梨華)出発するわよ。
私とさくらさん、それからケージに入ったヤマダとホームズを載せた自動車はゆっくりと赤川動物病院を離れて行きました。
二郎)気を付けるんだよ。
二郎さんが見送ってくれたようで、背後で手を振っている様子がサイドミラーにちらっと見えていました。
梨華)まず私の家に寄ってもいいかしら?うちのユニも連れて行こうと思ってるのよ。
リタ)良いんじゃないですか?お友達はいっぱいいた方が良いでしょうしね。
さくら)…
何てことない会話が続く中、さくらさんは何故かずっと黙っていました。
リタ)さくらさん?大丈夫ですか?
さくら)…大丈夫。
リタ)さっきから元気がないじゃないですか。どうしたんですか?
さくら)…
梨華)さくらちゃん、何か困ってるならちゃんと言った方が良いわよ?二郎さんにも言えないようなことなんじゃないの?
さくら)…笑わないでもらえますか?
梨華)勿論よ。
さくら)…分かりました。
そう小さく消え入りそうな声で呟くと、悩み事を話してくれました。
さくら)私は獣医師を志して今勉強をしているのはお二人ともご存知ですよね?
梨華)勿論。
リタ)梨華さんが教えてくれましたから。
さくら)獣医としての知識や技量に関しては勉強して覚えていけばいいのでどうとでもなるんですけど…ちょっと困っていることがありまして…
梨華)それってさっきのあれ?
さくら)そうです…動物の「心」に寄り添う事が出来てないんですよ。
さくら)ホームズは私が獣医師を志し始めた頃からずっと一緒に暮らしてきた猫なんです。
リタ)そうなんですね。
さくら)もう四年もいるのに、私とホームズが心を通わせることが出来ないなんて…獣医師としての技量を持ち合わせていても…人として駄目なんじゃないかなって…
そう言うと、さくらさんは泣き始めてしまいました。
梨華)…さくらちゃんの言いたいことは分かるわ。これから動物との触れ合いを生業にしようって人が、動物と心を通わせられないのは結構しんどいかもしれない。
さくら)…そうですよね。
梨華)ならば、今日心を通わせる練習をしましょうよ。
リタ)そうですよ。私だって町で猫を見かけて、近づいたら100%逃げられるんですから…一緒に猫と仲良くなりましょうよ。
さくら)…良いんですか?
梨華)ホームズのあの嫌がり方を見て、あんまり上手くいってないんだろうな…って思ったもの。
さくら)…
梨華)だから、本当はリタさんとユニを触れ合わせようと思ってたけどさくらちゃんにも声をかけたのよ。
さくら)…そうだったんですか。ありがとうございます。先輩にはずっと迷惑ばっかりかけちゃって…
梨華)良いのよ。困った時くらいは頼りなさいよ。
さくら)はい…
それからしばらくして、車は大きな一軒家の前に止まりました。
梨華)さぁ、着いた。ここが私の実家よ。
リタ)いやぁ…大きいですね…
さくら)私も初めて見ましたよ…
梨華)多分今はだれもいないから…ちょっと中に上がっていく?
リタ)良いんですか?
梨華)大丈夫よ。
さくら)ちょっと気になるんで、中を見せて下さい!!
梨華)OK。じゃあついてきて。
私とさくらさんは梨華さんに導かれて赤田家の中に入っていきました。
続く