魔剣?いいえ斬魄刀です   作:その辺のおっさん

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続いちまったよ…………どうすんねん、コレ


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正義………ねぇ?

今から7年前のとある日、迷宮都市オラリオの一角で突如爆炎と悲鳴が響き渡った

 

「ヒャハハハハハハハハハ!!!おい!目的のブツは手に入れた!!さっさと退くぞ!」

 

当時のオラリオは男神(ゼウス)女神(ヘラ)の≪黒龍≫討伐失敗に端を発して、一部の【ファミリア】が『闇派閥(イヴィルス)』を名乗り、都市を混乱と恐怖に陥れていた

 

そして今日も、日が落ち始めた頃に『悪』が夜の闇に乗じて動き始めていた…………が

 

「おんやぁ、誰かと思ったらヴァレッタちゃんじゃあないの、久しぶりだねぇ、元気だった?」

 

この惨劇には不釣り合いなのんびりとした声、しかもその声を掛けられたのは闇派閥(イヴィルス)の中心人物であるヴァレッタだ

 

普通であれば声を掛けた人物はヴァレッタが問答無用で切り殺すのだが、雨が降っていないにも拘わらず編み笠をかぶり、漆黒の着物の上に女物の着物を肩にかけ、腰に2本、背中に1本の刀を差している声の主を見た途端、ヴァレッタは苦々しく顔を歪め、ヴァレッタに付き従っていた闇派閥(イヴィルス)の冒険者達は恐怖する

 

「チッ………【享楽】の春水かよ、何しに来やがった!?」

 

「いや、だからボクは『享楽 春水』だって………まぁ、いいや、なに、ただダンジョンの帰りさ、今日も『試し切り』をしていてね」

 

「そうかよ」と吐き捨てるヴァレッタであったが、普段の凶暴性は鳴りを潜め、ここから逃げ出すことのみを考えている

 

しかし、それも無理はないだろう、ヴァレッタはレベル4、対する春水はレベル6しかも、もうそろそろレベル7に至るとまで噂されているヴァレッタより格上の存在なのだ、むしろ警戒しない方がおかしいのであるが

 

「まあ、あんまりオイタはしなさんな、それより、どうだい?今から一献、ここ最近カワイ子ちゃんと飲んでなくてねぇ」

 

「何だよ余裕のつもりか?チッ、テメエもいつかぐっちゃぐっちゃになるまでぶっ殺してやるからな!覚悟しとけよ!!」

 

「こらこら、女の子がそんな言葉を使ちゃいけません。ほら、ボクも振られちゃったし、今日は見逃してあげるから」

 

早く行きなさいと顎をしゃくると、ヴァレッタは舌打ちをすると「行くぞ」と配下の者達と共に去っていく

 

「やれやれ、あの子達も難儀だねぇ………さてと」

 

そう言うと、背中に差していた刀を抜くと爆炎に向かって振り下ろす

 

「霜天に坐せ────゛氷輪丸″」

 

すると刀から氷の竜が現れ、爆炎を全て凍らせ、先程までむせ返るほどの熱さが嘘の様に下がり、辺り一面が氷の世界と変わる

 

「おおっ、寒ッ、こりゃあ帰ったらあったかいものを摘みに一杯………あ」

 

春水が肩を震わせた瞬間、手にしていた刀はあっさりと砕け散った

 

「ありゃ、また失敗かぁ………今のところ【魔剣】に【不壊属性(デュランダル)】を付与できたのは、この゛花天狂骨″だけか………まだまだだねぇ、どうも…って、誰か来るなぁ」

 

そういいながら顎をポリポリとかく春水は、この騒ぎを聞きつけ、こちらに向かってくる気配を感じ取り、その場から立ち去った

 

***

────次の日の昼過ぎ

 

「────ろ────きろ────長」

 

「うへへ、ダメだよぉ、そんな………いやぁモテモテでボク困ちゃうなぁ」

 

「何の夢を見とる!!起きんか団長!!」

 

「痛いッ!!?」

 

「偶には団長としての仕事をしろ」と己の主神に注意され、この日は仕方なく【ヘファイストス・ファミリア】の団長として執務室で書類仕事をしていた春水であったが、午前中は渋々仕事をしていたのに、昼飯を食べた後はあっさりとサボり、本拠(ホーム)の中庭で昼寝をしていたのである

 

「い、いきなり寝ている顔面に拳は酷くないかい!?椿ちゃん!!?」

 

「やかましいわ!!堂々とサボりおって!団長が仕事をサボって『試し切り』しているおかげで手前の『試し切り』の時間が減っておるわ!!」

 

鼻を抑え抗議する春水に、腰に両手を当てたわわな胸を揺らしながらフンスと鼻を鳴らすのは、春水と同じ【ヘファイストス・ファミリア】に所属し、副団長でもある椿・コルブランドである

 

「仕事はもう3分の2は終わらせたんだからいいじゃないか、のんびりしたって」

 

「ムッ、相変わらず無駄に仕事は早い………いや!だったら毎日してくれ!!その間手前は思う存分『試し切り』が出来る!!」

 

────余談であるが、この二人、暇さえあれば自分の打った武器を手にして『試し切り』と称しダンジョンに単独(ソロ)で潜ることを繰り返しており、根本的には似た者同士である

 

しばらく【ヘファイストス・ファミリア】の本拠(ホーム)の中庭でいい年こいた男女………しかも【ヘファイストス・ファミリア】の団長と副団長という立場の者2人はやいのやいのと漫才を繰り広げていたが、春水はスッと目を細め

 

「それで……なんの用だい?さっき5人……いや正確に言うと神1柱と4人かな?この本拠(ホーム)にだいたい十分前くらいに来たみたいだけど?」

 

「ッ!!………流石としかいいようがないな、ああ、手前たちの主神様に【アストレア・ファミリア】の主神様と【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】と【疾風】、それに【ガネーシャ・ファミリア】の姉妹が来て、団長との面会を申し出てきた」

 

「はぁ………」

 

先程までだらしない寝顔でだらしない寝言を言っていた男がしっかりと状況把握をし、しかも数まで言い当てたことに背筋が寒くなる椿であるが、春水は小さくため息をつくと、やれやれと首を振ってから傍らに置いていた編み笠を手に取り、被りなおして立ち上がる

 

「んじゃ、面倒だけど行くとしますかぁ、場所はヘファイストスの執務室でいいかい?」

 

「ああ………今は主神様が応対しておる」

 

「それじゃあ、行こうとしようかな………ああ、椿ちゃん、彼女たちとしばらく話したら仕事終わらせとくからダンジョンに試し切りにでも行っておいで、こっちはボクに任せてさ」

 

その言葉を聞いた椿は「本当か!」と子供の様に目を輝かせ、「では、行ってくるぞ!!」と一秒が惜しいと言わんばかりに駆け出していく

 

その後ろ姿に「いってらー」と声を掛けた春水は己の主神であるヘファイストスの執務室に向かって歩き出した

 

***

「(………って椿ちゃんには言ったけど、正直、あの【ファミリア】苦手なんだよねぇボク)」

 

ヘファイストスの執務室に向かう途中、ハアーッと先程とは違い、深く大きなため息をつく

 

「(どうせ昨日のことについて根掘り葉掘り聞かれるんだろうけど………まぁた『どうしてその力をオラリオの平和と秩序のために使わないのか』───って聞かれるんだろうなぁ)」

 

少なくともあの規模の魔法を行使できるのは【ロキ・ファミリア】の【九魔姫(ナイン・ヘル)】のみ、その規模の魔剣を打てるのは自分しかいないので【九魔姫(ナイン・ヘル)】のアリバイがあれば自分の所に来るのは必然である………が

 

「(戦争に『正義』なんてない、戦争なんて始めた時点でどっちも『悪』か…………いや、まったくその通りだよなぁ)」

 

春水は夢で見る己の憧憬の言葉を思いつつ、再びため息をつく

 

だからこそ、彼は敵意のないものとはたとえ闇派閥(イヴィルス)であろうと積極的には戦わずに昨日の様に見逃すことも多く、余程のことがなければ戦うことはないのだが、どうにも今から会う【ファミリア】の少女────特に覆面のエルフ────たちはそのことがあまり気に入らないらしく、顔を合わせるたびに正義だの平和と秩序を乱す『悪』だのと春水に言ってくるのだが

 

「(私達が『正義』って言われてもねぇ………じゃあ彼女たちやギルド、そういった『オラリオの平和と秩序を守る者達』ってのとちょっとでも意見が違えば『悪』だってのかなぁ?)」

 

無論こんなことを言うつもりはないが、その【ファミリア】の危うさを感じながら春水は廊下を歩く

 

「まあ、なるようになるかぁ」

 

気付けば目的の執務室についていた春水はそう呟くと、執務室のドアを軽くノックした

 

 




なお、7年後、本編主人公と会った場合

「………!ちょ、これ着て髪上げてこの刀背中に差して!!」

「ええッ!?わ、分かりました………」

~~ベル君着替え中~~

「おお………目つきは鋭くないけどそれっぽい……よし、この刀(氷輪丸)は君に上げよう!」

「ええッ!!?」

となる模様

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