【試走】がっこうぐらし! RTA 学園ヒーロールート【完結】   作:haku sen

6 / 11


感想、評価並びに誤字脱字報告ありがとうございます。

ちょっと軽くスランプですが、何とか様にはなったので初投稿です。




Part6 一つの強がり

 

 

 色々と可笑しくなってきた実況プレイ、はーじーまるーよー。

 

 

 ひゃっはろー! 

 

 うーん、全くもって清々しくない目覚め。また、ミョーに回復していますが、体力とかほぼ底辺のままなんだよなぁ。

 

 ステータス的にも体力的にも、全てにおいて最悪のコンディションですが、動けるのであれば問題ありません。ほら、ホモくん動いて。(鬼畜)

 

「あ、本城。おはよう……って言っても、もう昼だけど」

 

 扉を開けたら全てが夢だった。……みたいな光景が広がっていますが、単純にホモくんが寝ている間に掃除でもしたのでしょう。ただ、まだ廊下と生徒会室だけのようです。

 

 取り敢えず、このままでは掃除すら出来ないので、生徒会室にでも行ってコーヒーを飲みましょうか。

 コーヒーはSAN値を微量ながらも回復させ、飲料水と同じく水分補給も出来る優れもの。ただ、飲み過ぎると『中毒』になりますので、一日三杯が限度です。

 

「おはよう、幹久くん。顔色悪いけど、大丈夫?」

 

 (大丈夫じゃ)ないです。こちとら、SAN値が逝った上に各種ステータス削れてんだぞ。オデノカラダハボドボドダ!

 

 じゃけん、コーヒーを飲みましょうね~。勿論、ミルクと砂糖は入れます。え? ない? ですよねー。

 

 ホモくん、コーヒーブレイク中。

 

 ……ふぅ、スッとしたぜ。(ホモくんが)

 これで、問題ありません。後は自然回復で補えるでしょう。

 

 さて、三日目にやることですが、最初は三階を完璧にしていきます。

 残っている空き教室などをキレイキレイしてしまい、原作ぐらいまで持って行きましょう。そうすれば、セーフティエリアとなって、殺伐とした場所から戻ってきた際には回復するようになります。

 

 その後は、物資調達ですかね。掃除を終えた後ならばちょうどいい時間帯になるでしょう。

 そろそろ、女性たちの不快度が溜まり始める頃合いですからね。ホモくんが異性ということもあって、ちょっと溜まるのが早いです。

 

 一応、隠しステータスですが、普通に会話でそれらしいことを匂わせますし、表情からも察することができます。女性はいろいろと入り用だからね、仕方ないね。

 ああ、ホモくんは男の子ですので、ちょっとやそっとじゃあ問題ありません。

 

 ただ、ホモくんは良いとしても女性陣から不満の声が上がり、関係が悪くなると同時に精神的ショックを受けるので問題しかありません。ちゃんと清潔にしときましょう。(手のひらドリル)

 

 さて、コーヒーを飲み終えたところで、ホモくんには体力を回復させるためにも適度にサボらせつつ、掃除をして貰いましょう。

 

 うーん、このホモくんの場違い感。

 見ている分には意外と楽しいのですが、画面はただ掃除に勤しむ美少女たちとホモが映っているだけっていう。

 

 ですので、そんな皆 さ ま の た め にぃ~。こんな映像をご用意させて頂きました。

 

 

 

 

 

 §

 

 

 

 

「──う、そ……だろ? なぁ……うそ、だよな……?」

 

 唇を震えさせ、現実を直視できていないことを表すように、瞳を揺らす胡桃(くるみ)

 その視線の先には屋上の柵に力無く背を預け、腰を屋上の床に着けた男子生徒がいた。

 

 その男子生徒を中心に広がる夥しい量の赤い鮮血。行き場を失ったその血が柵を通り越して、下の階へと赤い滴になって落ちた。

 

 そんな重傷を負いながらも、その男子生徒は何とか顔を上げ、想像を絶する痛みを我慢しながら、目の前で涙を流す幼馴染み(・・・・)にもう一度言う。

 

「うそ……じゃねぇ、よ。もう……無理、だ。俺は……」

 

 彼が自分自身で言った通り、どう見ても手遅れだった。誰が見ようと、それが医者であろうと、彼はもう助からない。

 

 首を噛み切られ、腹部もシャツに血が滲み、左肩にも深い噛み傷。

 それだけではない。真っ青になっていく顔色。光を弱める瞳。動かなくなる指先。

 彼の見た目は徐々に死人のソレへと近づいていた。

 

 そして、それを良く分かっているからこそ、彼は薄く笑いながらもう一度言うのだ。

 

「──頼む、胡桃……お、れを……殺し、てくれ」

 

 酷なことを言っているのは分かっている。頼む相手が違うことも分かっている。

 それでも、彼は幼馴染みに殺してくれと悲願した。

 

 『かれら』と同じように成る前に。

 

「いや、だ! 嫌だ、嫌だ嫌だっ!! 何で、お前まで私を置いていくんだよっ!? お前まで、死んだら……私はっ!」

 

 一度、大切だと思っていた存在をこの手に掛けた。それだけで心が張り裂けそうだと言うのに、まだ奪い足りないと言うのか。

 

「死なないでよっ!? 置いてかないでっ! 頼む! 私から……もう、私から大切なものを奪わないでくれっ……!」

 

 胡桃は血に塗れることも気にせず、その彼に縋った。涙を流して、信じてもいない神に願った。

 だが、それも届きはしない。何故かは、自分が良く分かっている。

 

 神など存在しないからだ。存在しているのならば、こうはなっていない。

 

「──胡桃」

 

 死に際の一言。

 

 それは……彼の全てが詰まった最後の言葉は、聞き慣れた音色で紡がれる自分の名前だった。

 

「────っ、うわあああああああっっ!!!!」

 

 

 

 §

 

 

 

 

 

 ああ^~、心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~。

 

 はい、くるみによる介錯エンドになります。決してしくじったやつではありません。ええ、はい。

 

 胡桃の幼馴染みかつ序盤の方で重傷を負い、何とか屋上に戻ってくればこのエンドが見れます。確か最速は三十分を切っていたんじゃないんですかね? 

 

 まあ、そこまで難しいものでもありませんから、くるみ好きの兄貴たちには一見の価値ありでしょう。

 多分、このくるみちゃんはバーサーカー並みに強いと思うの。

 

 さあ、そんな失敗──ゲフン、ゲフン、参考映像は置いといて。

 掃除の方は終わりましたね。この後は一休みした後に購買へと行きます。俗に言う肝試し回です。

 

 これで、めぐねえたちも夜は『かれら』が極端に少ないことに気がつくでしょう。そうした疑問から徐々に生態などが分かってくるので、積極的に動きたいですね。じゃないと、雨の日に死ぬまで耐久するはめになります。

 

「みんな、ちょっといい?」

 

 おんやぁ? めぐねえが手に持っているのは何でしょう?

 

「これ、緊急時に見るように言われてたものなんだけど……」

 

 ほーほー、ホーホー? 職員用緊急避難マニュアルですか。

 

 へえー、この学校に地下があるんだー、そうなんだー、ふーん。

 あ、本当だ。何か破れた痕がありますねぇ、ありますあります。まあ、地下は後でいんじゃなーい?

 

 ……はい。過度な棒読みも結構疲れるものです。めぐねえが首を傾げていますが、適当に誤魔化しましょう。

 

 てか、そんなことよりさぁ……時間なんだけど……購買いかない?(迫真)

 

 はい、準備して行きましょう。

 

 今回は購買にて各種生活用品や替えの制服、あと学校を焼くための布石となる風船。その他諸々を確保したら図書室へと向かいます。

 まあ、風船に関しては主人公が拾わなかったら、ゆきちゃんが自動的に拾ってくれるので問題ありません。

 

 ああっと、忘れるところでした。おやつなどの嗜好品などは多めに持って帰りましょう。こういった消耗品はショッピングモールへ行くための口実作りになります。

 

「本城、そんなお菓子好きだったっけ?」

 

 ゆきちゃん用ですけど? まあ、口実作りというのもありますが、単純にこういった趣向品は回復や精神を落ち着かせる効果があり、尚且つ手早く食べられる物が多いので重宝します。

 じゃけん、じゃんじゃんリュックサックに詰め込みましょうね~。

 

 さあ、次は図書室です。

 小説や漫画はストレス値を下げてくれますし、参考書や教科書類などを手に入れたらめぐねえの授業イベントが発生します。

 全体の好感度上げなどがそのイベントで出来ますので、旨味な良イベントと言えるでしょう。だが、本編ではキャンセルだ。

 

 この際、図書室じゃなくて学生食堂内にある厨房へ向かうことも出来ますが、敢えて今回は行きません。

 そうすることによって、また肝試しに行けますし、めぐねえたちも『かれら』の情報を集めることが出来ます。

 

「ふぅ……そろそろ戻りましょうか」

 

 そうっすねー。ぼちぼち戻りましょうか。

 人数が多いから物資を大量にゲット出来ました。これを考えると、やはり序盤でチョーカー姉貴を助ける方がメリットになりますね。

 

 今回、残念なことに全く戦闘をしませんでしたが、ショッピングモールで最低限は戦うはめになりますので、恐らく雨の日までには『剣術』を上げられるでしょう。

 その際に、『剣術』を活かせる武器も手に入るので問題ないですね。

 

 ええ、お察しの通り、準備が整い次第ショッピングモールにてみーくんこと直樹(なおき)美紀(みき)の確保に向かいます。

 雨の日の難易度が上がりますが、各キャラのコンディションを整えるためにも物資は潤沢にあった方が良いですし、先にやっておけば乗り越えた後が短縮されます。

 

 まあ、雨の日は結局のところ、如何に上手く立ち回るかが攻略の鍵となります。それこそ、プレイヤースキルの見せ所なので見とけよ見とけよー。

 

 っと、言ったところで今回はここまでです。

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っと、大方綺麗になったかな」

 

 貴依(たかえ)は手に持った床ホウキを立てて、一息つく。

 

 視界に映るのは初期とは比べものにならないほど綺麗になった廊下。

 所々、目に余る汚れはあるものの、見違えたと言えるだろう。

 

「待て待てー!」

 

 頑張った成果を貴依が実感しているとき、屋上に上がる階段の方から声が聞こえた。

 

「こらー! 太郎丸ー!」

 

「わんっ!」

 

 駆ける太郎丸(たろうまる)とその後を追う由紀(ゆき)

 由紀の両手に軍手をしているところから、恐らく屋上でプランターの手入れでもしていたのだろう。

 

 その一人と一匹が夢中になりながら廊下を、延いてはこちらに向かって走ってきていた。

 

「うわっ! と。おーい、ゆき! 何サボってんだよ!」

 

 危うくぶつかりそうになり、ギリギリ壁側に寄って避けた貴依は、走り去る由紀の背に軽く小言をいう。

 

「ごめーん! たかえちゃーん!」

 

 返ってくる返事はとても簡素なもの。どうやら追うのに必死らしい。

 

「ったく、何してんだか……マジ?」

 

 仕方ないと言わんばかりに薄い笑みを浮かべながら視線を廊下に戻し、そして表情を反転させる。

 

 そこには点々と後を残す土の汚れ。それが、由紀の走り去った方向まで続いていた。

 

 目元をヒクつかせ、今度は違う種類の息をつく。

 後で一言いってやろうと心に決めながら、床ホウキを手に取ると同時に近くの教室の扉が開かれる。

 

「あ、本城。おはよう……って言っても、もう昼だけど」

 

 教室から出てきたのは随分と険しい表情を浮かべた幹久(もとひさ)だった。若干顔色も悪いように見える。

 

「……おはよう、柚村」

 

 返事に力が無い。気怠そうに身体を動かしつつ、生徒会室の方へと向かう幹久の背を見ながら、貴依は声を掛けようとして、辞めた。

 

 昨日のことが尾を引いて、どうも気恥ずかしいのだ。

 ただ、肝心の幹久は忘れてしまったかのように平然としていたのが少しムカつく。

 

「……私もさっさと終わらせるか」

 

 後で、由紀を揉みくちゃにしようと心に決めて。

 

 

 

「──おはよう、幹久くん。顔色悪いけど、大丈夫?」

 

 悠里(ゆうり)は生徒会室に入ってきた幹久を見て、心配そうに言う。

 それに、幹久は手を軽く振って椅子に座った。

 

「若狭、コーヒーとかあったりする?」

 

「コーヒー? ええ、あるわよ。淹れましょうか?」

 

 頼む、という返事を受けて悠里は手慣れたようにインスタントコーヒーを準備し始める。

 

「あっ、ごめんなさい。言い忘れていたけど砂糖とミルクは無かったから、ブラックしか出せないの……飲める?」

 

 コップに注いだ後に言うのは随分と手遅れだったが、悠里は申し訳なさそうにその事実を言って、コップを幹久の前に置く。

 

 それに、幹久は気にした様子も無く笑みを浮かべてお礼の言葉を口にした。

 

「ああ、ありがとう。元々ミルクは入れないタイプだし、砂糖も気分によって入れたり、入れなかったりするから」

 

 幹久は白い湯気が渦を巻いて立ち昇っていくコップを手に取り、下唇を縁に着ける。

 

「そうなんだ。私もそんなに色々と入れないタイプなの」

 

 次いでに自分の分まで用意していた悠里は幹久と対角線上になるように座り、自分もコーヒーを幹久のように口に含んだ。

 

 ──熱い。と感じた五感の後を追うように口内に広がる風味と苦み。

 舌先、舌根、喉元、食道を通って黒い液体が胃に落ち、鼻孔からコーヒー特有の香りが抜けていく。

 

 ほっ、と同時に一息ついた二人はお互いに見合って、微笑んだ。

 

「今、やってるのは掃除?」

 

「ええ、今のところはここを中心に生活するでしょ? だから、少しでも綺麗にした方が良いかな、って」

 

 救助を待つにしても、結局は安全な場所で……出来るならば快適な場所で待った方が良いに決まっている。

 

 悠里はそれに、と続けて部屋を見渡した。

 

「幸い、この学校って設備が揃っているじゃない? だから──幹久くん? やっぱり体調が悪いの?」

 

 心ここにあらず、といった風にコップを見つめる幹久に悠里は思わず言葉を切ってまで声を掛けた。

 

「えっ? あ、いや、どうも朝は弱くてさ」

 

「……そう? あんまり無理しないでね」

 

 誤魔化すように笑う幹久に悠里は不安を覚える。明らかに昨夜の時とは雰囲気が違うのだ。

 

「コーヒーありがとう。俺も手伝ってくるよ」

 

 幹久は礼を言って、生徒会室から出て行く。その背中は何処か逃げるように見えて……いや、と悠里はそんな考えを打ち消した。

 

 彼も疲れているのだ。自分よりも遙かに頑張っている。

 

 それに……弱みを見せないのは男の子ならば良くあることだと言うではないか。

 先ほどの誤魔化すような仕草も、きっとその強がりの一種だと思えば納得がいく。

 

 頼り過ぎ、なのだろうか。率先して動く彼に自分たちは頼り過ぎているのだろうか。

 

 悠里はいつまでも変わらない昼下がりの青空を見ながらそう思った。

 

 

 

 

 掃除を一通り終えた彼女たちは、各自が用意した飲み物を手にして生徒会室で一休みしていた。

 

「ふぅ、疲れた。何か、夏休み前の大掃除した気分だ」

 

「じゃあ、明日から夏休みだね!」

 

「それはちょっと違うでしょ」

 

 胡桃が話題を上げ、それに由紀が乗っかり、すかさず貴依がツッコミを入れる。

 

「えー? また一緒に遊ぼうよー、たかえちゃん」

 

「ゆき、いっつも補習だったじゃん」

 

「うっ、それは……何とかなるよ、きっと」

 

「典型的なヤツだぞ、それ」

 

 ありもしない希望的観測を口にした由紀に、胡桃を筆頭にその場にいた全員が苦笑いを浮かべた。

 

「夏休み、か……いいんじゃない? 明日から夏休みで」

 

「え、っと、それはどういうこと? 幹久くん」

 

 由紀の妄言とも言える言葉に好意的な反応を示したのは、意外にもこの中である意味、一番この現実と対面しているであろう幹久だった。

 

「こんな状況でも……いや、こんな状況だからこそ、少しは学生っぽいことしたくない?」

 

「そうだよ、みんな! 明日から夏休みにしよっ!」

 

 笑顔でそう語りかけてくる由紀と、それを微笑ましく落ち着いた様子で見守る幹久。

 何というか……孫の遊びに付き合うおじいちゃんのような物言いに、残った三人は顔を見合わせ、口元を引く。

 

「ってもなー。まだ本格的な夏じゃないし……」

 

「夏休みって、学生っぽいか?」

 

「うーん、あんまり実感がないわよね」

 

 三人とも首を捻り、余り好意的とは言えない。多数決であればこちらが負けるのは自明の理。

 由紀は唯一味方となった幹久に涙ぐんだ視線を向けて、助けを求める。

 

 そして、幹久は笑顔で言った。

 

「──じゃあ、今のナシで」

 

「もとくんっ!?」

 

 まさかの裏切りに由紀は驚愕に顔を染めた。

 さっきの肯定していた幹久は別人だったと言われて可笑しくないほどの切り替えに、由紀は少し離れた位置に座る幹久の太ももを叩いて抗議する。

 

 そのやり取りを見ていた胡桃と貴依は声を出して笑い、悠里も口元に手を当てて楽しんでいた。

 

「──みんな、ちょっといい?」

 

 そう言いながら笑い声を断ち切るようにして入ってきた(めぐみ)。その表情は何処か気難しそうにも見える。

 

「あ、めぐねえ! 職員室の方はもういいの?」

 

「ええ、重要と言えるのはコレだけだったから」

 

 慈は手に持っていた冊子を机の上に置き、全員がそれを中心にして囲うように集まった。

 

「職員用……緊急避難マニュアル?」

 

 表紙にデカデカしく校外秘と押印された薄汚れた冊子。見たことも聞いたことも無い冊子に彼女たちは首を傾げた。

 

「これ、緊急時に見るように言われてたものなんだけど……」

 

 曰わく、非常時に見るように言われていたらしく、今まさにその非常時だと慈は思って、そのマニュアルを手に取ったらしい……のだが。

 

「これだけ……ですか?」

 

 そのマニュアルを開いた悠里は、否、悠里だけでなくそれを見ていた全員がその言葉に同意する。

 

 冊子はたったの三ページほどしかなく、しかも内容はこの学校の校内図と思わしきものだけ。

 悠里がこれだけ、と思わず口を開くのも良く分かる。

 

「へぇ、この学校に地下とかあったんだ。8ページ参照って書いてるけど……」

 

「ええ、柚村さんの言うとおり。8ページどころか他にも破かれた後があるの」

 

「あ、ホントだ」

 

 慈は開いた冊子に破かれたと思われる箇所をなぞりながら思う。

 

 何故? と。

 

 単純な疑問。いや、逆にその単純な疑問しか無い。

 

 あの日、誰かしらの教職員がこれを開封したのは想像がつく。

 だが、何故これだけを残して他は破ったのだろうか。そもそも、破いた理由が分からない。破いた上で元の棚に戻したというのも、些か奇妙だ。

 

「先生は他に、何か聞いていないんですか?」

 

「ううん……非常時に、っていう以外は特に何も」

 

 悠里の問いかけに慈は首を横に振って答える。

 

 一体、誰が、何のために避難マニュアルをこのようにしたのか。

 正直にいえば皆目見当もつかず、ほぼ手詰まりとも言えた。

 

 だが、この新たな地下という存在が何かしら重要であることは確かだ。

 

「まあ、普通に考えたら避難先……だよな」

 

「もしかしたら、地下に避難した人も居るんじゃない?」

 

「そうね……可能性は十分あり得ると思う」

 

「なら、地下に行ってみる?」

 

 もし、他にも生存者が居て、地下がちゃんとした避難先であるのならば、きっとここよりはまだマシだろう。

 

 他にも外との連絡が取れるかもしれないし、別の抜け道があって、そこから助かっているのかもしれない。

 

 全てはタラレバの話だが、行ってみる価値は十分にあるだろう。

 

 だが、それに待ったをかけた人物がいた。

 

「今すぐには危険じゃないか? 結局、地下に行くにしても現状をどうにかしないと、一階の探索もままならないだろうし」

 

 幹久にそう言われ、全員が押し黙る。

 

 明日、いや数時間後に自分が生きているのかも分からない状況下で、地下に行ってみよう、というのは随分な空論とも言える。

 

 この三階でも絶対に安全が確保されているとは言い難いのだ。それが、ましてや二階、一階を通り越して地下ときた。

 

 無理じゃないにしても、無茶はしたくない。無茶をすれば死があることは身を持って知っている。

 

「じゃあ、地下に行くことを当面の目標にしましょうか」

 

「ん、了解。っと、そろそろ行くか」

 

 慈がマニュアルを閉じるのを見届けた後に、幹久は窓から見える夕焼けの空を見ながら立ち上がる。

 

「うしっ、私は何時でも行けるぜ」

 

 それに呼応するように、胡桃が近くに立て掛けたシャベルを手に取って肩に担いだ。

 

「ゆきちゃん、太郎丸は大丈夫そう?」

 

「うん、多分大丈夫! 流石の太郎丸でもあの扉は開けられない……はず」

 

「言葉の節々から大丈夫じゃないんだが?」

 

 ここにはいない太郎丸の様子を尋ねた悠里に、由紀は自信満々に答えるが、胡桃が言ったように言葉の節々から不安が垣間見られた。

 

「流石に、リードも着けずに二階までは連れていけないもんな」

 

「まあ、購買に行けばリードの一つや二つ、あるだろ」

 

「いや、無いだろ!?」

 

 貴依の言葉に何とも適当なことを言う幹久に胡桃は思わず指摘する。相変わらず突拍子も無いことを言うヤツだと思いながら。

 

 そんな和気藹々とした生徒たちの様子に、慈は心安らぐものを感じたが、これから行く先は真逆の世界だ。

 命を失うかもしれない場所に、そんな浮ついた気持ちで行かせるわけにもいかない。

 

 故に、少しでも緊張感を持たせようと慈は注意を促すべく、教師としての顔を作る。

 

「みんな、落ち着いているのは良いことだけど、バリケードを越えたら気を引き締めること! いい?」

 

「はーい!」

 

「……ゆき、そこの返事はちょっと違うんじゃない?」

 

 元気よく笑顔で返事をした由紀に、貴依は苦笑いを浮かべてそう言った。

 

 

 

 

 

 

 日が落ちた校舎の中は随分と薄暗くなっており、まるで山奥にあるトンネルを彷彿とさせる雰囲気があった。

 中央階段に設置したバリケードを越えた先は、本当に同じ構造だとは思えないほど、がらりと一変した世界が広がっている。

 

 言うなれば異空間に迷い込んだかと思うほど、雰囲気が違った。

 

 仄暗く、物々しく、恐怖を引き立てるその空間は、全員に安全地帯を抜け出したという事実を嫌でも実感させる。

 

 先頭を歩いていた幹久とその隣を守るようにして動く胡桃が左右の安全を確認する。

 

 そして、幹久がこちらに振り向き手招きした。

 

「……何か、全然いないな」

 

 小さく囁くように言った胡桃の言葉がハッキリと聞こえる。

 

 『かれら』の姿が見えないどころか、音も聞こえない。

 これを幸いと言えるのかどうか判断するには、余りにも情報が少な過ぎる。だからこそ、慎重に歩を進めていった。

 

 だが、それとは裏腹に道中は特に問題も無く購買部の前へと辿り着く。

 

 いない。『かれら』の姿が殆ど見えない。

 

 言い難い恐怖を感じながらも、少しだけ安堵し、今一度気を引き締めて内部へと入る。

 

 だが、その気張りも無駄に終わる。

 

 彼女たちを迎えたのは何の動く気配も無い、ありきたりな購買部の静寂だった。

 

 拍子抜け、という言葉が胡桃の頭の中で浮かぶ。

 何というか、馬鹿正直に息を潜め、足音を消し、慎重に慎重を重ねて行った結果が何も無かった。

 

 それは、良いことだ。何も起きなかった現実が一番いいに決まっている。

 だが、全員はそこで初めて肩透かしというのを実感した気がした。

 

「……まあ、少しゆっくりと漁れそうだな」

 

 幹久の言葉に誰も反対する者はいなかった。

 

 

「あ、チョコレートだ! ポテチもあるー!」

 

 由紀の喜色を含んだ声を筆頭に、各々必要な物を手に取ってバックに詰め込んでいく。

 

「ほ、本当にあった……ペット用リード」

 

 商品が陳列されている戸棚の末端に、ぽつんと置かれた赤色の首輪とリードがセットになった商品を手に取って、驚きを隠せない胡桃。

 

「えっと、シャンプーとボディーソープと……あっ、あと洗剤も」

 

「これも……必要よね。後、何が必要だったかしら?」

 

 最低限必要な物を事前にメモしていた悠里と慈は手分けしながら、それらをバックに詰めていった。

 

 それとは別に、もうある程度欲しいものを詰め終えた貴依は、園芸コーナーにあった高枝切鋏を手に取り少しだけ迷う素振りを見せる。

 

 先端に見える抜き身の刃を見ながら熟考して……そして、元あった場所に直した。

 

 そのまま、特に考えも無く歩き回っていると、由紀の近くで同じようにリュックサックにお菓子を詰める幹久の姿が目に映った。

 幹久は選別もしないで目に付いたものを手当たり次第にリュックサックに押し詰めていっていた。

 

 異常とは思わなかったが、幹久がそういったものを好んでいるとは知らず、つい貴依は声をかける。

 

「本城、そんなお菓子好きだったっけ?」

 

「ん? いや、そこまで」

 

「えっ、じゃあ何で?」

 

 好きでも無いものをがむしゃらにリュックサックに詰める……全くもって、行動と原理が一致していない。

 

 貴依がそのことを指摘すれば、返答の代わりに差し出される一つのお菓子。

 その小さく、棒状のお菓子を差し出されるがままに受け取った貴依は、やはり意味が分からず首を傾げた。

 

「あ、それ! うんまい棒!」

 

 埒外からの反応。何故か風船が入った袋を片手に現れた由紀にぎょっとしたリアクションを取る貴依。

 

 そんな貴依を後目に、幹久は由紀にうんまい棒と呼ばれるお菓子を差し出す。

 それを由紀は嬉しそうに表情を綻ばせて、直ぐさま開封するとともに口に含んだ。

 

「……まさかと思うけど、このため?」

 

「まあ、柚村も食べてみろって。意外と美味しいから」

 

「食べた後なのか……」

 

 逆だった。由紀から伝染した何かしらのものに幹久が感染し、彼も同じようにお菓子を詰めるようになったらしい。

 

「おーい、そろそろ行こう──って、うんまい棒!?」

 

 予定通り、必要なものを集め終え胡桃が幹久たちを呼びに来たとき、その三人が同じような表情を浮かべて、同じお菓子を食べている光景は何ともシュールだった。

 

 そんなやり取りもほどほどに、全員はそのまますぐそばにある図書室へと向かう。

 こちらも幸い、『かれら』の姿は無く、スムーズに目的を果たせそうであった。

 

「何か、今の状況に役立つ本があればいいけど」

 

「少し前にあそこら辺でサバイバルブックを見た気がする」

 

「見てみて、貴依ちゃん! この漫画面白そうじゃない?」

 

「漫画はいらないだろ」

 

 図書室は元々、漠然としたものを欲していたため、目的の品が見つかり次第退散する予定だったが、予想よりも早く目的の品が見つかったので全員は少しだけ一息ついた。

 

「──ふぅ……そろそろ戻りましょうか」

 

 慈が軽く両手を叩いて注目を集めつつ、少しだけ疲労が浮かんだ表情でそう言った。

 

「これだけあれば、明日からはもっと快適になりそうだな」

 

 胡桃は各々の成果を見つつ満足げにそういう。

 各種生活用品に趣向品。ちょっとした替えの服にバリケードを強化できそうな素材など、明日からの生活は見違えるだろう。

 

「幹久くん、大丈夫?」

 

 そのとき、横で顔を伏せていた幹久に悠里は声をかける。

 昼の時から幹久の様子を気に掛けていた悠里は、ちょっとした変化も気がついていた。

 

「ん……いや、大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ」

 

 顔を上げ、無理をするように笑う幹久。

 

「おいおい、本当に大丈夫かよ?」

 

 胡桃の言葉に幹久は何時ものように片手を振りながら、壁に預けていた背を離す。

 

「大丈夫だって。さっ、早く帰ろう、めぐねえ」

 

「だから、皆の前ではめぐねえじゃなくて佐倉先生でしょ?」

 

 リュックサックを背負い直し、右手に金属バットを持つ幹久は誰よりも先に扉の方へと立つ。

 

 気のせい……だったのかもしれない。

 

 疲労の色は見える。だが、それは全員にも言えることだ。幹久だけじゃない。

 

 何とか沈没を免れている船の上で、懸命に自分が出来ることをしている。全員が必死に生きようとしている。

 肉体的にも、精神的にも疲れているのは自分でも良く分かり、それは他の皆も同じこと。

 

 少し昼のことを引きずり過ぎているのだろう。気にしすぎと言うのも迷惑な話だ。

 

 大丈夫。状況が落ち着けば無理をする必要も少なくなる。そうなれば......。

 

 悠里は慈たちの背を追いながら、漠然と浮かぶある考えを形にすべく脳を回転させた。

 

 

 

 

 

 




これは、4対6です。だれがどういようと、RTA風が4で小説パートが6ですね。

あれもこれも書きたい描写があって、それに加えて描写しないといけない箇所があって......まあ、お察しの通りです。

次回から出来る限りトントン拍子に進んで行く予定。さっさと再走したいんじゃぁ~。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。