魔法先生ネギま!─紙使い、綾瀬夕映の事件簿─   作:うささん

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3話 居残り補習と動き出す世界

 本日はプリント返却デー。ああ、憂鬱にもなるというものです。もちろん予習などしないので散々たる結果です。

 というわけでネギ先生から居残り授業の呼び出しを頂きました。

 

【本日の補習】

神楽坂明日菜(バカレッド)

佐々木まき絵(バカピンク)

長瀬楓(バカブルー)

古菲(バカイエロー)

綾瀬夕映(バカブラック)

 

「ふ……いつもの五人が勢ぞろいでありますね」

「そーアルね」

「えへへ、バカでごめんねぇ、ネギ君。私たち仲良し五人組なんだぁ」

「たかが補習よ! すぐに終わらせて汚名挽回よ! 高畑先生にバカだと思われたくないわ!」

「明日菜殿、そこは汚名返上でござる。それともう手遅れでは?」

 

 補習の五人は常連も常連。去年は高畑先生がつきっきりで面倒を見ていたのだが、担任が変わっても呼び出されるメンバーは変わらない。

 ついたあだ名は「バカレンジャー」。そろいもそろって成長しないのが自慢です(自虐)。

 

「がんばれー、ゆえー」

「とっとと、終わらせていくよー。バカブラックー」

「はいはい……」

 

 教室の入り口でのどかたちが待っている。

 十点満点方式のプリントに向き合う。六点取れないと帰れないらしい。

 

 明日菜はかなりテンパってる。高畑先生がいないので実力は発揮できないでしょうね。

 恋は盲目と言いましょうか。去年は頑張ってましたが、ネギ先生相手でテンション駄々下がりみたいです。

 他の三人は、まき絵は古菲と同じくらい。楓も勉強よりも忍者修行極振りなだけで地頭は悪くありません。

 ハルナとのどかを待たせてるのでさっさと終わらせることにします。

 

 小テストなのでそう時間はかからない。夕映は寝ぼけた頭をフル回転させて答えを書き込んでいく。

 夕映が一番に席を立ちプリントを前に持っていく。

 

「できましたですよ」

「番号四番、綾瀬夕映さん。早いですね。では採点します」

 

 夕映はプリントの採点を待つ。十問しかないので採点も簡単だ。

 

「九点。合格です。すごいじゃないですか。綾瀬さん、勉強、ちゃんとできるじゃないですかぁ~」

「勉強、嫌いなんです……」

「はあ……」

 

 ネギのえーという感じの視線はほっとく。用事は済ませたので鞄を回収して夕映は二人の所に行く。

 

「さあ、行くですよ。このかも向こうで待ってるですし」

「夕映はさぁ、頭いいんだからちゃんと勉強しなさいよー。居残り時間が無駄じゃない」

「勉強イヤでーす」

 

 ハルナには拒否権を発動です。

 

「夕映が待たせたから奢り確定だねぇ、のどか」

「あはは」

「うあ……今月はお小遣いきびしーのです……ハルナは鬼畜です」 

 

 三人はそろって廊下を歩き出す。

 その後ろ姿を見ていた生徒が二人いた。同じ学年で同じクラスの生徒だ。

 一人は金髪の小柄な少女だ。名前はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 もう一人は表情の乏しいロボット娘、絡繰茶々丸だ。

 二人の身長差は際立っているが、茶々丸はエヴァンジェリンに付き従う部下のように後ろに控えている。

 

「綾瀬夕映。出席番号四番。図書館探検部所属。好きなものは読書。嫌いなものは勉強」

 

 茶々丸が基本データを読み上げる。

 

「そして、西で紙使い当代随一と言われた綾瀬泰造の孫娘だ。学園長が抱き込んで見回り組に参加している。我々の目的の邪魔をした場合、もっとも障害となる女だ。そして奴から受け継いだであろう物が一番厄介だ。アレを抑えられるのは本調子の私か、学園長、もしくはタカミチくらいだろうな」

「マスター、排除しますか?」

「あるいはこちら側に引き込むか、だ……私の念願を果たすためなら手段は選んでいられないからな」

「はい、重要人物として監視を続けます」

「行くぞ、茶々丸」

「はい……」

 

 主に従順に従い、茶々丸はエヴァンジェリンに続いてその場を去る。

 

 

「ふわぁぁ……」

 

 こらえていた欠伸が連続して夕映の口から飛び出す。

 見回り仕事と学生の兼業はなかなか辛いものがあるです…… 

 

「夕映ちゃん、どうしたん? 寝不足?」

「ゆえー、また眠いの?」

「ああ、気にしないでください。いつものことです」

 

 今日は図書館探検部活動の日。膨大な蔵書量を誇る図書館島は麻帆良一番の図書館だ。

 いつも通り、夕映。ハルナ。のどか。木乃香の四人でチームを組んでいる。

 戦禍を免れるため古今東西から戦時に集められたもので、おそらく世界でも類に見ない数の本がここにある。

 地表の建物にある本だけでも膨大であるが、実は地下にダンジョンのごとく空間が広がっており、地底図書館が存在するという。

 

 もっとも、私たち中学生組は地下に通じる入り口付近の本の整理をしたり、目録を作るのが主な仕事となっています。

 作業の合間に気に入った本を読むなどの特典もあるので、本好きならばいくらいても飽きることがない夢の空間です。

 まあ、ここら辺の本が「悪さ」をすることはあまりないのですが、たまにおかしなのが混じって発掘されたりもするので注意は必要です。

 今のところは大丈夫みたいですね……

 

 作業するメンバーを見ながら、夕映は発掘した希少本を読み解いていく。

 ページをめくると白いうねるものがぽろっとこぼれ落ちた。それは半透明に透けて見えるが普通の人には決して見えないものだ。

 これはいわゆる本の虫である。

 

「虫さん、こっちですよ」

 

 夕映が指を差し出してすくい、閉じるぺーじの狭間に持っていくと本の虫が文字の中に逃げ込んで姿を消した。

 虫さんは文字があるところでしか生きられないのです。本の虫が悪さをすることはまずありません。

 本喰らいは本の文字を食べてそれに擬態します。読んだ者を引き込んで魂を食っていくのが本喰らいの本性。知らず知らずのうちに自分の心を食べられてしまう厄介な魔物なのです。

 本の虫を見つけたなら安心していいです。本喰らいがいたら本の虫は逃げてしまいますから。

 

 怖い魔物を封じるのはこの本だ──夕映は無意識に襟元の鎖をいじる。

 魔封じの鎖がこの本の魔物を閉じ込めている。紙使いが魔物を使役することは禁断とされている。封じた魔物はそれぞれで喰らい合い、強力な魔物となって外に出る機会をうかがっているのだ。

 いわば蟲毒の法のごとく魔物の力は強くなっていく。

 代々、紙使いは本喰らいを封じることにその命を捧げて来た。祖父の代で一度は廃れたものだったが、綾瀬泰造はその禁を破ってこの呪法を用いて本喰らいたちを封じ込めてきたのだ。

 退魔を生業とする者でも本喰らいを直接退治することはできない。陰陽道に優れた者か、紙使いのみがそれに対処することができた。

 

「目の届く範囲では絶対悪さはさせませんですよ、ね?」

 

 最後の虫さんをすくって夕映は本を閉じる。検品は終わりだ。 

 

「いや、終わった、終わった~ 仕事した後はやっぱ疲れるねえ」

 

 時間が来てハルナがうん、と伸びをする。

 

「ハルナはずっとドージンのネームを書いてただけでは……」

「詰まるとここの方が捗るんだよぉ。締め切りあるしさ」

「はいはい……」

 

 ハルナは同人誌でお小遣いのほとんどを稼いでるらしいです。それを同人に突っ込むのでミイラ取りがミイラなのですね。

 

「お好み焼き食べに行こうよ! こないだ、いいお店見つけたんだ~」

「ああ、うちも食べに行きたいわぁ~」

 

 ハルナの提案に木乃香が食いついてお好み焼きに心を飛ばしている。

 

「のどかはどうします?」

 

 のどかは思案といった顔をするが、それはもうりょーかいのサインである。

 

「うーん、いいよ!」

「決まりですね」

 

 四人は図書館島を渡るながーい橋を渡る。小舟がある埠頭が一望できるところに件の店がある。

 ハルナの先導でお好み焼き屋に入って早速注文をする。

 なかなか味があって雰囲気が良いお店です。

 

「このかはお好み焼き好きなんだねえ~」

 

 あ、豚玉もよかったかぁ、とハルナがメニュー表に目移りする。

 

「うち、焼き物全般大好き! パンケーキもお野菜入れて食べるくらいや」

「独特な感性ですね……共通点は粉ものってだけですが」

「美味しいよ?」

 

 木乃香は満面の笑みで答える。

 

「あ、きたよ~」

「それじゃ、さっそくいただき~」

 

 ハルナが一番にボウルをかき混ぜ盛大に鉄板にぶちまける。

 

「ふつー、ど真ん中にぶちまける人がいますか……」

「あはは~ 手が滑ったー」

「ひっくり返すまで待つからええよ」

 

 焼き上がるまでの時間。ふんわりと焼ける匂いが鼻をくすぐる。

 待ち時間の間、夕映は木乃香に疑問をぶつけることにする。

 

「このか、質問いーですか?」

「なーに、夕映ちゃん?」

「桜咲さんとは幼馴染なのですよね?」

「そうや」

「実は二人の微妙な距離感が気になったもので。このかが話しかけてもそっけない感じがします」

「ああ、それ、みんな思ってるかも?」

 

 ハルナが自分のをひっくり返して鉄板の端に寄せる。

 

「あ……そうだねぇ」

 

 応えに戸惑いが混ざる。木乃香にもよくわからないのだ。

 

「喧嘩でもしたの?」

「ううん……」

 

 のどかの問いに首を振って木乃香はじわじわ焼けるお好み焼きを見つめる。

 では、私たちでわだかまりを解消するしかありませんね。見回りのときの桜咲さんのピリピリ感は生真面目というだけではない気がします。

 二人が仲良くなればそれも少しは和らぐかなあと思った次第です。これは私の仕事をやりやすくするためにも必要なことなのですよ?

 

「桜咲さんはお好み焼き好きでしょうか?」

「せっちゃん、お好み焼き大好きだよ。昔から好きでうちがよう焼いてあげたんや。稽古でお腹空かせてよくお代りしてた」

「じゃあ、今度誘ってみませんか?」

 

 のどかが合いの手をいれる。さすがのどか、私の意図を理解したようです。

 

「じゃあ、ここでいいよね? ここすごく美味しいし安いもん」

「ハルナに賛成です」

「私もー」

 

 夕映とのどかがハルナに一票と手を上げる。一致団結で良いチームです。

 

「みんな……ありがとう」

 

 いえいえ。そうしたいんです、あなたに。

 

「夕映、もういい感じじゃない?」

「あ、ひっくり返そう」

 

 自分の分をひっくり返し、お好み焼きの絶妙な焼き加減に夕映は満足する。

 

「ゆえー、半分ずつにして食べようよ」

「あいあいさー。のどかの半分もらいます」

「このかのと私のわけよーよ」

「ええよ~」

 

 そんな感じでわいわいとみんなでお好み焼きを平らげるのでした。寮に帰ったのは日も沈む頃でした。

 

 

 お風呂に入った夕映とのどかがパジャマに着替え、部屋に戻る頃にはもう寝る準備である。

 明日も早いとベッドメイクを済ませて、これで良しと夕映はしわまで伸ばす。

 

「明日菜の胸が爆発したのはおかしかったですね」

「そうだねぇ。びっくりした」

 

 さっきは寮の浴場で大騒ぎでした。まあ、ネギ先生を巡るいつもの悪ふざけなんですけどね。

 ネギ先生と相部屋なのが納得いかない委員長のあやかがいちゃもんをつけ、先生と住むのに一番胸が大きい娘がゲットできるという謎ルールが発動したのです。

 コンテストが始まってから明日菜の胸が突如巨大化し(おそらくネギ先生の魔法でしょう)、明日菜が優勝したものの胸が爆発。

 そんなこんなでネギ先生の相部屋は元のさやに納まったのでした。

 

「おやすみ、ゆえー」

「おやすみ、のどか」

 

 今夜は見回りの仕事はありません。

 

 照明が落ちて夕映は目を閉じて眠りにつく。

 ──ほんの一時間も経った頃。妙な寝苦しさに夕映は目を覚ます。

 

 なんですこれ……?

 

 寝苦しい……胸騒ぎと高鳴る動悸。息苦しさを感じて夕映は胸に手を当てる。妙なくらい喉が渇いている。

 無意識に鎖を握った。

 

「これは……」

 

 ほのかに魔本が光っていた。

 

「魔物が反応している……」

 

 すぐに起きだしてのどかの様子を見る。規則正しい息が聞こえる。異常は見当たらない。

 夕映は汗をかいたパジャマを脱ぎ捨てて制服に着替えて表に出た。

 この反応は近くに本喰らいがいる証だ。本喰らい同士は相容れぬ魔物。互いに喰らい合う定めにある。

 

「どこです?」

 

 寮の外に出て息を弾ませる。反応はまだ収まっていないが、居場所を掴ませない。

 

「勘がいい娘だ──」

 

 まだ満ちぬ月を背景に金髪の少女とロボット娘がソコにいた。寮を見下ろせる位置であるが気配は悟らせない。

 エヴァンジェリンの手には妖しく輝く本があった。

 

「マスター、その本は?」

「以前、私が捕獲した本喰らいの魔物だ。これをだしに綾瀬夕映に接触する。あの娘が敵になるか、味方になるか、もしくは手出しをしないと約束させれば問題ない。次の満月まで時間がない。あまり良い手でもないが、私もなりふり構っていられないさ」

「わかりました。サポートいたします」

「頼んだぞ。魔法使いの坊やと同時に相手にするのはどう考えても分が悪いからな」

 

 その手で輝く魔本の輝きがエヴァンジェリンを妖しく照らしだすのだった──

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