魔法先生ネギま!─紙使い、綾瀬夕映の事件簿─   作:うささん

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5話 カモ襲来 ユエ撃退

 噂というのは広がるのが早いもので、私がその話を聞いたのはまき絵からでした。朝一番に顔を合わせてその話を聞きました。 

 

「ネギ先生のパートナーですか?」

「そうそう、ネギ君てどこかの国の王子様なんだってさぁ~ 日本には将来のお嫁さん探しに来たんだって。いいなぁ、パートナーになったら私もプリンセスだよねぇ。で、お父さんは大統領なんだって!」

 

 めくるめくロイヤル生活がまき絵の脳内で展開されているようです。

 

「どう突っ込んでいいのかわかりません。ウェールズは英国の一部でアメリカでもありません」

「ゆえっち~ 細かいことはいいんだよ~」

 

 まき絵はまあそうで問題ないんでしょうね。事実はともかくとして。

 ウェールズはイングランドにある国の一つです。でも今もウェールズに王族がいてプリンスと名乗る人がいる話は聞きません。

 「プリンス・オブ・ウェールズ」はイングランド王室の嫡男が名乗るものですし、外国の貴族図までは知りません。

 ネギ先生が自分で広げる話題ではなさそうなので、誰かのでっちあげか、伝聞が変化したモノでしょうね。

 噂はすぐに変質して拡散しがちです。くだらない話ほど面白おかしくなります。昨日からネギ先生のパートナー探しで話題が広がっています。

 将来は有望でもネギ先生はまだ十歳らしいので中学生でも手を出せば犯罪になってしまいます。

 

「まあ、みんなの熱はすぐに下がるでしょうね」

「え、うん……」

 

 心あらずという感じののどかが答える。

 何だか昨日から様子がおかしい感じですね……フワフワしてるというか。

 

「ネギ先生は小学生なのでパートナー選びとかまだ早いですよね」

「え、パートナーっ!?」

「のどか……?」

「私……昨日変な夢見ちゃって。その、ネギ先生……告白する夢なの……」

「ああ……夢ですか。夢は願望の表れと言います。ということは、のどかはネギ先生が好きなんですか?」

「ち、違うよ。夢に見ただけで、全然……キスしたのだって」

「ほほう。夢の中でキスしただけですか」

 

 フフフ。内心ニヤニヤしてしまう話題です。

 噂話に釣られてるのかわかりませんけど、のどかがネギ先生に好意を抱いてるのは間違いないようですね。

 昨日も先生と話せて嬉しそうでしたし。ふむ……

 

「だからね、全然違うの! 夢のことだから……パートナーになってほしいて言われたの」

「まあ、夢ですしね」

 

 ここはあまり突っ込むと口を聞いてくれなくなりそうです。

 しかし、のどかの狼狽ぶりとネギ先生は魔法使いという事実を考えれば全然無関係でないかもしれません。

 ここは確認が必要ですね。

 

「のどか、朝風呂行ってきますね」

「うん、行ってらっしゃい」

 

 脱衣所は朝から人気はない。わざわざ朝から入る生徒もいないので貸し切り状態である。

 服を脱いでまとめ、本のペンダントを服の下に置く。

 浴場に行こうとして夕映は妙な気配を感じた。何か説明しにくいが何かいるような……そんな微妙な気配だ。

 

「ふむ……」

 

 夕映は脱いだ服を探って紙を出す。パジャマだろうが最低一束は持ち歩く習慣が身についている。夕映は数枚取り出して念を込めた。

 指先でピンとなった紙は念が入っている証だ。それを指先で弾くと紙は周囲の壁に張り付いた。

 念の力を失えば剥がれ落ちる仕組みだ。念を帯びた紙は磁石のように作用して術者の意思に反応する。

 今込めたのは「罠」と「警報」が仕込んである。この二つが連動するよう仕掛けを施した。

 何かあれば術者の頭の中に鳴り響く。念のため数枚を浴場に持ち込むことにする。

 

 水に濡れると紙は役立たずです。念も通らなくなるので注意が必要です。強い湿気も大敵です。

 本と一緒でコンデションは一定に保たなければいけません。

 

 シャワーの上の段の乾いた場所に紙を置き夕映は熱い湯を浴びる。考えるのはこの前起きたことだ。

 

「この間の気配……あれは本喰らいでした。ダメですね、私……良くないことばかり考えてしまいます」

 

 考えすぎでしょうか? もう少し周りで起きることに注意する必要があります。

 

 お湯が髪に浸透して髪が重くなっていく。長い分洗うのはいつも大変だ。泡立てて髪を一房ずつ洗っていく。

 お爺様のことを思い出す。祖父の綾瀬泰造は優しくて厳しかった。ずっと側にいて見守っていてほしかった。

 私の両親は本喰らいに殺された。逃れられぬ紙使いの運命が祖父の命をも縮めることになった。私に関わったばかりに──

 

 私は、私の身近な人たちを守れるのでしょうか?

 

 ふう、吐息を吐き出す。そして頭の中に警報が鳴り響いた。すぐに立ち上がって夕映は脱衣所の扉を開けた。

 

「これは……」

 

 そこにあるものに首を傾げる。

 罠にかかった獲物は白い生き物だった。罠で連結させた紙にぐるぐるに拘束されている。

 念がこもっている紙は凶悪な魔物でも逃れることはできないほどの拘束力を持つ。

 ただの動物が女子寮の脱衣所でかかるなどまずありえない。

 

「んぐ……むぐぉ……」

「良かった」

 

 光る金属は鎖だ。もがくオコジョは放置し夕映は落ちているペンダントと下着を拾い上げる。

 

「わー、こんなところにオコジョがー……人の下着漁るオコジョがどこにいますか?」

 

 ジト目で眺め下ろし、べりっとオコジョの口をふさぐ紙をはぎ取る。

 

「のわわぁ~ お助けを~ ほんの出来心なんでさぁ~~」

「喋るオコジョも初めて見ました……解剖しましょうか」

 

 その言葉に反応してぴたりと動きが止まる。

 

「あ……ヤメテ。お願いします。助けて」

「それともオコジョ鍋?」

「あわわ……」

 

 オコジョはがくがく震えだす。

 

「ふ……じゃあすべて吐くといいですよ」

 

 その慌てぶりがおかしく、夕映は笑みを浮かべて上から覗き込むのだった。

 

 

 寮の部屋の前。明日菜と木乃香の部屋の扉を夕映は叩く。まだ出かける時間には早い。

 

「こんこんです」

「はい、どなたぁ~」

「どーも、綾瀬です」

「今開ける~ のわ?」

 

 バイト先のジャージ姿の明日菜の前にグルグル巻きのオコジョを突き出す。

 

「あー、ナニコレ?」

「お宅のオコジョです。ネギ先生が飼い主とゲロしました」

「明日菜さん、お客様です……あ、カモ君っ!?」

 

 入り口に二人が顔を出している。木乃香の姿は見えないが好都合だ。

 

「事情は把握してるので入れてもらってよいですか?」

 

 そんなわけで中に入れてもらいました。ペットのしでかした不始末に明日菜がネギ先生の頭を押さえて土下座中です。

 

「すいません。あんたもちゃんと謝る!」

「綾瀬さん、カモ君もほんの出来心でやったことですから……」

「そー、そーなんですよ」

 

 肝心の下着ドロは悠々と寝そべっていますけどね……

 

「じゃあ確認させてください。この喋るオコジョと。昨日ののどかの記憶改変。そしてネギ先生が魔法使いであること。についてですが、誰かに言うつもりはありません」 

「さすが夕映のねーさん! 太っ腹でやすねぇ~ ネギの兄貴とは同じ魔法使い同士、これからもよろしくお願いしやす!」

「ええ!? 夕映さん、魔法使いなんですか?」

「そうなんだ!?」

 

 そう、マジマジ見られると落ち着きません。自分を魔法使いと思ったことはないので、そう言われるとそうなのかと思います。

 聞き出したところではネギ先生のパートナーの件は魔法の相棒という意味で理解しました。

 伝聞が恋人探しになってしまったようですね。

 

「あれ、夕映ちゃん。どしたん?」

「お邪魔してます。そろそろお暇します」

 

 木乃香が戻ってきたところで話は終わったと夕映は退室する。部屋に戻ればもう時間があまりないのですぐに着替えて寮を出た。

 

「あれ、パルいないね?」

「先に行ったのではないですか?」

 

 寝坊して遅れたのかと少しだけ待ったが来ないので行くことにする。

 

「じゃあ、行こうか」

「そうですね」

 

 ハルナがいないときはそのまま行くことになっている。今日はのどかと二人で登校だ。

 ふと、ぞくりとする感覚を覚えて夕映は振り向くが、すぐにのどかに促されて歩き出していた。

 

 

 ──寮の部屋。カーテンを閉めた部屋で制服姿のハルナが机の前に立つ。

 徹夜で仕上げた原稿に混じって禍々しい妖気を放つモノがある。その光に吸い寄せられるようにハルナの目は虚ろだ。 

 描かれた男の絵が動き出して笑った。邪悪な光をその目に宿す。

 もっとだ。もっと力を寄こせ。我が体を得るほどの──

 

「あれ……? 私? 何してたっけ……」

 

 瞳に色が戻りハルナは意識を取り戻す。そして慌てて机を片付け鞄を持って飛び出していた。 

 

 

 同時刻──桜通りの並木道にエヴァンジェリンと茶々丸が立つ。

 

「さて、舞台は整いつつある。仕込んだ罠は停電の前に発動し他の連中の注意を引くだろう。茶々丸、ハッキングとやらはどうだ?」

「プログラムは順調です。すでにトロイの木馬を仕掛けました」

「その手の物はわからないが頼んだぞ」

「はい、お任せください。マスター」

「サウザンド・マスター、ナギ・スプリングフィールド。奴から受けた登校地獄の呪いを解く千載一遇のチャンス。今回の満月で私の念願が叶う。麻帆良の土地に縛られて十数年……奴の息子のネギにすべて支払ってもらう。その為なら使えるものはすべて使う」

「はい……」

 

 主の言葉に茶々丸は従うのみである。

 エヴァンジェリンに掛けられた呪いである「登校地獄」は、その身を麻帆良に縛り付けられ、魔法の結界がある地から逃れることができないというものだ。

 かれこれ中学生に混じって一五年も学生をするという苦痛を味合わされており、ネギ・スプリングフィールドの出現によって溜まったうっ憤を晴らそうと企んでいる。

 そのためには力を蓄えなければならない。この結界の中でエヴァンジェリンの力は極限に制限され真祖の吸血鬼の力を発揮できない。

 その例外が満月の夜である。血を集めシモベを生み出して手駒を増やす。大停電を引き起こしかつての力を取り戻して奴の息子の血を奪うのだ。

 それだけがこの呪いを解く方法だ。呪いを解こうとすでにあらゆる手段は試した。気の毒だがもうこれしかない。

 

「今年も麻帆良の桜は咲き乱れそうだな……満月は近い」

 

 ざわめく風が咲いた花を散らして地面に舞っていた。

 

 

 このところハルナは本調子ではないみたいです。今日は遅刻すれすれでしたし、原稿作りで疲れてるのかいつもの軽口も少ないです。

 明日でもどこかに誘ってストレス発散でもしましょうか?

 

 そんなことを考えながらも夕映の知らぬところで事件は始まっていた。その日の夜──桜通りにて佐々木まき絵が最初の被害者となる。

 

【桜通りに吸血鬼現れるっ!?】

 

 そんな見出しが躍る麻帆良校内新聞。マホラNEWSによれば、桜通りで眠っているまき絵が発見され、それを面白おかしく書き立てたのが真相だ。

 クラス中で吸血鬼事件として広まるが、まき絵はただ寝てるだけ、という事実に誰もが本気にはしていない。

 

「確かに寝てるだけでしたね……」

「うん、良かったよね」

 

 まき絵は学園の保健室に運ばれました。のどかと一緒にお見舞いに行きましたが、まき絵が無事だと確認できただけでした。

 吸血鬼が本当にかかわっているなら魔法生徒の出番です。肝心の魔法使いであるネギ先生が何も言わなかったので何もないのかもしれません。 

 まだ寝てるのでどれだけ寝坊助なのと笑い話になっていますが、少し気になりますね……

 ネギ先生は授業に集中できていないのか気もそぞろのようです。

 

「どうした? ネギ先生…‥いくら十歳でも授業はしっかりしてくれないとな」

「あ……すいません。エヴァンジェリンさん」

 

 珍しいこともあるのです。彼女から積極的にネギ先生に話しかけたのはこれが初めてです。そういえば、吸血鬼がどうのという話題にも加わってませんでしたね。

 桜通りの被害者? のまき絵と言えば午後にはもう起きだして「迷惑かけてごめんね、えへへ」といつもの調子でしたからもう大丈夫でしょう。

 

「桜通り……一応調べてみるですか。一応、関係者に声をかけてみます」

 

 第一候補。桜咲刹那さん。一応組みなので声をかけましたが、まったく相手にされませんでした。

 

「私も佐々木まき絵の診断結果は見させてもらった。健康体で起きた以後も観察したが普段と変わらないようだ。本物の吸血鬼を知るわけではないが、試しに彼女にニンニクを嗅がせたが特に反応はなかった。彼女を警戒する必要性は今のところ感じられない」

「そうですか……」

「気を付けて見てはいるが、人手があるわけでもない。この件だけに関わってもいられない」

 

 桜咲さんは空振りです。他に特に声をかける人はいません。ネギ先生は魔法使いですが、先生で子どもです。見回りの仕事は無関係。なので独自調査しかありません。 

 夜の時間。まき絵が見つかった頃を見計らって一人で巡回することにします。

 

「じゃあ行ってみますか……」

 

 準備を整えて夕映は夜の桜通りへ向かうのだった──

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