幻想郷で博麗の巫女に都合が悪いことのほうが少ないのよ。だって天を味方につけた神の巫女ですもの。運だって味方するに決まっているじゃない。
八卦炉から放たれた光は視界を埋め尽くし、その直線状のものを焼き尽くさんとした。逃げにくいようにその周りには星形弾幕が瞬いているが、レミリアには簡単に避けられる密度だ。それは魔理沙も分かっていたからこそ──
「魔法使いは準備がすべて。不測の事態に対応できるよう八卦炉はもう一個あるんだぜ……そら!二発合わせて即興スペル、恋心『ダブルスパーク』!!」
「二発合わせたところで……!?」
レミリアの顔が驚愕に染まる。
この時ばかりは魔理沙も天に感謝した。
叢雲が満月を覆い隠したのだ。先ほどまで晴天だったはずの夜空が気づけば曇り始めている。
月光の恩恵を一時的に失ったレミリアは挟み込むように放たれた二発目のマスタースパークから逃げきれず、被弾を許してしまう。最終的な被弾数が重要な弾幕勝負にとって一発というのはまだ挽回可能だが、魔理沙の弾幕は一発で再起不能にして勝利を得ることを主軸に置いたもの。当たらなければどうということはないが、当たれば無事では済まない。
「火力馬鹿め……!」
魔理沙は徐々に二本のマスタースパークを重ね合わせようとしている。このままでは不味いとレミリアは仕方なく最後のスペルを切ろうとして──
▽
フランはしばらくはじっとしていたが、どうにも心が落ち着かず用意したスペルカードをもって地下室を抜け出し、こっそりと廊下に出た。
屋敷に人気はなく、いつもならば飛んできそうな咲夜も今日は姿が見当たらない。
「お姉さまは……上ね。テラスか何かあるかしら」
本当は地下室は出ないほうがいい、そんなことはわかっている。けれど南久阿の存在が、幻想郷と言う新天地が、相手を殺しにくいらしい弾幕勝負とやらがフランの冒険心を呼びさましていた。屋敷を探検しつつ階段を探し、フランは舘の最上階までたどり着いた。
窓からは弾幕のものだろうか、明るい光が差し込んでいる。つられてフランは窓から外を見上げ、
──極光に灼かれる姉の姿をそこに見た。
「ど、どうしよう?邪魔したら駄目かしら、でもお姉さまが!」
そうこうしているうちに二本目がレミリアに迫っている。もはや時間がないと覚悟を決めたフランは片方のレーザーをしっかり確認し、その目を握りつぶした。『目』とは事象や物体の最も張りつめている点のことであり、フランはそれを壊すことで対象を完全に破壊できる。
ただ、それは限界まで張りつめたゴムに切れ込みを入れるがごとし所業。内包、あるいは保存されたエネルギーは弾けるゴムのように周囲にまき散らされることをフランは知らなかった。
マスタースパークは破壊され、周囲に風をまき散らす。紅魔館の周囲の霧が一時的に晴れ、残ったもう一本のマスタースパークは魔理沙がバランスを崩したせいで上空へと向けられた。それが効果を終え消えるころには、月にかかった雲なんて晴れていた。
今宵は満月である。
紅魔館に光を遮るものはない。
フランは窓から見える
▽
「うおおおおああああああああ!!!!!」
ものすごい勢いで魔理沙は焦っていた。突然マスタースパークが爆発して、箒から転げ落ちたのだ。魔理沙は普通の人間である。この高度で地面に叩きつけられては確実に死ぬだろう。慌ててエプロンのポケットから二十一世紀ロボットのように道具を引っ張り出すが、どれもこれも空中での自由落下を止められるようなものではない。霊夢は……駄目だ、別の方向を向いて気づいていない!
「あ、やっば……」
思わず魔理沙は目を瞑る。しかし伝わってきたのは覚悟した数倍やわらかい衝撃だった。まるで何かに受け止められたような。
「無事か」
「な、南久阿!?」
魔理沙を受け止めたのは巨大な蜘蛛の巣だった。その傍には博麗神社の主神である南久阿の姿。
「助かった……。いやほんと助かった」
「お前にはまだ生きていてもらわないと困る。しばらくそこで見ておくといい」
そういって南久阿はよっこらしょ、と蜘蛛の巣に上り、魔理沙の隣に腰かけた。
「行かないのか?霊夢を助けに」
「まだその時ではない。ああ、それと」
南久阿はいつの間にか箒と八卦炉、それに帽子を持っていた。
「おお、ありがとな……よく見つけられたもんだ」
「蜘蛛に運ばせた」
「なるほど。あとな、何か糸が外れないんだが」
「蜘蛛の糸には粘着性のとそうでないものがある。魔理沙が反動で吹っ飛ぶと困るのでな、粘着性の糸が混ざっている」
「南久阿は……あーそこに座ってないのか。そうなると私この仰向けの体勢から動けないんだが」
「この異変が終わるころには取れるだろう」
このちっこい神私に復帰させないつもりだ、と魔理沙は勘づいた。わかったところで糸は取れないのでどうしようもないのだが。
▽
その姿にいち早く反応したのはレミリアだった。
「ああ……なぜここに!」
「誰よあれ。知り合い?」
言いつつ霊夢も警戒していた。眼下、紅魔館の窓際にいる少女は遠くてはっきり見えないくせにその魔力はあまりにも強大にすぎたから。
「妹だ。少し、ほんの少し気がふれているが」
「冗談じゃないわ、あんな魔力で頭おかしいなんて。あれは封印するべきもの……スペルカードルールが通用するかは微妙だけど」
少女は窓から身を乗り出し、些かぎこちない飛び方で霊夢のほうへ飛んできた。
「貴女が、弾幕勝負の、専門家ってやつね?、あ、……あは、貴女を
「あら、いいの?別に私弾幕なくても貴女を倒すのは余裕なのだけど」
「同じ土俵で戦うのが重要なのだ。あれが何を考えているがわからんが……曲がりなりにも私の在り方がそうである以上、これは必要な通過儀礼。さあ、疾く死ね」
霊夢は札を構えた。七色の羽持つ少女もトランプのようなカードを掲げた。
▽
レミリアは心の中で混乱していた。
(どうなってるの……?あれほど狂気が強くなっているフランは見たことがない!こ、ここはフランの味方をするべきかしら。でも今のフランは私だけでは止められない、赤い霧に魔力を割きすぎたっ)
そんなことを考えているから、レミリアは背中に着いた蜘蛛の糸に気付かなかった。霊夢が連れていた次郎丸の糸だ。その端は既に南久阿の手にある。南久阿が思い切り糸を引っ張ったので、レミリアはろくな抵抗もできずに、
「何故えぇぇぇぇぇぇ……」
思い切り引っ張られ、巣に寝転がっていた魔理沙の横に着弾した。
「ちょ、南久阿、そういうのは先に言え、巣が揺れる!」
「言ってもどうにもならなかっただろう」
レミリアの視界の揺れが収まると、視界には先ほど戦って落ちたはずの魔理沙がいた。
「……待て。なぜ私は蜘蛛の巣の上にいる」
魔理沙はあきらめた風に肩をすくめた。
「神のみぞしるってやつだ」
隣に黒髪の日本人らしい容姿の少女が現れた。
「私が神だ」
レミリアはまた混乱した。
この話、南Q阿伝読んだことある人ならもうオチが分かってしまう可能性が高いのです。でも多分少ないのでこのまま話を続けますが、なるべくネタバレはしないでほしいっす。一応ね。
さて。前の作品でレミリアのカリスマを前面に押し出しすぎたので今作は少し緩い雰囲気にしたかった。おそらくこの異変後は霊夢とかには親しい口調になるでしょう。
次。補足ですが、蜘蛛の巣は紅魔館の一部と森の高い木を利用して張られています。それなりに高度があるので多少上下しても地面にあたりはしないです。
因みに横糸(ねばねばな方)は反動で魔理沙が吹っ飛ばないようにくっつける必要があったからなんですね。