「……ム?」
とあるホテルの一室で、桃色の髪をした男が片眉を上げた。
その漂う厳格な雰囲気が一瞬崩れ、まるで旧友を見つけたかのような和やかな空気になる。
男が滅多に見せることのない雰囲気に、側近の別の男が不思議がって尋ねる。
「どうされましたか、ボス」
「いや、何もない。気にするな」
「は」
質問に答えられず、命じられた通りに沈黙を続ける側近だが、しばらくしてからボスと呼んだ男に尋ねられる。
「時に、リリシアよ。お前は心と心、つまり魂と魂の共鳴を感じたことがあるか?」
「いえ、私如きには全くもって分からぬ話であります」
「そうか。ならば……己のスタンドに温かみを感じたことはないか?」
「温かみ、ですか……。やはり私には遠く理解の及ばない話であります」
「フッ。そう謙虚になるな、リリシアよ」
ボスは立ち上がり、閉め切っていたカーテンと窓をさっと開ける。
眩しいくらいに、日の光が部屋へ差し込んだ。
「俺は今、感じたぞ。魂を、心を。……リリシア、ジョルノ・ジョバァーナという名前に聞き覚えがあるな?」
「は。貴方様がその手で始末した、憎き反逆者でございます」
その真実をこの世で唯一知っている男は、素直に答える。
「その通りだ。そして……ヤツは俺の唯一の弱点であった。ヤツのスタンドの感覚は今でも覚えている」
「? ……失礼ながら、ボス。先ほどから何を仰られたいのか……」
困惑した部下の表情を見、ボス・ディアボロは静かに微笑する。
「先ほど、心の話をしたな。スタンドとは、いわば心の形なのだ。そして俺が今感じたのは……あのジョルノ・ジョバァーナと同じ魂の感触。つまり……ヤツと同じ血統の人間だ」
「同じ血統……ですか?」
「そうだ。そしてその者たちは既にこの地、イタリアへ降り立っている。奴らはきっと、俺を追ってやって来たのだ。ジョルノ・ジョバァーナの死という出来事をきっかけにな」
ディアボロはそこまで話すと、窓の外へ目を向けた。
そこに広がる広大な青空を見つめながら、彼は言う。
「また一波乱起きることになる……。……リリシア、すぐに幹部達に連絡を入れろ。新たな侵入者に備えよ、とな」
「御意に」
短く答えると、リリシアは影のように消え去ってしまった。
たった一人、部屋に残ったディアボロは心地よい静寂に耳を傾けながら、不敵に笑う。
「ジョルノ・ジョバァーナと同じ血筋、か。……面白い。この帝王ディアボロが捻り潰してやろう」
盛大な、くしゃみの音がした。
広瀬康一が振り返ると、大男二人――――東方仗助と空条承太郎――――が同じ様に鼻をこすっている。どうやら音源は二人だったらしい。
「大丈夫、仗助君、承太郎さん? 二人が風邪だなんて、珍しいですね」
その言葉に首肯し、激しく同意する刈り上げ頭の少年がいた。仗助、承太郎と同じ大男の、虹村億泰だ。
「そうだよなァ。仗助はともかくよォ~承太郎さんが風邪だなんて珍しいよなァ~」
「いや、これは風邪というより……」
「誰かに噂されたって感じの嫌なくしゃみっスね」
承太郎、仗助は互いに頷き合いながら、感覚を共有する。
「何か、嫌な感じがするぜ……」
仗助が苦い顔で呟くと、横で承太郎が重々しく頷く。
「ああ。この感覚は……思い出したくもない、あの時と似たような感覚だぜ……。DIOの呪いが発動した時のような、血同士が引き合う感覚ッッッ!!」
「ディ、DIOだってッッッ!? ジョースター家と深い因縁を持つ、あのDIO!?」
仗助達は一斉に驚く――――が、すぐにホンワカした空気になる。
「――――ッつっても、承太郎さん達が倒したから、今さら現れるワケないっスよね」
「ビックリした~。承太郎さんも冗談言うんですね」
「スゲービビったぜ……」
「悪いな。本当にあの時の感覚に似ていたものでな。……冗談だ。忘れてくれ。よし、とりあえず予約したホテルに向かうぞ。話はそれからだ」
仗助達は元気よく返事し、楽しそうに喋りながら先立って歩いていく。
その後ろ姿を見ながら、承太郎は再度思案する。
(しかし、今回わざわざイタリアに来たのは――――……。何か関係があるかもしれんな。今の感覚、あながちバカには出来ねぇ……。一応覚えておくとするか……)
「承太郎さーん。早く来ないと置いて置いていきますよ~」
「ああ、今行く」
仗助の声掛けに、承太郎は軽く答えると、その言葉とは裏腹に重々し気に歩いて行った。
「さて……まずは、わざわざイタリアまで来たワケを話そう」
空港近くのホテルの一室を陣取った承太郎達は、会議を開いていた。
椅子に座った承太郎が口を開くと、仗助、億泰、康一の三人の視線が彼に集まる。
「まず、これを見てくれ」
仗助はテーブルの近くに寄ったが、何しろ部屋が狭い。康一と億泰は近くの棚にもたれかかり、視線だけを寄せる。
承太郎が一枚のザラザラとした紙をテーブルの上に置く。それはどうやら、新聞の一部を切り抜いた紙片のようだった。
見出しは、『怪奇殺人 コロッセオの呪い』。コロッセオ近くで奇妙な死体が見つかったという内容の記事だった。
「数日前、ローマのコロッセオ前で、男女複数名の死体が発見された。単純に身体へ大きな損傷を負わせられて死んだ者もいたが、その中に
承太郎の鋭い問いに、仗助が静かに答える。
「人外の力によって殺された……つまりスタンド使いが関係しているッ!!」
「そういうことだ」
その言葉に承太郎は首肯すると、続ける。
「だが、もう一つ。この事件にはある人物が被害者になっている。その人物は……」
そこで承太郎は康一をちらりと見やる。急に視線を向けられた康一は、特に覚えもないので首を傾げる。
承太郎は一つため息をつくと、静かに言い放った。
「ジョルノ・ジョバァーナ」
その名を聞き、康一がはっと何か思い出した顔になり、ぶるりと身を震わせた。
その奇妙な反応に、億泰と仗助は顔に疑問符を浮かべる。
「どうした康一。お前、何か知ってんのか?」
「教えろよォ~、康一。そのジョ……、ジョウロ? ってヤツのことをよォ~」
質問攻めにされた康一は、承太郎の顔をちらりと見る。承太郎は静かに頷いた。それはジョルノの秘密を話してもよいという合図だ。
康一は歯切れ悪く、言葉を発する。
「ジョルノ・ジョバァーナは……の、…す……だよ」
「ん? 何だって? もうちょいデケェ声で言ってくれよ」
仗助に急かされ、康一は一度大きく深呼吸をすると、今度はゆっくりと言う。
「ジョルノ・ジョバァーナは……DIOの息子だよ」
沈黙。
次の瞬間、その場を支配したのは沈黙だった。
空気の動く音さえ聞こえそうな、その静寂の空間がどれだけ続いただろう。
その沈黙を真っ先に破ったのは、仗助だった。
「ディ、DIOの……何だって? 康一、今息子だっつったか? はは、いやそんなわけねーよな。……承太郎さん、冗談っスよね?」
「………」
「じょ、承太郎さん、なんで黙ってんスか」
「……事実だ」
一言。その一言が決定打となった。仗助が目を背けていた現実に。
「冗談でも、嘘でもない。ジョルノ・ジョバァーナはDIOの息子……俺達の先祖、ジョナサン・ジョースターの体を乗っ取った後に生まれた子供だ」
「ってことは……」
「ああ。俺達と同じ血を引く人間だ。つい数週間前に知ったばかりだがな」
「俺と同じ血の人間が……」
仗助はしばらく黙っていた。しかし、すぐに気を取り直す。彼もまた、非日常を生きるスタンド使い。そう易いメンタルではない。
「んじゃ、今回はそのジョルノってヤツの復讐ですか。らしくないっスね」
「ああ。お前の言う通り復讐などやらない。今回は別の目的がある。今度はこれを見てくれ」
次に承太郎が取り出したのは、ノートパソコン。誰かから送られてきたメールが表示されている。
To Jotaro
From //////
I found
たったこれだけの文章。
しかし、この中には承太郎が今まで待ち望んでいたことが示されていた。
「何スか、これ?」
仗助が尋ね、他の二人も首を捻っている。
「承太郎さん、いたずらメールじゃないんですか? 『見つけた』って。これだけですよ?」
「ああ、康一君。君の言う通り、たった一言だけだ。誰が見てもいたずらだと思うだろうな」
「じゃあ、なんで……?」
承太郎はふぅーっと、一つため息を吐く。そして話し始めた。
「俺も最初はいたずらだと思った。だがな、ふと思った。俺にこんな内容のメールを送るヤツは誰がいるか、と。その時真っ先に思いついたのは……」
続けて承太郎は一枚の古びた写真を置く。男五人と犬一匹が並んで映っていた。
承太郎はその男達の中で、犬に触れ、銀髪の髪を柱状に伸ばした男を指さす。
「ジャン・ピエール・ポルナレフ。俺がかつてDIOを倒す旅に出た時、その旅を共にした仲間だ。そしてDIOを倒した後に生き残った人間の一人でもある」
「生き……残った……」
「ああ。そしてDIOとの戦いの後、俺達はもう一度世界に出た。DIOが刺客を増やすために使っていたあの矢をの出所と行方を探ってな」
「その矢ってのが……」
棚にもたれた億泰が呟くと、承太郎は頷く。
「そうだ。君の親父さんが持っていた矢だ。だが調査の結果、矢は複数本存在していることが分かり、俺たちはスタンド使いを増やさないために世界を探し回った。そして……」
承太郎は部屋の床を指さす。
「この地、イタリアにポルナレフが行ったきり。連絡がつかなくなった。あいつは普段ふざけてはいるが、歴戦の猛者。俺の『スター・プラチナ』よりも速く動き、何人もの敵を仕留めてきた。そんなポルナレフからの連絡がつかなくなった、それはつまりあいつ以上の猛者が現れた、ということだ。そしてポルナレフと戦ったということは、ポルナレフと意見や信念の一致がなかった……つまり矢を保持する者と出会ったということだ」
長々と説明するにも関わらず、仗助、億泰、康一の三人は熱心に、そして緊張を孕んで聞いていた。
承太郎は続ける。
「俺はポルナレフが消息を絶った後、スピードワゴン財団に頼みイタリアで何か怪しげな……それこそ超能力を持っていると噂されているような人物を調べた。その結果たどり着いたのが――――ギャング団『パッショーネ』。ヤツらは不可思議な力を使うと、もっぱらの噂だ。そしてスピードワゴン財団の組織員が潜入捜査を行った」
「それで……どうなったんスか?」
「正解だった。しかもその組織員が、スタンド使いになった」
「! スタンド使いに⁉ 矢を持ったヤツがいる⁉」
三人が驚いて大声を出すと、承太郎がきっと睨んで言う。
「……静かにしろ。ここはもうヤツらのホームだ。どこで聞かれているか分からない」
三人は慌てて口を押さえ、こくこくと頷く。
「……。ま、そういうことだ。今まではマークしていたものの、中々組織壊滅に踏み切れなかった。何しろスタンド使いの集団だからな。危険すぎる。だが今回、このメールが来、コロッセオの殺害事件、更にスピードワゴン財団の捜査員から、パッショーネ内で幹部が死んだとの噂が流れている、と報告があった。明らかに組織内で何らかの動きがあった。これがイタリアに来た理由だ」
「なるほど。んじゃ、今回の目標は……」
「ああ。矢の回収。それとついでにパッショーネの解体も出来ればしておきたい。……質問はあるか――――おい、仗助」
承太郎が地図から顔を上げ、怪訝な顔で仗助に問いかける。
「億泰と康一はどこに行った?」
「え? 何言ってんスか、ここに……」
言われて仗助が後ろを見るが、先ほどまでいたはずの二人の姿がない。まるで影のように消えてしまった。
二人は部屋中を見渡すが、何も変わった所はない。
承太郎が椅子から立ち上がり、テーブルからパッと離れる。仗助もすぐさま後方へ。
「承太郎さん、これは!!」
「ああ、二人が何も言うことなくトイレやら外出などあり得ない。これは、明らかにスタンド攻撃だッ!!」
承太郎は答えると、テーブルを注視する。特に変わった所はない。
(俺と仗助になく、億泰と康一にあったもの……。何だ、何が違った? スタンドそのものが人を隠すのは、難しい。恐らくスタンド能力、そして能力には必ず発動条件がある。何が……)
その時、ふと視線を外して仗助の方を見る。そこには……誰もいなかった。
「仗助ッ!? どこにいった、仗助!?」
承太郎は叫ぶが、返事はない。気配すらも感じない。
突如起きた謎のスタンド攻撃によって、承太郎は一人部屋に残されてしまった。
こんにちは。久しぶりのウェーヴ・カンです。
ええ、皆さんの言いたいことは分かっていますよ……。
投稿遅くてすみませぇぇぇぇぇええええええん!!!!
そりゃそうですよね。こんだけ遅かったら、失踪したと思われるのも当然ですよね。
そう。コーラを飲んだらゲップが出るのと同じように、当然のことです。
本当にすみません。次からは頑張ります……多分。
今回の投稿、ちょっと迷ったんですよね。
というのも、作者自身がにわかファンなせいで話がおかしくなっているのではないのかと。
仗助達って、DIOについて知っているんですかね?
よければ感想などで教えて下さい。
今回は茶番無しです。
次回もお楽しみに!!
最初の謝罪のビックリマーク、四個じゃあねぇか。
縁起悪ィーぜ……。