梨華さんを部屋に通してしばらく待ちましたが、柊君が来る気配は一切ありません。
梨華)…遅いですね柊さん。
リタ)そうですね。バスでここまで来るんですが、バスが遅れているのかもしれませんね。
梨華)自家用車とか無いんですか?
リタ)私はここで暮らしてますから基本的に必要ないですし、柊君は免許を取ってないですし…
梨華)そうですか…
…気まずい。非常に気まずい。
こうも話が弾まないと流石に気まずく感じてしまいます。
梨華)あ、昨日話を聞いてて少し気になったことがあったんですけど…聞いても良いですか?
リタ)何でしょうか?
梨華)昨日のお話で「仕方なく継いだ」という点に否定しませんでしたよね。
リタ)はい。実際仕方なく継いだので。
梨華)…もしかして、何か夢を諦めたんじゃないですか?
リタ)…
「大きくなったらね、歌手になりたいんだ!」
「そっか。リタならきっとなれるよ。」
「ありがとう…私頑張るね!」
梨華)…大丈夫ですか?
リタ)あ、すみません。ちょっと昔の事を思い出してしまいました…
梨華)やっぱり夢を諦めたんですね?
リタ)…はい。
梨華)声優?
リタ)はい。私は声優になりたかったんです。
梨華)声優って結構難しいと聞きますけど…
リタ)はい。実際かなり難しいです。声の演技だけじゃないですからね。今は歌やダンスも出来ないといけませんし…
梨華)多彩な才能が要求されるんですね。
リタ)…もともと歌が好きで、歌を生業に出来ればと思っていたんです。歌だけならば歌手で良かったんでしょうが…私は声優を目指して養成学校に通っていました。そんな矢先に…
梨華)親御さんが亡くなられたんですね。
リタ)…悔しかったです。もう兄や姉は社会に飛び出してたので、この神社に戻ってくるなんてことは考えられませんでした。まだ進路に悩んでいた私の悩める時間が無くなってしまったんです。
梨華)…
リタ)養成学校を中退するとき、一緒に頑張ってきた仲間に背中を押してもらえたんですけど…悔しすぎて泣きながら帰ってきたことしか覚えていません。
梨華)…
リタ)そんな夢が諦めきれないからこそ、ナレーターの副業をしているのかもしれませんね。
しんみりした空気を割くように誰かが障子を開いて入ってきました。
柊)おはようございます。ちょっとバスが遅れてしまいまして…あれ?
リタ)あ、柊君おはよう!
柊)どうしたんですリタさん…涙なんか流して。
リタ)え…?
私は知らない間に泣いていました。
柊)泣かないでください。辛いことは僕でも良いんで話してください。
リタ)いや…違うの!大丈夫。昔話を梨華さんにしていたら…その、昔の事を思い出しちゃって…
柊)梨華さん…?
梨華)柊さん、初めまして。赤田梨華です。今日はリタさんの方からうちの神社の取材の申し込みがあったのでお迎えに上がったんです。
柊)そう言う事でしたか。リタさんを宜しくお願いします。
梨華)はい、良い記事が書けるよう全力でアピールさせていただきますね。それでは行きましょうか。
リタ)はい…
柊)(リタさんが涙を流すなんて…何があったんだ?)
続く