが、僕の手をギュッと握りしめている。他派閥の団員だ、今ここで手を出してはいけない、揉め事は起こすなと、レフィの手が教えてくれる。

 

広場の中、僕らの周りには不安げに行く末を見守る人達や、呆れた目で見る同業者達が多くいた。ここで怒り返すほどの踏ん切りを、僕は付けられない。

気にしないように努めていると、その小人族はわざとらしくレフィの方へと目を向ける。

 

「おや…? 横にいるのは名高き『千の妖精(サウザンド・エルフ)』じゃないか! 誇り高きエルフの癖にこんな『兎』に骨抜きにされた、堕ちたエルフだそうだな!」

 

その言葉に、僕は一瞬怒気を膨れ上がらせる。僕への言葉は、別にいい。だけど、その言葉は…っ! だが、そんな僕をまたしてもレフィが引き留める。

 

「ベル、落ち着いて…落ち着いてください」

「レ、レフィ…でも」

「私は大丈夫ですから…こんな相手の戯言、聞く必要はありません。それに、それなりに有名とは言え、アポロン・ファミリアがロキ・ファミリアに本格的に喧嘩を売って勝てる見込みは皆無です。間違いなく、何か裏があります…こちらから手を出してはいけませんよ」

「は、はい…」

 

それでも尚、黙りこくる僕達に苛立ったのか大きな舌打を一つしてから、更に声を荒げるその小人族。

 

「フンッ、あの狡猾でずる賢い神のことだから、何か人に言えないことでもしたんだろ? そうでなきゃ、こんな短期間でランクアップなんてできるわけがないんだ! あぁそうか、疚しいことがあるから何も言い返せないのか!? ハンッ、どうせ高レベルの冒険者にでも頼み込んで分不相応な経験でも積ませてもらったんだろ!? そんな情けない真似、オイラにゃできねえなぁ! あの瀕死のミノタウロスだって、お前らが仕込んだんじゃないのか!?」

 

その言葉に、僕は身体を止められなかった。

 

「…っベル!? 待って!」

 

止めるレフィの手を振り払うようにして立ち上がる。レフィに悪いとは思うけど、僕はもう黙っていられなかった。

立ち上がった僕と、立ち向かう小人族。広場の中の騒めきは大きくなる。僕達を囲むようにして人だかりが出来ていた。

 

「何だ、図星か!? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、あんなこと、できるわけねえもんな!? 悔しかったら文句の一つでも言い返してみろよ!」

 

喧騒の中を切り裂くような、小人族の声。若干の焦りを見せながらのその大声は、周りに響いていった。

 

明らかな挑発、明らかな侮蔑。そして、ファミリアまでもを見下すようなその発言。それに対して僕は飛び掛かり…ベートさん直伝、延髄蹴りで返事をした。




ベルに褒められても動揺度合いが減りました、レフィ。これは…慣れ?
と言うより、テンション上がってるから褒められた言葉をそのまま嬉しく受け取っている感じですね。

ベルきゅんがバーサーカーになってしまった、なんでや。

次回、ルアン、死す! デュエル、スタンバイ!
※死にません

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