ミーティングを終え、個別に打ち合わせを行う消太さんを待ってる間、俺たちは通形先輩と出久に声をかけられずにいた。
この二人の守れなかったという気持ちは俺たちにも痛いほど分かる。熱い切島は自分のことのように感じているような表情だった。
その中で、軽やかなエレベーターの電子音が響く。
「…通夜でもしてんのか?」
エレベーターから降りてきた消太さんは俺たちに歩みを進めていく。
「先生…」
学外ではイレイザーヘッドと呼べ、という言葉の後に消太さんは続ける。
「…しかし、今日は君たちのインターン中止を提言する予定だったんだがなぁ」
「ええっ!? 今更何で!?」
その言葉に切島が勢いよく立ち上がる。
「連合が関わってくる可能性がある、と聞かされたろ。話は変わってくる。…ただなぁ」
頭をボリボリと掻きながら、消太さんの視線は出久に向く。
「…緑谷。お前はまだ、俺の信頼を取り戻せてはいないんだよ。残念ながらここで止めたらお前はまた飛び出してしまうと俺は確信してしまった。だから、俺が見ておく。するなら正規の活躍をしよう。わかったか、問題児」
消太さんのあえて茶化したのであろう言い方に出久は涙をこらえるのに必死の形相だ。
軽い音と共に胸元に突きつけられた拳から伝わる温かさ、伝わるには十分だった。
「気休めを言う。掴みそこねたその手は、エリちゃんにとって、必ずしも絶望だったとは限らない。前向いて行こう」
「っはい!」
あー、よかった。
俺以外の3人も安心した表情を浮かべていた。
「…とは言っても、だ。プロと同等か、それ以上の実力を持つビッグ3と牙那はともかく。1年生の役割は薄いと思う」
「あれ、俺のこと認めてくれてるんですか?」
俺の言葉に消太さんは軽く流すような言い方で続けていく。
「…お前は黙ってろ。…蛙吹、麗日、切島。お前たちは、自分の意思でここに居るわけでもない。…どうしたい?」
…その答えはずっと教えてきている消太さんでも聞かなくても分かってるだろう。
「先っ、イレイザーヘッド! あんな話聞かされて、"やめときましょ"とはいきません!」
「イレイザーが駄目と言わないのなら、お力添えさせてほしいわ。小さな子を傷つけるなんて、許せないもの」
「俺らの力が少しでも、その子の為ンなるんなら、やるぜ! イレイザーヘッド!」
それを聞いて消太さんは俺の方を向く。
「牙那も、お前が辞めたいなら抜けていい、どうする?」
「もちろん参加させてもらいますよ、消太さん。その子の手はまだ絶対に掴めるはずですからね」
「イレイザーと呼べと言ったはずだ…、全員の意思確認をしたかった、わかっているなら良い。決行にせよ中止にせよ、別途連絡があるまで、学生組は待機だ。授業でもやったが、捜査途中の情報は関係者外に漏らすなよ」
教師としての顔を覗かせた消太さんの言葉に、揃って返事する声が辺りに響いた。
その他用語解説
「その子の手はまだ絶対に掴めるはずですからね」…元ネタは火野映司(仮面ライダーオーズ)の「俺が手を掴む!」。助けられなかったことを悔いる映司の思いが詰まったいい言葉です。