霊夢は持ち前の勘で湖の方向にあたりをつけた。
(面倒ね。幻想郷を覆えるほどの霧……まあまあ力はあるようだけど)
その能力で霊夢は空を飛ぶ。赤い霧で視界は悪いものの、霊夢にとってはあまり関係ない話である。と、そんな静かで悍ましい夜に一人の乱入者が現れた。
「おお人間。どしたの、こんな夜に」
「こんな夜だからここにいるのよ。あんたは妖怪ね?邪魔しないでもらえるかしら」
「いやー、そうもいかないの。おなかすいちゃってさ」
現れた少女はギザギザの歯をむき出しにして笑った。その姿に似つかわしくない暴力的な歯だった。
「貴女は取って食べれる人類?」
「残念、自分で言うのもあれだけど私は食えないほうよ」
「んー、確かに食いでが少なさそう。でもこの際何でもいいや」
そういって少女は懐から数枚のスペルカードを取り出す。
「私はルーミアって言うの。勝負して、勝ったほうが負けたほうを食べられるってことでどう?」
「いいわ、さっさと終わらせてやる。ああ、私が勝っても貴女はいらないわ。旨味がないもの」
紅白の巫女と暗黒の少女は空で向かい合った。
「じゃーいくよ。月符『ムーンライトレイ』っ」
ルーミアを中心に円状の弾幕が生成され、さらにレーザーが霊夢の両端から迫る。しかしながらこの程度は霊夢にとって児戯にも等しく、涼しい顔で余裕をもってスキマを縫って避けた。
「……もしかして思ったより強い?予定変更、闇符『ダークサイドオブザムーン』!」
ばら撒かれる大小の弾幕をルーミアは闇で覆い隠す。闇とはつまり見えないものであり、恐怖の象徴である。これらの闇と弾幕により相手に効率的に恐怖を与え、動きを鈍らせ被弾させやすくするのがこのスペルカードの特徴。
ルーミアにも自分の闇の向こうは見えないので弾幕を打ち出したのち霊夢の姿は見えなくなったが、そんなことは関係ない。さあ、『闇』を操って──
「……あれ?」
「意外そうね。この程度の弾幕が避けられないと思ってるなら、あんたは随分甘いと言わざるを得ないわ」
しかしながら、霊夢にはあまり意味がなかった。何故って霊夢は幼い頃から感覚の一部を封じた上での修行も積んでいる。つまりは経験済みというわけ。
霊夢は札を取り出した。霊力がそこに収束していくのを見てルーミアは青ざめた。
「何か言い残すこと、あるかしら」
「えーと、えーと、私食べても甘くないよっ!」
スペルカード宣言と共に咲いた赤い花はルーミアを撃ち落とした。
「……そういう意味で甘いって言ったんじゃないわよ」
▽
「むう」
ルーミアは森に墜落し、葉っぱだらけの姿で枝に引っかかっていた。
「なんでさっきの人間、心の闇見えなかったんだろうなあ」
ルーミアの弾幕には全て目的がある。眩いレーザーや球で光を演出し、より余白に生まれる闇を際立たせ、相手に恐怖を与え──相手の心に生まれた『闇』でもって精神を食い潰すこと。
生き物、特に高度な精神を持つ存在なら少なからす心に闇を抱えるものだ。だというのに、あの少女ときたら、
「むう。次は絶対怖がらせてやる!」
▽
今日は厄日だ、と霊夢は早々に決めつけた。森を抜けて湖にたどり着いた霊夢が見たのは、やけに仲良さげな魔理沙と水色の妖精である。どう考えても面倒だ。さらに面倒なのはその湖の向こうに見える屋敷がそう考えても異変の犯人のもので、今からそこに行かなきゃいけないということ。湖を大回りすれば見つかるのは避けられるだろうが……
「ん?そこにいるのは霊夢か?」
手遅れのようである。仕方なく霊夢は魔理沙のほうに向かった。
「何してんのよ、こんなとこで」
「何って異変解決だよ、霊夢もそうだろ?」
「私はやらなきゃいけないからやってるの、遊びじゃないのよ」
「私だって本気だぜ」
霊夢と魔理沙が話している間水色の妖精はずっとその周りをうろうろしていた。まるで自分の存在を主張するかのように。霊夢は無視するのも面倒になり、魔理沙に訊いた。
「……魔理沙、こいつは?」
こいつと呼ばれた妖精は二人の間に入り込んだ。そして、
「よくぞ聞いたわね!この!あたいが!さいきょーの妖精のっ!───チルノ様だっ!!!!」
チルノは胸を張って大声で叫んだ。魔理沙は既に耳を塞いでいたが、霊夢は不意打ちを食らってしまう。
「……すまん霊夢、忠告が遅れた」
「耳が……耳がキーンってする……」
「お?なんだ、あたいのかりすまに手も足もでないのか?ふふん、仕方ない、特別にあたいの子分にしてやっても──」
霊夢は札を掲げた。
「夢符『封魔陣』」
「ぎにゃあああぁぁぁぁぁぁぁ…………」
湖に落ちていったチルノを見て魔理沙は苦笑いした。あれじゃあしばらくは霊夢に近づこうとも思わないだろう。救出は……大妖精に任せることにしよう。うん。魔理沙は気にしないことに決めた。
「容赦ないな」
「時間ないの。私はもう行くわ」
「ああ、霊夢もあの屋敷に何かあると思ったのか。こりゃ競争だな」
魔理沙は箒に何やら魔法をかけたようだ。
「じゃあ、お先に失礼するぜ。異変を解決するのは私だ」
そのままほうき星は屋敷に向かって翔けていった。きらきら光る魔法の残滓を残したまま。
▽▽▽▽▽▽▽
「弾幕、ってお姉さまが言ってたやつかしら」
「スペルカードルールのことだ」
「ならしってるわ」
フランはうんうんと頷いた。合わせて羽がしゃらりと揺れる。
「でも南久阿、わたしの弾幕は使いにくいの。魔力がこもりすぎてて、相手に当たったらひどいことになると思うわ」
「それに関しては心配いらん、フランの相手をするのは専門家だ、避けきって見せるだろう。そんなことより」
南久阿はドアをちらりと見やる。もうあまり時間はないようだ.
「弾幕に強く願え。蜘蛛の糸はフランを救うだろう」
そういって南久阿はその輪郭をふわりと緩め、糸となって霧散した。それと同時、扉が蹴破られる。入ってきたのは蜘蛛の巣だらけのレミリアだった。いたるところからふわふわと糸がなびいている。
「お姉さま……その姿……」
「地下から奇妙な力を感じて急いできたのだけれど、そこまでの道が蜘蛛の巣だらけだったの。それもとんでもなく強靭なやつ……フラン?どうして笑うのよ」
うちの幻想郷のレミリアは身内には親し気に話します
筆者は弾幕勝負が全然かけないのでめーりんとかぱちゅりーとか飛ばすつもりでいます。ユルシテ・・・ユルシテ・・・