今回の話は、脱出するという話です。
ベヒモスという魔獣を倒してから、1週間と数日が過ぎていた。
この世界に召喚された勇者様が大変な思いをして倒すはずの魔獣をすでに倒してしまったというのも本人が知れば、
しかしながら、凛の移動が遅々として進んではいない。それもそのはずで、脱出に関する事には、だいぶ苦労をしていた。
なにせ、上に上がるという選択肢が乏しかったからだ。
強靭になった足腰に物を言わせて、壁から壁へ八双飛びの要領で跳躍スキルも併用して、上に上がるという選択肢もあったが、実際にやってみると、ちょっと足りなくて、落っこちてしまうのだ。
もちろん、風魔法であるエアーボムを連続使用して上がるという選択肢もなくはないし、氷魔法や土魔法で土台を作りながら進むという選択肢もなくはない、がっ、天井が見えない程に高くて、頑張って登ろうか悩むくらいだ。・・・素直に諦めたが、いざとなればやるしかないだろう。選択肢として残しておく。
なので、次の手段として、この大空間である鍾乳洞内を探索していた。 だが、あれだけの数のトラウムソルジャーやベヒモスが溜まっていたのをみると、つまり、それは、あの罠にかかって、下に落ちた冒険者がそれだけ居た。ということに他ならない。落ちた冒険者を追って、トラウムソルジャーとベヒモスもまた落ちていたという事だ。
実際に、私も落ちて来た穴の下にあった湖には、冒険者の物と思われる装備や白骨化した死体が沈んでいるのが確認できた。
実際に、あの量の前門のベヒモス、後門のトラウムソルジャーに襲われたら脱出は困難であろう。私も無理だと思ったし。
「出口はなし・・・・か」
もう、慣れてしまった独り言。
どの道、外に出られたとしても、元来の影の薄さでどの道、気付かれないだろうし。と、その時。
ピコーン!
システムメッセージ:「『光と闇』を習得しました。」
「な、な、なに!?」
光と闇・・・・戦闘には役に立たないが、元来の影の薄さを強制的に光に変えて、目立つようにするスキル。元の影の薄さに戻すこともできる。これで君もアイドルだ。やったね!
と、書いてあった。
誰だよ、こんなお調子のいいスキルとスキル説明を考えたの!?まあ、この迷宮を抜けたら使うかを考えるとして、今はね。ここの脱出が先だよ。
でも、気になる事もあるんだよ!
「でも、今はいいか」
と、私は顔を上げて、ある方角を向いてから口に出してみる。
「一応、あそこを進んでみようかな」
視線を送る先、そこはベヒモス変種との闘いの終幕に開けてしまったファイヤーストームの後だ。膨大な熱量により岩壁が融解して穴が開いてしまったわけだが、絶妙な角度から見ると薄っすらと光も見えていた。
実際には見える方がおかしいと後から気付く事になる。
ファイヤーストーム・・・もといフレイムストームで開けたトンネルを進む。
地面はカチカチのコチコチに固まっており、一部の地面はガラスのようにツルツルしていて、本当にガラスのようだ。
実際に、スーキーが補足を入れてくると、膨大な熱量により土中に含まれている硝石が固まってガラス化しているようだ。
そんな道を、もう、どれだけ歩いたのかがわからないほど歩いている。実際には暗いはずだが、眷属の影響により暗闇が昼間のように見えるため足場はそんなに困っていない、困っていないが、同じ風景のために距離感が掴みにくいのが問題がある。
それでも1キロ、2キロの単位ではないはずだと思っている。思っているだけだろう。
「もう、私の魔法なのに、どんだけ長さがあるのよ」
「はい!直線距離にして12キロメートル程あります!」
別に聞いたわけではないが、スーキーの返答により口に出さなければ良かったと思ったが、すでに遅し。
とにかく倒さなきゃと思っての無意識に力を込めて発射した魔法だっただけにかなりの高威力だったようだと改めて認識を変えた。
そして、実際に行き止まりに達し、僅かに光が漏れていた。
そこを砕き、少しだけ外をみると、何処かの地底湖のような場所で、高めの壁際に居る事がわかった。安全を確認した後、壁に穴を開けて外へと飛び出す。
まずは、この場所で浅い地底湖を探索し、壁の畔で魔法陣を見つけた。
「これは、火の魔法陣だね。誰かここで暖を取ったという事かな。」
この魔法陣から読み解ける事は、火に関しての適性を持っていない事がわかる。約1メートル程の巨大な魔法陣には、火を起こすための属性や威力、射程、魔力吸収等の記述が施されていた。
「と、いう事は、ここに誰かいるのね」
付近には、1人分の足跡が発見できた。後は魔獣と思われる物の足跡が3種類は発見できる。少なくともこの場所には3種類の魔獣がいるという事は確実のようだ。
また洞窟と思われる場所へと足を踏み入れる。危険な場所へと足を踏み入れるようなコソコソとした姿ではなく、堂々と歩いていくと、すぐに接敵した。ウサギ型の魔獣である。後ろ脚が凶悪なまでに発達し、その洞窟に対して保護迷彩を施したような色合いに対して、赤黒い線がお尻から頭に向けてドクンドクンと脈打っていた。
耳をピコピコと動かして、此方の出方を伺っているようだ。
そして、一旦後ろへ跳躍した後、空中で何かに着地したかのような動きを見せた後、空気が爆ぜるような音が響いた途端、此方に向かって突っ込んで来た。
「絶!!」
絶は、防御系魔法で最弱の初歩魔法だ。四角の半透明の壁を出す魔法だが、凛の場合は、その魔力の高さ、魔力の詰め込みからあり得ない程に硬い。
それ故に・・・・。
ガン!!
『絶』とは思えない程の硬さを有し、ウサギ型魔獣の攻撃に凄まじいまでの衝撃音が出ながらも防ぐ事が出来ていた。
咄嗟という事ではなく、余裕を持ったタイミングで発動が出来た。
これはステータス的に見ると、その高さから相手の動きがスローで見えたからだ。それと、スーキーによる予測演算によりこうやって動いてくるだろうという行動パターンがある程度、予想がされて事前にわかっていたというのも大きい。
ウサギ型魔獣は、攻撃が防がれたという事実をすぐさまに飲み込み、その場から離れようと足に力を加える。
しかし、その力を込めたタイミングを凛の動体視力とスーキーの判断力が見逃さなかった。
跳躍のために力をかけたタイミングで『絶』を消され、宙を泳ぐ形となったウサギ型魔獣は、無防備な状態を空中に晒すこととなった。
ここからは一連の動作でしかない。
爪に意識を集中させ、爪を延ばし、魔爪とし、宙に浮いたウサギを掻っ切ると同時に血を抜き取る。
血を抜き取られたウサギは、未だにその場に止まっている。
これは、そんな時間の中の話だ。
回し蹴りをそのまま決める。
ウサギは、吹き飛び地面を何度かバウンドして、周囲に林立する岩山に体をぶつけて止まった。
ピコーン!
システムメッセージ:「天歩を獲得しました。」
さっそくスーキーに頼んで脳内で疑似戦闘シミュレーションにかけてみると、空中に足場を出して、走り回る事ができるスキルだという事がわかった。
脳内で動きを確かめた後、実際に体を使って試す。イメージ通りな感じで、空を泳ぐ?いや、歩くかな?感じで準空中浮遊ができた。
「これは、面白いスキルね。あ、そうだ。確か、ウサギの肉はおいしいって聞くけど、どうなんだろ」
すでに三枚おろしとなっている・・・・いや、四枚おろしか?それにぐちゃっと・・・・そんなことはどうでもいいか。
おいしそうな部位を切り取って、魔法:ファイヤーを当てて、じっくりと炙ってかぶりついた。
「ん!!あ、あー、おいしい~♪ん~、久々の肉だ~。もぐもぐ」
ピコーン!
システムメッセージ:「魔力操作を獲得しました。」
「ほへ?」
魔力操作・・・・魔力を直接、扱うことが出来るようになります。
ふむふむ、意味わからん!
用は、魔法が扱いやすくなるって事でいいのかな?
スーキーに聞いて見ると、魔法を詠唱要らずで使用する事になるのだが、すでにスーキーが代行しているので、あまり意味はないそうだ。なので、恐らくは扱いやすくなると、そういう事でいいのかと思った。
肉を食べながら歩いていると、6匹程の狼と出くわした。やはり、普通の犬ではない。赤黒い線が走り凶悪そうだ。
6匹全部が尻尾を高々と上げて、放電を開始する。
そして、多量の雷撃が私を中心とした場所にバリバリと降り注いだ。
「ウォーターシールド!!」
電撃は私の周囲の水を伝って、地面へと流れて、全くダメージを与えられない。
『しゃぼんだま』魔法の発展型で、張り付くという部分から進化した形であるが、最初は常時発動型で考えていた魔法だが、現在の私の熟練度から常時発動型は無理との結論から通常発動型へと変えた魔法で、常時としたい理由としては遠距離系攻撃を水のバリアで弾く、または反らすという事がこのバリアで可能な事だ。大規模な熱量であっても、不意の一撃に対してコンマ数秒を稼ぐ事ができるのであれば、致命傷となり難い事を想定してである。
狼たちが予想の出来ない相手に遭遇したと判断して手をこまねいていると、突然、左端に居た狼が絶命する声が響き渡る。
全員が此方を見る。そして、また、私が元居た場所とを交互に見ている。すると、倒された狼の元に私が居て、元々居た場所の私は薄っすらと消えていくのが見えた。
そう、これは『縮影』というスキルを使用した移動技で、質量を持った残像をその場に残すという移動技で、鍛錬にとった1週間で身に着けたスキルだ。
そこからは一方的な蹂躙だ。
私は社交ダンスのような舞踏を1人で寂しく披露しながら『縮影』で私の質量を持った分身を残しながら、次々と飛び掛かってくる狼が私の分身を攻撃する横を切断していく。
気付けば、そこには、色々な姿にポーズを構えた私の蜃気楼が浮かんでおり、狼はパニックの一言だ。
魔爪、結界の剣による打撃、そして、最後は、ファイヤーボールが剣の形になった投擲、狼たちは瞬く間に全滅した。
ファイヤーボールを剣の形にして、それを投擲し、刺さった相手にもれなく爆発に見舞われるという魔法である。あくまでイメージで作ったので、名前はないが、見た目から惑わす魔法となっている。
ピコーン!
システムメッセージ:「雷撃を獲得しました。」
複数又は単体に雷撃を飛ばす事ができる固有魔法らしい。
「そうだ、固有魔法は固有魔法で欄を作った方がいいかな?」
1人で勝手に発言して、勝手に納得する私、傍から見たら、ちょっとかわいそうな子である。
疑似戦闘シミュレーションでも、認識した相手に電撃を飛ばして、麻痺させる構図として浮かび上がっている。現状はこういう使い方しかできないようだが、ゆくゆくは・・・・とか、そんなことを考えていると、スーキーが索敵した地形に妙な点が見つかった。
それは、岩と岩肌に隠すようにある洞穴を見つけた。
入り口となる洞窟が不自然な形に曲がっており、地面には隠したと思われる足跡の形が見えた。
屈んだ人が一人、もしくは子供が1人だけ侵入出来るかどうかという程度の大きさの穴だ。それは、恐らく周りに棲息している魔獣のサイズから計算したのかもしれない。確かに、このサイズならあのウサギや狼の大きさでは抜けられないだろう。
周囲に人の気配はない。単に自分の気配感知距離外にいるだけなのかもしれないが、未だ、意識しないと気配感知が出来ないのが私の不安点で、この辺りはスーキーも助けてくれない。
中へ侵入するため、少し魔法で穴を開けて入った。
そこには肉が少しだけついた骨や誰かが寝ていたであろう場所、乾いた血液、それに何かよくわからない光を放つ色の水が少しだけ溜まっていた。
私は、乾いた血液を擦り取って口に含んだ。
「う゛!!?!!?」
まっずっ!!
急いで近場に溜まっていた光を放つ色の水を掬ってすすると、今度は体の中が焼けるような熱さに襲われた。
「う゛、う゛わあああああ!!」
喉を抑えて藻掻き苦しむ。喉が焼けるように痛い。まるで、体がまた変質しているかのような痛さが喉と水が流れ込んだ所を襲っているかのような痛さだ。
・・・・ぴちょん・・・・ぴちょん・・・・
水の滴る音が妙に響く。妙に体が軽くなったように感じた。そして、体を起こす。
妙に体が落ち着いているような。そんな感じだ。
ピコーン!
空気を読まないシステムメッセージが流れる。
システムメッセージ:「毒耐性を獲得しました。」
システムメッセージ:「劇毒耐性を獲得しました。」
システムメッセージ:「完全毒耐性を獲得しました。」
システムメッセージ:「麻痺耐性を獲得しました。」
システムメッセージ:「石化耐性を獲得しました。」
システムメッセージ:「毒耐性、麻痺耐性、石化耐性を獲得し、完全耐性を獲得しました。」
システムメッセージ:「錬成を獲得しました。」
システムメッセージ:「風爪を獲得しました。」
システムメッセージ:「夜目を獲得しました。」
システムメッセージ:「遠見を獲得しました。」
システムメッセージ:「気配遮断を強化しました。」
一度に色々なスキルを獲得したようだ。
毒に関しては、先ほど飲んだ水の効果らしい。吸血種としてなのか、それが亜神としての体に反応し強化された結果、完全な毒耐性となったようである。
他は、乾いた血液から搾取した事により、色々な魔獣や此処にいたであろう人の血からのスキル獲得になる。どうやら、ここにいる人物は相当な化け物である可能性があった。
「できれば会いたくはないかな」
そんな事を呟きながら、私はもう一度、この狭い空間を見てからこの場を去った。
私が去った後、さらに来訪者が来るのだが、それは別のお話。
やっと、原作に追いついて来ました。
今後は、原作主人公を追いかけるという話になります。
ユエは原作主人公とくっつくのは当然です。
主人公に仲間が出来るのは第2章に入ってからの予定ですが、現在妄想中で構想中で執筆しておりません。
第2章へ入るのは、まだ先ですが、気長にお待ちください。
オリ主人公のラストはすでに考えてあります。