カンナギ   作:百瀬頼人

27 / 36
第X章 小原健司と赤田梨華の夢
番外編 小原健司の夢


小原健司、27歳。 職業、巫。

 

 

 

赤田神社の神職の中でも随一の力自慢で、多くの神職の憧れの的である。

 

実家も赤田神社ほどではないが由緒のある神社で、家系の男子が代々宮司を務めてきた歴史を持っている。

 

現在は音崎リタを支えるべく、斎藤敏恵と共に音子猫神社に出向している。

 

趣味は魚釣りで、釣果を度々神社に実家や赤田神社に奉納している。

 

今回は、そんな彼の「もう一つの趣味」のお話…

 

 

 

9月某日、絶好の晴天。

 

彼は、町はずれの小さな野球場に来ていた。

 

小原)カーッ!昼間から飲むビールは最高だ!!

 

既に何杯か飲んでいるようで顔が少し赤くなっている。

 

 

 

この町の野球場は両翼が100mにも満たないような小さな球場だ。収容人数もさほど多くないため、プロ野球の地方試合はおろかファームの試合でも使われていない。

 

ここではもっぱらアマチュア野球…特に高校野球や大学野球の会場として使われている。

 

 

 

そんな小さな球場がここ最近盛り上がりを見せている。

 

地元のソフトボールチーム「ブロッサムズ」の目覚ましい活躍が注目されているからだ。

 

「ブロッサムズ」は、つい数年前まではソフトボールのプロリーグでもトップクラスの弱小チームと呼ばれていた。

 

そんなブロッサムズを救ったのが…日本代表にも選ばれた赤田美華の入団だった。

 

 

 

入団一年目から先発投手の大黒柱の座を掴むと、連戦連勝し一気にチームをムードを盛り上げてくれた。

 

さらに野手としても才能は高く、遊撃手として試合に出ればファインプレーは当たり前。打てば確実に得点を稼いできてくれる。

 

今やチームに無くてはならない存在になっていた。

 

 

 

美華の大活躍でブロッサムズの注目度は急上昇。美華の先発登板する試合のチケットは争奪戦になるレベルだった。

 

 

 

そんなチケット争奪戦を勝ち抜いて、彼はビールを飲んでいるのである。

 

ビールと言うガソリンが良い感じに温まってきたその時だった。

 

???)あれ?小原さん?

 

背後から聞き覚えのある声がした。

 

振り返ってみると…そこにいたのは赤田梨華だった。

 

 

 

小原)あれ?梨華ちゃん?何でこんな所に…?

 

梨華)何でって…試合を見に来たからに決まってるじゃないの。それよりも小原さんこんな昼間からお酒飲んでるの?

 

小原)良いじゃないのよたまの休みなんだからさぁ…

 

梨華)飲むのは勝手にしてもらっても良いけど、試合が終わるまでに潰れないでよ?今日はお姉ちゃんの先発登板の日なんだから…

 

小原)分かってるよ。

 

 

 

小原)それにしても…梨華ちゃんはここに来るの久しぶりなんじゃないの?

 

梨華)…そうね。大学4年の全国大会をかけた試合がこの球場の最後の試合だったわ。

 

小原)俺も見てたよ…忘れはしないね、あの試合は…

 

 

 

 

 

俺が赤田神社に来たのは4年前。大学を卒業したばかりの俺は右も左もわからないまま神職として社会に飛び出していった。

 

その頃赤田姉妹はまだ大学生だった。

 

二人と初めて出会ったのは、赤田神社で働き始めてすぐの頃だった。

 

今でも十分に美しい二人だけど、その当時は今よりもっと若さが溢れる素敵な女性だった。

 

 

 

~4年前~

 

梨華)あら、あなた…見かけない巫さんね。もしかして新入りさん?

 

小原)あ、はい!小原健司です!

 

梨華)小原さんね…私は赤田梨華、宜しくね。

 

小原)よろしくお願いします!

 

 

 

若いながらもしっかりとした人だな…と言う第一印象だった。

 

「お姉ちゃんと一緒に神楽巫女の修行をしているの。」

 

赤田神社の長い歴史を支える神楽巫女の存在は大学在学中から噂には聞いていた。その当事者がこんなにも近くにいる…そう思うだけで少しだけ身が引き締まる思いだった。

 

 

 

神社で色んな仕事をしているうちに、赤田姉妹とは結構な頻度で出会っていた。

 

今思えば、神様が「積極的に交流させよう」と画策していたのかもしれない。

 

 

 

働き始めてから数か月後、仕事にもある程度慣れてきた俺は力仕事を多く任されるようになっていた。

 

パワーにだけは自信があったので、こういう適材適所の仕事を貰えたのはとても嬉しかった。

 

次第に同期や先輩の神職からも一目置かれるようになっていった。

 

 

 

神社は基本的に年中無休だが、赤田神社は福利厚生がしっかりしている。働いている神職が多いからだろうか…

 

ある日、俺は休暇を使って球場に足を運んでいた。母校の大学の野球部の公式戦があるという噂を聞きつけていたからだ。

 

開始時間よりも若干早く着いた俺は、球場内で練習しているであろう後輩達の様子を見ようと少し足早にゲートをくぐって中に入った。

 

 

 

暗い入口を抜けると、一気に視界が開ける。スタンドから見える景色は…野球の練習ではなく、別の何かが撤収しようとしている所だった。

 

辺りを見回すと、小さなフェンスをいくつも抱えながらベンチ裏へと下がっていくユニフォーム姿の女性が何人か見えた。

 

小原)(フェンス…ソフトボールかな?)

 

また他の人は、オレンジ色のベースを抱えていた。どうやらソフトボールの試合か何かが行われていたようだ。

 

 

 

まだ野球部の部員が来ていないところを見ると、試合開始はもう少し後になりそうだ。早く来すぎたかな…とちょっと困っていると、一塁側のダグアウトでクールダウンのキャッチボールをしているバッテリーの姿がほんの少しだけ見えた。

 

…見覚えのある顔だった。

 

 

 

次の日、昼休みに梨華を捕まえた。ちょっと話がしたかったからだ。

 

梨華)何ですか?お話とは…

 

小原)昨日、大学の後輩が出てる野球の試合を見に行ったんだ。

 

梨華)小原さんは野球がお好きなんですか?

 

小原)まぁね。小学生の頃からやってたからね。

 

梨華)そうでしたか。それで、その話を何故私に?

 

小原)それが…

 

 

 

梨華)私に似た人を見た…ですか?

 

小原)あぁ。俺が球場に着いた時なんだが…おそらくソフトボールの試合か何かが終わった所だったんだ。

 

梨華)…

 

小原)一塁のダグアウトでクールダウンのキャッチボールをしていたあのバッテリー、もしかして梨華ちゃんとお姉さんなんじゃないかな…って思ったんだけど。

 

梨華)…そうです。私です。

 

小原)…そっか。すごく楽しそうだったから、なんだか微笑ましくなっちゃったよ。

 

梨華)…え?

 

小原)この神社、創建してから1000年ほど経ってるんだよね?

 

梨華)まぁ…そうですけど。

 

小原)そんな歴史のある神社の「神楽巫女」なんて大層な役職を担うかもしれないような女の子だからさ、生活も厳しく苦しいのかな?って勝手に思っちゃってたんだよね。

 

梨華)…

 

小原)でも勘違いだったみたいだよ。「ごく普通の女の子」で良かった。

 

梨華)…

 

 

 

梨華)…あの。

 

小原)ん?どうした?

 

梨華)その…小原さんの守備位置は…

 

小原)キャッチャーだけど。

 

梨華)…キャッチャですか?

 

小原)そうだけど…どうした?

 

梨華)よければ…守備のコツとか…教えてくれませんか?

 

小原)え!?俺で良いの?

 

梨華)はい。小原さんのがっしりとした足腰…並みのキャッチャーじゃない気がするんですよ。

 

小原)…へぇ、凄いじゃん。何でわかるの?

 

梨華)まぁ…何となく…ですかね…

 

小原)良いよ。俺で良ければ。

 

梨華)本当ですか!?ありがとうございます!!

 

 

 

この時、天からその様子を見ていた神様は密かにガッツポーズをしていたことだろう。

 

捕手と言う共通点から俺と梨華ちゃんの繋がりはより深いものになっていった…

 

 

 

…小原さん!小原さん!!

 

 

 

小原)…ん?

 

梨華)小原さん!どうしたのよ?

 

小原)いや…ちょっと考え事をしていて…

 

梨華)お酒が入って眠くなったんじゃないの?

 

小原)あはは…そうかも。

 

梨華)ほら、試合が始まるわ。

 

 

 

グラウンド上では、今まさにプレートアンパイアのプレイボールのコールがかかろうとしていた。

 

続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。