梨華さんの運転する車内は、妙な静けさに包まれていました。
リタ)すみません。先ほどは取り乱してしまって…
梨華)いえいえ。夢を違う形で追いかけているって言うのは素晴らしいことだと思いますよ。私なんか夢すら追いかけられなかったんで。
リタ)え?どうしてですか?
梨華)私が、赤田神社の神楽巫女だと言うのはご存知ですよね?
リタ)はい。昨夜調べて知りました。
梨華)神楽巫女は創建当初から脈々と受け継がれてきたのもご存知ですよね?
リタ)はい。
梨華)…赤田家は貴族の出身ながら、巫としてこの神社で働き続けた家系なんですよ。勿論私もその系譜を受け継ぐ存在です。この呪縛から逃れることはできません。
リタ)…
梨華)私の母も、祖母も、みんなこの神社で神楽巫女を若い時からずっと務めてきたんです。リタさんの夢を追う余裕がある生活とは訳が違うんですよ。
リタ)…そうですよね。
梨華)でも、それがマイナスかと言われたら…そうでもないんですよね。
リタ)え?
梨華)私には姉がいます。姉とは神楽巫女の継承を巡って日々切磋琢磨してきたライバルでした。
リタ)はぁ…
梨華)結局、姉は神楽巫女にはなれませんでした。それ以降は小さい頃から打ち込んでいたソフトボールに集中するようになって…今は日本のエース格と呼ばれるまでになったんですよ。
リタ)日本のエース格ですか…と言う事は国際大会とかにも?
梨華)何度も出場してます。今度の東京五輪にも呼ばれるかもしれませんね。
リタ)凄い…
梨華)そんな日本を背負って立つような姉ですけど、神楽の奉納の際には必ず巫女として私の傍にいてくれるんですよ。
リタ)そんなに忙しいのに何で…
梨華)…神楽巫女はあなたの思った以上に恐ろしい仕事なんですよ。
リタ)…え?
梨華)確かに神楽巫女の仕事は年に数回しかありません。私もほとんどが休日みたいなものです。しかし、年に数回しか出番がありませんから準備は念入りにしないといけない訳です。
リタ)確かにそうですよね。
梨華)神楽は「降神巫」と呼ばれる古来の神降ろしの儀式を再現したものです。その舞を正確に再現する必要があります。
リタ)ほぉ…
梨華)舞は左右の回転を連続で繰り返す必要があります。ものすごく体力が必要です。私でも練習の際に何度か倒れたことがあるくらいです。
リタ)…
梨華)そんな状態になるのを姉は修行の際に身を持って体感しているんです。だからこそ、緊急事態に備えて姉は神楽を見守ることを続けているんですよ。
リタ)なるほど…
梨華)あ、着きましたよ。ここが赤田神社です。
私は、眼前に広がる大きな神社に圧倒されてしまいました。
リタ)これが1000年続く神社ですか…
梨華)そうです。ここが私の職場ですよ。
続く