「………」
「………」
「………」
現在試運転及び実戦試験のために発進したドレイク級駆逐艦の艦橋はある人物により、艦橋及び艦内はピリピリしていた。
「(やっぱり俺が原因だよな…)」
言わずもがな原因はレオナルドである。
レオナルドはエンデミオン大公国の第3皇子。
そんな大人物が新造艦の試運転に立ち会うのだ。
当然護衛艦も万全を期して15隻ほどだ。
何も知らない他国から見れば、15隻ほどの艦隊の移動を発見したら絶対警戒するだろう。
とはいえ理由を知れば呆れるだろう。
何せ新造艦の試運転に皇族が立ち会うなど聞いたことがないはずだ。
はたから見れば坊ちゃん王子の我儘と思われるだろう。
だが、レオナルドとしてはただ試運転に付き合うわけではない。
いずれ国を出て宇宙に出る予定だ。
だが、一度も戦闘を経験せずに宇宙に出るのは危険だ。
そのために皇子という身分を利用してこうして試運転に立ち会ったのだ。
そのせいで周りには多大な迷惑をかけているが。
「(こうでもしないと乗れないしな)」
レオナルドは艦長席に座る褐色肌の艦長を見る。
艦長の顔には汗が出ており、ハンカチで拭いてもまだ出ている。
「(当然と言えば当然だよなあ…)」
自分の後ろには第3皇子が座ってみている。
自分の指揮によってはレオナルドを危険に晒してしまうかもしれない、という思いが頭の中を占めているのだろう。
「航行は問題ないようですね、艦長?」
「はっ、はい!そうですね殿下!」
「私が言うのも何ですが、そう緊張しないでください」
「で、ですが……」
「確かに私の我儘で皆に迷惑をかけている。だが、私はいつか自らの艦を持つつもりだ」
艦橋にいる船員は黙ってレオナルドの話を聞く。
「いつか私も宇宙に出たときに戦わなければならない時が必ずある。そのとき、私は狼狽えないために諸君らの勇姿をこの目に心に刻みたいんだ。だから、諸君らの勇姿を私に見せてほしい!」
「「「……はっ!!!」」」
艦長を含む船員は立ち上がるとレオナルドに敬礼する。
そして、先程のピリピリした空気が変わり始めていた。
あそこまで言ったレオナルドに、船員たちは自分たちの情けない姿を見せるわけにはいかないという思いが出てきて始めていた。
そこへ艦内に警報は響き渡る。
丁度良いタイミングで敵を発見したようだ。
「どうやらこの近辺の海賊のようですね」
「ええ、殿下はそのまま席にお座りになってください。総員!対艦戦闘用意!」
艦長の声に艦橋は慌ただしくなる。
海賊の戦力は3隻だが、念のためか戦闘はこのドレイク級駆逐艦を含め5隻で行うようだ。
「(この場合は射程距離に入ったところを1隻ずつ沈めるべきかな?それとも艦載機部隊で足止めしてる間を狙って一気に沈めるって言う手もあるな)」
そう考えているうちに、ドレイク級駆逐艦からメビウスが次々と発進していく。
メビウスは敵艦隊に接近し、射程距離内に入ると一斉に対艦ミサイルを発射する。
ミサイルは敵艦に命中するが、なかには対空迎撃によって撃ち落されるものもある。
そのあと艦載機部隊は敵艦の周囲を飛び回り、敵艦に向けて対装甲リニアガンを撃っている。
そのせいで敵艦は動きを止めてしまった。
「敵艦の動きが停止しました!」
「各艦の射程距離内に入りました!」
オペレーター達の報告に艦長は敵艦を見据える。
「よし!各艦、一斉斉射!」
ドレイク級を含む艦が敵艦に向けて一斉に砲撃する。
「(航行と兵装に問題はないな。よし!)」
自身が設計した艦と艦載機が問題なく動作してることに、戦況を見守りながら確認して心の中で喜ぶ。
「敵艦隊のインフラントン反応消失!撃沈です!」
「どうでしたか、殿下?」
「ええ。貴方達の勇姿、見させてもらいました。流石ですね、感服しました」
その言葉に艦長含む船員たちは嬉しそうな表情をしていた。
「(これはザンジバルの設計を急ぐ必要があるな……それに、他の艦載機も考える必要もあるな)」
その後、無事に試運転を終えたレオナルド達はメッサーナに帰還した。
今回の戦闘を機にシュバルツはレオナルドの設計及び、新たな艦載機の設計を決意するのであった。