梨華)葵ちゃん大丈夫!?
葵を見つけた私は、車から飛び降りて近くに駆け寄った。
葵)大丈夫ですよ。エネさんが助太刀してくれたんで…
葵が指差す方を見ると…ものすごく見覚えのある女性が警察官に泥棒を引き渡しているのが見えた。
???)お勤めご苦労様です。…はい、私が捕まえました。…奴が盗んだ物品は恐らく無事だと思います。
警察官)ご協力ありがとうございます。
???)いえいえ。
警察官が引き上げたのを見届けてから、女性の下に近づく。
梨華)あんた…何やってんのよ。
???)お…?もしかしなくても梨華さんじゃないですか。
間違いない。このすっとぼけたような返答をするのは一人しかいない。大学の1学年後輩の
梨華)何であんたが捕まえてるのよ。
詩音)そりゃあ…ねぇ…葵ちゃんが「捕まえろ」とか言ったらねぇ…捕まえないといけないでしょ。
葵)先輩、偶然通りかかったのを私が見つけたんです。それで捕まえてもらおうと…
梨華)そう…葵ちゃんはとりあえず車に戻ってて、詩音はこっちに来なさい。
私は詩音をとっ捕まえて、逃げないようにガードしながら人の輪から少し外れたところまで連れて行った。
梨華)あんたねぇ…人助けしたいのは分かるのよ。
詩音)それはどうも。
梨華)でもあんたは一応格闘技の訓練を受けているんだから。下手にやると人が死にかねないのもちゃんと分かってるのよね?
詩音)関節技がメインの格闘技で人が死ぬかね?
梨華)死ぬ時は死ぬのよ!
詩音)…へいへい。理解してるよ。私はあのアホ面のどてっぱらに膝蹴りかまして、ひるんだところで間合い詰めてから背負い投げしただけだから心配すんなって。
梨華)そう…これまでみたいにチョークスリーパーで気絶させるような野蛮なことはしなくなったのね。
詩音)おいおい…それじゃあ私がチョークスリーパーばっかりかけてる野蛮な女みたいじゃないか。私がチョークスリーパー掛けたのは一回だけだぞ。
梨華)一回でも死にかけたのは問題なの!
詩音)タップが弱すぎてだね…
梨華)関係ない!!
詩音)…すみませんでした。
その頃、車の中ではリタさんが何とか起き上がって外で言い合っている二人の様子を見守っていました。
リタ)あの二人何してるんですか?
葵)さぁね。いつもみたいに喧嘩してるんじゃない?
リタ)それは構わないんですけど…あの方ももしかして梨華さんのお知り合いとかなんですか?
葵)あれは榎本詩音…まぁ、一般的には「閃光の舞姫」って言った方が分かるかな?
リタ)あ、知ってますよ!FPSを中心に異次元の強さを誇るユーキャス配信者じゃないですか!
葵)先輩とは同期で、私もそのよしみでたまーにですけど配信にお呼ばれしてるんですよ。
リタ)え!?そうなんですか!?
葵)自慢じゃないですけど、一応ゲーム大好きなんで…
リタ)梨華さんの周辺、凄い人しかいませんね…
外では相変わらず会話が続いていました。
梨華)とりあえず今回はありがとうね。私の友人の財布をひったくる不届き者を捕まえてくれて…
詩音)感謝の印は一割な。
梨華)それは遺失物でしょうが!
詩音)いって~な!叩くことねぇだろ!!
梨華)変なボケかまさないで頂戴!
詩音)いつものジョークじゃねぇか。何でそんなにカリカリすんだよ。
梨華)…でしたら感謝の印を差し上げます。
詩音)お?何々?
梨華)先ほど、人気のパンケーキ専門店でパンケーキのテイクアウトを受け取っています。それを一緒に頂くと言うのでどうでしょう?
詩音)最近テレビでやってた奴か?あそこに行きたかったんだけど、顔バレしたくなかったから助かったよ。それじゃあ早速あんたの家で…
梨華)いいえ。詩音の家に行ってそちらで頂きます。
詩音)はぁ!?おまっ…そりゃないぞ!
梨華)ただでさえ芸能人を連れているのにうちでパーティーなんか開けるわけないじゃないの。
詩音)いや、そうだけどさ…もっと他にあるだろ…
梨華)でしたら他の案を出してみなさい。
詩音)う~…
梨華)出ないんじゃないですか?
詩音)…仕方ねぇな。これで貸し一つな?
梨華)お礼の印に貸し借りなんかありませんよ。
詩音)くそぉ…
暫く言い争う様子が窓の外から見えていましたが、話し合いが終わったのか、車に近いづいてくるのが見えました。
リタ)どうやら終わったみたいですよ。
葵)…いやな予感がするね。多分今日のパーティーはカオスになりそうだ。
リタ)…え?
梨華)ごめんね二人とも待たせちゃって。
葵)大丈夫ですよ。話はつきましたか?
梨華)詩音が家を快く貸してくれるそうだからそこでパンケーキを頂きましょうか♪
リタ)詩音さんありがとうございます!
詩音)おい待て!私は快諾なんて…いでででで!!
梨華)何 か 言 い ま し た ?
詩音)…いいえ。
梨華)じゃあ出発するわよ!
リタ)…
私はその時、何とも言えない恐怖を感じました。
何とも言えない空気と四人の乗客を乗せて、赤い車は「閃光の舞姫」が住む家へと一直線に走り始めました。
続く