カンナギ   作:百瀬頼人

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こんにちわ。こんばんわ。いつもの百瀬です。

番外編が続いてしまいました。

案が思いついたのは良いものの、一話にしてしまうのは面白くないなと思いまして…

前回の番外編は斎藤さんの番外編でした。今回はJの番外編です。

今回もキャラ説明が書いてありますのでご参考程度に。

それではどうぞ。


第X章 ジャクリーン・マーダーの過去
番外編 理容師の過去


先に謝っておかないといけないことがある。

 

私がこれまでお客さんに話してきた半生は、ほとんど嘘だ。

 

今から話すことを、仮にお客さんに話したりしたら…間違いなくお客さんが減ってしまうからね。

 

ほら、日本には「嘘も方便」ってことわざがあるだろ?

 

そう言う事だよ。

 

あと、全編英語だと読みたくなくなるだろ?

 

だから、一応翻訳しておいたよ。

 

 

 

私は、物心ついた時から孤独だった。

 

親の愛情も顔も知らなかった。

 

そんな私が、こうやって理容師として日本で働くまでの「本当の半生」をここで話そうと思う。

 

 

 

さっきも言ったように、私は親の顔を一切知らない。気が付いたら多くの子供たちと一緒に暮らしていた。

 

私が暮らしていたのは「ストロベリーフィールド」というリバプールでも有名な孤児院だった。

 

この孤児院で、私は先生や同じ境遇の子供たちと一緒に平和で幸せな生活を送っていた。

 

 

 

幸せな時間はすぐに過ぎていき、私は高校生になった。

 

この孤児院には里親が現れるか高等教育を修了すると、独り立ちすると言う暗黙のルールがある。

 

私ももうそろそろ社会に出るために準備をしようかと言うときに…あいつがやってきたんだ。

 

 

 

先生)あら…テイラーさん。またうちの子を受け入れに?

 

テイラー)まぁ…そう言った感じですな。

 

テイラーさんはその名の通り、アパレル業界で成功して財を成したこの町でも有名な富豪だった。

 

そんなテイラーさんは慈善活動の一環としてストロベリーフィールドの孤児を受け入れて社会に送り出す手助けをしているという話は先生から何回か聞いていた。

 

 

 

先生)今回はどの子を受け入れてくれるのですか?

 

テイラーさんはまるで品定めでもするかのように、私や他の子達を見回していった。

 

そして、私を指さして先生に尋ねた。

 

テイラー)この子はもうそろそろ高校を出るくらいの年齢なんじゃないか?

 

先生)そうですね。受け入れていただけるのですか?

 

テイラー)高校卒業となれば就職が近い。うちの会社の社員として呼び込むためにも是非受け入れさせてもらうよ。

 

先生)そうですか。ありがとうございます。

 

 

 

こうして、私はテイラーさんの里子として孤児院を出ることとなった。

 

…なのに。現実って本当に残酷だった。

 

 

 

テイラー)今日からここが君の部屋だ。ちょっと手狭かもしれないが我慢してくれないか?

 

私はテイラーさんに家を案内されて、最後に自分の部屋として紹介された部屋の前までやってきていた。

 

富豪と言うだけあって、部屋も装飾も豪華絢爛で…まるで昔から読んできたおとぎ話の世界のようだった。

 

きっとこの部屋もそんな風に違いない。そう胸を躍らせながら扉を開けた…

 

 

 

…そこに見えたのは、少し薄汚れた壁紙と、部屋の端に無機質に配置された四つの二段ベッドだけだった。

 

一応テーブルもあるが、かなり使い込まれていて古ぼけて見えた。

 

テイラー)今この部屋しかない物でね。申し訳ないんだがここでしばらく生活してくれないかい?

 

…そうだよね。こんなところが私の部屋な訳ないよね。そう私は言い聞かせた。

 

 

 

しばらく部屋で待っていると、食事の時間になった。家族と一緒に食事をとれると思ってダイニングに行くと…

 

姉)お父様、知らない方が部屋にいらっしゃいますわよ?

 

妹)お姉様、この薄汚い服は間違いなく孤児ですわよ。

 

母)こら!止めなさい。本人を前にそんなこと言うんじゃありません!

 

 

 

あれ?私って迎えられてないのかな?おかしいな。テイラーさんってこんな優しくない所だなんて聞いてないんだけどな…

 

私は戸惑った。どうしていいか分からずにそこに立ち尽くしていると、背後から手を引っ張られた。私は成す術なく部屋を出ていくしかなかった。

 

 

 

???)何やってんのよあなた。あなたがこんなところにいちゃいけないじゃない。

 

ジャクリーン)あなたは?

 

???)私はヨーコ。あなた、ストロベリーフィールドから来たんでしょ?

 

ジャクリーン)まぁ…そうだけど。

 

ヨーコ)なら、とりあえず部屋に戻っておいた方が良いわ。事情は後で説明するから。

 

 

 

私は、状況に戸惑いながら部屋に戻った。

 

しばらくするとヨーコが部屋に戻ってきた。

 

ヨーコ)今、何が何だかわからないって感じじゃないかしら?

 

ジャクリーン)まぁ…

 

ヨーコ)多分、ストロベリーフィールドでは「テイラー家は慈善活動の一環で…」とか言う事を聞かされてきたと思う。でもね、そんなこと一切ないから。

 

ジャクリーン)え…

 

ヨーコ)私達孤児は「奉仕者」としてテイラー一家に仕える存在なのよ。

 

ジャクリーン)そんな事…許されるの?

 

ヨーコ)建前は「孤児を受け入れて社会に旅立つための手助けをする」ってものだけど、ここを生きて出られる人は…恐らくいないわ。私達でさえ今を生きるので精一杯。誰かが命を落とせば次の犠牲者がやってくるだけ…ここは死刑を待つ囚人が集まる拘置所のような物なのよ。

 

ジャクリーン)…

 

 

 

信じられなかった。

 

こんな腐った世界があって良いのか…

 

私は、生きることすら許されないのか…

 

来て早々、泣きそうになっていた。

 

 

 

ヨーコ)とりあえず、明日から奉仕者としての仕事を与えられると思うわ。今のうちに準備をしましょう。

 

ジャクリーン)いやだ。

 

ヨーコ)わがまま言わないでよ。誰かが反逆するだけで、私達8人が全員罰を受けるのよ?

 

ジャクリーン)…8人?

 

ヨーコ)そう、8人。ストロベリーフィールドから8人も生贄が出てるのよ。当然ストロベリーフィールドはこの事実を知らないわ。あなた、私達と一緒に野垂れ死にしたくはないでしょ?言う事に従って。

 

ジャクリーン)何とかならないのか?

 

ヨーコ)…ないことは無いわ。でも、今はそのタイミングじゃないのよ。とりあえず今は奉仕者を演じて。お願いだから…

 

この切実な言葉を聞いて、ヨーコや他の人たちも懸命に戦っていることを感じ取った。

 

ジャクリーン)…分かった。私は入って間もない。とりあえず教えて。そして…機が来たら私が全てを告発する。

 

ヨーコ)了解。とりあえず動きやすい服を準備するわね。

 

 

 

私は、テイラー家に隷属する奉仕者となった。

 

私に課せられた仕事は多岐にわたった。メイドとはそう言う宿命なのかもしれない。

 

ただ、不慣れな私はことあるごとに失敗を繰り返した。

 

その度に、私は食事にありつけず苦しい思いをし続けてきた。

 

テイラー家はこうして孤児を使い潰し続けていたのだとヨーコは教えてくれた。

 

ヨーコは奉仕者の中で一番の年長で、色んなことを知っていた。

 

ただ、色々知っているが故に最近は危険な仕事を任されることが多くなってきていると言う。

 

ヨーコの命にも危機が迫っている。早いうちに何とかしないといけないとはやる心を抑えて奉仕を続けた。

 

 

 

そして、1年が経過した。

 

流石の私も、1年が経つと手際も良くなってきていた。

 

しかし、それ以上に重くのしかかってきたのが食事だった。

 

三食提供こそされるが、粗末な食材ばかりで腹の足しになるようなものではなかった。

 

それでも、何とか食べてエネルギーに変えていくしかなかった。

 

時にはへまをして食事を与えてもらえなかった子に分けてあげることもあった。

 

それが自分の首を絞めることになるとは分かっていたが、どうしても放っておくことが出来なかった。

 

 

 

さらに半年が経った。そしてようやく…そのチャンスがやってきた。

 

 

 

ヨーコ)今日はテイラー家が全員個別に外出するわ。帰ってくるのは二時間後よ。その間に誰かに告発することになる訳だけど…あなたはどうするの?

 

ジャクリーン)そうだな。とりあえずストロベリーフィールドに行ってみる。

 

ヨーコ)それでどうにかなるの?

 

ジャクリーン)大丈夫。奉仕者が団結して一つの証拠を準備してある。

 

ヨーコ)証拠?

 

ジャクリーン)これを見たら分かるって…ほら。

 

 

 

手筈通り、私はテイラー家の留守を見計らってテイラー宅を抜け出した。

 

そして、ヨーコに伝えた通りストロベリーフィールドへと向かった。

 

 

 

ジャクリーン)先生。お元気でしたか?

 

先生)…ジャクリーン。戻ってきたの?

 

ジャクリーン)いえ。戻ってきたわけではありませんよ。ちょっとこれを聞いて欲しくてね。

 

私は懐に忍ばせていたボイスレコーダーを取り出した。

 

このボイスレコーダーは奉仕者が定期的に手に入れる僅かな給金をかき集めて購入した「みんなの思いの結晶」だ。

 

 

 

ボイスレコーダーを再生すると、テイラー家の本当の顔がそこに浮かび上がってきた。

 

テイラー)おい!皿洗いにいつまで時間をかけているんだ!もっと早くしてくれ!

 

テイラー)廊下に埃が残っているじゃないか!もう一度やり直し!

 

テイラー)そんなこともできないのか!今日の食事は無しだ!

 

 

 

先生)これは…

 

ジャクリーン)先生、私達はテイラーさんに騙されていたんですよ。

 

先生)どう言う事?

 

ジャクリーン)テイラー家は「孤児を受け入れて社会に送り出す手助けをしている」と豪語していたと思います。でも実際は、メイドのような仕事をしています。

 

先生)メイド…?

 

ジャクリーン)多岐にわたる仕事を多数押し付けられ、少しでもミスをすれば食事すらとることが出来ません。その食事も満足にお腹を満たせるほどのものではありませんし、彼らの生活環境と比較するとお世辞にも良い環境とは言えない場所で集団生活をしています。

 

先生)そんな…

 

ジャクリーン)そのせいか多くの孤児がテイラー家で命を落とし、その度に私のような新たな犠牲者が里子として連れていかれているんですよ。

 

先生)…

 

ジャクリーン)確かに私達は親の愛を受けなかった孤児です。でもそれが人権を与えられない理由にはならないですよね?

 

先生)…そうね。里親になっている以上、保護責任はあるわ。だから死人が出ていると言う事は保護責任者の責任放棄に他ならないわね。

 

ジャクリーン)今からこの音声を警察と新聞社に公表します。ストロベリーフィールドからも強くプッシュしてもらえませんか?

 

先生)分かったわ。あなたの声が無かったらこれ以上の犠牲者が出ていたかもしれないわ。

 

ジャクリーン)ありがとうございます。

 

 

 

その頃、テイラー家では一悶着が起こっていた。

 

テイラー)何?ジャクリーンがいない?

 

ヨーコ)申し訳ございません旦那様。私が目を離したすきに…

 

テイラー)今すぐ連れ戻して来い!それから…お前たちの食事は無しだ。良いな?

 

ヨーコ)(何してんのよ…みんな帰ってきちゃったじゃない。)

 

テイラーさんの怒号がダイニングに響き渡っていたその時だった。荘厳な呼び鈴の音が玄関の方から聞こえてきた。

 

 

 

テイラー)何でしょう。今取り込み中なのですが…

 

警察官)警察です。先ほどこちらのお宅の関係者の方から通報を受けまして…

 

テイラー)通報?何のことでしょう。

 

警察官)児童虐待が行われているとのことですので…事情をお聞かせ願えませんでしょうか?

 

テイラー)はて…何のことやらさっぱりですな。

 

 

 

ジャクリーン)よくもまぁそんな風にしら切れるもんだなぁおい。

 

テイラー)…ジャクリーン!?

 

ジャクリーン)残念だけど、証拠はこのボイスレコーダーできっちり録らせてもらってるからね。言い逃れ…できないから。

 

テイラー)くそっ…

 

ジャクリーン)地獄に落ちなよ。

 

テイラー)…

 

 

 

その後テイラーさんは虐待の疑いで逮捕された。テイラーさんの逮捕を受け、本業のアパレルブランドの業績も一気に傾き、最終的に倒産するに至った。

 

私の告発が…一つの闇を破壊したのだ。

 

 

 

その後、私は新たな里親の下で理容師としての技術を身に着けた。

 

しかし、イギリスで暮らしたいと言う思いは完全に消え去っていた。この町に居続けるといつまでもあの1年半の記憶がよみがえってきてしまいそうな気がしていたからだ。

 

そんな時に出会ったのが…イチローって訳。

 

 

 

そこからの話は皆にも話した通りだ。日本は平和で暮らしやすい場所だ。

 

 

 

…どうやらいつのまにか寝てしまっていたらしい。気が付くと30分が経っていた。

 

J)うえぇ…寝てたな。早く片付けないと。

 

そう思っているとまた電話がかかってきた。見たことない番号からだ。

 

 

 

J)Hello.

 

Yoko)Do you remember me?

 

J)Yoko? Is it Yoko?

 

Yoko)that's right. It looks fine and above all.

 

J)What happened suddenly?

 

Yoko)After asking the teacher that you are doing your best in Japan… suddenly I want to hear your voice.

 

J)Ah, I'm doing well and happy. How about that?

 

Yoko)Now I'm back in Strawberry Fields and teaching everyone.

 

J)Yoko is also doing her best. Let's do our best not to regret each other.

 

Yoko)I can't lose to Jacqueline either. If you have time, I want you to come to Strawberry Field.

 

J)…Yup. Do you get it. I wish I had time.

 

 

 

電話を切った後、あの時の嫌な思い出とストロベリーフィールドにいた頃の幸せな思い出を交互に思い返していた。

 

J)たまには帰るのも…悪くないかな。

 

終わり




キャラクター紹介のコーナー

ジャクリーン・マーダー
イギリスからやってきた謎多き理容師。
色んな苦労を重ねてやっと今の生活を手に入れてきた…らしい。
ちなみに名前や職業などからジャックザリッパーを疑っている人がいるかもしれないが、全く関係ないとのこと。
考えすぎは良くない。(戒め)
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